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ミカエラ

 父の借金の取立人だという人に連れられて僕がサー・ローレンスのお屋敷の門をくぐったのは、小雪のちらつく寒い冬の日のことだった。

 ちょうどそのとき、お屋敷の前庭には馬車が一台止まっていた。ドレスに身を包んだ綺麗な女性が、恰幅のいい男性に従って馬車に乗り込むところだった。

 その女性が、ふと僕に目を留めた。女性は不思議な表情を浮かべて僕をじっと見ている。気遣うような、あるいは憐れんでいるような、それでいて懐かしむような。そんな捕らえどころの無い表情だった。

 やがて馬車の中から女性を呼ぶ声が聞こえ、女性は馬車の中に姿を消した。走り去る馬車を、僕はなんとなく見送り続けた。

● ● ●

「それでは、立替金は執事から受け取っていってくれたまえ」

「へえ、旦那様。それじゃあ、あっしはこれで失礼しやす」

 取立人の人が、ぺこぺこと頭を下げながら部屋から出て行った。部屋の中には、僕とこのお屋敷の主人らしい人、それから家政頭らしい女性だけが残った。

「あ、あの……」

「さてマイケル君、事情は承知しているね?」

「は、はい。父の借金を立て替えていただく代わりに、このお屋敷で奉公するようにと……」

「そうだ。君の父上の借金は私が全額立て替えた。だがそれは君の十年間の奉公と引き替えだ。もし君が年限前に逃げ出したりしたら、同じ額の負債が私に対して発生することになる。それをよく覚えておいてくれたまえ」

「はい……」

 要するに、父さんの借金のかたに僕の身柄は十年間この人に買われてしまったということだ。でも、僕さえ頑張れば、父さんも母さんも、それにまだ小さい妹も、苦労をしなくて済む。

「以後はこちらのミセス・ゴトフリートの指示に従うように。ミセス・ゴトフリート、いつものように」

「はい」

「はい、ご主人様。さてマイケル君、あなたは今日からこのお屋敷の使用人です。態度や言葉づかいもそれにふさわしくしてもらいますよ。それではこちらへ」

「は、はい」

 ミセス・ゴトフリートに案内されて、僕は応接間を出た。廊下を歩きながらこの先を考えていたけれど、まだこのときは、下男として働くんだろうぐらいにしか考えていなかった。

「こ、こんなの着れません!」

 使用人の支度部屋に、僕の声が響き渡った。ミセス・ゴトフリートに渡された衣服に驚いたからだった。

「マイケル、先ほどのご主人様のお話を忘れたのですか?」

「で、でも――僕、男の子ですよ!」

 手渡されたのは、紺色のワンピースドレスと白いエプロンに、髪留めのヘッドキャップ。つまりは、メイド用の、女物の衣服だった。シミューズやドロワーズといった、女性用の下着も用意されてる。

「関係ありません。一つ教えておきます。このお屋敷に女性はひとりもいません」

「え? でも……」

 応接間にお茶を運んできた金髪の人、廊下の窓硝子を磨いていた背の高い人、それにこの部屋に入ったときに入れ替わりで出て行った人。少なくとも三人のメイドを僕は見かけている。それに、目の前にいるミセス・ゴトフリートだって――。

「ご主人様のお眼鏡にかなった者は、メイドとして働いてもらうのがこのお屋敷の決まりです。あなたには、メイドとして働いてもらうことになります」

「そ、そんな……」

「断ることは許されません。それともあなたは、お父上に新しい負債を負わせたいのですか?」

「……」

 僕は言葉に詰まる。それだけは出来ない。

 父さんが事業の失敗でこしらえた借金は、まともに働いて返せる額じゃなかった。

 あのままなら、僕や父さんが炭鉱労働のような仕事をするだけではなく、母さんと妹もきつい仕事をしなければならなかったろう。下手をすれば、売春婦にまで身を落としかねない。

 わずかの逡巡の後、僕はメイド服に手を伸ばした。

 ちょっと女装するぐらい、まだ我慢できる。

 僕は自分に言い聞かせながら、シャツのボタンを外していった。

 ごとっ。

 スープ皿が、テーブルクロスの上で鈍い音を立てた。

「ミカエラ、食器を並べるときに音をさせてはいけません!」

「は、はい、申し訳ありません!」

 ミセス・ゴトフリートの叱責に、僕は身を縮ませた。

 今は毎日が勉強だ。

 掃除、洗濯、裁縫といった仕事を覚えながら、接客のための礼儀作法も叩き込まれる。お客様の前で恥ずかしくない綺麗な歩き方や、丁寧な言葉づかいもだ。夜会でお相手をするためのダンスに、お話し相手になるための古典教養、現代文学。刺繍や、花の世話のしかたなども。さらに、使用人仲間の食事の準備や衣服の洗濯も、持ち回り当番で順番にやる。

 詰め込まれることを覚えながら仕事をこなすだけで精一杯だった。

 春になるころには仕事も一通り覚え、どうやら叱責されることもなくなってきた。『あの薬』を手渡されたのは、そんなころだった。

「ミカエラ。今日から毎晩寝る前に、これを一粒ずつ飲みなさい」

「これは何のお薬ですか?」

 ミセス・ゴトフリートに手渡された硝子瓶を、僕は目の前にかざしてみた。

 ラベルのようなものは何も無く、ただ薄茶色の瓶に小さな丸薬が詰まっている。

「あなたが知る必要はありません。忘れずに飲むように。いいですね?」

「はい、ミセス・ゴトフリート」

 何の薬なのかは気になったけれど、この屋敷の中で僕には拒否権は無い。

 異変に気がついたのは、薬を飲み始めて半月ほどたったときだった。

 シャワーを浴びて、タオルで体を拭いていたときだ。

 胸を拭くときに、なにか、違和感があった。

 タオルが胸の先端をこするたびに、柔らかい刺激が胸の頂から走る。

 ふとそれに気がついた僕は、自分の胸を見下ろしてみた。違和感が強まり、僕は自分の胸に手を当ててみた。

 ――膨らんでいる?

 覚えている限りでは筋肉もほとんど無く、触ると下の骨の形が分かるようだった僕の胸に、柔らかい脂肪の塊が出来ていた。

 掌で探ってみると、厚さはほんの半(インチ)ほどだけど、これは確かに――。

 あまりのことに呆然としていた僕は、肩をつかまれて揺さぶられるまで、同僚が傍に来たことにも気がつかなかった。

「ミカエラ、今夜九時に、私の寝室に来なさい」

「? はい、ご主人様」

 初めて夜伽に呼ばれたのは、初めてこのお屋敷に着てから半年ほど後、そろそろ夏の気配が感じられるころだった。

 夜の九時、僕はご主人様の寝室の扉をノックした。

「誰かね?」

「ミカエラです、ご主人様」

「入りなさい」

「失礼します」

 寝室に入る。僕の姿を見ると、ご主人様は何かの本を閉じ、それをナイトテーブルに置いた。

「仕事のほうには慣れてきたようだね」

「はい、おかげさまで」

「私より、ミセス・ゴトフリートのおかげだろう?」

「あ、はい……」

「さて、今夜君を呼んだのは他でもない。君が感じているであろう、疑問に答えようと思ってね」

「疑問……」

「どうして女装させられているのか、毎晩飲まされている薬はなんなのか、気になっていないか?」

「……気になります。何故なんですか?」

「その前に確認しておこうか。君は、パーティーの夜に同僚が一晩帰って来なかったり、時々二、三日出かけるのには気づいているね?」

「はい……」

「あれはね、一晩客人の相手をしたり、気に入りの客に呼ばれて外で相手をしたりしているのだよ。ここまで言えば分かるだろう?」

「それって、つまり、春を、ひさいでいるってこと、ですか……?」

「そうだ」

「で、でも、みんな、男ですよ!?」

「世の中にはね、それがいいっていう人間もたくさんいるんだ。この屋敷は、そういう人間たちのために、男の子を女の子に作り変える場所なんだよ」

「そ、それじゃ、私も、そのために……?」

「そうだ。先に言っておくが、君に拒否権は無い。君の家族に新しい借金を負わせたくなかったらね」

 目の前が真っ暗になる、という経験を初めてした。自分がこの先何をしなければいけないのかわかると、まるで底無しの穴の縁に立った気分になった。

「まあそう絶望することも無い。これはこれで気持ちのいいものだ。君もそれを楽しめばいい」

 ご主人様はそう言うと、僕のメイド服の(ボタン)を外し始めた。その晩のその後のことは、よく覚えていない。

 おちんちんをしごかれて、精液を搾り取られたこと。

 胸をひたすら舐められて、そこが気持ちいい場所だってことを教えられたこと。

 お尻の中を指で責められて、おちんちんに触らずに精を出させられたこと。

 それらの記憶が、断片的に積み重なっているだけだ。

 確かなのは、男性同士でもとても気持ちいいという記憶が、僕の中に刻み込まれたということだった。

「はい、そうです。そこで舌で包み込むように」

「ミカエラのお尻、私の指を締め付けてきますわ」

「おちんちん、びくびく震えてますよ」

 ミセス・ゴトフリートのおちんちんを舐めながら、お尻をいじられ、自分のおちんちんを観察される。

 新しく増えた『学習』の恥ずかしさに、僕の心は張り裂けそうだった。

 僕は通常の仕事の量を減らされ、代わりに毎晩『学習』という名目の調教を受けていた。

 ミセス・ゴトフリートや同僚たちを相手に、手や口を使っておちんちんを慰める方法を学ぶ。出てきたものを綺麗に飲み干すまで、許されることは無い。

 同時に休み無くお尻の穴をいじられる。筆で嬲られたり、指を差し込まれたり、時にはおちんちんを模した張型をつきこまれたり。お尻だけで絶頂できるようにと、さまざまな刺激が与えられた。

 そして週に一度、学習結果を見せるためにご主人様の寝室に赴く。

 全身の気持ちいいところを責められて絶頂し、ご主人様のおちんちんを咥えて舐めしゃぶり、最後に白い液体を飲み干す。僕が絶頂を極めたり上手にしゃぶるたびに、ご主人様は僕を褒めてくれる。

 不思議な事に、ご主人様はけして僕の中に挿入しようとはしなかった。だから僕の後ろの穴は、指や張形は何度も迎え入れていたけれど、男の人に貫かれたことはないという意味ではまだ処女だった。

 夏の終わりのある日、ついにその時が来た。

 その夜も、僕はご主人様の寝室にいた。

 ベッドの上に座ったご主人様に抱かれて、指でお尻を責められる。僕のおちんちんとご主人様のおちんちんがこすれあい、両方の先端から溢れた液体がいやらしいぬめりを与える。ご主人様の肩に顎を乗せ、僕はひたすら喘いでいた。

 ご主人様の指が僕の中にもぐりこみ、入り口付近を往復している。けれどもその刺激は、さまざまな張形に慣れた僕のお尻にはあまりにももどかしいものだった。

「あ、ふあっ、ご主人様あ、お尻、もっと……」

「ふむ、しかし指ではこのあたりまでだな」

 もう少し深くもぐりこんだ指が、僕の中をかき回す。お尻からの刺激に、おちんちんがぴくりと跳ねた。しかし依然として――。

「んっ、もっと、太いのぉ、奥までぇ」

「何が欲しいのかな。はっきり言葉にしなさい」

 それを言葉にするのはとても恥ずかしかった。それに、本当は男の僕がそれをねだるという事は――しかしその時、僕はもう限界だった。

 僕はご主人様から離れると、ご主人様にお尻を向けてうつ伏せになった。膝を立ててお尻を上げ、両手で尻たぶを割り開く。

「私の、この穴に、ご主人様の、おちんちん、下さい……」

 ついに言ってしまった。男であることを自分から放棄して、おちんちんをねだってしまった。だけどそのとき、僕はもうそれしか考えられない状態だった。

「ふむ、それでは希望をかなえてあげようか」

 ぐりっ

 おちんちんの先端が肛門に押し当てられ、その先端が肉の環を押し広げる。

 ぐっ、ぐぐっ

 一番太い部分が肛門をくぐりぬけ、僕の中におさまる。

 ずぶずぶ……

 おちんちんが肉の筒を押し広げ、僕にどんどん突き刺さる。

「あっ、あっ、ああんっ!」

 どくん!

 中を掻き分けられる刺激に、悲鳴と精液を吐き出しながら僕は絶頂した。

「おめでとう、これで君も完全なレディだな」

 ご主人様はそう言うと、僕の腰を掴んで抽送を開始した。一往復毎に、奥を付かれる度に精液を溢しながら、僕は貫かれる快感におぼれていた。

 やがてご主人様の動きが止まる。一番奥までつきこまれた状態で、ご主人様のおちんちんがぐっと膨れた。

 どくん! とくっ、とくっ……

 お尻の奥に、熱いものを感じた。その感触が実感となり、頭の中にゆっくり染み渡ってくる。

『ああ、ご主人様の精液で、種付けされちゃったんだ……』

 自分が『女』になってしまったことが、このとき実感できた。

 『僕』――『私』は、もう男の子じゃない。おちんちんをねだって、挿入されて絶頂して、種付けされて喜ぶ『雌』なんだ。

 こうして私は、薬で変えられた体だけではなく、心の中まで女になったのでした。

 お客様のおちんちんをしゃぶりながら、別のお客様に後ろから貫かれる。舌や唇を駆使して前のお客様に奉仕しながら、肛門を締めたり弛めたりして後ろのお客様も喜ばせてさしあげる。

 やがて後ろのお客様が果てられ、私の体内に熱い液を注ぎ込まれる。それに快感を覚えながら前のお客様をいっそう激しく責めてさしあげると、そちらも私の口の中で果てられた。自分も精液をこぼしながら、私はそれをごくごくと飲み干した。

 本日の夜会に参加されたお客様のうち、二人が私を求められた。双方譲らず、困った私は二人を同時にお相手することを申し出た。硬貨を投げて前後を決められると、お客様たちは私を上下から貫かれた。

 決闘沙汰寸前の雰囲気にご主人様も私も困惑したが、どうにか無事収まったようだ。

 二人分の精を体内に受けながら、私は二人の男性が私を奪い合ったことに喜びを感じていた。

 今日のお客様は三人。二人は普通の殿方ですが、もう一人は私と同じ、一見女性の方です。

 二人の殿方は、以前にも一度にお相手をしたことがある方たちです。なにやらあれ以来、すっかり意気投合してしまったのだとか。

 もう一人は、片方の殿方の連れ合いということでした。以前にはこのお屋敷で働いていたのですが、見初められて身請けされたのだとか。いわば私の先輩です。

 三人がかりで責められて、私はすっかり脱力しています。ふだんはあまり責められないおちんちんも、ご婦人(?)のお口での責めで二回も搾り取られてしまいました。

 寝台に横たわる私を、殿方の片方が抱き上げます。横を見るとご婦人とその連れ合いの殿方が、脚を絡ませるようにして向かい合って座っておられます。お二人の間には二本のおちんちんがぴったりと寄り添って屹立していました。

 力が入らず自由の効かない私の体が、お二人の間に下ろされました。二本のおちんちんが同時に私の肛門から侵入してきます。声も上げられない私の前に、もう一人のおちんちんが差し出されました。上下から合計三本のおちんちんに犯され、私はほとんど息をつくことも出来ませんでした。

 やがて体内に三人分の精が注がれると、私は寝台の上に解放されました。口と、開きっぱなしの肛門から精液を垂れ流しながら、私は意識を失いました。

 その地下室には、様々な奇妙な道具がありました。

 中でも一番私の目を引いたのは、三角にとがった木馬でした。その木馬の鞍にあたる部分からは、男性の性器を模した張形が生えているのです。

 全裸で木馬にまたがらされた私は、肛門を張形に押し広げられながら、背中やお尻を鞭で打たれました。股間に食い込む木馬の背と、お尻を責める太い張形、そして鞭。苦痛に泣き叫ぶ私を見て、私を呼び寄せた殿方はとても嬉しそうに笑っていました。

 翌日お屋敷に戻った私は、それから三日間を寝込む羽目になりました。

 ミセス・ゴトフリートがあとで教えてくれたところでは、激怒したご主人様の働きかけで、あの男性はこのお屋敷での夜会に参加するためのクラブ、ヘルマプロディトス・クラブを追放になったそうです。私を呼ぶときには、普通に一晩をともにするだけという話だったとか。

 嘘はいけない、ということですね。

 もうすぐこのお屋敷に来て二年が経つ、という頃でした。

 私はご主人様といっしょの馬車に乗って、生まれ故郷の町にきていました。ご主人様がご友人とお会いになられるのに、身の回りのお世話をするためのお供としてついてきたのです。

「……確か君の家はこの町だったな?」

「はい」

「家族に会いたいかね?」

「それは――はい。でも今は……」

 私がそういうと、ご主人様は懐中時計を取り出して時間を確認されました。

「……二時間だけ、時間をあげよう。私はそこのパブにいる。この時計で四時までに戻ってきなさい」

「よろしいのですか!」

「ああ。気をつけてな」

「ありがとうございます!」

 私はご主人様の時計を借り受けると、馬車を降りました。家のほうに向かい、足早に歩を進めます。やがて、地元で「職人通り」と呼ばれている通りのはずれ近くにきました。

 ほぼ二年間、目にしていなかった我が家を前に、しかし私はそれ以上足を踏み出せませんでした。

 今の私は、家族が覚えている私ではありません。毎月書いている手紙には私の身の上に起きた事は何も書いていませんでしたから、家族は私がこんな姿になったことを知るはずもありません。通りに立ち尽くす私を、通行人が奇妙なものを見るような目で見ていました。

「あの……」

 背後から聞こえた声に、私は振り向きました。そこにいたのは――

「うちに何か御用でしょうか?」

 私の記憶にある姿から二年分、美しく成長した妹でした。

「あ、いえ、その……」

「?」

 妹は首を傾げています。当然ですが、私のことを初対面の相手だと思っているようです。私はとっさに言葉を継ぎました。

「ごめんなさい、道を間違えたみたいです。パン屋通りというのはどう行けばいいのかしら?」

「ああ、それなら二つ向こうの通りですよ。そこの鋳掛け屋さんの脇は行き止まりになってますから、もうひとつ先の皮細工屋さんの角を曲がってまっすぐ行って下さい」

「そう。ありがとう」

 私は、お礼を述べた後も妹の顔をじっと見つめていました。早くこの場所を離れなければ、と思うのですが、足が動いてくれませんでした。

「……? あの、どこかでお会いしたことがありましたっけ?」

「え!? いえ、はじめてよ」

「でも……、どこかで……」

「ごめんなさい、お手間を取らせちゃって。それじゃ」

 私は妹にひとつ会釈をすると、急いできびすを返しました。妹が教えてくれた、本当はとっくに知っていた道を通って、ご主人様の待つパブの有る通りに向かいます。歩きながら、私は涙をこらえていました。ここはもう、私が居ていい場所ではありませんでした。

 パブの店内に入ると、カウンターの席に腰掛けて店主と談笑しているご主人様の姿が見えました。その姿を見たとたん、抑えていた涙が零れ落ちてきました。

 ドアの音に気づいた店主と、ご主人様がこちらを見ます。私を見て顔をしかめたご主人様が、こちらに向かって歩いてこられました。

「どうした、ミカエラ?」

「いっ、いえっ、うっ、なんでもっ、ぐすっ」

「……会わせるのではなかったな」

 カウンターの席に座ると、私はハンカチで目元を抑えました。

 コトリ、と音がして、私の前に木のカップが置かれました。視線を上げると、店主の姿がありました。

「今日は冷えますからね、そいつで体をあっためるといい」

「ありがとうございます……、でも……」

「いただきなさい。厚意は素直に受けるものだ」

「はい……」

 ご主人様に促されてカップに口をつけると、中身は砂糖と香料を入れて暖めたワインでした。一口ごとに、体が芯から温まってきます。

「旦那旦那、あんなお嬢さんを一人で放り出して、しかも泣かせてちゃあ駄目でしょうが」

「ああ、いや、ちと訳ありでな……」

 ふと気がつくと、なにやらご主人様が店主に責められています。私は慌てて言葉をはさみました。

「あ、あの、これは私が悪いんです。ご主人様は悪くないんです」

「いや、私の方こそ不思慮だった。すまなかったな」

「いえ、そんな! 私があの時……」

 お互いに謝る私とご主人様を見て、店主が噴き出しました。

 その日の晩、お屋敷に帰った私はご主人様の寝室に呼ばれました。ご主人様に貫かれその腕の中でもだえながら、私は、もうこのお屋敷だけが自分の居場所なんだと感じていました。

● ● ●

 サー・アーサーがはじめてサー・ローレンスのお屋敷を訪れられたのは、私がお屋敷で働くようになって三年目の春のことでした。

「こちらがアーサー君です。彼の父上とはいささか面識がありましてね」

「左様ですか。サー・ロナルドのご紹介とあれば問題はないでしょう。ヘルマプロディトス・クラブへようこそ、サー・アーサー」

「ありがとうございます」

 常連の方が、はじめて見るお客様をご主人様に紹介しています。応接室にお茶を運んできた私の耳に、自然と三人の会話が入ってきました。ティー・ワゴンの上でお茶をポットから注ぎながら、私は『この方もこのクラブに参加されるということは……』と考えていました。

 トレイにソーサーとティーカップを載せ、お客様とご主人様の前に順番に置いてゆき、ワゴンにトレイを戻して退出しようとしたときでした。

 お客様、サー・アーサーが、私のことを見つめておられます。

 私はなんとなく気恥ずかしくなって、思わず目を伏せました。

 視界の隅で、サー・アーサーも慌てたように顔を伏せられたのが見えます。

「そ、それでは失礼します」

 私はティー・ワゴンを押して応接室を後にしました。ふと気がつくと普段より早足になっていて、ワゴンの上でポットやトレイがカチャカチャと音を立てています。

 いけない、いけない。

 こんな歩き方をしていては、ミセス・ゴトフリートに『お客様の前で不作法な歩き方をしてはいけません!』と怒られてしまいます。私はひとつ深呼吸して自分を落ち着かせ、歩調を整えました。

 その二日後の夜は、定例の夜会が開かれる夜でした。

 この日の午後、メイドたちは順番にお風呂を使い、体を丹念に磨きます。さらにメイド服の下には、普段着用のそっけない下着ではなく、飾編み(レース)で装飾された(シルク)の下着をまといます。

 夜会は立食形式のパーティーで、そこかしこにできた人の輪の間を、トレイを持ったメイドや給仕たちが歩き回ります。

 やがて夜がふけてくると、時折誰かがメイドを連れ出して姿を消します。

 私に声がかけられたのは、葉巻の灰がたまった灰皿を交換して灰を捨てて戻ってきたときでした。

「君……」

「はい。御用でしょうか」

 テーブルに灰皿を置いて振り向いた私の前に、先日応接室で見た顔がありました。

 確か、サー・アーサーと呼ばれていた方です。

「その……いいかな?」

「……はい。どうぞお望みのままに」

 ちょうどそばを通りかかった給仕に目配せをして、ここから離れることを無言で告げます。給仕は軽く頷くと、メイドたちを取り仕切っているミセス・ゴトフリートの方へと向かいました。

 私はサー・アーサーを先導して、パーティーが行われている広間を後にしました。そのまま階段を上がり、二階にある客用寝室のほうに案内します。

 この夜だけはわざと半開きにされている扉が、すでに五つ閉じられています。私は廊下の角から六つ目の、半開きのドアをあけました。

「こちらへどうぞ」

「あ、ありがとう」

 サー・アーサーの後に続いて寝室に入りながら、私は少々戸惑っていました。

 サー・アーサーはどうもかなり緊張されているご様子です。

 普段お相手をしている方たちなら、この時点ですでに私を抱きすくめたり、あるいはベッドに押し倒そうとして居られます。ところが、サー・アーサーは戸惑ったように私を見つめるばかりです。

 落ち着いて考えてみると、サー・アーサーはこの夜会には初めてのご参加です。もちろんどんな趣旨の夜会なのかはご承知なのでしょうけれど、実際にこうなってみるとどうしていいのかわからないのかもしれません。クラブにも加わったばかりですし、もしかしたら私たちのようなものを相手にされるのも初めてなのかもしれません。

「どうかお楽になさってください。サー・アーサーのお好きなようになさってよろしいんですよ」

「あ、うん。そうだね……」

「それとも、私におまかせいただけますか?」

「そう、だね、じゃあ、君に全部任せるよ」

「はい、承知いたしました」

 私はまず、サー・アーサーの衣服を脱がせました。皺にならないように、丁寧にたたんで衣装掛けにかけます。

 サー・アーサーをベッドに誘うと、まずはお口での奉仕から取り掛かりました。

 ベッドのふちに腰掛けたサー・アーサーの両足の間にひざまずいて、股間のものを口に含みます。先端に口付けし、竿を舌でなめ上げ、睾丸を口に含んで転がします。再び先端に戻り、亀頭を口に含みます。唇でしごきながら、舌で先端をつつき、右手で竿をしごきながら、左手で睾丸をもてあそびます。

 やがてサー・アーサーの息遣いが荒くなり、その男根は不規則に震え出しました。

 そろそろ限界かな、と思った私は、確認をとるつもりで顔をあげました。

「このまま私の口に出されますか? それとも――」

 顔を上げると、サー・アーサーの視線と私の視線が正面からぶつかり合いました。

 どうやら、男根を咥えている私の顔をずっと見ておられたようです。私はなぜか気恥ずかしくなりました。今まで散々同じような事をして、たくさんの方に見られてきたというのに。顔が熱くなり、頬が紅潮しているであろう事がわかります。

「あの……」

「……君の、中に」

「はい」

 私はサー・アーサーからいったん体を離すと、メイド服をその場で脱ぎ捨てました。

 エプロンとワンピースが絨毯の上にわだかまり、その上に絹の下着も脱ぎ捨てます。髪留め(ヘッドドレス)長靴下(ストッキング)だけは残した格好で、私はサー・アーサーをベッドの上に誘いました。

 ベッドに寝転んでいただいたサー・アーサーの腰をまたぐと、私のおちんちんがサー・アーサーの目の前に晒されました。何か不思議なものを見るような視線で、私のものを凝視しておられます。私は思わず、両手でおちんちんを隠してしまいました。

「あの……」

「! す、すまない! いやその、どう見てもレディなのに、男根があるとか不思議だなと、い、いや、悪い意味じゃなくて――」

 サー・アーサーがしどろもどろの口調で弁解をされます。私は慌ててそれをさえぎりました。

「あ、いえ、その、こちらこそ、失礼を――」

 二人の台詞が途切れ、お互いの視線が正面から絡み合います。

 ぷっ

 くすっ

 次の瞬間、二人して噴き出していました。

「……それでは、いきますね」

「あ、うん、よろしく……」

 私はサー・アーサーの男根を右手で掴むと、自らの蕾にあてがいました。そのまま腰をおろすようにして、ゆっくりと飲み込んでいきます。

「んっ、んんっ、はぁっ……」

 やがてサー・アーサーのすべてが、私のお尻の中におさまりました。後ろから押し出されるように、私のおちんちんがピンと立ち上がります。その先端からは、透明な蜜がとろとろとこぼれていました。

「こんなに……。君も気持ちいいのかい?」

「んっ、はい、サー・アーサーのおちんちん、はあ、とっても、きもちいいですっ!」

 私はサー・アーサーにそう告げると、ゆっくりと腰を動かし始めました。

 最初はサー・アーサーの上に四つん這いになって上下運動をして、肛門で竿をしごき上げます。抜ける寸前のところで肛門を締め上げ、亀頭を責めて差し上げます。腰の上に座り込んで一番奥まで飲み込み、そのまま腰を回転させて全体を満遍なくこすり上げます。

 どのくらいそうしていたでしょうか、そろそろ最後かな、というところで突然サー・アーサーが起き上がりました。

「きゃっ!?」

 腹筋運動の要領で体を起こしたサー・アーサーが、そのまま私をベッドに組み敷きました。正常位の姿勢で、私の顔の間近にサー・アーサーの顔があります。

 サー・アーサーはそのまま私に口づけをされると、腰を激しく使い始められました。

 自分で制御するのではない、他人に与えられる刺激に、私のお尻から湧き上がる快感は倍増しました。お尻の穴が突き上げられるたびに、私のおちんちんからも透明な液がはね飛びます。

 やがてとうとう、サー・アーサーが私の中に精を放たれました。

 どくん。とくん、とくん、とくっ……

 お尻の奥に感じる熱い液に、私も絶頂を迎えます。

 とぷっ、とくっ、とろり……

 サー・アーサーの物に押し出されるかのように、私のおちんちんからも精液が零れました。

 あれから、サー・アーサーは夜会には欠かさず参加されるようになりました。

 夜会では、サー・アーサーは必ず私を指名されます。時々私が他の方に誘われてしまうと、たいそう落胆されていると、同僚たちが教えてくれました。

 しかし、お屋敷の夜会のルールは先行者優先、つまりは早い者勝ちです。また、私たちメイドは誘われた場合断ることを許されていません。ですから、サー・アーサーが私とベッドをともにするには、サー・アーサーが私を真っ先に誘う必要があるのです。

 そんな調子でしばらくの時が過ぎ、季節は夏になりました。

 さんさんと照りつける陽光に、これならよく乾くだろうと思いながら、私はシーツを物干し紐に掛けていました。すべて干し終わり、空になった洗濯籠を持って振り向いた私の前に、サー・アーサーが居られました。

「やあ、ミカエラ」

「まあ。おはようございます、サー・アーサー」

「ちょっと話があってきたんだけど、今、いいかな?」

「あの、これを洗濯室に戻してこないと……」

 私はそういって、洗濯籠を持ち上げて見せました。

「いや、話は短いんだ。歩きながらで良いよ」

「はい」

 サー・アーサーと並んで歩きながら、私はお話に耳を傾けます。

「実は今度バカンスに行くんだけど、君に一緒にきてほしいんだ」

「お世話係ということですか?」

「うん、まあ、そうなんだけど……」

「ですが、それにはご主人様のお許しが無いと……」

「サー・ローレンスにはもう許可は取ってある。だから、君が嫌じゃなければなんだけど……」

「それでしたら、はい、喜んで。いつからですか?」

「明後日から、一週間の予定だ。ただ、行き返りに汽車で一晩かかるから、実質五日間かな」

「何か準備したほうがよい物などは?」

「泊まるところなんかは用意できているから、君は自分の着替えや身の回りのものだけを一週間分用意してくれればいい」

「かしこまりました」

 ちょうどそこで、お屋敷の勝手口にたどり着きました。

「明後日の正午に迎えにくるから、それまでに準備しておいてくれ」

「はい」

「それじゃ」

 そういうと、サー・アーサーは庭を回ってお屋敷の表の方に向かわれました。

 洗濯籠を片付けながら、私はサー・アーサーのお誘いの事を考えていました。

 ヘルマプロディトス・クラブの会員の方がこのお屋敷のメイドを外に連れ出すということは、単に身の回りの世話をさせるということでは有りません。当然のことながら、夜にはベッドをともにするということです。ただし、それはそうしょっちゅうあることではなく、そこまでするのはその会員の方がよほど相手を気に入った場合です。

 そんなことを考えて頬を赤らめながら仕事をしていたせいか、せっかく洗ったタオルを廊下にぶちまけてしまいました。でも、ミセス・ゴトフリートに雷を落とされながらも、私はどこか夢見ごこちでした。

 いよいよ今日は、サー・アーサーのバカンスのお供に出かける日です。

 旅装に身を包み旅行鞄を携えた私を、サー・アーサーがエスコートしてくださいます。その態度は使用人に対する主人のものではなく、レディをエスコートする紳士のものでした。はたから見たら不自然ではないでしょうか? 中央駅に向かう馬車の中で、私はサー・アーサーにそのことを言いました。

「あの、サー・アーサー、私はただのメイドですので……」

「……ああ、えっとね、ミカエラ。宿泊先には、主人と使用人じゃなくて、男女の二人連れってことになってるんだ」

「え……、それは……」

「だからこの旅行中は、僕のことを『サー』付けじゃなくて、名前だけで呼んでくれないかな?」

「あ、はい、アーサー……様」

「うーん――まあ、いいか。おっと、もう駅だな」

 中央駅の12番ホームでは、長距離夜行列車が乗客を待っていました。サー・アーサーと――アーサー様と私は、その一等客室に入ります。荷物をロッカーに片付け終わると、アーサー様は懐中時計を取り出して時間を確かめられました。

「発車までもう少しだな。ミカエラは、こういう列車で旅行したことは?」

「いえ。そもそもほとんど旅行というものをしたことがありませんので……」

 父が借金を抱えるまでは、私は生まれ故郷の街から出たこともありません。お屋敷で働くようになってからも、時々ご主人様のお供をするほかは、町の中の商店か他のお屋敷にお使いに出歩くぐらいでした。ですから、このような旅行をすること自体が初めての経験です。私はアーサー様にそのことを告げました。

「そうなんだ。じゃあ、きっといい経験になるよ」

 アーサー様はそういって私ににっこりと笑いかけられました。その笑顔を見ると、なぜだか私の胸の中が暖かくなりました。

 汽車は翌日の早朝、目的地の駅にたどり着きました。駅舎を出ると、一台の馬車が私たちを待っていました。アーサー様の姿を見て、御者台に居た初老の男性が降りてきます。

「ご苦労様、ジェームズ」

「お待ちしておりました、坊ちゃま。こちらがお連れ様ですかな?」

「坊ちゃまはやめてくれよ。こちらはミス・ミカエラ、僕の友人だ。レディ、彼はジェームズ、うちの別荘番です」

「はじめまして、ミス・ミカエラ。どうぞよろしくお願いします」

「こちらこそ、どうぞよろしく」

 アーサー様が、私を本物のレディのように紹介しました。私は嬉しいような困ったような、複雑な気分でした。

 馬車は小さな町を抜け出すと、林の中の道を進みます。やがて木々が途切れると、小さな湖のほとりに出ました。湖の岸辺沿いに進んでいくと、道のつきあたりに小さな館が見えました。

「それじゃジェームズ、また五日後に」

「はい。ですが本当に、お二人だけでよろしいのですか?」

「僕はこう見えても料理はできるんだぞ? それにミス・ミカエラも一緒だしね」

「わかりました。それでは失礼します。レディ、坊ちゃまを、おっと、アーサー様を、よろしくお願いいたします」

「はい、どうぞご心配なく」

「信用ないなあ……」

 荷物を運び込み終わると、ミスター・ジェームズは馬車を返して去っていきました。町からここへくる道の途中の脇道の先に、彼の家でもある番人小屋があるのだということでした。

 この近辺は避暑地として有名なところです。昼間はちょうどよい涼しさでも、日が落ちてくるといささか冷え込んできます。しかも季節が盛夏にはまだだいぶ早い初夏ですから、冷え込みもなおさらです。そんなわけで、寝室の暖炉には火が入れられていました。

 薪があげる炎の明かりが、部屋を橙色に染めています。寝室にはそれ以外の光はなく、私とアーサー様の裸身も橙色に染め上げられていました。

「ミカエラ……」

「アーサー様……」

 私たちはお互いの名を呼びながら、口付けを繰り返します。

 アーサー様の唇が触れるたびに、私の中で何かが大きくなります。それは私の体を熱くし、私の頭を痺れさせました。

 アーサー様の唇は、私の唇を離れ、首筋を伝って下を目指します。やがてアーサー様は私の左胸にたどり着き、その頂を口に含まれます。乳首を甘噛みされながら先端を舌先で転がされる刺激に、私は快感のうめきを上げました。

 アーサー様に胸やわき腹を吸われながら、私ははしたなくおちんちんをたぎらせていました。先端から透明な蜜をたらしながら、私のおちんちんがぴくぴくと震えます。

 同時に、私のお尻も、アーサー様を求めてひくついていました。

 男根をねだるように肛門が収縮を繰り返し、それが刺激となってお尻の中からじれったい快感が湧き起こります。

「……いれるよ」

「はい……」

 短い会話のあと、私はアーサー様に貫かれました。

 アーサー様の男根によって、私の後ろの穴が押し広げられます。

 力強く突き進むアーサー様が、私の中を掘り進んでいきます。やがてすべてが私の中におさまり、アーサー様は大きく息をはかれました。

 私の股は大きく広げられ、交差した両足がアーサー様の腰をしっかりと抱え込みます。まるで体内のものを逃したくないとでも言うように……。

 私の尻穴はひくひくとうごめき、アーサー様のものを愛撫するように、またはじっくりと味わうように締め付けました。

 どれくらいそうしていたでしょうか、やがてアーサー様が動き始めます。

 両手両足でアーサー様にしがみつきながら、私は体の芯を貫かれるような快感に酔っていました。

 肛門をこすり上げられる感覚、亀頭の傘が中を掻き分ける感覚、そして先端が一番奥をつつく感覚が、それぞれ鮮明に感じ取れます。それらがすべて快感となり、一往復ごとに私ははしたないあえぎ声を上げていました。

 そしてそれ以上に嬉しかったのが、全身で感じるアーサー様でした。

 体温、荒い呼吸音、筋肉の躍動、重み、その他諸々……。アーサー様が私で気持ち良くなっておられるという事を、それらは私に実感させました。そして、そのアーサー様に貫かれているという事実が、私に無上の幸福感を与えてくれました。

「アーサー様、アーサー様、アーサー様……」

 ベッドのきしむ音にまぎれるように、私は小声で何度もアーサー様の名を呼んでいました。

 やがて、無限にも思えた悦楽にも終わりのときがきました。

 アーサー様の動きが止まり、私のお尻の中の男根がぐっと力をためます。次の瞬間、アーサー様の子種が私の中に注ぎ込まれました。どくどくと注がれるそれが、私も絶頂に押し上げます。私はアーサー様に全力でしがみつきながら、全身をがくがくと震わせました。

 アーサー様のバカンスのお供から帰ってきてから数日間、私はしょっちゅうその間のことを思い出していました。

 二人で森を探検したこと。湖にボートで漕ぎ出したこと。アーサー様が大きな魚を釣り上げられたこと。私の作ったお弁当を喜んでくださったこと。子供の頃に見つけたという秘密の洞窟を案内してくださったこと。

 それから――夜の寝室で貫かれたこと。『綺麗だよ』といわれたこと。『ミカエラの口はとっても気持ちいいよ』といわれたこと。貫かれながらしごかれて、アーサー様の手の中に出したこと。毎晩毎晩、中に子種を注がれたこと。

 そして――最後の晩に、『愛しているよ』といわれたこと。

 おかげで、思い出し笑いをしているところを同僚に冷やかされたり、些細な失敗をしてミセス・ゴトフリートに雷を落とされるということが何度もありました。

 ヘルマプロディトス・クラブの定例の夜会の日がきました。今晩もアーサー様にお会いできると思い、私はお風呂で丹念に体を磨き上げました。お化粧にもじっくり時間を掛けます。

 ところが、一時間待っても二時間待ってもアーサー様は姿をお見せになりません。初めての時以来、欠かさず姿を見せておられていたというのにです。

 今夜の私のお相手は、ミスター・ディクソンという中年の男性でした。自ら創業した銀行の頭取を勤め、政財界にたくさんのお知り合いもおられる銀行家(バンカー)です。

 ミスター・ディクソンの男根でお尻を貫かれながら、私は不思議に思いました。

 体は快感を感じているのに、心はちっとも嬉しくありません。

 アーサー様のものを受け入れるときには魂が震えるほどの喜びを感じたのに、今はただ、肉体が動物的な快感を感じるだけです。すっかり調教されきった私のお尻は、こうして刺激を受ければ快感を得ることはできます。でも、私の心は奇妙に冷め切った状態で、自分とミスター・ディクソンを傍観しています。

 ミスター・ディクソンは、後ろから激しく抽送しながら、しきりに私のことを褒め称えています。いわく、私の口唇愛撫(フェラチオ)はすばらしかったとか、私の体は美しいとか、私のお尻は絶品だとか。それに対して私は『ありがとうございます』と答えて微笑みます。でも、その笑みは作り物でした。

 激しく責められながら、私は過去の行動を思い返しました。そして、初めてお客様に抱かれて以来、私はずっと作り物の笑顔で、作り物の謝辞を述べていたことに気がつきました。もちろんそれは、お客様をもてなすための振る舞いとして、このお屋敷のメイドの礼儀作法として叩き込まれたものです。このお屋敷を離れられない以上、私はそのルールを守らないわけには行きません。

 どうしていまさらそんなことが気になるようになったのかといえば――言うまでもなく、アーサー様のためです。

 アーサー様に抱かれるとき、私はいつのまにか本当の喜びを感じるようになっていました。たとえアーサー様以外の方に抱かれたときでも、早い者勝ちのゲームに負けただけでアーサー様は私を望んでいてくれたと思うと、それだけで私は嬉しくなりました。そして、先日のバカンスの最後の夜、『愛しているよ』とベッドの中でささやかれたとき――私は喜びの涙をこぼしました。

 今、私ははっきりと自覚しました。

 私はアーサー様を愛しています。

 『女』として、殿方であるアーサー様を愛しています。

 愛する人以外のものに貫かれて、少しも嬉しくないのは当然でした。むしろ肉体のほうは快感を覚えていることに、自己嫌悪の念すら湧き起こります。

 メイドとしての私は自己嫌悪の念を押し隠し、私を貫くミスター・ディクソンに対して媚を振りまきます。その行為がとても卑しいものに思えて、ますます自己嫌悪を掻き立てました。

 お尻にミスター・ディクソンの精液を注ぎ込まれながら、私は『やっと終わってくれた』とほっとしていました。

 翌週も、その翌週も、アーサー様は夜会に姿を見せられませんでした。私はアーサー様がご病気にでもなられたのかと思い、だんだん不安になっていきました。

 しかし、ご主人様や夜会の参加者の方にそれとなく聞いたところでは、そのようなことはないようです。それを知ってほっとすると同時に、今度は別の不安が湧き起こってきました。

 アーサー様は、私に飽きてしまわれたのでしょうか?

 それとも、このような行為を不道徳だと思い直してしまわれたのでしょうか?

 どちらであっても、私にはアーサー様をどうこうすることはできません。アーサー様が私のことを忘れた、あるは見限られたとしても、このお屋敷から勝手に出ることもできない私にはどうしようもありません。

 そもそも、私にそんな権利はないのです。

 私は借金の片にサー・ローレンスに身柄を買われ、お客様が望めばこの身を差し出さねばならない卑しいメイドです。貴族の身分であるアーサー様が気まぐれに可愛がって下さったからといってのぼせ上がるなど、身の程知らずにもほどがあります。

 サー・ヘンリーがお屋敷を訪れられたのは、私がそんな風に考えるようになっていたときのことでした。

「アーサーはこのようないかがわしいクラブからは脱退させる。そちらの名簿からも、あの子の名前は消していただこう」

 サー・ヘンリーがご主人様に向かって言い放ちます。

「当クラブは脱退自由ですが、それが本人の意思かどうか定かではないのでは受け入れかねますな」

「息子の意思は関係ない。社会勉強も必要かと思って自由にさせてきたが、そもそもハーヴィー伯爵家の跡取ともあろうものがこのようなクラブに加盟していること自体、間違っておるのだ」

 サー・ヘンリーとご主人様の会話を聞いて、私にも事情が飲み込めました。二度とアーサー様にお会いすることはできないのだと悟り、私は目の前が真っ暗になる気分というものを味わいました。

 半月がたち、一月がたつ頃には、私は再びアーサー様のいない生活に慣れていました。メイドの仕事をこなし、時々ご主人様のお出かけにお供し、夜会の夜には誰かに抱かれる。そんな日々です。

 時々は寂しさや悲しさを感じることもありました。私はそのたびにアーサー様の記憶、ことにこの夏のバカンスの五日間を思い出して自分を慰めました。これから先何があっても、この記憶だけがあれば生きていける。自分にそう言い聞かせながら。

 秋も深まる頃、私はご主人様の書斎に呼び出されました。寝室ではなく書斎であることから、何か重要なお話だろうと予想がつきました。

「ミカエラ、君を身請けしたいという人がいるんだ」

「私を、身請け、ですか?」

「ああ。君の奉公の代償になっている借金を全額私に対して立替え、代わりに君の身柄を引き取りたいといっている。誰なのかはまだ言えないが、君も知っている人物だ」

「はい……」

「急な話しだし、すぐに決めなくてもいい。考えておいてくれ」

 その数日後、私は応接間でご主人様と一緒に、ミスター・ディクソンを前にしていました。私を引き取りたいといっていたのは、ミスター・ディクソンだったのです。

 ミスター・ディクソンの口から改めて、私を引き取りたい旨、そのために費用は全額自分が持つ旨が述べられます。同時に、私の容姿や振る舞い、そして夜のベッドでの奉仕が気に入った、ということが告げられました。

「昼は淑女、夜は娼婦が理想といいますが、まさにその理想どおりですな、ははは!」

 ミスター・ディクソンの言葉をどこか遠くに聞きながら、私は、この話を受けてもいいかな、と考えていました。

 いまさら実家には帰れません。奉公の年限は別にしても、体ばかりか心まで女性になってしまったこんな姿を見せるわけにはいきません。

 女として愛した人とは、もう会うこともできません。

 しかし、ミスター・ディクソンは、愛玩物としてですけれど、私を欲しいといってくれています。お口でご奉仕させるためのおしゃぶり人形としてだとしても、お尻を犯すための肉穴としてだとしても、『私』を欲しいといってくれています。

 どうせ家族とも、愛する人とも居られないのであれば――私はその時そう考えていました。

 なにやら難しい顔で私とミスター・ディクソンを見比べているご主人様を不思議に思いながら、私は応諾の言葉を声にしようと口を開きました。

「そのお話――」

 私が口を開いた直後のことでした。

「困ります!」

 応接間の扉のすぐ外で、メイドの誰かの困惑した声がしました。

「ただいまサー・ローレンスはお客様の応対中です!」

「知っている。その客にも用があるんだ」

 メイドの声に答える声。その声は――

「失礼! 取り込み中のところ、お邪魔する!」

 アーサー様でした。勢いよく開けられた扉の向こうで、アーサー様が大きく肩で息をしておられます。

「おや、お久しぶりですね。サー・アーサー」

「ご無沙汰していました、サー・ローレンス。少々、父といざこざがありまして」

 驚きに声も出せない私を置いて、ご主人様とアーサー様が何事もなかったように挨拶を交わします。

「今日はひとつ、お願いがあって来たのですが」

「伺いましょう」

「そこに居る彼女、ミカエラを引き取らせていただきたい。もちろん、貴方が肩代わりされた彼女のご家族の借金は立て替えさせていただきます」

「それはそれは。まあ私としては、ミカエラに異存がなければかまいませんよ」

 呆然としている私をよそに、ご主人様とアーサー様の間で話が進んでいきます。それをさえぎったのは、ミスター・ディクソンでした。

「ま、待っていただきたい! その娘を引き取る話はわしの方が先だった筈ですぞ!」

「まあまあ、落ち着いて。誰の下に身を寄せるかは、ミカエラ自身が決めることですよ」

「だ、だが!」

 ご主人様に言い返そうとするミスター・ディクソンを、アーサー様がさえぎりました。

「ミスター・ディクソン。父に僕のことをいろいろとお話してくれたそうですね」

「それがどうした!」

「父の誤解を解くのに苦労しましたよ。いろいろとあることないこと吹き込んでくれたようですね」

「べ、別に嘘などついておらん! 君がここに入り浸っていたのは事実だろう!」

「僕は毎晩男色にふけっていたわけでもなければ、そもそもヘルマプロディトス・クラブは売春宿じゃありませんよ」

「そ、それは、サー・ヘンリーが何か誤解されたのだろう。わしは別に――」

「……ミスター・ディクソン? 少々、お話していただかなければならないことがあるようですが?」

 アーサー様とミスター・ディクソンの会話を、ご主人様がさえぎりました。その声音は冷え切っていて、奇妙な凄みがありました。

「わ、わしはこれで失礼する! 今度の話は無かったことにしていただこう!」

 ミスター・ディクソンがあわただしく席を立ちました。ひったくるように帽子と外套、杖を受け取ると、そのまま挨拶もなしに出て行ってしまいます。後にはご主人様とアーサー様、そして私が残されました。

「……アーサー様」

「ミカエラ、久しぶり。元気にしてたかい?」

 ほぼ二月ぶりに聞くアーサー様の声に、私は答えることが出来ませんでした。ふらふらと立ち上がると、自分の立場も忘れてアーサー様の胸にすがって泣き出してしまいました。

「アーサー様、アーサー様……」

 アーサー様の腕が、私を抱きしめてくれます。背中を軽くたたかれて髪の毛をなでられると、体の芯にあった重苦しい気持ちが溶けて流れるように消えていきました。

「申し訳ありません、取り乱しまして……」

 私はご主人様とアーサー様に向かって頭を下げました。先ほどの自分を思い返すと、恥ずかしさに頬が赤くなります。

「ふむ、落ち着いたかね?」

「大丈夫かい、ミカエラ?」

「はい、もう大丈夫です。先ほどは失礼しました、サー・アーサー」

 場の雰囲気が落ち着くと、改めてアーサー様がご主人様に先ほどのお話をされます。

「改めまして、サー・ローレンス。僕に彼女の身柄を引き取らせてください。勿論、必要な対価はちゃんと払わせていただきます」

「ふむ、まあ私としては――先ほども言いましたが――ミカエラに異存がなければかまいませんよ。しかし、お父上がそれを認められますかな?」

「実はそれも関連するのですが、僕は来年、南の国の植民地総督府に次席監査官として任官することになりまして、それをきちんと勤め上げれば何も言わないという約束を父から取り付けました。彼女には、それに同行して欲しいと思っています」

「それはそれは……。ミカエラ、君はどうかね?」

「あの、サー・アーサー、本当に、私などでよろしいのですか……?」

「君がいいんだ。いや、君じゃなきゃ駄目なんだ」

「でも、私は平民ですし、身分が違いすぎます……」

「かまわない。なんなら、誰かに養子縁組を頼んでもいい」

「私は、その、本当は男です! 私などと一緒になられては、サー・アーサーのお家の後継ぎが――」

「かまわない。ハーヴィー家には傍系も多いから、そちらから養子をもらえばすむ」

「で、ですが……」

「ねえミカエラ。君はやっぱり男の相手は嫌なのかい? それとも僕が嫌なのかな? だったらはっきりそう言ってくれ」

「そんなことはありません! 私は、その、アーサー様のことを、お慕いしています……」

「僕も君を愛してるよ。お互いに相手を好きで、何も問題は無いだろう?」

「はい――はい、アーサー様!」

 気がつくと、私はぽろぽろと涙をこぼしていました。でも、この涙はちっとも悲しくも苦しくも有りませんでした。

「アーサー様、ミカエラは、一生アーサー様のおそばに居ます」

「ありがとう、ミカエラ。これからよろしく」

 差し伸べられたアーサー様の手を、私はしっかりと握りました。再びアーサー様に抱き寄せられながら、私は喜びの涙を流し続けました。

「さて、サー・アーサー。今日はこの後ご予定は?」

「いえ、特に。ミスター・ディクソンとの話がこじれたら、徹夜してでもどうにかするつもりでしたから」

「でしたら、今夜は泊まっていかれませんか? 今後のことについて話しあっておきたいこともありますし、ミカエラとの積もる話もあるでしょう」

「そうですね、ご迷惑でなければ是非」

「決まりですな。ミカエラ、客間をひとつ準備するように、ミセス・ゴトフリートに伝えてきてくれたまえ」

「はい」

 私はご主人様とアーサー様に一礼すると、応接間の扉に向かいます。ドアノブに手を掛けたとき、部屋の外からなにやらあわただしい気配が感じられました。

「?」

 訝りながら扉を開けても、そこには何の変哲もない光景しかありませんでした。

 同僚のメイドが廊下の窓硝子を磨いています。

 別のメイドが廊下の掃除をしています。

 さらにもう一人が廊下に置かれた東方の異国製の大きな陶器の壺の埃を払っています。

 右を見ると、モップとバケツを持った二人が廊下の角を曲がっていくところでした。

 左を見ると、だいぶ前に応接室から出て行ったはずのメイドがティー・ワゴンを押しながら厨房に向かっています。

 ……訂正します。なぜだかお屋敷中のほとんどのメイドの姿が、応接室のすぐ前にありました。

「あ、貴女たち……」

「ミセス・ゴトフリートなら厨房に居るはずよ」

「あ、ありがとう」

 顔が火照っているのが感じられます。おそらく私の頬は真っ赤になっていることでしょう。足早に厨房に向かおうとする私に、同僚たちから声が掛けられました。

「おめでとう、ミカエラ」

「良い方を捕まえたわね」

「お幸せに」

「……ありがとう」

 礼を言いながら振り返ると、皆こちらを見ずに自分の仕事をしています。

「ありがとう――」

 私はもう一度そこにいた皆にお礼を言うと、厨房に向かって足を進めました。

 晩餐の後、アーサー様はご主人様とお話があるということで、私は一人、客間でアーサー様を待っていました。一時間ほどすると、アーサー様がミセス・ゴトフリートに案内されて客間に入ってきました。

「アーサー様……」

 ソファから立って出迎えた私は、アーサー様にやさしく抱擁されます。そこに、ミセス・ゴトフリートの声が掛けられました。

「ミカエラ」

「はい」

「今夜は使用人部屋に戻る必要はありません。サー・アーサーとご一緒するように」

「はい、ミセス・ゴトフリート」

「……ミカエラ」

「はい?」

「幸せにおなりなさい」

「……はい。ありがとうございます」

 ミセス・ゴトフリートの言葉に、私は深くお辞儀をしました。

「ミカエラ……」

「アーサー様……」

 ガス灯の炎に明るく照らされた寝室のベッドの上で、私はアーサー様に一糸まとわぬ裸身をさらしていました。ナイトガウン姿のアーサー様は、ベッドに座り込む私の全身を隅々まで鑑賞しておられます。

「は、恥ずかしいですわ」

「恥ずかしがる必要は無いよ。君の体は綺麗だ……」

 思わず胸と股間を隠してしまった私を、アーサー様が抱き寄せられます。そのままキスをされると、まるで体がとろけたように、力が抜けていきます。

 息が止まりそうな口付けが終わると、アーサー様の唇が、今度は私の首筋に張り付きました。首筋を軽く吸われながら舌先でつつくように舐められると、くすぐったさに私は身を震わせました。くすぐったさに続いて、そこからじれったい快感がもたらされます。

 続いて、胸を隠す私の右腕がそっと取り除けられ、アーサー様は私の左乳首を口に含まれました。同時に右の乳首が左の指先でつままれ、転がすようにいじられます。私の背中に回された右腕が私をしっかりと捕まえると同時に、その指先で私のわき腹をくすぐるようになで上げられました。私は空いた右腕でアーサー様の頭を抱え込みました。

 ふと気がつくと、私の左手は自らの蜜で濡れています。おちんちんを隠していたはずの左手は、いつのまにかそれをゆっくりと撫でさすっていました。先端からあふれた蜜が、手のひらから指先まで滴っています。

 アーサー様の頭を抱え込んで両胸を責めてもらいながら、自らおちんちんをいじってそちらからも快感をむさぼる。いったん意識すると、自分がとても恥ずかしいことをしていることに気がつきました。

「アーサー様」

 私はアーサー様から自分の身を離しました。

「どうしたんだい?」

「今度は、私がアーサー様の……」

 アーサー様にベッドに寝転んでいただき、私はその両足の間にうずくまりました。

 アーサー様の股間に、たくましいものが屹立しています。私はまずその先端にキスをしてから、全体をゆっくりと舐め上げていきました。

 唾液をたっぷりと乗せた舌を出して根元から先端までを丁寧に舐め、特に敏感な筋を舌先でくすぐり、亀頭の周りの段差の裏側をぐるりとなぞり、先端の穴を尖らせた舌先でつつきます。

 次に先端を口の中に含むと、舌で先端を転がしながらその幹を右手でそっとしごき、左手で睾丸を転がすようにもてあそびます。それからゆっくりと全体を飲み込み、唇で全体を愛撫していきます。根元まで飲み込んだら、唾液を塗りつけながらゆっくりと吐き出します。全体が唾液にまみれたそれを、私は頭を忙しく上下させながら唇で愛撫しました。

 やがてアーサー様のおちんちんが、不規則にぴくぴくと震え始めます。下腹も忙しく上下し、アーサー様の限界が近いことが私にもわかりました。私はいったん動きを止めると、おちんちんを咥えたまま視線を上げ、アーサー様に目で問い掛けます。アーサー様は私の頬を両手ではさむと、わたしの顔を持ち上げておちんちんから離れさせました。私の髪からヘアピンを抜き取りながら、アーサー様は言われました。

「君が上になってくれないか。最初の時みたいに」

「はい、アーサー様」

 私は四つんばいで移動し、アーサー様のおちんちんをまたぐ位置につきます。アーサー様のおちんちんを片手でそっと掴み、その先端を私の後ろの蕾に当てました。

 ゆっくりと腰をおろしてゆくと、アーサー様のいきり立ったものが私の中に進入してきます。

 アーサー様の穂先が、都市の城門を突破する軍勢のように私の入り口をこじ開けます。

 そして容赦なく城を目指す侵入軍のように、私の中を奥へ奥へと突き進みます。

 やがてその先端は最深部に到達し、根元までが私の中に埋め込まれました。私は軍勢の侵入を受けた都市のように、アーサー様に占領され尽くしました。

「んっ、はぁっ……。んっ、んっ……」

 私はひとつ息をつくと、体をゆっくりと動かし始めました。結い上げてあった髪が解け(ほどけ)落ち、私の体にかかります。体の動きに合わせて髪が揺れ、私の動きをわかりやすく指し示しているようです。

「あっ、はあっ、んっ、ふあっ」

 ずぷっ、くちゅっ、ずずっ……

 繋がっている所から淫らな音が起こり、私の頬を赤らめさせます。しかしお尻から湧き起こる快感にすっかり支配された私は、羞恥にさいなまれながらも腰を振り続けました。

 私のおちんちんの先端からは絶え間なく透明な蜜が滴り、アーサー様の下腹を汚しています。アーサー様のものが出入りするたびに、おちんちんの裏側からじんじんとした快感が湧き起こります。

 と、アーサー様の右手が私のおちんちんを掴み、その竿をしごき上げ始めました。左手は私のお尻を支えるように当てられ、右手の動きに合わせて私の腰を上下させます。アーサー様の手の動きに合わせて腰を振りながら、私はおちんちんとお尻の両方からもたらされる快感に息も絶え絶えでした。

 やがて限界を迎えた私は、アーサー様にそのことを告げました。

「アーサー様っ、わたっ、私、も、もう、駄目っ、ですっ!」

「んっ、わかった、ふうっ、一緒に、いこう」

「はいっ、アーサー、様っ――あっ、ああっ、あんっ!」

 とぷっ

 ついに限界に達した私は、おちんちんから精を吐き出しました。それに呼応するように、アーサー様も私の中に精を注ぎ込まれます。

 どくっ! どくっ、どくっ、どくっ……

 熱く激しい射精を体の奥に感じ、私の体はぶるぶると震えました。

 ふと気がつくと、私はアーサー様に覆い被さるように、そのお体の上にうつぶせになっていました。お尻にはまだアーサー様のおちんちんの感触があります。どうやら絶頂を迎えた後、意識が少し飛んでいたようです。

「ん、気がついたかい?」

 私が意識を取り戻したことに、アーサー様が気づかれました。

「申し訳ありません、ただいまどきますので」

 慌てて体をどかそうとする私を、アーサー様が押しとどめられます。

「いや、動かないでくれ。もう少しこのまま」

「はい……」

 重くないのでしょうか、とも思いましたが、私はアーサー様のお言葉に素直に従いました。アーサー様に貫かれたまま、またがる形でうつぶせになりながら、私はアーサー様の体温を感じていました。

 そのまま数分がたったように思うのですが、私のお尻に感じるアーサー様のものはちっとも力を失いません。それどころか、時間の経過に従って力を取り戻していっているように思われます。

「あの、アーサー様……。ずいぶんとその、お元気ですね?」

「うん、何せ二か月分、溜まってるからね」

「え……。その間、その、娼館に行ったりとかは……」

「してないよ。僕のものは全部、君の中に注ぎ込むって決めてるんだ」

 アーサー様のお言葉に、私はたまらなく嬉しくなると同時に、ひどく後ろめたい気もしました。

「申し訳ありません、アーサー様……」

「ん? なにがだい?」

「その、アーサー様がこられない間、私はいろいろな方の、その……」

 言い訳をしているような気がして尻切れになった私の言葉を、アーサー様が引き取られました。

「ああ。それは仕方が無いよ。ここはそういう所なんだし」

「はい……」

「その分もその前の分も、僕のもので塗り替えてあげるから、覚悟しておいてくれよ?」

「はい……はい!」

 私がそう答えてしがみつくと同時に、アーサー様がごろりと横に転がるように、体勢を入れ替えられました。ちょうど正常位の姿勢で、私が下になってアーサー様に抱きついた形になります。

 そのまま私にひとつキスをされると、アーサー様は自ら腰を使い始められました。

 硬いままの男根が、私の尻穴を激しく出入りします。中に残った精液がかき混ぜられ、ぐちゅぐちゅと激しい音を立てます。

 同時に再びアーサー様の手が、私のおちんちんをしごき始めます。再び前後両方からもたらされる刺激に、私の性感も高まっていきました。

「あっ、アーサー様、アーサー様、アーサー様!」

 両手でアーサー様にしがみついてその刺激に耐えながら、私はひたすらアーサー様のお名前を呼び続けました。

 やがて今度は、アーサー様が先に私の体内で果てられました。お尻の奥に、再び熱いものがたたきつけられる刺激を感じます。その刺激に、私も再びの絶頂を迎えました。

 二回目ともなると意識を失わずにすみましたが、体のほうはすっかり言うことを聞いてくれなくなりました。それに反して、お尻に感じるアーサー様のものはいまだに固さを保っており、まったく衰えを感じさせません。

「あ、アーサー様……」

「ごめん、辛いかい? 少し休もうか」

 そういって私の中からおちんちんを引き抜こうとするアーサー様を、私は力の入らない腕で何とか引き止めました。

「いいえ、大丈夫です。どうか、アーサー様のお気がすむまで、私の体をご自由にしてください……」

「ミカエラ……」

 アーサー様は再び私にキスをされると、私の体をそっとひっくり返しました。私はベッドにうつぶせになってお尻を上げ、後ろから貫かれた姿勢になります。力の入らない足腰を、アーサー様の両手とおちんちんで支えられた格好です。

 そのまま再び抽送が始まります。ですが二度の絶頂で感覚があいまいになっている私は、もはやすべての刺激を細かく感じ取ることが出来ませんでした。

 おちんちんはまるで取れてなくなってしまったかのように、存在そのものが感じられません。首をひねってみてみれば、うなだれたそれが精液の雫をこぼしながら揺れているのは見えるのですが……。

 お尻から感じるものも曖昧模糊としています。肛門部分とか、内壁とか、奥の突き当りとか、そういった区別が感じられません。すべての刺激が「お尻全体」からのように感じられます。アーサー様が私を一突きされるたびに、あいまいな、「快感」としか表現しようの無い感覚が私の体を突き抜けます。

 力の入らない全身の感覚もあいまいで、まるで自分がお尻だけ、いえ、アーサー様を飲み込んで快感を得ているいる肉の筒しか存在していないような感じでした。

 もはや貫かれる快感と、それに伴う幸福感だけしか感じられません。私は吸った事はありませんが、阿片の中毒というのはこのような感じなのかもしれないとぼんやりと思いました。

 三度(みたび)注ぎ込まれる精液の熱さを感じながら、私の意識は溶けていきました。

 様々な法的手続きやら何やらが片付くまで、およそ一月の時間がかかりました。中でも一番時間がかかったのが私のことでした。

 今の私は、サー・ローレンスの養女という事になっています。どこか遠方の修道院から孤児だった私を引き取った、という事になっているそうです。

 法的には、これで私は女性の戸籍を得たことになります。また、れっきとした貴族であるサー・ローレンスの娘ということにもなりますから、アーサー様に嫁ぐにも何も問題はありません。

 夢のようなお話です。

 私はご主人様に、どうしてここまでしてくれるのかを尋ねました。ご主人様の答えはこうでした。

「結局どう言い繕っても、私たちが君の人生を根本から捻じ曲げてしまったことに変わりは無いのだよ」

「……はい」

「女性になった君が女性としての幸せを得られるのなら、この程度のことはなんでもない。罪滅ぼしをしているつもりになっているだけと捉えてくれてもいい」

「そんな! ご主人様には本当に感謝しています! あの借金を抱えたままでしたら、私も家族も今ごろどうなっていたか……」

 私はご主人様に、深々と頭を下げました。

● ● ●

 私がお屋敷を後にしたのは、新年を間近に控えた雪の降る日でした。

 みなにお別れを言い、ご主人様とも別れの挨拶を交わした私は、先に乗車して待っていただいていたアーサー様を追って馬車に乗り込もうとしました。

 ちょうどその時、お屋敷の門をくぐる二人連れの姿が見えました。くたびれた外套を着た中年男性の後ろを、十四〜五歳ほどの少年が歩いています。

 私はすぐに悟りました。この子は私と同じだと。

 まだ何も知らない少年を見ていると、数年前はじめてこのお屋敷に来て以来のことが思い出されました。

 この子は、どんなレディになるのでしょうか。

 この子は、男性に抱かれてどんな思いをするのでしょうか。

 この子は、再び家族と会うことは出来るのでしょうか。

 そしてこの子には、愛してくれる人が現れるのでしょうか。

 様々な思いが浮かんでは消えます。私のそんな視線に気がついたのか、その少年も私を見つめ返してきました。

「ミカエラ? 何かあったのかい?」

「……いいえ、アーサー様、何でもありませんわ」

 アーサー様の声に答えて少年から目を離すと、私は馬車に乗り込みます。扉が閉じられると、ぴしりという鞭の音とともに馬車が動き出しました。

―了―

* おまけ *

リリ ^ヮ^ノ
 「ここまで読んで下さった皆様、ありがとうございます」

( ・ー・)
 「次回から、僕とミカエラの『南の国でラブラブ日記』が始まるよ!」

リリ;・ヮ・ノ
 「あ、アーサー様! 始まりませんよ」

( ・ー・)
 「それは残念だ」

_■_
( `,,,,○)
 「いいかアーサー、認めるのは任期を無事に勤め上げてからだぞ!
  そもそも由緒あるハーヴィー伯爵家の跡取として――」ガミガミガミガミ

川 O_Oノ
 「良いですか、ミカエラ。貴女はもう一使用人ではないのですから、
  殿方の名誉を汚すことの無いように――」クドクドクドクド

.()_().
( ・x・)
 「ははは、まあまあサー・ヘンリーもミセス・ゴトフリートもお小言はそれぐらいにして。
  サー・アーサー、ミカエラを頼みますよ。ミカエラ、幸せになりなさい」

( ・ー・)
 「心得ていますよ、サー・ローレンス」

リリ ^ヮ^ノ
 「ありがとうございます、ご主人様」

.()_().
( ・x・)
 「それでは読者の皆様方、また次回作まで」

リリ ^ヮ^ノ ( ・ー・)
 「「ごきげんよう!」」



* アーサー卿の日記、もしくは南の国でラブラブ日記 *

○月×日
赴任地へ向かう船上。
波が高いのを気にせずやったらミカエラともども船酔いした。
船の上でするときは要注意。

○月□日
総督府に赴任のあいさつ。
夜、官舎として割り当てられた屋敷の寝室で一回。
熱中症になりかける。何か対策を考えなければ。

○月△日
ミカエラ同伴で出張監査。夜は砂漠のオアシスで一泊。
絨毯を広げて星空を見ながら二回。
ロマチックな雰囲気にミカエラも大変満足の様子。

×月○日
昨日は泊まり込み。ミカエラが昼食を届けに執務室まで足を運んでくれる。
人払いした執務室で一回。緊張感に、ミカエラも大変興奮した模様。
僕の出したものを体内に入れたまま帰るミカエラは顔が真っ赤だった。
熱中症と間違えられて医務室に担ぎ込まれたりしないことを祈りたい。

×月□日
地元の部族長に九歳の娘を貰ってくれと言われた。
婚約者がいるからと断ったら妻を二人三人養うのは男の甲斐性だといわれた。
夜、その話をしたらミカエラの方から僕を求めてきた。二回。
心配しなくても、僕の将来の妻は君だけだよ。

□月□日
ミカエラがほかの男に言い寄られた。
僕と婚約していると言ったら自分の方が愛するからと言われたらしい。
夜、三回。ついミカエラが音をあげるまでやってしまった。
男の嫉妬は醜い。嫌われないように要反省。

          :
          :

リリ ・ヮ・ノ 「あの、アーサー様、この日記は……」
( ・ー・) 「僕たちの愛の記録さ」
リリ;・ヮ・ノ 「内容がいささか赤裸々ではありませんか……?」
( ・ー・) 「なあに、別に人に見せるわけじゃないし」



* それから数年後 *

リリ ・∀・) ← 養女
 「どうしたらおかあさまみたいなすてきなレディになれるの?」

リリ;・ヮ・ノ 
 「え、ええっと、それはね」

( ・ー・) 
 「ミカエラはある人のお屋敷でメイドとして花嫁修業をしたんだよ」

リリ;・ヮ・ノ 
 「(アーサー様!)」

リリ ^∀^) 
 「じゃあわたしもそこでメイドになってしゅぎょうするっ!」

リリ;゚д゚ノ (;゚д゚) 
 「「え、いや、それは」」

リリ*^∀^) 
 「いいでしょ? おとうさま、おかあさま!」

          :
          :

リリ#・ヮ・ノ 
 「アーサー様……」

(;・_・) 
 「なんというか、すまん……」



* めいどしゅぎょう! *

ノノWWヽ ← ヘッドドレス
リリ ・∀・) 「それではよろしくおねがいします!」
.()_().
(;・x・)   「ああ、うむ、こちらこそ」
川;O_Oノ 「一週間だけの見習いとはいえ、厳しく行きますよ」
リリ ^∀^)  「はい! がんばります!」
リリ;・ヮ・ノ 「(ほんとうに申し訳ありません、サー・ローレンス、ミセス・ゴトフリート)」
(;・_・)  「(この埋め合わせはいつか必ず)」



* 少女とおっぱい *

リリ ・∀・) 「アリエルさんのおっぱいやわらか〜い!」 モフモフ
ノノ;・ヮ・) 「あっ、ちょっと、アンジェラちゃん、駄目……」
リリ ^∀^) 「だってとってもきもちいいんだもん」 スリスリ
ノノ;-ヮ-) 「あん、駄目、駄目だってば……(どうしよう、おちんちん勃って来ちゃった)」
川 O_Oノ 「アンジェラ、二階の掃除を手伝ってきなさい。アリエル、あなたはこちらです」
リリ ^∀^) 「はいっ、ミセス・ゴトフリート!」 トテトテ
ノノ;・ヮ・) 「た、助かりました……」



* 少女修行中 *

リリ ^∀^) 「ラファエラさ〜ん、これはどっちですか〜?」 ← 物置整理中

ノリゝ ・ヮ・ノ 「ええっと、その箱はこっちへ……」

扉|_・) ……  リリ ^∀^) シセンヲ カンジルヨウナ

扉|=3     (^∀^ ||| ?

扉|_・)     リリ ^∀^) ??

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