Blue Roses Garden > マグナハウス > 第一話 ナイトショウ

ナイトショウ

 某繁華街のはずれ近く、小さな雑居ビルの地階にその店はある。 地下へ降りる階段、つきあたりにそっけなく「MAGNA HOUSE」とだけ書かれたプレートが貼り付けられた重いドア。 そのドアをくぐった先に――。

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 薄暗い照明が、広い店内をぼんやりと照らしている。 フロアは全面ぶち抜きで、椅子やソファの背もたれより高いものは幾鉢か置かれた観葉植物しかない。

 出入り口に接する壁と店内に向かって左側の壁際にはL字型のバーカウンターがあり、 カウンターの前には床に固定されたスツールが並んでいる。 出入り口の反対側にはステージがあるのだが、 今はスポットライトもフットライトも点灯しておらず暗く沈んでいる。

 フロア内にはローテーブルとソファでコの字型に作られた席がいくつかと、 出入り口から向かって右側の壁際に四席ずつの対面配置になったのテーブル席が三つ。 いずれもゆったりとした間隔で配置されている。

 数基のスピーカーから流れているのは穏やかなムードミュージック。 この店では激しい音楽は好まれない。 ショウタイム以外の時間はいたって落ち着いた雰囲気の店なのだ。

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 午後も十時をまわり、フロア席はほぼ満席になっている。 壁際のテーブル席は全て空席だが、バーカウンターには三人の男が座ってグラスを傾けている。 フロアホステスが酒を注ぎ、アシスタント達がトレイを持って歩き回る。 バーテンダー達はグラスを磨いたりカクテルを作ったり、あるいは客のグラスにウィスキーを注いだりする。

 一見して何の変哲も無いパブかクラブの風景だが、よく見ると異様な点に気がつく。 グラスやボトルを載せたトレイを持って歩き回るアシスタントたちは、 黒いワンピーススーツにショート丈の袖なしジャケット、 網タイツとハイヒール、兎の耳を模したヘアバンドにカフスをつけた、 いわゆるバニーガールの衣装だ。 しかし彼らは女性ではない。 その胸には女性にあるべき柔らかなふくらみが無かった。 埋め合わせるかのように、その股間には女性にはありえないふくらみがある。

 アシスタントホステスを務めるバニーガール、いやバニーボーイたちは、 全員が十代後半の男性なのだった。

 アシスタント達だけではない。 フロアホステスたちも見かけは女性と見紛うばかりだが、 実際には全員女性ではない。 インプラントによって豊かな(あるいはささやかな)乳房を作ったり、 女性ホルモン剤によってほぼ女性そのものの体を得た、 男でも女でもないものたちだった。

 ショウパブ・マグナハウスは、男でも女でもない性別の者たちと、 彼らを愛する者たちが集う店なのだ。

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 ふいにBGMが途絶え、スピーカーから落ち着いた中年男性の声が流れる。

「皆様、今宵もマグナハウスにお越しいただき、誠に有難う御座います。 まもなく当店のナンバーワンダンサー、一条アリスによるダンスショウが始まります。 どうぞステージにご注目下さい」

 客同士、あるいはホステスとの談笑の声がぴたりと収まり、店内を一瞬完全な沈黙が満たした。 直後にそれまでと違う、落ち着いた中にも煽情的な、妖しい雰囲気の曲が流れ始める。 全ての視線がステージに集まると、計ったようなタイミングでステージのフットライトが点灯した。

 ステージの真ん中には一本の金属棒(ポール)が立っている。 天井から床までつながり、表面は傷一つ無い銀色に輝いていた。 ステージ向かって左、カーテンに隠された舞台袖から、 明るいブラウンのマイクロビキニタイプの水着を着た一人の女性があらわれる。 腰まで届く、軟らかくウェーブした栗色の髪が印象的な美女だ。 胸も豊満で、Dカップ以上はありそうだった。 しかし、よく見れば『彼女』も『女性』ではない。 ビキニのボトムからは、既に硬くなったペニスがその姿を晒している。 面積極小の水着は、彼女(便宜的にそう呼ぶ)、一条アリスのペニスの根元をかろうじて覆っているだけだった。

 アリスは客席に向かって優雅に一礼する。 頭につけたカチューシャについた、キツネの耳を模した飾りがふわりとゆれた。 フロアに背を向けてポールにしなだれかかると、水着のお尻から 50cm ほどのふさふさした尻尾がたれているのが見える。 今夜のアリスはキツネ娘というわけだ。

 BGMが激しいものに切り替わる。 アリスはポールに右足を絡め、全身をくねらせるようしてに踊り始める。 時にはアクロバティックな動き、時には腰を突き出して両足を開く淫らなポーズ、 ステージに寝転んだ姿勢から、ポールにすがりつくような姿勢へ。

 アリスの見せる遅滞の無い見事な動きに、フロアからは感嘆のため息が漏れる。 今この時、ここにある全ての視線をアリスは集めていた。

 BGMがクライマックスに差し掛かり、アップテンポのドラムロールになる。 アリスはフロア側に背を向けた形で、ポールに肩を押し付けてうつぶせになった。 右肩をステージの床につけ、左足を引き寄せて軟らかい動作で一息にボトムを抜き取る。 フロアのあちこちで息を飲む音がした。

 次に右足も引き寄せる。 うつぶせで、高く上げた尻をフロアに突き出す姿勢になる。 今度は右足側から、こちらはじらすようにゆっくりとした動作でボトムをおろしていく。

 右足も抜き去るが、ボトムは下に落ちない。 尻尾に引っかかっているのだ。 アリスはポールにすがって立ち上がると、後出にボトムをつまんでゆっくりと持ち上げる。 尻尾が持ち上がりながら、ボトムの後ろにあいた穴から抜けてゆく。 完全に抜け去ると、尻尾がぱたりという音を立てて再び垂れ下がった。

 アリスは両足をまっすぐ伸ばしたまま、上半身をポールに沿わせてゆっくり落とす。 フロアに向かって突き出される尻尾。 上半身が四十五度ほどの角度になったところで、右手を尻尾に向かって伸ばす。 尻尾の根元を親指と中指、薬指で作った輪に通し、そのまま右手を上げてゆく。 尻尾が完全に持ち上がり、アリスの恥ずかしい部分が完全に曝け出されたちょうどその時、BGMがフィニッシュした。

 ステージの上に、一匹のキツネが晒されている。 アヌスには尻尾のついた責め具を差し込み、自らの手で局部を曝け出している。 その直下には硬く屹立した男根があり、先端から透明な汁を溢している。 フロアを見返す美しい顔は羞恥に赤面し、それがまたある種の色香を与えている。

 数瞬の沈黙の後、舞台の袖からタキシードを着た男性が現れた。 男は仮装につかうような兎の頭部をかぶっている。 顔面だけを隠すマスクではなく、巨大な兎の頭部そのものの被り物で首から上を隠しているのだ。 兎は大仰な礼をすると、右手に持ったマイクを口元に寄せた。

「皆様、本日もダンスショウをご観覧いただき、誠に有難う御座います。」

 兎の声は、ダンスショウの開演を告げたアナウンスの声だった。

「さて、此処でひとつ、踊り子にインタビュウと参りましょう。 キツネさん、今のご気分は如何ですか?」

 兎がマイクを向けるとアリスはそのままの姿勢で答えた。

「アリスは、皆様にダンスを見ていただけて、とってもうれしかったです」

「嬉しかっただけですか? 何やら大変興奮しておられる御様子ですが?」

「はい、アリスは、踊りながら、とっても興奮しちゃいました。 身体が熱くなって、ペニスとアヌスがうずいて、とってもたまらない気分です」

「其れは大変ですね。如何したいと思いますか? 正直に仰って下さい」

「お、お客様方の、おちんちんで、アリスのお口とお尻に、ザーメンたっぷり注ぎ込んでください!」

「おやおや、これはまた大変なおねだりですね」

 兎はフロアのほうに向き直り、客たちに向かって語りかける。

「さて皆様、このかわいそうなキツネを慰めていただけますでしょうか? キツネのためにお骨折りになられてもよいという方が居られましたら、 入店時にお渡ししたカードをお出しください」

 フロアにいる全ての男性客がポケットからカードを取り出し、固唾を飲んで、ステージを見つめる。 兎はマイクを胸ポケットに突っ込むと、ズボンのポケットからカードを取り出した。 両手で鮮やかにシャッフルし、扇形に開く。

「さてそれでは、このキツネに選んでもらうと致しましょう」

 扇形に開いたカードをアリスの顔の前に突きつける。 右手は尻尾を持ち、左手はポールに掴まっていて使えないアリスは、一枚を唇でくわえて抜き取った。 兎がそのカードをフロアに向かって掲げる。

「……ダイヤの二、ダイヤの二です。このカードをお持ちの方は居られますか?」

 フロアの一角から歓声が上がり、一人の男性客がカードを掲げて立ち上がった。 30代前半と見える、がっしりした体格の男だ。

「さてキツネさん、もう一枚カードを選んでください」

 アリスがもう一枚のカードをくわえ出す。

「……クラブのキング、クラブのキングです。このカードをお持ちの方は居られますか?」

 再び歓声が上がり、別の男がカードを掲げた。 50代あたりと見える、グレーの髪の紳士だ。 二人の男に、フロア中から羨望の視線が集まる。

「それではお客様、どうぞ此方へ」

 兎に促され、二人の男は舞台に上がった。 アシスタントのバニーボーイたちが、ステージ上にローソファーを用意する。 ここでやっとアリスはポールから離れ、男達に向かって一礼した。

「お客様、アリスのわがままを聞いていただき、ありがとうございます。 精一杯ご奉仕させていただきますので、アリスにザーメンたくさんお恵み下さい」

「ああ、そんなにおねだりされては無視するわけにはいきませんね」 上品な紳士という感じの男が答える。

「俺たちのチンポで、たっぷり可愛がってやるよ」 壮年の、がっしりした体格の男が言葉を継いだ。

 アリスが二人をソファにいざなうと、バニーたちが二人の服を脱がせていく。 アリスもビキニのトップを脱ぎ捨てた。 バニーたちが客の服を丁寧にたたみ、舞台の袖からさがって行った。

 アリスは二人の前にひざまずくと、まず手と口で奉仕する。 二本のペニスは既に充分に猛っていたが、丁寧な愛撫と口唇奉仕にさらに高ぶる。

「うむ、これは熱心な奉仕ですな……」紳士が言うと、

「これは相当な好きもんだな。しゃぶれるのが嬉しくてたまらないって感じだぜ」 と壮年の男も続ける。

 二人の言葉に興奮したのか、アリスの手と口の動きが激しさを増す。 右手と口で紳士に奉仕しながら、左手で壮年の男のものをしごく。 紳士が快楽のうめきを上げると、今度は壮年の男のものを口に含む。 二人を高ぶらせつつ、射精まで行かせずに刺激し続けた。

「おい、そろそろなんだがな」

 壮年の男が言うと、紳士も肯いた。

「さてキツネさん、そろそろ」

 アリスは二人のペニスを開放すると、その顔を交互に見て肯く。 尻尾の根元をつかむと、ゆっくりと引き抜いた。 フェイクファーの尻尾をつけた、太いプラグ型の責め具が抜け落ちる。

「うーん、こりゃあゆるくなってそうだな。俺は口で頼むわ」

「それでは、私はお尻を頂かせてもらうとしましょう」

 ステージの中央で、アリスは四つん這いになる。その前後を二人の男がはさんでいる。 まずアリスの後ろから膝立ちで迫った紳士が、アヌスに硬くいきり立ったペニスを挿入した。

「ああ、これはいい。とても軟らかくほぐれていて、いい按配ですよ」

 何か言おうとしたのか、アリスが口を開くが、言葉を発することは出来なかった。 前から迫った壮年の男が、頭を鷲掴みにするとその口にペニスをねじ込んだからだ。

「ほら、しっかり口をつかえよ!」

 その後は、三人とも言葉は無かった。 荒い息とあえぎ声、肉のぶつかる音と水音、それだけだった。

 やがて二人の男の動きが速くなる。二人は肯きあうと、タイミングを合わせて動きを早めていく。 それを感じたアリスも、口とアヌスをさらに激しくつかった。

 三人の動きが同時に止まる。 二人の男の腰が震え、激しく精を吐き出しているのが外からもうかがえた。 同時にアリスのペニスも精を吐く。 こちらは激しい射精ではなく、トロトロとこぼれ出すような吐精だった。

 男達は崩れ落ちるように座り込み、その間に完全に脱力したアリスがうつぶせになる。 アリスの身体は時折ビクビクと震えていた。 エクスタシーの揺り返しが起きているのだろう。

 アシスタントたちが熱いタオルを持って現れ、二人の男の全身を清める。 服を着終わると、男達はまだ起き上がれないでいるアリスに満足げな声をかけた。

「とてもよかったですよ」

「あんたの口は絶品だったぜ」

 男達はステージから降り、元の席に戻っていった。入れ替わりに再び兎が現れる。

「さあ、どうでしょう。このキツネは果たして満足したのでしょうか。 今一度聞いてみることと致しましょう」

 マイクを突きつけ、感想を求める。

「どうでしたか? これで満足ですか?」

「ううん、もっと……。まだ、足りないの……」

「おやおや、これは欲張りなキツネさんですね。 致し方ありません。今一度お客様方にご協力を願うと致しましょう」

 兎は再びポケットからカードを取り出した。鮮やかな手つきでシャッフルする。 その背後ではバニーボーイたちがアリスの身体を清めていた。

「さてそれでは、再びキツネにカードを選んでもらうとしましょう」

 ソファにぐったりと横たわるアリスの前に、扇形に開かれたカードが突きつけられる。 マグナハウスのショウタイムはまだまだ続く……。

―了―


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