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ガブリエラ

 ご主人様、サー・ローレンスのお屋敷では、一週間に一回の割合で夜会が開かれる。

 ヘルマプロディトス・クラブの定例のパーティーだ。

 私はお屋敷のメイド長として、パーティーが恙無く終わるように目を光らせている。使用人たちがお客様に粗相をしないか、お酒や料理が足りなくなったりしていないか、灰皿はきちんと交換されているか、等々……。

 そして、メイドの誰かがお客様に誘われて会場から姿を消した場合、それに合わせて作業の割り振りを変えるのも私の仕事だ。

 時計の針はまもなく十二時を指し、どうやら今夜も夜会は無事に終わりそうだ。

 そろそろ後片付けの手はずを考えるべきかと思ったちょうどその時、私は声をかけられた。

「ああ、ミセス・ゴトフリート……」

「はい。御用でしょうか、サー・ロナルド」

 振り向いた先にいたのは、顎鬚を蓄え眼鏡をかけた壮年の紳士だった。

 サー・ロナルド・ヒューストン。現役の貴族院議員で、保守党の重鎮でもある有力政治家だ。

「今晩は君に頼みたいのだが――よろしいかな?」

 サー・ロナルドの言葉は質問の形を取っているが、この屋敷のメイドは夜会で誘われれば断ることは許されない。それはメイド長である私も同じことだ。そんなことはサー・ロナルドも当然ご存知なのだが、それでも紳士らしく相手に尋ねる形でお誘いをかけておられる。

「はい。お望みのままに」

 私はいつもの言葉で応諾の意思を継げる。

 後のことを執事のミスター・ジョンソンに任せると、私はサー・ロナルドを二階の来客用寝室へと案内した。

 私の両手がサー・ロナルドの男根をもてあそぶ。その私の手の動きに合わせて、サー・ロナルドが呻き声を上げられる。

「ふふふっ、どうなされたのですか? 卑しいメイドにもてあそばれて、こんなに硬くなさって……」

「うっ、くっ」

「このようなお姿、とても他の方々にはお見せできませんわね」

 私はサー・ロナルドの男根を弄りながら、侮蔑と嘲弄の言葉を次々に投げかける。ひとつ罵倒するたびに、サー・ロナルドの男根がびくびくと反応する。

「まあ、これは何ですの? 罵られてこんなに……。とてもナイトの称号をお持ちの方と思えませんわ」

「おっ、おお……」

 サー・ロナルドが射精してしまわれないように、私は慎重に刺激を加減する。限界寸前の男根は先端から先走りを垂れ流し、私はそれを手のひらにまぶして竿をしごく。

「まあ、大変。サー・ロナルドのこれは、今にも破裂しそうですわ」

 先端を指先でつつきながら、私はサー・ロナルドに質問をする。

「サー・ロナルド、これをどうしたいのですか? おっしゃってくだされば、わたくしお望みの通りにいたしますのよ」

「き、君の、中で、いかせてくれ……」

「まあ! サー・ロナルドは、私のお尻を犯したいとおっしゃるのですね? なんて破廉恥なのでしょう! 男のくせに、同じ男のお尻を犯したいだなんて!」

「た、頼む!」

「ほほほ、勿論、仰せのままに。卑しい男メイドの淫らな尻穴で、サー・ロナルドのご立派な逸物を慰めて差し上げますわ」

 私はそういいながら、ワンピースのスカートをスリップごと捲り上げる。スカートの裾を口にくわえ、空いた両手で下着を脱ぎ捨てた。そのまま膝立ちになると、ベッドに横たわるサー・ロナルドの腰をまたぐ位置に膝を下ろす。

 サー・ロナルドの眼には、勃起しきった私のものが見えているはずだ。

 左手でスカートを抑えながら右手でサー・ロナルドのものを掴み、それを自分の後ろの穴にあてがう。入り口が先端を捉えたところで、私はいったん腰を落とすのを止めた。

「サー・ロナルドのもの、ぴくぴく震えていますわ。そんなに私の中に入りたいんですの?」

「頼む、早く!」

「はい、ただいま」

 そして私は、一気に腰を落とした。サー・ロナルドの逸物が、根元まで私の中に埋まる。普段は閉じている部分を無理やり押し広げられる感覚、そして本来とは逆方向に侵入される感覚が、私に強烈な快感を与えた。

 背筋を駆け上った快感が納まると、私は再び言葉を発した。

「い、いかがですか、私の、お尻は? こんなことをして喜ぶなんて、まるで、聖書に書かれている、背徳の町(ソドム)の住人ですわね」

 腰を上下させながら、私は言葉を続けた。スカートの前裾は捲り上げたままなので、腰の動きに合わせて私の男根がゆれているのが良く見えるはずだ。背後ではスカートが、絶え間ない衣擦れの音を立てている。私はサー・ロナルドを丁寧な口調で罵りながら、腰を振り続けた。

「くっ、も、もう駄目だ!」

「あら、もう、お終い、ですのね? どうぞ、卑しいメイドの、中に、お好きなだけ、ぶちまけて、くださいませ!」

 そう言った次の瞬間、私は体内に熱い迸りが注ぎ込まれるのを感じた。お尻の中で熱い肉棒がびくびくと震えながら、先端から子種を撒き散らしている。

 同時に私の男根も精液を噴き出していた。尻穴と男根、両方からの快感に私の体が震えた。

 私の仕事のひとつに、メイドたちの床技能(ベッドテクニック)の鍛錬がある。勿論、普通の屋敷であれば不要な技術だ。しかしサー・ローレンスのお屋敷はヘルマプロディトス・クラブの夜会の場であり、ここで働くメイドたちの仕事の半分はお客様をベッドで喜ばせることだ。

 このお屋敷が単なる娼館と違うのは、来客がすべてヘルマプロディトス・クラブの会員であること。そして、来客をもてなすメイドたちが実は男性である点だ。つまりヘルマプロディトス・クラブとは、そのような趣味を持つ紳士方の同好会なのだ。

「んっ、そうです、そこで舌先で亀頭をつつくように……」

「んっ、はい、あむっ」

「うふふ、ミカエラのお尻、私の指を離してくれないわ」

「ぷはっ、やだ、やめて……」

「ミカエラ! 口を離してはいけません!」

「はっ、はいっ! 申し訳ありません、ミセス・ゴトフリート!」

 私自身の男根を教材に、いまだ不慣れなメイドに口唇愛撫の技術を仕込む。同時にお尻から快感を与えさせ、男根を咥える事と快感を結び付けさせる。これを続けることで、喜んで殿方のものを頬張るように、さらには自ら肛門性交(アナルセックス)をねだるように調教していく。

 男の子を、娼婦に作り変えてゆく。そのことに罪悪感が無いわけではない。しかしそれ以上に、私は――

● ● ●

「ほら坊主、こちらが今夜のお前のお客さんだ。じゃ、旦那、あっしはこれで」

 店の人が部屋を出て行く。ベッドしかない部屋には、僕と、身なりのいい男性が残った。この男性が今夜僕を抱く人、というわけだ。

 相手の身なりがいいからといって油断してはいけない。そもそも男を、それも僕のような未成年を抱くためにこんな店にくるという時点で、相当の変態なのに決まっている。

 僕は警戒しながら頭を下げ、挨拶をした。

「いらっしゃいませ。今夜は精一杯ご奉仕させていただきます」

 顔を上げると、相手の目がこちらをじっと見据えていた。早速機嫌を損ねてしまったのだろうか?

 白い手袋に包まれた右手が僕の顔に伸びてくる。

 僕は反射的に身をすくませた。

 しかし、その手は僕の頬を張り飛ばしたりはしなかった。

「そんなに緊張しなくて良い。もっと楽にしたまえ」

 僕の頭に手を載せ、髪をなでながら男性が言った。

「え……、はい、ミスター……」

「ローレンスだ。そう呼んでくれ」

「はい、ミスター・ローレンス」

 少し緊張がほぐれてくる。といっても、習い癖になった不信感や恐怖感がなくなったわけではないけれど。

 ミスター・ローレンスが服を脱ぐのを手伝い、その服を衣装棚に収める。ランプと暖炉の明かりに照らし出されるミスター・ローレンスの体は、服の上から見たときより筋肉質でがっしりしていた。

 その股間では、僕のものよりずっと立派な逸物が頭をたれている。固くなればさらに大きくなるのだろうから、これが今夜僕のお尻を犯すのかと思うとかすかな恐怖を感じる。 僕は恐怖感を振り払うと、ミスター・ローレンスのものへの奉仕を開始した。

 唇と舌と咽喉を使って、ミスター・ローレンスのものを固くしてあげる。徐々に固くなりながら頭をもたげていくそれに、僕は再び恐怖を覚えた。

 恐怖感をこらえながら口で奉仕していると、突然頭をなでられた。

 ミスター・ローレンスの右手が、僕の髪をなでている。

 今まで、こんなことをした客はいなかった。咥えているときにいきなり僕の髪を鷲掴みにして腰を使ってきた人はいても、頭をなでられるというのは初めてだ。

 頭をなでる手に励まされて、僕は逸物への奉仕を続行する。技巧の限りを尽くして奉仕すると、ミスター・ローレンスの逸物はついに天を指して立ち上がった。

 念のため口は離さないまま、上目遣いで確認する。以前、口を離したとたん『誰が口を離せと言った!』と怒り出した客に殴られたことがあるからだ。

 ミスター・ローレンスは軽く頷くと、両手で僕の頬をはさんで顔を上げさせた。僕はミスター・ローレンスに背を向けると、ベッドにうずくまってお尻を掲げた。

「どうぞ……」

 ミスター・ローレンスの手が僕のお尻に乗せられる。僕はこの後に続く苦痛を予期して身構え、両目をぎゅっと閉じた。

「……そんなに緊張していては辛いぞ。もう少し力を抜きたまえ」

 予想に反して、次に来たのは肛門への痛みではなく、ミスター・ローレンスの穏やかな声だった。

「え、でも……」

 僕はその時、ミスター・ローレンスが何を言っているのか良くわからなかった。お尻を犯されるなんて、辛いに決まっているじゃないか。貴方も苦痛にのたうつ姿がみたくて僕を買ったんじゃないのか。そう思っていた。

「ああ、やはりな……」

 ミスター・ローレンスはそういうと、僕を抱き起こした。

「? あの……」

「少し、私のしたいようにさせてくれたまえ」

「はい……」

 何をされるんだろう、と思ったけれど、すぐに自分には拒否する権利なんて無いと思い直した。どんなに痛いことでも辛いことでも、我慢して受け入れなければ。

 予想に反して、僕に与えられたのは苦痛ではなかった。

 向かい合わせに僕を抱いたミスター・ローレンスは、指を一本だけ使って僕の肛門を揉み解しはじめた。そのうちに、何とも言いようのない感覚がお尻から感じられてくる。肛門が勝手に収縮し、また弛緩する。

 しばらくそれを繰り返した後、お尻が緩んだ瞬間、ミスター・ローレンスの指が僕の中にもぐりこんだ。

「んっ!」

「痛いかね?」

 痛くは無かった。すっかり柔らかくなっていた僕のお尻は、指を余裕で飲み込んでいた。苦痛の代わりに感じるのは、先ほど外から揉み解されていたときの何倍にもなる不思議な感覚だった。

「大丈夫、です……」

「そうか」

 僕の返事を確認すると、ミスター・ローレンスの指が再び動き始めた。お尻の穴を広げるように円運動をしながら、ゆっくりと中に入ってくる。最初は指先だけだったはずなのだが、いつのまにかミスター・ローレンスの手のひらがお尻に密着しているのが感じられる。つまり指が一本丸々僕の中に入っているということだ。

 突然、お尻に感じる圧迫感が消えた。

 ミスター・ローレンスが僕から指を引き抜いたのだ。

「あ……」

 いつのまにかミスター・ローレンスにしっかりとしがみついていた僕は、その肩から顔を上げた。

 ミスター・ローレンスは僕をベッドに仰向けに寝かせると両足を開かせる。恥ずかしい部分をさらけ出した姿勢に、僕は赤面するのを感じた。

 ミスター・ローレンスの指が再び僕の中に入ってくる。先ほどは背中側から腕をまわしていたから指の腹が背中側に来ていたが、今度は逆の向きになる。今度は最初から指をあっさり飲み込んだ僕のお尻の中を、ミスター・ローレンスの中指が探るように撫で回した。

 指先が前側の一点、ちょうどおちんちんの裏にあたる部分をこするたびに、ぞわぞわとした快感がそこから湧きあがった。射精をするときの快感を薄くしたような、代わりにそれが何度も何度も感じられるような、そんな快感だった。

「あっ、はあっ、んっ……」

 自然とあえぎ声が上がる。でもこれは、苦痛を感じたときにあがる声ではなかった。お尻を弄られて、快感にあえぎ声を出す――信じられない体験だった。

 再び、ミスター・ローレンスの指が引き抜かれる。これも信じられないことに、僕のお尻は指が引き抜かれたことに喪失感を感じていた。

「指を増やすよ」

「! はい……」

 今度こそ、痛みがくると思った。一本ならともかく、指を二本だなんて……。

 しかし、予想に反して僕に与えられたのは、先ほどに倍する快感だった。

 ミスター・ローレンスの中指と薬指が僕の中に入ってくる。痛みどころか、肛門は押し広げられることに快感を、そして中を埋められることに充実感を感じていた。

 二本の指が僕の中で動き回る。

 内壁をこすられるたびに、そしておちんちんの裏側をつつかれるたびに、触られた場所から快感が湧き起こった。中で指を広げられて内側から押し広げられると、こすり上げられるのとは違う種類の快感が感じられる。

 僕のおちんちんはすっかり固くなり、その先端からは信じられない量の透明な液が滴っている。ミスター・ローレンスの指が動くたびにおちんちんがびくんと跳ねた。

「……そろそろ大丈夫かな」

「あ……、ふぁい」

 ふたたび指が引き抜かれ、ミスター・ローレンスが僕の顔を覗き込んだ。廻らぬ呂律で何とか答える。

 ミスター・ローレンスは僕の腰の下にクッションを押し込むと、僕の両足を肩に担ぐようにした。いつもはうつぶせの姿勢で後ろから貫かれているから、相手の顔が見えるこの姿勢は新鮮だった。

 今度こそ、苦痛がくるものと覚悟した。

 ミスター・ローレンスの逸物は指二本などよりずっと太い。いきり立ったそれの先端が肛門に押し当てられたとき、僕はぎゅっと目をつぶった。

 ずぶり

 信じられないことに、苦痛はまったく無かった。それどころか、先ほどにさらに倍する快感がその場所から湧き起こった。

「ふぁぁんっ!」

 どくん!

 一気に貫き通される。たったそれだけで、僕は射精していた。お尻とおちんちんから快感が駆け上がり、頭のてっぺんで爆発する。精液が噴き出るたびに肛門が収縮し、そのたびに両方から快感が湧き起こった。

「あ、あ、あぁっ……」

 まともにあえぎ声も出ない。体中の空気を吐き出しながら、僕はかすれた声をあげた。

 しばらくそっとしておかれると、まともに呼吸が出来るようになってきた。それを見計らったように、ミスター・ローレンスが動き始めた。

 はじめはゆっくり。

 やがて少しずつ速く。

 お尻に送り込まれる一突きごとに僕はあえいだ。床布(シーツ)を両手で鷲掴みにして、両目からは快感のあまり涙をこぼしながら。

 そしてついに、終わりのときが来た。

 ミスター・ローレンスの動きが止まり、僕が戸惑った次の瞬間、僕のお腹の中に熱いものが注ぎ込まれた。普段なら寒気すら感じるその感触が、今日は特大の快感をもたらす。自らも再び射精しながら、僕は悲鳴のような喜びの声を上げた。

 翌朝目がさめたときには、ミスター・ローレンスの姿はもう無かった。昨夜のあれは夢だったんだろうか、と一瞬思ったけど、乱れたベッドがそうではないことを告げている。

 汚れたシーツを剥ぎ取りながら、昨夜のことを考えた。

 お尻でするのがあんなに良かったなんて……。

 僕にはそんな素質が有ったんだろうか。それともあれは、ミスター・ローレンスの技巧のせいなんだろうか。

 そんなことを考えながら冷え込んだ廊下を歩き、シーツを洗濯室に持っていく。

 洗濯室では、隣の部屋のお姐さんと一緒になった。お姐さんが僕の体を心配して言葉をかけてくれる。なんでも、昨晩は壁越しに僕の悲鳴が聞こえてきたそうだ。

 普段はほとんど声を上げない僕が隣の部屋にまで聞こえるような声を上げたうえに、今も頬には涙の跡までついているので、さぞかし乱暴な目に合わされたのだろう思ったそうだ。

 あれは気持ちが良くて上げたあえぎ声なんです、とはさすがに言えず――いくらなんでも恥ずかしすぎる――あいまいに『大丈夫です』といってごまかしておいた。

 それからしばらくはいつもどおりの日々だった。娼館の雑用の仕事をしながら、時々男色趣味のお客に抱かれる、そんな日々だ。

 そして再びミスター・ローレンスが店にやってきた。

 僕は再びミスター・ローレンスに抱かれるのだと思った。ところが、ミスター・ローレンスの来訪目的は意外なものだった。

 僕を買い取りたいというのだ。店に代価を支払って。しかも、ミスター・ローレンスは僕に意見を聞いてきた。お金を支払うのだから好きにすれば良いのに。

「私のところにくれば今よりはいい生活をさせてあげるし、教師をつけて勉強もさせてあげよう。ただし、今と同じように、男性に体を自由にされる。その点は、今よりましとは必ずしも言えない。それを踏まえて考えてくれたまえ」

 ミスター・ローレンスは熟考を促したけれど、僕の考えはその時点で決まっていた。ここから出られるのなら、環境など多少悪くなってもかまわない。それに話を聞く限り、悪くなりようは無いようだった。

 こうしてミスター・ローレンスに買い取られた僕は店を後にした。雑用で外に出ることは有っても、店に戻らなくて良い立場で外に出るのは十年ぶりぐらいだ。このあとはミスター・ローレンスのところに行かなくてはいけないけれど、それを差し引いても、僕は開放感でいっぱいだった。

 ミスター・ローレンスと一緒に馬車で運ばれていった先は、僕の予想を大きく裏切るものだった。

 ミスター・ローレンスの口ぶりからは、てっきり彼の経営する娼館か何かで働くことになるのだろうと思っていたけれど、連れて行かれた先は高級住宅街の、それも大きなお屋敷だった。馬車から降りると、執事らしい白髪に口ひげの人物がミスター・ローレンスを出迎えた。

「おかえりなさいませ、サー・ローレンス」

「ただいま、ジョンソン」

「? サー……、ローレンス?」

「ああ、そういえば……」

 僕の間の抜けた声に、ミスター――サー・ローレンスが答えた。今の今まで相手が爵位もちの貴族だとは思わずにいた僕は、頭が真っ白になっていた。

 その後、応接室ではなく居間に通されて、話を聞かされた。

 このお屋敷で使用人として働くこと。

 ただし、下男や馬丁や庭師としてではなく『メイド』として。

 そして、ヘルマプロディトス・クラブの事と、週に一度の夜会のこと。

 ここまでの説明を聞いて、サー・ローレンスは新しいメイド候補を探して僕を見つけたことを理解した。僕を引き取るときの条件にしても、決して好意からではなく、みすぼらしいメイドではクラブの体面にかかわるからだ、という事も。

 それでも、僕からしてみれば明らかな環境向上だ。結局は体を売るという点では同じでも、場末の娼館と上流階級相手のクラブでは大違いだ。そのことを言ったとき、サー・ローレンスにひとつ間違いを訂正された。

「ああ、ひとつ訂正しておこう。ヘルマプロディトス・クラブは買春クラブのようなものではない。運営費はすべて会費でまかなわれているし、お金を出せば参加できるというものでもない」

「すると、どういうことですか?」

「あくまで同好会、あるいは愛好会ということだよ。だから夜会にしても、みながみなメイドを抱きに来るわけではない。ほとんどは同好の士とのお喋りや薀蓄の傾けあいを楽しみに来るだけだ」

「はあ……」

 正直に言ってそのときは違いが良くわからなかったが、どうやらサー・ローレンスにとっては大事なことらしい。

 その後使用人部屋に連れて行かれた僕は、『新しい仲間』としてメイドたちに紹介された。下は十三、四歳ぐらいに見える子から上は三十過ぎのメイド長まで、どう見ても全員女性にしか見えなかったが、サー・ローレンスの言葉どおりなら全員男性なのだろう。

 全員に挨拶が終わると、まずは浴室に放り込まれた。やけに充実した設備の浴室で全身を磨かれ、出たあとには乳液と髪油で肌と髪を整えられた。下着のつけ方から教えられながらお仕着せのメイド服を着て、髪留めをつける。

 こうして、僕のサー・ローレンスのお屋敷での生活が始まった。

 はじめのうちは、僕の仕事は『仕事を覚えること』だった。

 掃除、洗濯、裁縫といったメイドならば当然出来ることのほかにも、料理や手芸まで覚えさせられた。

 それと並行して、淑やかな喋り方や綺麗な歩き方、食卓での作法など、今まで考えたことも無いもの。さらには家庭教師をつけられ、綺麗な文字の書き方から始まっていろいろな教養知識も。

 はじめのうちは言われたことをこなすだけで一杯一杯だった僕も、考え事をする余裕が出来てくると、教え込まれる知識がメイドとして必要なものだけではないことに気がついた。

 このお屋敷での教育は、男の子を単にメイド(や娼婦)に変えるだけじゃない。立派な『淑女』や『貴婦人』として通用するような、そんな教育が施されている。メイドとしての教育も花嫁修業の一環のようなものだ。

 そしてその教育にはベッドでの振る舞いも含まれている。

 誰が言ったか知らないけれど、男にとっての理想は『昼は淑女、夜は娼婦』だそうで、ここでの教育はまさにそんな『理想の女性』に男の子を作り変えるものだった。

 ……なんて事がわかるようになったのは、一年以上が過ぎてからだったけれど。

 僕の名前も変わった。

『ガブリエラ』

 これが僕の新しい名前だ。このお屋敷に来てからは、僕はこの名前で呼ばれている。ご主人様――サー・ローレンスにいただいたこの名前を、僕は気に入っている。

 この名前で呼ばれている限り、僕はサー・ローレンスの屋敷のメイドだ。雑用にこき使われながら乱暴な客にいじめられる場末の男娼じゃない。

 僕をあそこから救い出してくれたご主人様にいただいたこの名前は、今の僕の一番の宝物だった。

 お屋敷に来てから、僕は毎晩お薬を飲まされている。

 茶色の硝子瓶に詰まった小さな丸薬。

 男の体を女のものに作り変えてしまう不思議な薬だ。まるで、御伽噺の、お姫様になった王子様の話に出てくる薬みたいだ。

 飲みだして半月もたった頃には、僕の体に影響が出始めていた。

 胸が少しずつ膨らみ始め――

 肌のきめが細かくなり――

 全身に少しずつ脂肪がつき――

 最初の頃は鏡で見ても『女装した男の子』でしかなかった僕が、一年も経った頃にはすっかり『女の子』になってしまった。スカートを捲り上げて股間を見せない限り、外見では女性と区別がつかない。

 正直最初は怖かった。

 だけど、四六時中女の子として扱われていると、それが自然に思えてくる。女の子の服を着て、女の子らしく喋り、女の子らしく歩き、女の子らしく振舞う。そうやって日々をすごしていると、むしろ男っぽい外見のほうが不自然に思えてくる。

 僕の今の悩みは、どうも体に脂肪がつきやすい体質らしいことだ。

 胸はすでに片手では包み込めない大きさに育っているし、お尻などは鷲掴みにしてみると指がめり込むようになっている。ちょっと油断すると余計なところにまで肉がつくので、おやつの時間にも甘いものを遠慮する羽目になっている。

 女性らしい悩みといえば女性らしい悩みなのだけれど、これが僕の目下最大の難問だ。

 お屋敷に来て一年程が経ったとき、ついに定例の夜会で広間に出るようにといわれた。

 今までは夜会の夜は広間と二階寝室以外の場所の仕事をさせられていたのだが、とうとう僕もお客様の前に出しても恥ずかしくないだけの躾が行き届いたとみなされたのだろう。

 その夜会で、僕は大失敗をやらかしてしまった。

 お客様に誘われてベッドに入ったまでは良かったのだけれど、急に怖くなって、何も出来ずに泣き出してしまったのだ。

 お客様は怒られたりはしなかった(むしろ慰めてくださった)けれども、僕は申し訳なさで一杯だった。僕を最初に選んでくれたお客様に、そして誰よりご主人様に。

 翌日の夜、サー・ローレンスの部屋に呼ばれたときには、僕はお屋敷を追い出されるかもしれないと思っていた。

 コンコン

 ご主人様の寝室の扉をノックし、返事を待つ。

「だれかね?」

「……ガブリエラです」

「入りなさい」

「失礼します……」

 ベッドのそばに置かれた安楽椅子からご主人様が立ち上がり、僕のほうを向かれた。

 僕はといえばドアの前で縮こまり、びくびくしながらご主人様の言葉を待つだけだ。

「なぜ呼ばれたかはわかっているね?」

「はい……」

 ご主人様に促され、僕はあのときのことを包み隠さず話した。

 娼館時代のことを急に思い出したこと。

 張り倒されたときの頬の痛み。

 お尻を犯されたときのひどい苦痛。

 寒々とした部屋の中で、一人で汚れた毛布に包まって眠る時のさびしさ。

 そう言ったものが生々しく思い出され、恐怖にこわばったからだが言うことを聞かなくなってしまったことを。

 僕の話を聞き終わったご主人様は、黙って何かを考え込んでおられた。

「お願いします、ご主人様! 次はきちんとやります! ですからここに居させてください! お願いします!」

 沈黙が怖くなった僕は、それだけ一息に言って頭を下げた。ご主人様に『この屋敷から出て行け』と言われたらどうしよう。そんな恐怖に僕の思考は半ば麻痺していた。

 その頭が、そっとなでられた。

 顔を上げると、ご主人様の手が僕の頭をなでている。

「出て行けなどとは言わないとも。すまなかったな、嫌なことを思い出させて」

 その言葉に、僕の涙腺は決壊した。両目からぽろぽろと涙が零れ落ちる。

 ご主人様が僕を抱き寄せ、その両腕で包んでくれる。僕はご主人様の胸にすがり付いて、泣きながら何度も何度も謝った。

 それから二日後、僕は再びご主人様の寝室に呼び出された。

 緊張しながら寝室に入った僕は、ご主人様から小さな箱を手渡された。言われるままに開けてみると、それは丸いレンズの銀縁眼鏡だった。

 促されてかけてみると、そのレンズには度が入っていなかった。いわゆる伊達眼鏡というものだ。

 ご主人様の意図がわからず戸惑う僕は、そのまま鏡の前に連れて行かれた。言われるままに鏡を見る。そこには眼鏡のせいで印象の変わった僕の顔が有った。

「いいかね。これから、この眼鏡をかけているときの君は、今までの君ではなくなる」

「私が、私でなく……?」

「そうだ。それをかけているときの君は、何も恐れない。何にも恐怖しない。過去の記憶など笑い飛ばせる」

「何も、怖くない、何も、恐れない……」

「そうだ。もしも今までの自分に戻りたくなったら、その眼鏡を取ればいい。そうすれば、君は今と同じ君に戻れる」

「元に、戻りたくなったら、この眼鏡を、取ればいい……」

「そうだ。だがその眼鏡をかけているときの君は、何も恐れることは無い。恐怖は君を打ち負かせない。君はいつどんなときでも冷静沈着に行動できる」

 ご主人様のささやく言葉が、魔法の呪文のように僕の中に染み入ってくる。鏡の中の僕――私が、レンズの向こうから、見返してくる。その視線は自信に満ちていて、何者にも揺るがされないように見えた。

「……うふっ、くすくす」

 私の口から、意図せず笑い声が漏れた。重圧が取り払われたような開放感。あの娼館を後にして以来の晴れやかな気分が、笑い声になって漏れ出す。

「気分はどうかね?」

「とても――とても晴れやかな気分ですわ、ご主人様」

「ベッドに誘われても平気かね?」

「はい、勿論――そうだ、ここで証明してお目にかけます。どうぞ、検分してくださいませ」

 私はそういうと、ご主人様をベッドに誘った。ご主人様にナイトガウンを脱いでいただき、その股間のものに口付ける。この一年の間に覚えたありとあらゆる技巧を駆使して、肉の蛇を責め苛む。

 肉の蛇が肉の槍へと化けると、私はそれで躊躇なく自らを貫いた。ご主人様にまたがって尻穴から湧き起こる快楽をむさぼる。

「いかがっ、ですか、ご主人様! 私の、具合はっ?」

「ああ、いい具合だ。これなら君を抱いた男は、みな君に夢中になるだろうな」

「んっ、ありがとう、ございますっ! それでは、どうか、ご褒美を、私の中に、くださいませっ!」

 懇願した直後、私の直腸に熱い液が放たれた。体内を灼かれるような感覚に私は絶頂し、背筋をのけぞらせながら精を放った。

 あれ以来、私はご主人様にいただいた眼鏡を常にかけている。さすがに眠るときや入浴するときなどは外すが、それ以外の時間は常に着用するようにしている。

 一月後、再び夜会に出た私は、最初に私を誘ってくださった方に再び誘われた。そして滞りなく事を済ませた私は、十分やっていけるという自信を得た。

 私が自分の性癖に気がついたのは、それからかれこれ一年が経とうという頃だった。

「ミスター・ウィリアムズのおちんちん、すごく固くなってますわ」

 両手で逸物をもてあそびながら、親指でその先端をこする。溢れ出す先走りを亀頭に塗り広げてやりながら、射精には至らない程度に抑えた刺激を加えてやる。

「うくっ、そ、そろそろ……」

「はい、ただいま」

 私はベッドの横たわるミスター・ウィリアムズの腰の上にかがみこむと、怒張した逸物の先端を捉えた。敏感な亀頭への刺激に、ミスター・ウィリアムズが呻き声をあげる。

 それを見た私の背筋に、何かぞくぞくとした物が流れた。

 財界に大きな力を持ち、政界にもそれなりのコネクションをもつ大物が、卑しいメイドに過ぎないはずの私にいい様にされている。

 私よりずっと年上で、肉体的な力も私を上回るはずの男性が、私に責められて虐げられたような声を上げている。

 私は自分の中に湧き起こった感情に押されるままに行動した。

「あら、ミスター・ウィリアムズのおちんちん、ぴくぴく震えていますわ。そんなに私の中に入りたいんですの?」

「じ、焦らさないでくれ……」

 お尻の入り口で先端部だけを刺激しながら、少しだけ焦らしてみる。ミスター・ウィリアムズは怒るどころか、私に向かって懇願するような言葉をはいた。

 背筋を走るぞくぞくする感覚が大きくなる。

 もっと焦らしたい。

 もっと哀願させたい。

 這い蹲らせたい。

 踏みにじりたい。

 足蹴にしたい。

 奉仕させたい。

 様々な思いが湧き起こる。勿論そんなことをするわけには行かないので、そのときは素直にミスター・ウィリアムズの言葉に従った。

「はい、申し訳ありません」

 私はゆっくりと焦らすように、ミスター・ウィリアムズを体内に迎え入れていった。私の尻穴が男根を飲み込んでいくにつれ、ミスター・ウィリアムズの切羽詰っていた表情が緩んでいく。それを見ていると、この瞬間、ミスター・ウィリアムズを支配しているのは私だという気がした。

 ミスター・ウィリアムズの表情を観察しながら、私は腰を使った。肛門が男根をこすり上げるたびにミスター・ウィリアムズの顔が快感にゆがむ。わざと刺激を緩めると物足りなそうな声が、直後にぎゅっと締め上げると不意打ちに驚く声があがる。

 とうとう我慢の限界を迎えたミスター・ウィリアムズが私の中に精を放ったとき、私は今までとは違う、妖しい満足感に満ちた絶頂を迎えた。

 それ以来、ベッドの中で殿方を観察していくうちに、実は責められる事や奉仕させられる事を(無意識にせよ)期待している方がおられるということに私は気がついた。どうやってなのかは私にも良くわからないのだが、そういう殿方はベッドを共にしてみるとなんとなく判る。そのような方は、普通に奉仕して差し上げるよりも、むしろ少しいじめて差し上げたほうが喜ばれた。

 ふだんは人を使い、あれこれと決断し指図しなければならない反動なのか。

 あるいは普段と違う自分になってみたいのか。

 それとも単純に、虐げられるのが好きという嗜好でもあるのか。

 そのあたりは良く判らないのだが、とにかくそういう方が結構な人数いるのは確かだ。私はそういう方に誘われたときにはこちらから責めて差し上げるようにした。

 ある方は私の足でおちんちんを踏みにじられながら射精し。

 ある方は半泣きになって私に挿入を懇願し。

 ある方は床に這い蹲って私の足に口付けし。

 また、ある方は私のおちんちんや肛門を言われるままに舐め回した。

 あまりやりすぎて苦情が出ても困ると思ったのだが、むしろ物足りないと言われる方がいたのにはこちらも驚いた。以来私は、これと見定めた方は遠慮なく責めて差し上げている。

 お屋敷で働くようになって六年目になる年のことだった。

 当時のメイド長がお屋敷を辞することになり、後任のメイド長に私を推薦した。

 当時私はそのメイド長を除けば最年長で、お屋敷で働いていた期間もメイド長に次ぐものだった。すでにお屋敷の仕事は日常から夜会の夜のことまで知り尽くしてもいた。

 私は最初は戸惑った。

 メイド長となれば、お屋敷の家政全般を仕切らなければならない。財政や資産管理は執事のミスター・ジョンソンが行っているが、お屋敷内の日常的な家政管理はメイド長の仕事になる。

 その上、ヘルマプロディトス・クラブの事がある。

 このお屋敷のメイドはただの下働きしか出来ないのでは勤まらない。淑女(レディ)と呼ばれるにふさわしい教育と振る舞いを身に付け、その上で、殿方を喜ばせる娼婦の技巧も身につけていなければならないのだ。そしてその教育もメイド長の仕事なのである。

 そのような大事な仕事が私に勤まるのだろうかと、私は悩んだ。しかし、その当時私のほかにそれにふさわしいといえるメイドはいなかった。

 お屋敷のメイドには、私のようにご主人様に拾われて来た者、借金のかたに年限奉公しているもの、あるいは花嫁(というのだろうか?)修業として預けられて来ている者がいた。預かりの身の者は当然駄目なのだが、それ以外で私より上とすぐ下にいた人物がヘルマプロディトス・クラブの会員の男性に見初められて引き取られていたため、私以外で残ったものはまだまだ修行不足といわざるを得ない状況だったのだ。

 引き受けざるを得ないとわかっていても重圧に押しつぶされそうになっていた私を後押ししたのは、ご主人様のお言葉だった。

『私も、君ならば信頼して任せられる』

 メイド長が私を推薦したときの、ご主人様の言葉だ。

 ご主人様が私を信頼してくださるのならば、それに答えない訳には行かないのではないか。

 結局のところ、それが私がメイド長の仕事を引き受けた唯一の理由だった。

● ● ●

 ――私はご主人様のご期待を裏切るわけには行かない。

「それではミカエラ、貴女の口の中に出します。一滴もこぼしてはいけませんよ」

 私の男根をくわえていた新人メイドが不安げに眉をひそめた。私はその口腔内に自らの精を放つ。嘔吐させてしまわないように、咽喉奥に当てないように注意する。いずれは咽喉奥まで飲み込んだ状態での口内射精にも慣れさせなければならないのだが、今はまだ早い。とりあえずは精液の味を覚えさせるのが先だ。

 私の射精と同時に、尻穴と男根を責めていたメイドがそちらにもとどめをさした。精液の味と同時に絶頂を与える。これでまた少し、この子の中で男根をしゃぶることと快楽が結びついたはずだ。

 目を閉じて必死に私の精を飲み下す顔を見ながら、私はこの子が完全に仕上がったらご主人様はなんと言って褒めてくださるだろうかと考えた。

 お屋敷の使用人用の一角に、私は私室を与えられている。普段の夜は、私はその部屋で就寝する。しかし週に一度、私はその部屋以外の場所で夜を過ごす。

「どうかね、ミカエラの教育の進み具合は?」

「普段の仕事振りに不足はありません。 下働きのメイド(パーラーメイド)としては十分です。 侍女や子守り(ベビーシッター)はまだ無理ですね」

「ふむ。あちらのほうはどうかね。口ですることには抵抗は無くなっている様だが」

「そうですね……。まだ、自分は男の子だと思っているようです。ですが、体のほうはもうお尻ですることにすっかり馴染んでいます。少しじらすようにしてやれば、自分からねだると思います」

「そうか。ご苦労だった。それでは最後の仕上げをするとしよう」

「はい……」

 夜のご主人様の寝室――書斎ではない――で、新しく入った(といっても半年以上経っているが)メイドの具合についてご主人様と話し合う。

 メイドとしての教育についてだけではない。どれだけ『男の子』から『娼婦』に作り変え終わっているかについてもだ。

 最初にご主人様に抱いていただき(このとき貞操は奪わない)、男性に抱かれることへの拒否感を打ち壊す。それから私と他のメイドたちで調教を繰り返し、体に快楽を染み込ませる。最後にご主人様の男根で貞操を奪っていただき、心の奥底まで女性であると自分自身に認めさせる。

 すでに調教は最終段階で、あの子の体はお尻からの快楽に逆らえなくなっている。自分からねだらせて貞操を捧げさせれば、最後の殻も打ち破られるだろう。その時、あの子は心の奥底まで女性に生まれ変わる。

 人間一人を、心の奥底まで作り変えてしまった。もしかしたらとても罪深いことをしているのかもしれない。それでも、ご主人様が望まれるのならば、私はそれに従うだけだ。

「本当にご苦労だった――君には褒美を与えないといけないな、ミセス・ゴトフリート」

 褒美、という言葉に、私の心臓が大きく跳ねた。

 ご主人様のご褒美……。

 考えると、体が熱くなり胸が高鳴ってゆく。ご主人様は、そんな私を見て穏やかに微笑んでおられる。

「ありがとうございます……」

 椅子から立ち上がったご主人様の両手が私の顔に向かって伸びてくる。その手は私のかけている眼鏡のつるをつまむと、そっと外してナイトテーブルに置いた。

 私の眼鏡はレンズに度の入っていない、いわゆる伊達眼鏡だ。だから、外したからといって目に見えるものは何も変わりはしなかった。

 変化があるのは、私のほうだ。

 眼鏡と一緒に、『ミセス・ゴトフリート』という人間が私から取り去られる。代わって出てくるのは、本当の私。自信家のガミガミ屋でメイドたちの上に君臨し、夜は夜でお尻を調教する『ミセス・ゴトフリート』とは似ても似つかない本当の私だ。

 ご主人様の顔をぼうっと見上げる私の頭を、ご主人様の右手が撫でて下さる。その感触に、私は頬が緩むのを感じた。撫でられている部分から穏やかな暖かさが流れ込み、ずっとずっと撫でていて欲しい気持ちになる。

 残念ながら、私の頭を数回撫でたところでご主人様の手は離れていった。代わりにご主人様は私の手をとると、私をベッドへと誘った。

「おいで、『ガブリエラ』……」

 ご主人様の声が魔法の呪文のように私の頭に染み入ってくる。私はご主人様にしたがって寝台に登ると、シーツの上にぺたりと座り込んだ。決してメイドたちには見せられない、力の抜け切った姿だ。

 後ろから私を抱きすくめたご主人様の両手が、ワンピースの上から私の胸をそっとさする。ワンピースの胸元を押し上げていた私の乳房から、なんともいえない心地よさが湧き上がってきた。

「ああ、ご主人様……」

 背中に感じるご主人様の体温と胸から感じる快感に、私の体の芯がとろけてゆく。

「何かね……」

 耳元でささやかれるご主人様の声に、頭の芯が痺れてくるような気がする。物を考える力が鈍り、ご主人様に愛撫していただく以外のことが考えられなくなる。

「き、気持ち良いです……」

「どこがだね?」

 意地悪な質問に、頬が熱くなるのを感じる。

「お、おっぱいがです……」

「そうか。それでは、これはどうかな」

「んっ……!」

 背中のボタンが外され、はだけたわきの下からご主人様の手がもぐりこんできた。服の上からもまれるのとは比べ物にならない快感が胸に与えられる。先ほどまでのどこかもどかしい感じではなく、もっと直接的な刺激だ。

 私の胸を弄りながら、ご主人様が服を脱がせていく。すぐに下着姿にされてしまった私は、ご主人様に寄りかかって荒い息をしていた。

「可愛い下着だね、ガブリエラ」

「ご主人様に、喜んでいただきたいと……」

 私の今の下着は、夜会の夜に着用するのと同じような派手なものだった。薄手の絹の肌着は透き通り、ほとんど肌を隠す役に立っていない。下も同じで、縁取りの飾りひだ(フリル)以外の部分はほとんど透明だ。すでに固くなった私のおちんちんが窮屈そうに収まっているのが、外からもわかる。

「嬉しいことをいってくれるね」

 ご主人様の手が私の股間に伸びる。下着の上からやわやわとおちんちんを揉まれ、腰から下が痺れた。

 後ろから抱きすくめられながら、乳房とおちんちんを愛撫され、優しい声でささやきかけられる。これだけで、私は絶頂してしまいそうだった。

 すぐにでも絶頂させて欲しいという気持ちと、それはもったいないという気持ちが私の中でせめぎ会う。勝利を収めたのは後者だった。

「んっ、ご主人、様っ、はあっ……」

「なにかね?」

「おねがい、ですっ、ご主人様のおちんちん、おしゃぶりさせて、くださいませ……」

「ああ、いいとも」

 ご主人様はそういうと、私を解放された。クッションに寄りかかってガウンの前をはだけられたご主人様の両足の間に跪き、私はご主人様の逸物に顔を寄せた。

 ご主人様の匂い、男の匂い、雄の匂い……。

 身体と耳の次は、鼻からご主人様を感じた。鼻を抜けた匂いが、頭の中にまで充満しているような気がする。雄の匂いに雌の本能を刺激されて、私はご主人様の逸物にむしゃぶりついた。

 ご主人様に口戯を楽しんでいただきながら、私もご主人様の逸物を思う存分に味わう。すっかり固くなったそれを口に含み、舐めしゃぶっていると、それだけで私も昂ぶってくる。

 先ほどまでの愛撫で感じていたものとは別の種類の昂ぶりに、私のおちんちんと尻穴から、むずがゆいようなくすぐったいような、もどかしい感覚が湧き上がる。

 この逸物で貫いて欲しい。

 私の中を蹂躙し尽くして欲しい。

 熱い迸りで私の中をあふれさせて欲しい。

 咽喉奥まで飲み込んでご主人様を味わい尽くしながら、私はそんなことだけを考えていた。

 その私の頭に、ご主人様の手が載せられた。

 手のひらがゆっくりと動き、私の頭を撫でてくださる。その気持ちよさに、私の動きが鈍った。撫でられる前の私は獣が肉をむさぼるように逸物にむしゃぶりついていた。それが今は、赤子がおしゃぶりにするように無心にそれを咥えている。お尻とおちんちんから湧き起こる感覚も、もどかしさよりも、穏やかな快感となって私の下腹部を満たしている。

 しばらくそうしてご主人様の逸物を口で楽しんだ後、私は頭を上げた。ご主人様も上体を起こして、私の顔を見つめられる。

「ご主人様……」

「なにかな?」

 私は仰向けに寝転がると、両手で膝を抱え上げた。私の両足の間の、恥ずかしいところがすべてご主人様の目にさらされる。

「こ、今度はこちらに、ご主人様のものを、頂いてよろしいでしょうか……?」

 涎をたらしながらびくびくと震えるおちんちんと、その下でひくひくと収縮する後ろの蕾。私は恥ずかしいところを全てさらけ出しながら、ご主人様に質問という形のおねだりをした。

「ああ、勿論だとも」

 ご主人様は私にそっとのしかかられると、その逸物を私の後ろにあてがわれた。ご主人様の熱い先端に触れられて、私の尻穴は期待感に震えた。

 ずぶり、とご主人様の逸物が私を貫く。すでにとろけきっていた私の菊門は、何の抵抗も無くご主人様を迎え入れる。

 ご主人様のものが突き進むたびに、私のお尻から快感の爆発が起きた。それは私の体の中心を貫き、頭を内側から叩くような衝撃を与える。私は眩暈さえ感じながら、ご主人様に与えられる快感におぼれていた。

 永遠にも思えた数秒の後には、ご主人様のものはその全てが私のお尻に納まっていた。私のお尻にご主人様の腰があたっているのが感じられ、こじ開けられている肉の環はご主人様のものをぎちぎちと締め上げている。

「ああ、ご主人様……」

「どうした?」

「わたくし、今、とても幸せです……」

「そうか……」

 そう言うと、ご主人様は私にキスをされた。繋がりながらのキスに、私の頭は沸騰しそうだった。

 それからご主人様は、ゆっくりとした動きで私の中を往復し始められた。

 ご主人様のものが抜ける寸前まで後退し、後わずかで亀頭が肛門を抜け出る、というところで止まる。

 それからゆっくりと前進し、一番根元までが再び私の中に埋まる。

 敏感な粘膜と体内をこすりあげられながら、私はおちんちんから透明な液を垂れ流していた。昂ぶっている事を示す恥ずかしい証拠に、しかし私は少しも恥ずかしさを覚えなかった。これは、私がご主人様に貫かれて喜んでいる証拠だ。

 私はご主人様のもの、所有物。

 だから、ご主人様に可愛がられて喜ぶのは当然のことだ。

 ご主人様の動きがだんだんと速くなり、私もそれに応じてどんどん昂ぶってゆく。肉と肉のぶつかる音が響き、その音にあわせて踊る私のおちんちんが透明な液を撒き散らした。

 どんどん高まる快感に、私はあっという間に絶頂寸前に押し上げられた。

「ふあっ、ごしゅっ、ご主人様っ、私っ、もう、もうっ!」

「ふむ、それは勿体無いな」

 唐突にお尻からの刺激が途絶える。ご主人様が私の中から逸物を抜き取られたのだ。すさまじいまでの快楽の怒涛がいきなり途絶えたことが、私を混乱させた。

「あっ、いやあっ、ご主人様、お願いです! おちんちん、おちんちんここに下さい!」

 私は半泣きになりながら両手で尻たぶを開き、ひくひくと痙攣する穴を剥き出しにして懇願した。

「今度は君が上になってみたまえ」

 私とは対照的に、いたって冷静にご主人様はおっしゃられ、枕に寄りかかって私を手招きされる。私はベッドの上を四つんばいで這いより、ご主人様の腰にまたがる位置に移動すると、ご主人様の許可も頂かずに一気に逸物をお尻に飲み込んだ。

 お尻の中を再び埋め尽くされて陶酔感に浸る私を、ご主人様が抱きしめられた。全身に感じるご主人様の体温、呼吸、鼓動などに、私は無上の幸福感を感じた。性的な快感と精神的な幸福感に心身の両方を満たされ、呼吸することすら忘れていたかもしれない。

「ガブリエラの身体は柔らかいな」

 ご主人様が私のあちこちを愛撫しながらおっしゃられる。

 私自身はどちらかというと、脂肪がつきやすい自分の体が好きではない。胸は少し垂れ気味だし、お尻や太ももなどは下着が食い込むしで、甘いものを好きに食べることもできない。

 しかし、ご主人様はこの体を抱きごこちが良いと言って喜んでくださる。なんだかクッション扱いされているような気がしないでもないが、ご主人様が喜んでくださるのは私にとっても嬉しいことだ。

 お尻を貫かれたまま全身あちこちを愛撫され、私は再び絶頂に向かって押し上げられていった。私自身の体重でご主人様の逸物の先端がお尻の最奥に押し付けられ、愛撫の刺激に身体が反応するたびにそこからすさまじい快感が湧き起こっている。

「あっ、ああっ、ご主人様っ、私、もうっ、今度こそっ、駄目ですっ!」

「そうか、では一緒にいこう」

 ご主人様の責めが激しくなり、私はあっさりと絶頂へと押し上げられた。

 お尻がぎゅっと締まり、痙攣する。

 おちんちんの裏側で快感が爆発し、精液となって吹き出る。

 お尻の中にご主人様の熱い子種が注ぎ込まれる。

 それら全ての快感が一時に押し寄せて、私の意識を吹き飛ばした。

 気がつくと、ご主人様が私の体を拭ってくださっているところだった。

「ご主人様! そのようなことは私が――」

 慌てて身体を起こそうとした。ところが腕にうまく力が入らず、私はベッドの上に崩れ落ちてしまった。

「ははは、少し激しすぎたかな」

 ご主人様は愉快そうに笑われると、手拭をテーブルの上に放り投げられた。

「もう全部終わった。今晩はこれで寝るとしよう」

「はい……、ありがとうございます」

「君には普段から助けられているからね」

 ランプの明かりを消し、ご主人様はベッドにあがられた。毛布に包まり、私を抱き寄せられる。私もご主人様のお体に腕を回すと、その胸に顔をうずめて目を閉じた。

 激しい交わりの翌日でも、普段の習慣どおりの時間に目は醒める。

 カーテンの隙間から見える空はすでに白み始めており、気の早い鳥たちが朝の挨拶を交わしているのも聞こえる。

 私はベッドからそっと抜け出すと、昨晩脱ぎ捨てたままになっていたメイド服をまとった。それからサイドテーブルに手を伸ばし、眼鏡を取り上げる。

 これをかけたら私はメイド長に、『ミセス・ゴトフリート』に戻らなければならない。

 『ミセス』といっても別に結婚をしているわけではなく、私は誰にも引き取られるつもりは無い、ということを示す符丁のようなものだ。先代のメイド長も独身だったが、やはり『ミセス』と呼ばれていた。

 しかし、私は心中ひそかに、この呼称にそれ以外の意味を見出していた。

 私はご主人様のもの。所有物。ある意味で婚姻よりも強い、隷属の関係。ご主人様に捨てられない限り、一生お側にいられる身の上。

 結婚とは違う一方的な関係かもしれないが、それでも私は『ご主人様のもの』なのだ。だから、私は他人の前では『ミセス』を名乗る。『すでに誰かのものである』という意思表示として

 眼鏡を手にしたまま一時(ひととき)迷い、私はベッドに眠るご主人様に近づいた。

 『ミセス・ゴトフリート』に戻る前に、『ガブリエラ』でいるうちに、もう一度だけ。

 私は目を閉じると、ご主人様にそっと口付けをした。

 離れようとした瞬間、私の頭が撫でられた。

 驚いて目をあけると、ご主人様の右手が私の頭を撫でてくださっている。

 私はもう一度目を閉じると、あと少しだけ、と自分に言い聞かせながらキスを続けた。

―了―


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