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鏡の中の……

 ベッドルームの壁際に、大きなダブルベッドが置かれている。ベッド上には二人の人物の姿があった。

 二つの姿は鏡に映したようにそっくりだ。顔立ちから身長、体格、明るい茶色のショートヘアまで、瓜二つと言って良い。

 二人の格好は、飾り気の無い白いショーツとブラジャー、薄いスリップだけだった。

「――と、後はエミコが一回と。私は合計五回ね」

「こっちは四回かー。今週は不調だったわ」

 ベッドに寝転がりながらメモを確認していた二人の女性。片方が枕に突っ伏しながらメモパッドを放り出す。宙を飛んだメモパッドがテーブルの上に落ち、軽い音を立てた。

「あっはっは。これで二連勝ね」

「ちぇー。来週は見てなさいよ」

「ふっふっふ。返り討ちにしてやるわ――さて、じゃあ罰ゲームと行きましょうか」

 勝利宣言をしていたほうの女性が、ショーツに手をかけた。足を抜き取ると、ベッドの縁に腰掛けるように姿勢を変える。

「……舐めて」

「……うん」

 もう一人がベッドから降り、両脚の間にうずくまる。そこには、女性には無いはずのものがあった。柔らかいペニスが赤いルージュで彩られた唇にくわえられる。唇と舌が、ペニスを責め始めた。

 私と同じ顔が、私のペニスに奉仕している。私達同士の間で以外は、ありえない光景だ。

 私の名前は朝霞マキ。今私のペニスを咥えているのは、双子の姉妹(本当は兄弟だが)のミキ。一卵性双生児の私達は、体の隅々まで瓜二つだ。長い間離れ離れになっていた一卵性双生児の場合は栄養状態の違いなどによる発育の差が出来るが、ずっと一緒だった私達の場合はそれも無い。目立つような傷跡や痣もなければ、耳たぶのピアス穴の位置まで同じにしてある。

 私達はSの女王様コンビで売っている。それは店に出るときだけでなく、プライベートなペットでもあるオルガちゃんやサキちゃんの前でも同じだ。普段は咥えさせたり挿入する側だし、咥えたり挿入させる場合でもそれは相手のペニスを責めるためだ。

 しかし今、ミキは純粋な奉仕として私のペニスをしゃぶっている。

 焦らし責めとしてのフェラチオとは違い、ただ快楽を与えるための奉仕。

 ミキがそんな姿を見せるのは私の前だけ。そしてミキにそんなことをさせていいのは私だけだ。

 普段は支配者ぶった顔で店の子達を責め、あるいはカードに選ばれた客を嬉々として足蹴にするミキが、小間使いのように、あるいは奴隷のように一心に奉仕をしている。

 目を閉じて、頬を赤く染め、眉根を寄せた表情。屈辱感に苛まれながら、しかしどこかで開放感も感じている表情。ミキのペニスを咥えている時の私と同じ顔だ。鏡で確認しなくたって分かる。私達は双子なんだから。ミキが私を映す鏡みたいなものだ。

 そして、今の自分の表情もわかる。力の抜けきった、快楽におぼれた顔。口は半開きで今にも涎をたらしそうだ。私にペニスを咥えられているときのミキがそんな顔をしているのだから、今の私もそんな顔のはずだ。

「んっ、んっ、んんっ」

 じゅるっ、ちゅばっ、ずずっ。

「はあっ、くっ、くふう、んっ!」

 S女王キャラにあるまじき、奴隷の如き奉仕と、快楽に溺れる姿。私達同士だけにしか見せられないそんな姿を、私達は晒していた。

 私の口の中で、マキのペニスが震えている。先端から蜜をたらしながら、不規則にぴくぴくと震えている。

 先端だけを咥えた形にして、舌を押し付けながら強く吸引する。上目遣いに見上げると、マキの快感に緩みきった顔がある。お店の子やお客さんに咥えさせているときには絶対にしない顔。威厳もなにもあったものじゃない、快感に溺れる顔だ。

 このままならすぐにいかせられるかな、と思ったら、マキが逆襲してきた。

 マキの右足が私のスリップの裾をめくり、曲げた爪先をショーツのウェストにかける。ショーツの前が引き降ろされると、私のペニスが頭を出した。

 とっくに硬くなっていてこちらも蜜をたらすペニスを、マキの足が弄繰り回す。

 親指の腹に先端をこすられる。

 親指と人差し指にくびれを挟み込まれ、しごかれる。

 足裏で踏みつけるようにこねくり回される。

 マキのペニスを舐めながら高ぶっていた私は、先に限界に達してしまった。

 どくん。

 私のペニスが爆ぜ、熱い粘液を吐き出す。脈動は二度三度と繰り返され、マキの足を汚していく。

 その射精が収まったつぎの瞬間。

 どくん。

 今度はマキのペニスが爆ぜた。熱い液体が、私の口の中に流し込まれてくる。

 普段は女王様面をしてお店の子達を鳴かせている私が、奴隷のように口唇奉仕をして、ペニスを足蹴にされて絶頂し、口を欲望のはけ口にされた。そのギャップに、私はとてつもない開放感を感じていた。

 精液を全て飲み終わった私はマキのペニスから口を離した。大きく息を吐いた私の目の前に、精液にまみれた足が突きつけられた。私はそれを両手で持つと、舌を出して精液を舐めとる。くすぐったさに震える足を両手で押さえ、爪先から指の間、土踏まずまで丹念に舐めていく。

 ミキが私の足裏を、口を使って掃除している。ミキ自身の精液を啜りとった後を、舌を使って拭き清めている。ミキの顔をみながら、私がこの前同じ事をした時はミキからはこう見えていたんだ、と考えると、背筋がぞくぞくした。

 全てを舐めとり終わったミキが、私に向かって微笑む。その笑顔は、私を挑発しているようにも、私に媚を売っているようにも見えた。

 私はベッドの上にあがると、ミキに向かって手招きした。身につけていたものを全て脱ぎ捨て、ミキにもそうさせる。

「どっちから?」

 ミキが微笑みながら短く聞いてくる。

「後ろから」

 私の答えも明瞭簡潔だ。

 私の答えを聞いて、ミキはうつ伏せの姿勢をとった。膝をついてお尻だけをあげ、私にアヌスを差し出す。

 私は膝立ちでその後ろににじり寄ると、右手で自分のペニスを掴み、左手でミキのお尻を押さえた。私のペニスの先端がアヌスにあてがわれると、催促するようにミキのアヌスが収縮した。

 ずぶっ。ごりっ、ごりごりっ。

 マキのペニスが私のアヌスを貫く。肉の槍が、私を容赦なく串刺しにしていく。雌犬の姿勢で後ろから犯されながら、今度は私が快感に飲み込まれていた。

「んっ、あん、ふっ……」

 声が漏れるのを抑えられない。とうとうマキのペニスが根元まで突き刺さり、私達はひとつになった。

「はっ、はあぁ……」

 マキが大きく息を()く。私の方はと言えば、夏場の犬のようにはあはあと喘ぐだけだ。

「ふっ、ふふっ、くすくす……」

 マキが堪えきれないように笑い出した。

「犬みたいに、後ろから犯されて、気分はどう?」

 意地悪な質問。でも、いつものことだ。逆の立場のときには、私も似たようなことを言っている。

「すごく、屈辱的で、恥ずかしくて、泣きたくなるわ……」

「あはは、そうよね、こんな格好オルガちゃんたちには見せられないもんね!」

 ずずっ、ずぶっ。

「あんっ!」

 私を嘲弄しながら、マキがゆっくり動き始める。

 一旦後退したペニスが、入り口付近をゆっくり往復する。

 敏感な粘膜がこすり上げられ、肉の環が反応して収縮する。そうやってマキのペニスを締め上げてしまうと、刺激がいっそう強くなる。同時に私のペニスがビクンと跳ね、透明な液をはね散らす。

 ずずっ、ごりっ、ずずっ、こつん……。

 ゆっくりゆっくり、私の中のもっとも柔らかい部分が掘り起こされていく。そこから掘り出された被虐の快感が、私の中に満ち溢れていく。

「あっ、あっ、ああっ、ああんっ!」

「ほらほら、そんなんじゃ女王様廃業よ! 相棒はサキちゃんに代わってもらって、あなたは奴隷にしちゃおうかしら!?」

 何度も何度も串刺しにされながら、言葉で責められる。お店のステージの上で拘束され、お客に見られながらマキとサキちゃんに弄ばれる自分を想像すると、なにかぞくぞくとしたものが背筋を駆け上がっていった。

 ミキが私のペニスに貫かれて、あられもない喘ぎをあげている。ステージの上やオルガちゃん達の前とはうって変わった、されるがままの姿。

 私と同じ顔が、私と同じ体が、されるがままに犯されている。

 私がミキに責められているときには、ミキの方からは私がこう見えていたはずだ。

 ぞくぞくする。

 前にミキに責められた時の事を思い出す。ミキや、お店の子達や、お客たちに弄ばれる自分を想像して、私は絶頂した。きっと今のミキも同じことを考えている。

 責めながら、同時に責められた時の事を思い返す。一瞬、責めているのか責められているのか、どちらが自分なのかわからなくなった。私は今、ペニスで貫いている方だ。だけど、私に貫かれてあんあん鳴いている人間も、私と同じ顔、私と同じ声、私と同じ体をしている。本当の私は犬みたいな格好で尻穴を犯されている方で、犯していると思っているのは幻覚なのではないか?

 そもそも、私とミキを区別する必要があるのだろうか? 元はたった一つの卵子から生まれた私達。保育器の中から今までずっと一緒に生きてきた私達。「マキ」と「ミキ」という他人が区別するための記号以外は、全く同じ私達。

 そう考えれば、「私」が「私」を責め、嬲り、犯し、愛していると考えても何の矛盾も無い。「私」を犯して楽しむのも「私」なら、「私」に犯されて被虐の快感に打ち震えるのも「私」なのだ。

 私のアヌスの中をペニスが往復している。アヌスからは、快感と一緒に何か別の感覚が湧き起こっている。

 安心感のような、安堵感のような、安らぐ感覚。雌犬の姿勢で犯されて、言葉で嬲られているというのに。

 今私の体内にあるのは、私とそっくり同じ人間のペニスだ。いたずらで入れ替わると、母ですらすぐには見抜けない私達。そのもう一人の「私」が「私」を犯している。母の子宮の中で、何かのはずみで二つに分かれてしまった私達が、今だけは再び一つに繋がっている。

 Sの「私」とMの「私」がお互いを責め、快感を与え合う。相手の得ている快感を想像、いや、実感して自分にフィードバックする。快楽の永久機関だ。

 Mの快楽に溺れる「私」のアヌスを、「私」のペニスがつきまくる。

 被虐の喜びを楽しみながら、「私」を責めている「私」が感じているはずの嗜虐の楽しみを想像する。その二つを繋ぐのは、「私」と「私」が繋がっている安心感だ。

 アヌスを貫く肉の快感に溺れながら、「私」は魂がとろけるような幸福感を感じていた。

 ペニスがついに再び限界を迎えた。

 どぷっ! どくん、どくん……。

 精液が噴出し、ミキの体内に流し込まれていく。私の体内で作られた遺伝子のコピーが、ミキの中に入っていく。

 征服感とは違う、達成感のような安堵感のような感覚。ミキ以外の人間に注ぎ込んだときには感じられない、不思議な感覚だ。

「あっ、あっ、うああっ!」

 背筋をのけぞらせて、ミキが悲鳴を上げる。私の精を受けて、ミキも絶頂したのだ。

 しばらく余韻を楽しんだ後、私はそのままミキの背に覆い被さった。そのまま体を横に倒し、ベッドに横になる。横臥したミキを私が背後から抱いた格好だ。

 ミキの体温と、髪の毛から漂うシャンプーの香りと、アヌスの痙攣を楽しむ。十分に堪能してから、アヌスを解放してやった。ミキのアヌスから、精液がこぼれ落ちた。

 ミキがこちらに向かって寝返りを打つ。私と同じ顔と、間近で見詰め合う。

「……うふっ」

「……くすっ」

 くすくす、うふふ、あはは。

 笑いあいながら、「私」達は唇を重ねた。

 明かりの落ちたベッドルームのベッドの上で、二つの人影が抱き合っている。

 鏡に映したように瓜二つの姿が、お互いの体に腕を回し、顔を寄せ合って眠っている。

 二つの寝顔は、母に抱かれる赤子のような、安らぎに満ちた笑顔だった。

―了―