Blue Roses Garden > My Dear... 2

My Dear... 2

「じゃあな、気をつけて帰れよ、光二」

「うん、それじゃ」

 別れの挨拶を交わし、兄のマンションを後にする。

「……はぁ」

 重い鉄のドアが閉じられ兄の姿を隠すと同時に、僕は溜め息をついた。

『帰りたくないなあ……』

 声に出さずに呟いてから、重い足取りでエレベーターホールに向かう。

「ただいま」

「おかえりなさい、敬一さん」

 廊下ですれ違ったサラリーマン風の男性が、奥さんらしい女性に帰宅を告げているのが背後から聞こえてくる。二人の弾んだ声は、今の僕の心境と正反対だ。

 エレベーターの呼び出しボタンを押して、僕はもう一つ溜め息をついた。ホールのガラス壁を通して、夜空に瞬く星が見えていた。

 僕が週に一回は兄のマンションを訪れるのは、趣味のコスプレのためだった。

 父も母もこの趣味には理解が無く、コスプレする、というだけでいい顔はしないのだが、普通にアニメやゲームのキャラクターの衣装であれば禁止まではされなかった。高校の成績は中の上から上の下といったところを維持しているし、内申も良好だから、あまりうるさく言うこともないと思っているのだろう。

 だけど、僕のコスプレ趣味には両親には教えていない秘密があった。女装コスプレ――女性キャラクターの衣装をまとい、化粧を施しウィッグをかぶり、その格好でコスプレパーティやイベントに参加するのだ。

 家族でそれを知っているのは兄だけで、両親には秘密にしている。衣装をはじめとした女装グッズはすべて兄のマンションに置かせてもらい、事前の準備が必要な場合は寄らせてもらえるようにしていた。今日も、来週のイベントのために準備した衣装のチェックと、どんな化粧が合うかの確認のために朝から兄のマンションを訪れていたのだ。

 衣装を変え、あるいは化粧を変えてみるたびに兄の前に行き、『どう?』と聞いてみる。『ちょっと化粧が濃くないか?』と言われたらクレンジングしてファンデからやり直し、『おお、なかなかいいな』と言われたら『うふふっ、ありがとっ、おにいちゃん』としなを作ってみせる。

 二人だけのファッションショーをしながら、僕は幸せに浸っていた。

 なぜなら――僕は兄を愛しているからだ。家族としてではなく、一人の人間として。

 もちろんそれは世間一般でいうところの『禁断の愛』、しかも近親者相手の上に同性相手という、いわば二重苦だ。だから僕はそれを秘密にする。こんなことを知らされても、兄だって困るだけだろうから。

 兄の前で女装をしてみせるのは、そのささやかな代償行為だ。『佐伯光一』の弟の『佐伯光二』ではなく、コスプレイヤー『ヒカル』として、着飾った姿を見てもらい、褒めてもらう――そんな時間に、僕は幸福感を得ている。

 今の僕は、このささやかな幸せの時間のためだけに生きているようなものだった。

 マンションを後にし、駅に向かって歩く。兄のマンションから駅までは、大通りに沿って歩くと少し遠回りになる。僕は住宅街と繁華街の境目にある公園を突っ切ろうと、細い脇道に足を進めた。

 長い塀と公園に挟まれた路地で、後ろから車のエンジン音とヘッドライトの明かりが近づいてくる。僕は道の端に身を寄せ、車が通り過ぎるのを待とうとした。僕の姿を認めたのか、車もエンジンを絞って減速する。

 その車は僕のすぐわきで、いきなり急ブレーキをかけて停車した。驚く僕を、その車から飛び出した男たちが羽交い絞めにする。何が起きたのかわからず一瞬硬直した後、僕は全力で暴れようとした。だけど、何かの薬品臭がするハンカチで口元と鼻を押さえられてしばらくすると、急に意識が遠くなり手足から力が抜けていく。

 自分に何が起きたのかもわからないまま、僕の意識は暗闇にのまれていった。

● ● ●

 目が覚めてしばらくは、僕は自分がどこにいるのかわからず、ぼんやりと天井を見上げていた。自分の部屋でも兄のマンションの客間でもない、見覚えのない天井に『ここはどこだろう?』と考えて――自分が何者かに拉致されたということを思い出した。

 慌ててベッドから起き上がろうとして、僕は手足の自由がきかない事に気が付いた。拘束されているのではなく、力が入らず思った通りに動いてくれないのだ。

 かろうじて自由になる首を動かしてあたりを見回し、自分がベッド一つしかない部屋にいること、何かの点滴が左腕に射たれていること、やけに高い場所にある小さな窓に鉄格子がはまっていることなどを把握する。自分がおそらく監禁されていること、そしてなんだか良く分からない薬品をうたれていることを理解して、僕は強烈な不安感に襲われた。

 そのままどれぐらいの時間がたったのか――部屋には時計もなかった――、点滴のバッグがほとんど空になったころ、部屋の唯一の扉が突然開き、白衣をまとった男性と看護婦が入室してきた。

「やあ、気分はどうかね?」

「え――あ、あの……」

 ごく穏やかなその声に、僕はどう答えていいのかわからなかった。

「あの、ここは、それに僕はどうして――」

 首だけを向けて必死に尋ねる。それへの答えは――

「ここは私の病院の隔離病棟だよ。君には処置が終わるまでここで入院してもらう。介護は当院の看護士たちが万全に行うので安心してくれたまえ」

「入院って、僕はいったい、なんで体が……」

 ここが病院で相手が医師だと分かり、僕は自分が監禁されているというのは勘違いなのかと思った。体が動かないのは、何かの怪我でもして寝たきり状態にでもなってしまったのかと思い、僕は先程とは違う不安に震えたのだが――

「ああ、君の体の自由がきかないのはその点滴に筋弛緩剤が入っているためだ。処置が終わるまではおとなしくしていてくれた方が安全だからね。害は無いので安心してほしい」

「え……」

 医師の言葉は僕の期待を裏切るものであり、やはり自分が監禁されているのだと理解する。

「な、どうして、それに処置って――」

「うむ、それについては後々説明しよう」

 僕と男性医師が会話している間に、看護婦が無言で点滴のバッグを交換していた。自分の体に注入される得体のしれない液体の詰まったそれに、僕は不安のこもった視線を向けた。

「ああ、その薬品が人体に害のないことは既に臨床実験済みだ。安心したまえ。それではまた明日」

 医師と看護婦が去り、部屋には再び僕一人だけになる。いつの間にか窓から見える空は暗くなっていて、すでに日が落ちているのが分かった。その空を見つめながら、僕は不安に一睡もできない夜を過ごした。

 数日間を僕はベッドの上に寝たきりで過ごした。最初の日にあの医師が言った通り、体を全く動かせない僕を看護婦が重病人のように介護してくれたのだが、体を拭かれるのはともかく下の世話をされるのは恥ずかしい以外の何物でもなかった。

 一週間目、いつもの看護婦と一緒に再びあの医師が僕のいる部屋を訪れた。

「やあ、気分はどうかね?」

 最初と同じセリフ。だけど僕の方は、今度は無言で意思を睨み付けるだけだ。

「今日は君のこれからについて説明しようと思ってね」

「……僕をどうするつもりなんですか」

「うむ、簡単に言うと、君にはこれから女性になってもらう」

「……は?」

 それからその医者――寺島という名前らしい――が語った内容は、正気で言っているのか、はたまたは僕をからかっているのか、どうにも判断が付きかねる話だった。

 なんでもヨーロッパのどこかの国で手に入れた古文書(この時点ですでに怪しい)か何かに飲んだ男性を女性の体に変えてしまう薬(魔法使いじゃあるまいし……)の製法があり、その薬を再現した上で即効化した血管投与用の薬剤を完成させた(ゲームやラノベに出てくるマッドサイエンティストかよ……)のだという。

「……それ、本気で言ってるんですか?」

 さすがに僕の声も、相手の正気を疑うものになっている。

「ふふ、まあすぐに信じられないのも無理はないね。しかしだ、実例を見れば君も信じざるを得ないと思うよ」

 寺島院長はそういって後ろを振り返った。

「白木君、きたまえ」

「はい、院長」

 寺島医師の手招きに応えて、スーツ姿の女性が進み出てきた。綺麗に編み込んだ黒髪と細い銀縁の眼鏡がいかにもな感じだけれど、その表情は柔らかい笑顔できつい印象は無い。襟ぐりの大きいスーツの下のブラウスがさらにその下のバストによって大きく持ち上げられ、赤いブラジャーがかすかに浮き出している。化粧は派手なわけではないのだけれど、赤いルージュがどことなくアンバランスな色気を醸し出していて、全体的な印象は『色っぽいけれどほんわかした雰囲気のお姉さん』という感じの人だった。

「私の秘書の白木君だ」

「白木涼子です。はじめまして、ヒカルちゃん」

「え……」

 本名ではなく、女装コスプレイヤーとしてのレイヤーネームで呼びかけられて僕は困惑した。そんな僕の戸惑いを無視して、寺島院長がとんでもないことを言い出した。

「白木君、彼に君の局部を見せてあげてくれたまえ」

「はい、院長」

 白木秘書もそれに平然と答え、タイトスカートをまくり上げ始めた。突然のことに僕はどう反応していいのかわからず、それをじっと見つめてしまう。

 スカートが持ち上げられるにつれて、まずストッキングのふちが見え、それを吊っているガーターが露出する。さらにスカートが上がると、シルクらしい光沢の、派手なフリルに飾られた赤いショーツが見えてくる。清楚で穏やかそうな外見に似合わない派手なランジェリーに僕の目はひきつけられ――次の瞬間驚きに見開かれることになった。

 赤いシルクのショーツにあった膨らみ――それは間違いなく男性の性器だった。

「……え? あれ? え、女装……?」

 僕も女装コスプレイベントや、女装専門でなくても女装も許可されているイベントに何度も参加している以上、女装をした男性をたくさん目にしている。

 そういうイベントに参加するコスプレイヤーの中には、それこそ女性と見間違えるような人もいたけれど、さすがに近寄ってみたり声を聴けば男性だと分かる。だけど今目の前でスカートをたくし上げて見せている女性(?)は、ショーツの膨らみを見なければ男性だとは分からない――どころかそれを見てもそのふくらみの方が何かの間違い、でなければショーツの中に何か突っ込んででもいるのではないかと思えるような、どこからどう見ても完璧な女性――しかもかなりの美人――だった。

「女装、というのとは少し違うかな。白木君は最早性器を除けば女性そのものと言っていい体だからね」

 寺島院長が自慢げに言い、白木秘書は頬を赤く染めながらもスカートは降ろさずニコニコしながら僕を見つめている。

「では白木君、次は君の全てを彼に見せてあげたまえ」

「はい、院長」

 またしてもとんでもない寺島院長に指示に応え、白木秘書は服を脱ぎ始めた。

 スカートから手を放し、まずスーツのジャケットのボタンを外す。ブラウスの胸が大きく持ち上げられ、その下の胴回りのくびれを強調しているのが露になる。ジャケットを脱いで看護婦に手渡すと、今度はスカートのサイドのホックをはずす。すとんと落ちたスカートから片足ずつを抜き出すと、これも看護婦に渡した。

 次にブラウスのボタンを上から外していくと、真っ赤なブラジャーに包まれた乳房が『ゆさっ』という感じで揺れるのが見える。一体何カップぐらいあるのだろうか――この胸はいわゆる豊胸手術でも施しているのか、それともその薬とやらの効果なんだろうかと、僕は束の間そんなことを考えてしまう。

 ブラウスを脱いでしまうと、白木秘書が身に着けているのは真っ赤なブラジャーと同じく真っ赤なショーツ、これも赤いガーターに、これだけは地味なブラウンのストッキングだけになる。

 一見おとなしめのスーツに下に隠されていた派手なランジェリーに、僕の視線は釘付けだった。それを見ながら、『でもストッキングの色があってないな……』と考え――僕は自分が考え違いをしたことに気が付いた。

 白木秘書の頬は真っ赤で、息も荒くなっているのが一目見てわかる。僕は最初、白木秘書が恥ずかしいのを我慢しているのだと思ったのだが、すぐにそうではない事に気が付く。

 白木秘書の目は潤んでいるけれど、それは精神的苦痛を我慢しての涙ではなかった。歯は食いしばられてはおらず、小さく開かれた唇からは熱い吐息が漏れている。頬は引き攣ってはおらず、緩んで目尻が下がっている。

 この人は――上司の命令で僕に裸身をさらしながら、性的に興奮しているのだ。それを理解すると同時に、地味目のスーツと派手なランジェリーの組み合わせの意味も分かる。

 そんな僕を差し置いて、白木秘書は今度はブラジャーのホックに手をかけた。背中のホックが外れると同時に、その豊かな乳房が勢いよく転がりだしてくる。漫画だったら『たゆんっ』とか『ぶるんっ』という効果音が付きそうな勢いで飛び出た乳房の迫力に、僕は先程とは別の意味で目を奪われた。

 僕がその乳房に視線を集中しているのに気が付いたのか、白木秘書は両腕で抱えるようにしてその胸を隠した。だけど乳房のほとんどは隠れておらず、わずかに乳首とその周辺だけが隠れたその格好は、見ようによっては剥き出しよりも卑猥だった。

「……白木君」

「はい、院長……」

 そのまま数秒が過ぎ、寺島院長が白木秘書を促す。白木秘書は乳房から両手を離すと――乳房が再びぶるんと震えた――両手をショーツのサイドにかけ、ゆっくりとそれを引き下ろし始めた。

 次の瞬間、ショーツがするりと引き下ろされ、白木秘書の股間が剥き出しになる。そこにあったのは僕の予想通りのもの――男性器だった。

 勃起して天を指すそれは、その状態で女性用な小さなショーツにすっかり収まりきるサイズで、多分僕のものよりも小さいと思えるものだった。しかしサイズはいささか小さくても、固く尖って立ち上がり、先端から先走りを滲み出させるそれは、紛れもなく男にだけしかないはずのものだった。

「……うそ」

 僕の口から漏れた声は、自分で聞いても分かる呆然としたものだった。

 ガーターベルトとストッキングだけを残して裸をさらす白木秘書の体は、どこからどう見ても女性にしか見えない。

 イベント会場などの更衣室で女装コスプレの着替えを何度も見たから分かるが、服を着た上でならどんなに完璧な女性の姿を装えても、裸身をさらした状態で男と女を見間違える事はありえない。そのはずなのに、ウェストニッパーも詰め物(パッド)も体形補正下着も身に付けていないというのに、白木秘書の体は股間の一点以外女性にしか見えないものだった。

 ショーツの上からも分かる膨らみで予想していたとはいえ、やはり実際に見ると驚かされるものだった。

「白木君、最後に君の性器だ」

「はい……、院長……」

 呆然としながら白木秘書の姿を見ていた僕の耳を、寺島院長の言葉とそれに答える白木秘書の喘ぎ混じりの声がたたいた。その中に含まれた『性器』という言葉が僕に疑問を抱かせる。

 白木秘書の性器、つまり男性器はとっくに僕の目にさらされている。だから『次』も何もないはずだ。まさか例の薬とやらには女性器を形成する効果でもあるのだろうかと考えて、先ほど寺島院長が『性器を除けば』と言っていたのを思い出す。だったら性器は男性器だけなはずだけど……。

 白木秘書がくるりと後ろを向く。肩からウェストのライン、ウェストから腰のライン、そしてまろやかな丸みを帯びたヒップライン……。背後から見ても、どう見ても女性にしか見えないボディラインだ。しかし、僕の目を引き付けたのは背中や腰のラインではなく、柔らかそうで豊かな質感を備えたお尻の中心に突き刺さる異形の物体だった。

 黒い、プラスチックか硬めのゴムのような質感の栓のようなものが白木秘書のお尻の穴を塞ぎ、その中心からは細いコードが伸びてストッキングに突っ込まれた小さなボックスにつながっている。これは説明されなくても分かる。ローター付きのアナルプラグか、それともバイブレーターか――いわゆる『大人の玩具(おもちゃ)』というやつだ。

 白木秘書が、両手をお尻にかけ、左右に開く。尻肉の谷間が開かれ、玩具に押し広げられている肛門の粘膜が明らかになった。

「新井君」

「はい、先生」

 寺島院長が今度は看護婦に命令する。看護婦は白木秘書の横に立つと、そのお尻に突き刺さる玩具に手をかけた。ゆっくりとそれが引き抜かれていくと、肛門に銜え込まれていた細い部分、そして中に入っていた部分が予想外に大きかったことが分かる。

 鶏卵よりも大きいそれが取り外されると、白木秘書の肛門から透明な粘液が滴った。ぽっかり開いた肛門から、粘液に濡れ光る肉穴が見える。ピンクのそこはひくひくとうごめいて、貪欲に餌を求める摂食器官のようにも見えた。

 そして僕は、先ほどの寺島院長の言葉の意味を悟った。

 『女性の性器』とは『男性器を受け入れるための穴』だ。でも、白木秘書の肉体にそのための穴は無い。だったらどこで男性器を受け入れればいいのか? その答えが、今僕の目の前にさらされている『穴』なのだ。

 僕は眼前の光景を、呆然となりながら眺めることしかできなかった。

 もちろん、アナルセックスという概念や、そういうことを実際にする人がいるということは知っている。いわゆる腐女子向けとかBL物と呼ばれる同人誌に目を通したこともあるし、女装コスプレ関連の知り合いには自分が「受け」であると公言している人もいた。

 しかし、目の前にいる人間はそんな知識からなる僕の想像をはるかに超えていた。

 服を脱いでも女性そのものにしか見えない体と、その股間についている男の物。どちらかというと清楚な雰囲気の美人の容貌と、図太い玩具を引き抜かれて物欲しげに引くつく尻穴。恥じらいの表情と、情欲の色をたたえた瞳。

 もはや目の前の情景が理解できず、僕の頭は完全にフリーズ状態だった。

「い、いんちょうせんせぇ、きょうこさぁん……」

 耳をうつ声に、僕は我に戻る。まるで子供のような舌足らずな声がどこから聞こえたのかわからず、僕は思わず室内を見回してしまった。

「どうかしたかね、白木君」

 寺島院長の言葉に驚き、僕は白木秘書に目をやった。

「お、おしり……」

「お尻がどうかしましたか、白木さん」

「りょうこのおしりが、さびしいの……」

「あら、我慢できませんか?」

「うん……」

 異様な会話に僕は戸惑いを感じた。白木秘書の様子が明らかに先ほどまでと違っている。先ほどまでは例え痴女だったとしても年齢相応のふるまいをしていたのが、今はまるで幼女だ。

 そんな僕の戸惑いに気が付いたのか、寺島院長が僕の方を向く。

「ああ、白木君は調教の過程でちと失敗があってね、特定の条件でああして退行現象を起こすんだ。発症条件ははっきりしているから日常生活には影響はないんだがね」

 調教だの退行現象だのという物騒な単語に、僕は背筋がぞくっとした。それが表情に出たのか、寺島院長が安心させようとしているかのように言葉を続ける。

「安心したまえ。過程のどこに問題があったかは既に分かっているので、君の調教に関しては同じ失敗をする気遣いは不要だ」

 そんなことを言われても全然安心なんかできない、余計不安だ――そう言おうと口をあけた僕を無視して、寺島院長は看護婦に指示を出した。

「新井君、白木君をなだめてあげてくれたまえ。佐伯君によく見えるようにな」

「はい、先生」

 看護婦はそう答えると、点滴のバッグやチューブの載っていたトレイから一つの道具を取り上げた。医療用の器具を運ぶトレイに似つかわしくないそれは――男性器を模した形状の電動玩具、いわゆるバイブレーターだった。サイズはかなり大きく、僕の勃起時を二回りは上回っている。

「じゃあ白木さん、今からこれを入れてあげますね」

「はやく、はやくぅ」

「あら、人にお願いをするときにはなんていうんでしたっけ?」

「ご、ごめんなさい――おねがいです、りょうこの、おしりまんこに、おちんちんのおもちゃをいれてくださぁい」

「はい、よく言えました」

 尻肉を両手で割り開き、ローションで濡れた尻穴をむき出しにして白木秘書は卑猥な玩具をねだった。そのあまりに淫猥な光景に、僕は思わず息をのむ。

「あ、あんっ」

 バイブレーターの先端、亀頭に当たる部分が肛門に触れると、白木秘書はそれだけで淫らがましい声を上げた。

「んっ、ふあっ、あっ、ああっ」

 ずぶずぶと自らの体内に沈んでいくバイブレーターに連動するように、白木秘書が声を上げる。息苦しそうな喘ぎ声はしかし、明らかに苦痛ではなく悦びの声だった。

「ふあっ、はあぁ……」

 バイブレーターが挿入部の根本近くまで埋まり、電池ボックス部分を握っている看護婦の手が白木秘書のお尻に触れるまでになる。白木秘書が満足げに大きく息を吐いた。

 カチリ。ウィンウィンウィン……。

「ふあぁっ!」

 スイッチの音とともに駆動音が鳴り響き、白木秘書が甘い声で悲鳴を上げる。男性器がびくんと跳ね、透明なしずくを滴らせたのが両足の間からはっきりと見えた。

「んっ、あっ、ふあっ、んっ……」

 白木秘書の淫靡な喘ぎ声が部屋に満ちた。看護婦が白木秘書のお尻を貫くバイブレーターを小刻みに動かすたびに、それまでと違う新たな声が上がる。白木秘書の男性器からは、透明な液だけでなく、白く濁った粘液もこぼれ落ちている。

 そうして何分――ことによると何十分――かが経過したとき、突然白木秘書が背筋をのけぞらせて悲鳴を上げた。

「んっ、あっ、ふああっ!」

 膝が折れ、リノリウム張りの床に崩れ落ちようとする白木秘書を看護婦が抱き留める。看護婦に手放されたバイブレーターはしかし抜け落ちて床に落下したりはせず、白木秘書のお尻に突き刺さったまま回転を続けていた。

「んっ、はあっ、はあ、んっ、はあぁ……」

 白木秘書は体を痙攣させながら、少しずつ呼吸を落ち着かせて行った。呼吸が落ち着くと、看護婦がバイブレーターを引き抜いて再びアナルプラグを白木秘書に挿入する。

「どうかな、白木君を見てどう思ったかね?」

「どうって……」

 寺島院長の質問に、僕は返答する事が出来なかった。

 女性そのものの体に、平気で服を脱ぎ、男性器から尻穴までさらす行動。幼児に退行したかのような言動に、卑猥な玩具で犯されて絶頂する有様……。

 有体に言って、白木秘書は変態性癖の上に精神疾患のある痴女(しかも元男性)にしか見えなかった。

「あれが君の未来の姿ということになるからね、よく覚えておくといい」

「……っ!」

 僕は息をのみ、危うくもれそうになった悲鳴を噛み殺した。この連中は、僕の体を薬で改造しようとしているだけでなく、頭の方も改造するといっているのだ。

「な、なんで、そんな、ことを……?」

 震える声で尋ねると、以外にも寺島院長は素直に答えた。

「ああ、ある人物からの依頼でね。この薬はまだ臨床例が白木君しかないのだが、それを知ったその人物が君を被験者に提供してくれたのさ。治験終了後に、女性化した君を調教して譲り渡すという条件でね」

「だ、誰がそんな……」

「ふふ、それは会ってからのお楽しみということにしておきたまえ。予定では二か月後には会えるはずだからね――さて白木君、新井君、戻るとしようか」

「はい、院長」

「はい」

 僕と寺島院長の会話の間に、白木秘書は服装を整え終わり、床の汚れも看護婦が掃除し終わっていたらしい。悠然と白衣を翻す寺島院長の後ろに、バインダーを手にした白木秘書と医療器具を載せたカートを押した看護婦が続く。

 白木秘書が片手で扉を押さえ、寺島院長と看護婦が部屋を出る。最後に部屋から出ようとした白木秘書が、僕の顔を見て微笑んだ。

「……悲しむ必要は無いのよ」

「え?」

 つぶやくように白木秘書が言う。その意味が分からず――言葉の意味は理解できるが――聞き返そうとする僕にもう一度微笑むと、白木秘書は病室の扉の向こうに姿を消した。

● ● ●

「んっ、んむっ、んんん〜っ!」

 狭い部屋に、金属の拘束台の軋む音と、僕のくぐもった呻き声が重なって響く。

 両足を開いた状態でリクライニングシートのような形の椅子に縛り付けられ、むき出しの下半身を白木秘書と看護婦――新井京子という名前らしい――に覗きこまれて、僕は顔から火が出そうな恥ずかしさを味わわされた。

「どう? 気持ちいいかしら?」

 白木秘書の指が一本僕のお尻に潜り込み、直腸の中をかき回している。事前に綺麗に(無理やりされた)とはいえ、そんな場所を他人に弄りまわされる恥ずかしさは想像を絶するものだった。

 僕のそんな気持ちを知らないかのように、白木秘書の指は僕の中を無遠慮に探り続ける。綺麗にマニキュアが塗られた指にはたっぷりとワセリンがまぶされ、僕の肛門の締め付けを無視してスムーズに出入りをしていた。

「うふふ、おちんちんがすごく固くなってるわね」

 白木秘書のもう片方の手は、僕のペニスをゆっくりと弄んでいる。こちらはローションにまみれた掌が竿を握って緩やかにしごきながら、親指の腹でむき出しの亀頭をさわさわと撫でていた。

 ペニスからの気持ちよさと、アヌスからの異物感と、二人分の視線の恥かしさ――しかし僕は悲鳴を上げることも出来ずに呻き続けるしかなかった。 口に押し込まれたボール型の口噤具ギャグに舌を押さえつけられ、その穴から涎をダラダラと溢すしか出来なかったのだ。

 僕のペニスが暴発しそうになると、白木秘書はそちらへの刺激を緩める。そのままお尻だけを弄られ続けながら、ペニスが少し柔らかくなると再びそちらをしごかれ、亀頭を弄られる。ペニスが固くなってぴくぴくと震えだすと、再びお尻だけを弄り続けられる。

 そうやって何時間が経過したのだろうか、幾度も幾度も限界寸前まで持っていかれてしかし射精はさせられずに弄り続けられ、僕の精神の方が限界に達してしまった。

 縛り付けられたまま暴れようとした全身は疲れ切り、もはや力なく拘束台にもたれ掛るだけ。アヌスは既に違和感など感じず、白木秘書の指による刺激を当り前のように受け入れている。痛いほど勃起したペニスは、最早僕に苦痛しか感じさせなかった。

 涙と涎、それにペニスからの先走りを垂れ流しながら、僕はこの拷問が一秒でも早く終わってくれることだけを願っていた。

「白木さん、そろそろ限界じゃないかしら」

「そうみたいですね。じゃあ今日はこれでお終いにしましょうね」

 新井看護婦と白木秘書の会話に、僕は『やっと終わってくれるのか……』とほっとして――次の瞬間自分がいかに甘かったかを思い知らされた。

「!? んっ、んん〜っ! む〜〜〜っ!」

 白木秘書の指が僕のアヌスを激しくえぐり始め、逆の手がペニスを勢いよくしごき始める。いい加減麻痺していたと思った部分からすさまじい刺激が送り込まれ、僕は背筋をのけぞらせた。

 ほんの数秒で僕は絶頂に達し、ペニスが体内のありったけを放出しようとする。その直前、白木秘書は僕のペニスから手を放し、同時にもう片方の指先で僕の直腸内、ペニスの裏側あたりを強く圧迫した。

 体内にあった、自分でもそんなものがあったとは知らなかったコリコリと固い部分を思い切りえぐられて――僕は特大の絶頂を迎えた。

 今までのどんな射精よりも気持ちよく、勢いよく、精液が噴き出す。撃ち出された精液は僕の胸元まで飛び、診療着の上に直線状に白い染みを作った。

 僕の肛門はぎゅっと収縮し、白木秘書の指を締め付ける。その感覚さえもが気持ちがいいように感じられ、僕は半ば無意識に幾度も肛門を収縮させた。

 やがて絶頂が去ると僕の全身は今度こそ完全に脱力し、力なく横たわりながらふうふうと荒い息をつくことしかできなかった。ボールギャグの穴からは泡立ったよだれがだらだらと零れ、僕の顎から胸元までを汚している。

 寝起きの直後のように全身の感覚が曖昧な中、ただ肛門を押し広げられる感覚とペニスの裏側をマッサージされる感覚だけが鮮明だった。

 その日僕が連れて行かれたのは、いつもの調教部屋ではなかった。

 いつものスーツ姿ではな、くゆったりしたサマードレス姿の白木秘書に導かれて、僕はその部屋に足を踏み入れた。

 病棟の最上階にあるその部屋の窓は大きく、レースのカーテン越しに明るい日光が差し込んでいる。落ち着いた花柄のエンボスの壁紙に、その壁にかかった風景画。木製の大きなベッドも手の込んだ彫刻で飾られていた。ワードローブやテーブルといった家具はすべて白塗りだけど、病室のような殺風景さは無く、上品な清潔さを感じさせる。

「この部屋は……?」

「うふふ、ヒカルちゃんにちょっと見せてあげたいものがあってね」

「見せたいもの?」

「時間まで少しあるから、ちょっと待っててね。そのあいだ紅茶でもどう?」

 白木秘書は僕の質問には答えず、はぐらかすように話題を変えた。

 今、僕の手足は拘束されておらず、その気になれば暴れることもできる。だけど部屋は病棟の五階にあって窓から逃げるなど不可能だし、扉の外にはやたらと屈強そうな男性看護師がいるのが分かっている。なんとか逃げる方法は無いかと考えつつも、僕は半ばあきらめの心境だった。

 そんなことを考えている僕をよそに、白木秘書は紅茶を入れている。ガラスのティーポットの中で踊る茶葉の具合を見ながらカップを温めるその姿は、ドレスと相まってどこかの良家の令嬢か貴婦人のようにも見える。とても本当は男性で、平気で局部をさらけ出す痴女(?)には見えなかった。

「はい、どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

 ソーサーにチョコチップクッキーの添えられた紅茶を受け取り、僕は丸テーブルのわきに置かれたチェアに腰を落ち着けた。

 カップを口に運びながら、上目づかいで同じくカップに口をつけている白木秘書を見る。胸元の切れ込んだドレスは魅惑的に盛り上がって下にたっぷりと質量があることを見せつけ、白く滑らかな肌はレースカーテン越しの日光の中で輝いている様にすら見える。バストとは対照的に細いウェストは座っていても分かるまろやかなヒップラインにつながって、その曲線だけで一つの美術品のように見える。

 信じられないのは、このボディラインがパッドやウェストニッパーなどの補正下着の類を全く使わずに形作られているということだ。この体を見ていると、僕が女装をする時の様々な苦労――ウェストを絞ったり胸やお尻をパッドでかさ上げしたり、ボディラインが出にくい服を探したりファンデーションを胸元近くまで塗ったりといった事が、ものすごく無駄な努力だったんじゃないかと思えてくる。

 そんな風にちょっとだけ白木秘書に嫉妬しながらも、僕は気分を切り替えて久しぶりのお茶を楽しむことにした。そうして無言でクッキーをかじりながら紅茶を飲んでいると、なんだかゆったりと落ち着いた気分になってくる。僕は監禁された上におかしな薬を無理やり投与され、おまけに変態的な調教までされている身の上なわけだが――そんなことを忘れさせる、友人同士のお茶会のような雰囲気だった。

 コンコン、とドアがノックされる音が響く。と、白木秘書の顔にぱっと笑みが広がった。

「どうぞ」

 どこか弾むような声でノックの主を呼び入れながら、白木秘書はうきうきした様子で腰を上げる。

「遅れてごめん、姉さん。ちょっと院長と話し込んじゃって」

「ううん、いいのよ」

 入ってきたのは、白衣姿の若い男性だった。左胸に留められたネームプレートには『診療内科:白木和也』とある。白木秘書と同じ名字で『姉さん』と呼ぶということは、その弟なのだろうか。

「そっちの子が?」

「ええ」

 短いやり取り。どうやら僕の事は先刻承知らしい。

「……あの、いったい何をしようっていうんですか?」

 僕は先程から気になっていたことを質問してみる。これまでの数日間とあまりにも違う今日の様子に、僕は内心で不安感を覚えていた。せめてこれから何をされようとしているのか、それだけでも知っておきたかったのだ。

 僕の質問に対する白木秘書の答えは、まさに『度肝を抜くような』という言い回しそのものの驚きを僕に与えた。

「あのね、ヒカルちゃんに私と和也が愛し合っているところを見てもらいたいの」

「……は?」

 我ながら間が抜けていると思う声を出しながら――僕は白木秘書のニコニコとした笑顔を見つめた。

「んっ、あむっ、んんっ……」

 涼子さんが和也さんの(苗字が同じで紛らわしいので名前で呼ぶことにする)ペニスに舌を這わせ、竿から先端部までをなめ上げる。両手で捧げ持つようにしたペニスを唾液で濡らしながら、涼子さんの舌が何度も上下に往復している。尖らせた舌先で先端部を舐められるたびに、和也さんのペニスがびくんと跳ねた。

 全裸でベッドの上に胡坐をかいた和也さんの股間に、同じく全裸の涼子さんが跪くようにして口を寄せている。ベッドのわきに寄せられた椅子の上で、僕はかしこまってそれを見学する形だ。

「うふふ、和也のおちんちんこんなに硬くなってる」

 涼子さんがペニスから口を離し、上目づかいに和也さんを見る。

「姉さんがそんなに熱心にしゃぶるからだろ」

「ふふっ、おいしかったわ。和也も気持ちよかった?」

「……ああ」

「じゃあ、今度は私も気持ちよくしてくれる?」

「ああ」

 和也さんの受け答えはぶっきらぼうだけど、それは決して涼子さんを不快に思っているとか嫌っているとかではなく、単に普段からそういう喋り方なだけのようだ。その証拠に、涼子さんを抱き起して仰向けに寝かせる和也さんの手つきは丁寧そのもので、まるで壊れ物でも扱っているようだった。

 和也さんの左手が涼子さんの右足を大きく持ち上げ、僕にもよく見えるように股間からお尻をさらけ出させる。涼子さんのペニスも和也さんに負けずに硬くなっていて、先端からは透明な液が溢れ出して根元までを汚していた。お尻には黒い栓のようなものが見え、アナルプラグがその尻穴を拡張しているのが見て取れる。

「なんだ、姉さんのここも漏らしたみたいになってるじゃないか」

「やあん、そんなに見ないで」

「今日は見せるためにわざわざここでやってるんだろ」

 和也さんはそう言いながら、、涼子さんのお尻に突き刺さるプラグに手をかけた。それがぐりぐりとこじられると、涼子さんが「んくうっ!」と甘い声を上げる。

「ほら姉さん、力を抜いてくれよ」

「あんっ、そんなっ、んっ、かずやがっ……!」

「俺が何だって?」

「もう、いじわる……」

 プラグで肛門を弄ばれて甘い声を上げながら、涼子さんは頬をふくらませて和也さんをにらんだ。だけどしかめっ面は数秒も続かない。

「おねがい、早くおちんちん、和也のおちんちん、私のお尻まんこに頂戴……」

「ああ、ごめんよ」

 一言謝って、和也さんがプラグを一気に引き抜く。透明なローションの糸を引きながら引き抜かれたプラグがベッドに転がり、涼子さんのお尻の穴が明るい光の中にむき出しになった。

 ローションに濡れたピンクの粘膜が妖しく光り、ひくひくと震えている。最初に見せられた時にも思った事だけれど、その様子は排泄器官ではなく、あたかも何かを食べるための摂食器官のようだ。

 その穴に和也さんのペニスの先端があてがわれ、亀頭と肛門の粘膜が密着する。その様子に、僕は先の連想から、涼子さんのアヌスが和也さんのペニスを食べようとしているかのような印象を抱いた。

「行くよ、姉さん」

 和也さんはそう言うと、涼子さんの答えを待たずに腰を推し進めた。僕の目の前で、涼子さんのお尻がこじ開けられ、いきり立った男の物に征服されて行く。白い肉球の狭間にある薄桃色の穴が太い肉棒に押し入られていく様は、まさに『犯されている』という印象だ。

 しかし、涼子さんの様子に苦痛や嫌悪を感じさせるものは一切なかった。のけぞって無防備な喉笛をさらしながら喘ぎ声を上げる様子は、『肉欲に溺れる』という表現そのままだ。

「あは、あはは、和也のおちんちん、私の中で、ぴくぴくしてる……」

「姉さんが、締め付ける、からだろ。ケツマンコの中も、痙攣してるじゃないか」

「だって、和也のおちんちん、私のお尻にぴったりで、とっても、気持ちいいんだもの……」

「ああ、姉さんの中の形、俺のにぴったりだよ」

「うふふ、きっと、いっぱいしたから、中が和也の形に、なっちゃったのね」

「じゃあもっとやって、俺専用にしてやるよ」

 喘ぎでとぎれとぎれの声で、二人が睦言をかわす。言葉の内容は淫らなベッドトークだけど、二人がつながっている喜びに満たされているのは横から見ていれば明白だ。涼子さんの顔は今まで見たこともないぐらい晴れ晴れとした笑顔で、和也さんの方も先ほどまでのしかめっ面は跡形もなくなっている。

 そして、和也さんが腰を使い始めた。

 最初はゆっくり、それからだんだんと速くなっていく。急にペースダウンしたかと思うと、不意打ちのように奥深くまで抉りこむ。一突きされるたびに涼子さんの声が上がり、明るい陽射しに満たされた部屋が、どんどん淫らな空気で占められていくようだった。

 二人の両手はしっかりと握りあわされ、涼子さんの足は和也さんの腰をがっちりとホールドしている。和也さんに突き上げられるたびに涼子さんの乳房は躍り、まるで袋詰めのバレーボールが振り回されているようだった。

「もっ、もうだめっ、いくっ、いくっ、いっちゃうっ!」

 やがて涼子さんの喘ぎが切羽詰まった悲鳴になり、まさに絶頂しようとした瞬間――和也さんが腰の動きをぴたりと止めた。

「ひっ、いくっ――え?」

「今日の目的を忘れちゃ駄目だろ、姉さん」

「えっ、あ、えぇ?」

 半開きの唇から一筋の涎をたらし、両目からは涙までこぼした涼子さんが寝ぼけたような声を出す。その涼子さんを和也さんが抱き起し、ついで今度は自分が横になる。つまり正常位の姿勢から、涼子さんが上になった騎乗位に姿勢を変えたわけだ。

 和也さんが動くたびに涼子さんが体をびくびくさせながら嬌声を上げる。多分、一つ動くたびにお尻の中が複雑にかき回されているんだろう。姿勢を完全に変え終わった時には、涼子さんはうつむいて荒い呼吸をするだけだった。

「ほら姉さん、その子に見せてあげなきゃ」

「んっ、うん、そう、ね……」

 二人の姿勢が変わったせいで、結合部――すなわち和也さんのペニスに貫かれている涼子さんのアヌスと、ついでに涼子さんのペニスがよく見えるようになる。

「ほら、この姿勢だと自分で動かなきゃ」

「んっ、うん、わかった……」

 涼子さんは背後に手をつくと、正座状態だった脚をもち上げて足の裏をベッドにつけた。そうして上体を軽くのけぞらせたまま、腰を上下させ始める。

「んっ……、ふあっ……、ひんっ……」

 ほぼいきかけた状態で脱力しているのかその動きは緩慢で、一往復に数秒はかかっている。だけどその動きとは裏腹に、涼子さんのちょっと小さいペニスはこれが限界というほどに硬直し、その先端から愛液を溢れ出させていた。そんな状態でも腰の動きを止められないほど気持ちがいいのか――それを見ながら、僕はそんなことを考えていた。

 やがて少しして、涼子さんの腰の上下が止まる。

「はあっ、あうっ、も、もう駄目、おねがい、いかせてぇ、和也ぁ……」

「ん? いきたいならもっと腰を振ればいいじゃないか。姉さんは尻だけでいけるだろ」

「むっ、無理、もう、脚に力、はいんない……」

「しょうがない姉さんだなあ。俺にどうしてほしいんだい?」

「わ、私のお尻まんこ、おもいっきり突いて! 壊れるぐらい激しくして!」

「わかった。途中で根を上げないでくれよ」

 和也さんが腹筋運動の要領で体を起こすと、そのまま涼子さんの背中に腕を回してそっとベッドに横たえる。そのまま再び正常位で終わらせるのかと思ったが、和也さんはいったんペニスを抜くと涼子さんを腕を下に横になった姿勢に変え、自分はその背後から抱きつくように横になる。

 再び和也さんが挿入すると、涼子さんのペニスからひとしずく、白い物が吐き出された。勢いよく撃ち出される射精ではなく、溢れ出すようにとろりとこぼれ出てくる精液――これがいわゆる『ところてん』と呼ばれる現象なのだろうか?

 そんなことを考えながら涼子さんのペニスを凝視している僕の目の前で、和也さんは涼子さんの片脚を抱え上げて股間部を大きくさらけ出させた。涼子さんの固くなってひくひくと震えているペニス、そして和也さんのペニスに貫かれてみっしりと拡がり、半分まくれ上がった粘膜をむき出しにしたアヌスが露になる。

「……よく見とけよ」

 和也さんがぼそりと言い、それから激しく腰を使い始めた。ペニスが肛門粘膜をまくり返しながら抽送され直腸をえぐりぬくたびに、涼子さんが悲鳴のような嬌声を上げる。一突きされるたびに涼子さんのペニスが跳ね、透明な液と白い液を交互にふりまいて、シーツを汚した。

「ひいっ、いくっ、いっちゃう、いっちゃうっ!」

「ああ、俺も、もうっ……!」

「きてっ、私の中っ、和也のザーメン、私の中にっ!」

 そして最後の瞬間。和也さんの腰が一番奥で急に止まったかと思うとびくびくと震え――タイミングを合わせたように涼子さんのペニスが盛大に白い物を吐き出す。

 和也さんの両腕は涼子さんの体をがっちりと抱き込んで、見ようによっては無理やり押さえ込んでレイプしているようにも見えるが、涼子さん自身の腕が和也さんの腕にしっかり絡み付いてそうではないことを示している。

 二人は固く結びついたまま動きを止め、僕はそれをじっと見つめる。物音と言えば二人の荒い呼吸だけ。その状態がどれぐらい続いたのか――数秒か、数十秒か、もしかしたら数分か――、ふと我に返った僕は慌ててふたりから目をそらせた。

 涼子さんの、美しい女性にしか見えない体と、その股間にある男の物。弟である和也さんとのセックス。ペニスを嬉しそうにしゃぶり、そのペニスにお尻を貫かれて喜びに悶える姿。精液を垂れ流しながら自分の中にも注がれて絶頂する痴態。

 目を離しても、それらが頭の中をぐるぐると渦巻いて消えようとしない。なんとかそれを頭から追い出そうとして視線をさ迷わせ――僕は自分のペニスがいきり立ち、入院着の前に透明な染みを作っていることに気が付いた。

「……あら」

 ベッドに横たわり、体を小さく痙攣させながら荒い息をついていた涼子さんが、何かに気が付いたような声を上げる。その視線は僕を――正確には僕の股間の染みを捉えていた。

「うふふ、私たちのセックスを見て興奮した?」

 赤くほてった頬、とろんとした目、まだすこし荒い呼吸――そんな状態の涼子さんの口から出た言葉は、恥じらいの欠片もない淫らなものだった。

「え、いえ、そんなこと、無いです、よ……」

 僕は答える。しかし椅子の上で前かがみになり、腰の前を両手で押さえながらでは説得力も何もあったものではない。僕の言葉を聞いた涼子さんも、「くすっ」と笑っていた。

「おちんちん、苦しくない?」

「……」

 僕はうつむいて涼子さんから視線を逸らした。だけど、そちらを見てはいなくても涼子さんが僕を凝視しているのが感じられ、かえってその視線が恥ずかしく感じられてしまう。

 だいたい、痴態を晒していたのは涼子さんの筈なのに、僕はそれを見ていた方なのに、なんで僕の方が恥ずかしい思いをしなくちゃいけないんだろう――そう思って顔を上げると、予想通りこちらを見ていた涼子さんと視線が合った。

 いまだに和也さんと繋がったまましどけなくベッドに横たわる涼子さんの姿に、僕は再び顔が熱くなるのを感じる。

「……いらっしゃい」

 ベッドをポンポンと叩いて、涼子さんが言う。そのジェスチャーの意味は明白だけど、僕はそれに従うべきか迷った。

 もしここで従ってしまったら、取り返しのつかない事になるんじゃないか――そんな予感がしたからだ。

 涼子さんはそれ以上僕の事を急かしたりはせず、ただ黙ってこちらを見ている。逃げたい、けれどこの部屋に逃げ場はない。それにペニスが苦しいのは本当の事だった。今までになったことが無いほどカチカチになった僕のペニスは、鈍い痛みさえ訴えるほど疼いている。

「……全部出させてあげる」

 涼子さんはそういうと、舌を出して唇をぺろりと舐めた。潤った唇がなまめかしい濡れた光を放つ。それを見た僕の中で、何かが限界を超えた。気が付くと、僕は椅子からゆっくりと立ち上がり、招かれるままにベッドに上がろうとしていた。

 まだ引き返せる、引き返せ――そんな声が自分の中のどこかから聞こえてくるけれど、一度動き出してしまった体はもはや後戻りしようとはしなかった。

 ベッドに片膝をかけ、スリッパを放り落とすように脱いだ。そのままベッドに上がり、涼子さんの前ににじり寄る。しかし、涼子さんの顔の前で膝立ちになったところで、次はどうすればいいのか僕は戸惑った。

「自分でまくって出して」

 言われた直後には言葉の意味が分からず、一瞬後に涼子さんが何を言っているのかを理解する。入院着の裾をまくれと言われているのだと理解して、僕は硬直した。

 もしここでそんなことをしたら、下着を穿いていない僕のペニスは丸出しで、固くなった上に先走りでドロドロのそれを涼子さんのみならず和也さんにも晒す事になる。

 もちろん今まで涼子さんには何度もそれを――それどころかお尻の穴まで――見られているわけだけど、拘束されて無理やり曝け出させられるのと、自分で曝け出すのでは大違いで、しかも今は和也さんまでいる。そう考えるとあまりの羞恥心に、入院着の裾をつかんだまま僕の腕は硬直してしまった。

「……俺の事なら気にするな」

 身動きできずにいた僕に、今度は和也さんが声をかけてきた。

「俺は医者だぞ、人間の体なんか見慣れてる。それに君の方もさっき俺の裸を見ただろう」

 そうは言われても、恥ずかしいことに変わりはない。だけど、そう考えると心理的なハードルが一段下がった気はする。

『この人は医者、この人は医者……』

 心の中で自分に言い聞かせながら、僕は震える手で入院着の裾をそろそろとまくり上げていった。

 僕のペニスが外気にさらされ、同時に涼子さんと和也さんの視線にも晒される。恥ずかしさに、僕は思わず目を閉じて二人から顔をそむけた。しかし体の方はそれ以上は動こうとせず、両手は入院着の裾を離そうとはしない。目を閉じていると、自分の呼吸がやけにうるさく聞こえる。同時に、下腹部に二人分の視線を感じ、その部分が熱を帯びたように感じられる。

「ふふっ」

 涼子さんの声――それがペニスの先端からほんの数センチの位置から聞こえ、同時に吐息がかかるのが感じられる。涼子さんの顔が僕のペニスからほんの数センチの位置にあり、おそらくはそれを凝視しているのを想像した瞬間――僕のペニスがびくんと震えた。

 いつものように拘束されて無理やりさらけ出させられているのではなく、自分で服の裾をめくり上げていることを考えると、自分がとても恥ずかしいことをしているのではないかと思えてくる。涼子さんにはいつも見られているとか、和也さんは医者だとかそういう問題では無く、『僕自身が』『自分でさらけ出している』という事実――それを意識すると、恥ずかしさに鼓動が早くなり、体温がどんどん上がっていく。

 しかしそれと同時に二人の視線にさらされるペニスはどんどん固くなり、先端からは透明な粘液があふれ続けているのが感じられる。

 ペニス自体をさらしていることに加えて、その自分自身の反応がより一層羞恥心をあおる。僕はこの後どうしていいかわからず、下半身をさらして顔をそむけたまま、ベッドの上で硬直していた。

「……くすっ」

 再び涼子さんの含み笑い――その直後、僕のペニスの先端が熱くて柔らかいものに包まれた。見なくても、何が起きているのかはわかる。涼子さんが、僕のペニスをその口に含んだのだ。

 そこからほとばしった電気のようなものに、僕の下半身が痙攣した。それを無視して、涼子さんは僕のペニスをどんどん咥え込んでいく。あっという間に、竿の中ほどまでが涼子さんの口に銜え込まれてしまった。

 涼子さんの舌が先端をつつき、敏感な粘膜を責め立ててくる。快感に僕は金縛りになり、全身を硬直させたままその責めを受け続けた。

「んっ、はあっ、うくっ……」

 涼子さんの舌が僕の先端をつつき、舐め回し、竿に巻きつき、焦らすように舐り上げる。そのたびに僕は抑えきれない快感にあえぎを漏らし、熱い息を吐いた。

「んっ、んっ、んんっ!? ぷはっ、和也?」

「ごめんよ、姉さん。だけど俺の方も我慢できないよ」

「ちょ、ちょっと待って、今ヒカルちゃんに――」

「ごめん。だけどこの一週間姉さんが泊まり込んでるから、俺もだいぶ溜まってるんだよ」

「きゃっ! あんっ!」

 ペニスへの刺激が途絶え、二人の言い合う声が聞こえる。何事かと目を開けてみると――僕の前で四つん這いになった涼子さんの腰を後ろから鷲掴みにして、和也さんが自分のペニスを叩き込んでいた。

「んっ、もうっ、ふあっ、しかたないわ、はあっ、ねえ」

 背後から半ば強引に犯されながら、しかし涼子さんは抗う気配もなくそれを受け入れている。むしろその声には、喜びの気配さえ感じられた。

「あんっ、ごめんね、んっ、ヒカルちゃん、んっ……」

 和也さんの一突き毎に喘ぎながら、涼子さんが再び僕のペニスを口に含む。膝立ちになった僕と和也さんの間で四つん這いになり、前後を二本のペニスに貫かれながら――その表情は快感と喜悦にほころんでいた。

 僕のペニスに口で奉仕しながら後ろから和也さんに激しく突かれ、涼子さんが苦しげな声を上げる。その姿を見て、僕の中には不思議な感情が沸き起こっていた。

 おかしな薬を使われて、本当は男性なのにこんなペニス以外は女性にしか見えない――それも豊かなバストにくびれたウェスト、まろやかなヒップにすらりとした脚というかなりのスタイルだ――体になって、お尻を性器に改造されてペニスで思う存分に犯されている。

 自分がそうされつつあることを考えると、恐怖感を感じてもいいはずだ。いや、もちろんそういう思いもあるのだけれど、それより大きく感じられるのは羨望――うらやましいと思う気持ちだった。

 僕の女装のように化粧と衣装で表面だけを装うのではなく、体やセックスまでも女性になる――その事がとてもうらやましく感じられるのだ。

 和也さんにお尻を犯されながらおいしそうに僕のペニスをしゃぶる涼子さんの姿を見ていると、それがとても幸せなことなんじゃないかと思えてくる。

 涼子さんと和也さんが愛し合っているのは傍目にも良く分かる。本当は男同士だとか、『姉さん』というからには姉弟(兄弟?)なんだろうとか――そういうものをすべて抜きにして愛し合う二人が、素直にとても羨ましい。

 そして、性の快楽に浸る涼子さんの姿は、とても綺麗だった。お尻を犯されて喜ぶのも、ペニスを喜んでしゃぶるのも、淫らで淫猥で、とてもいやらしいことの筈なのに。

 僕もそんな想像をしながらオナニーをしたことはある。女装したまま、自分が完全な女の子になったつもりになって、兄に抱かれて貫かれているシーンを想像しながらペニスをしごいたのだ。一度だけやったそれはものすごく気持ちのいいことだったのだけれど、その快感の強度に比例するように、終わった後の虚しさもまた強烈なものだった。後片付けをしながら涙が出そうになり、僕はそれを二度とやろうとは思わなかった。

 だけど、涼子さんはそんな虚しさや悲しさを感じることは無いはずだ。だって、涼子さんのアヌスを貫いているペニスは虚しい想像の産物ではなくて、しっかりとした肉体を持った和也さんの物なのだから。和也さんが果てれば再びその精液を直腸に流し込まれ、涼子さんも再度の絶頂に至るのだろう。おそらくはそれを期待して、激しいピストンにさらされながら涼子さんの腰もいやらしくうねっている。

 その涼子さんの姿を見ながら、僕の頭は羨ましさとペニスから昇ってくる快感に沸騰していた。

 やがてついに限界を迎えた僕は、涼子さんがひときわ強く吸引を加えてきたはずみに射精をした。

 腰の奥底が収縮し、筋肉の脈動が白濁した液体を僕の中から絞り出す。涼子さんはすべてを口で受け、あとからあとから出て行くそれを一滴もこぼさずに飲み下す。

 腰から力の抜けた僕がベッドに座り込むと、間もなくして和也さんも熱い精を涼子さんの中に放った。すでに限界だったところにそれでとどめを刺されたのだろう涼子さんもまた精を放ち、シーツに直線状の染みを作った。

 うつぶせになってはあはあと喘ぎながら、涼子さんはいやらしく腰を動かし続けている。いまだに挿入されたままの和也さんのペニスをお尻で味わい続けているのだろうか。

 それを見ながら、僕は不思議な焦燥感のようなものに捕らわれていた。

 精液は一滴残らず吐き出したはずなのに、なぜかいまだに腰の奥に疼きが残っている。何かが足りないような気がする、何かが……。

 腰をもじもじとさせて両足をすり合わせると、両足の付け根の間、ちょうどペニスとアヌスの間あたりで快感のようなものが感じられる。つられるようにアヌスにぎゅっと力を入れると、その快感がはっきりとした刺激となって背筋を駆け上がった。アヌスに力を入れたりゆるめたりしながら太腿をこすり合わせていると、その快感がどんどん大きくなってくる。

 ふと気が付いて視線を上げると――涼子さんがにこにこと笑いながら僕を見ていた。

「うふふっ。どうしたの、ヒカルちゃん?」

「な、なんでもありません……」

「ほんとうかなあ?」

 涼子さんの手が僕に向かって――僕の股間に向かって伸びてくる。後ずさりしてそれから逃げようとして、ベッドのヘッドボードに背中がぶつかった。横に逃げることを思いつけず一瞬硬直した隙に、涼子さんの指先が僕の股間に触れる。

「んっ……」

 涼子さんの指先が僕の股間部、骨盤の底に当たるあたりをぐりぐりと押した。てっきりペニスの方を責めてくるのかと思っていたので、これは予想外だった。

「ふあっ……」

 りょうこさん先ほど太腿をこすり合わせていた時と同じ快感が、その数倍の強さで湧き上がる。足腰から力が抜け、膝が開いて僕のペニスからアヌスまでがむき出しになってしまった。

 涼子さんは手のひらを上に向けるようにして、中指と薬指で僕の股間を摩擦し続ける。そのたびにどんどん快感が強くなり、僕から逃げようとする気を奪っていくようだった。入院着の裾を両手でつかんでまくり上げ、半ば自分から恥ずかしい部分をさらけ出して、僕は快感に喘いだ。

「こっちは、どうかしら……」

「ひっ!」

 唐突に、涼子さんの指が下に滑る。ひくひくと収縮していた肛門を撫で擦られて、僕は不意打ちに悲鳴を上げた。涼子さんの指はそのまま僕のアヌスの中心をえぐり、こじ開けるかのような動きをした。

 その動きを、僕は拒否する事が出来なかった。

 腰が抜けているとは言っても、腕は動くのだから涼子さんの手をつかめばいい。そうでなくても、『やめて下さい』と言う事は出来るだろう。

 だけど、僕はそのどちらも実行する事が出来なかった。

 肉の隙間をこじ開けられて体内に侵入され、好き勝手に弄り回される――これから起きるはずの事が分かっていながら、僕はそれを拒絶する事が出来ないでいた。どうしてかと言えば――それがとても気持ちいと言う事を僕の体は、そして心も、よく知っているからだ。

 拘束されながら幾度の涼子さんの指で責められて、お尻の中にペニスよりずっと気持ちのいい部分があることを何度も何度も教え込まれた。

 そして今、目の前で涼子さんと和也さんの交わりを見せられ、お尻を犯されるのがいかに気持ちのいいことなのかを見せつけられた。性器と化したアヌスをペニスで貫かれて二人が一つになることが、心の奥底までを満たしてくれるものだと言う事を知らされた。そして体内に精液を注ぎ込まれるというのが、おそらく僕には想像もできないような快感なのだと教えられた。

 そして――快感の予感に震える僕のアヌスを、涼子さんの指が貫いた。

「んっ……!」

 その瞬間、お尻から背筋を駆け上がってきた電撃のような快感が僕にいやらしい喘ぎ声を上げさせ、僕は慌てて歯を食いしばった。

「んっ……、はぁ……」

 涼子さんの指はまだ指先が肛門に食い込んでいるだけだというのに、その部分はどんどん気持ちよくなり、同時に物足りなさを覚えている。僕の肛門は勝手に収縮を繰り返し、まるで涼子さんの指を自分から飲み込もうとしているようだった。

「くすっ……」

「んっ!」

 涼子さんは軽く腕をひねり、僕に食い込んでいる指をほんの少しだけ奥に進めた。

 たったそれだけで、お尻の入り口からまたもや快感が湧きあがり、僕は再び必死で声を抑えることになる。

「気持ちいいなら、声を出していいのよ?」

「いやです、そんな、恥ずかしい……」

「あら、気持ちいいのは確かなのね」

「っ!」

 涼子さんの言葉に、僕は頬が熱くなるのを覚えた。たぶん僕の顔は真っ赤になっているだろうと思う。

「うふふ、ヒカルちゃん可愛い」

 なぜか楽しそうな涼子さんは、そのままどんどん僕のアヌスに指を押し込んでくる。

 やがて根元まですっかり埋まった指が、僕のお尻の中をゆっくりかき回し始めた。

 強くは無く、むしろ焦らすようにお尻の中を撫でまわされながら、僕は悲鳴だか嬌声だかわからないものを必死に噛み殺し続けた。

 内側の柔らかい部分をまさぐられると、そこからぞわぞわとくすぐったい快感が湧きあがる。同時に、涼子さんの指をぎゅっとくわえこんでいる入り口部分は、なんだか物足りないようなじれったさに襲われる。

「ねえヒカルちゃん」

「……はい」

「指、もう一本、入れていい……?」

「……はい」

 涼子さんの質問に、僕は半ば無意識のうちに肯定の答えを返していた。

 指が引き抜かれ、お尻からの刺激が途絶える。

 大きく息を吐いた瞬間、再び、今度はいきなり奥まで、涼子さんの指が僕を貫いた。

「んっ、ふあっ!」

 先ほどの二倍押し広げられた肛門は、涼子さんの指をぎちぎちと音がしそうなほど締め付けながら、同時に無理やり押し広げられる満足感を訴えている。

 内側は二本の指先にまさぐられ、押し広げられ、つつきまわされて、こちらも先ほどとは比べ物にならない快感を覚えている。

「あっ……、んっ……、くうっ!」

 内側から二本の指でペニスの裏側を押されると、そこから小さく爆発するように快感が湧き起こる。同時に抑えきれない喘ぎが僕の口から洩れ、そのたびにさらに快感が強まるような気がする。

「うふふ、ヒカルちゃんのお尻まんこ、私の指を食いちぎっちゃいそうよ」

「……」

「ねえ、お尻、気持ちいい?」

「……」

 涼子さんのとても恥ずかしい質問に、僕は今度は答えを返す事が出来なかった。それを認めてしまえば、引き返すことのできない一線を越えてしまいそうな気がしたからだ。

 しかし――

「あら、気持ちよくなかったかしら。残念ね。じゃあ、もうお終いにしましょうか」

「っ!」

 涼子さんが指を引き抜く方向に動かす。ゆっくりと引き抜かれていくそれの、第一関節が肛門を通り過ぎたのが感じられた時――

「き、気持ちいいです!」

「そう。よかった」

 涼子さんの指が再び奥まで突き込まれ、僕の中を占領した。僕の中でその指が暴れるたびに、お尻から腰がとろけるような快感が湧きあがってくる。

 ぴんと伸ばした指を出し入れされると、こすられる肛門が焼けるような快感を訴える。

 お尻の中で指を広げられると、無理やり内部を押し広げられる事にぞくぞくする。

 鉤爪のように曲げた指先で中をつつかれると、その部分からつんとした快感が湧きあがる。

「んっ、ふあぁっ、くっ、んんっ――」

 快感に屈服した僕は、次第に大きな声を出し始めた。我慢しようにも、我慢すればするほど中にこもった快感が強くなるように感じられ、圧力鍋から吹き出す蒸気のように喘ぎ声が漏れてしまうのだ。

 指でこれなら、もしペニスを入れられたらどうなるんだろうと考えて――僕は自分の考えに愕然とした。

 いつの間にか、あんなに拒んでいたはずのアヌスの快感に自分が溺れかけていることに気が付いたからだ。

 しかしそんな考えも、お尻から途切れず送り込まれてくる快感に押し流されてゆく。先ほどペニスを咥えられた時よりもずっと強く感じられるアヌスの快感に、最早僕の理性は完全に押し負けていた。

「あっ、あっ、あんっ!」

 涼子さんの指が僕のペニスの裏側、前立腺を後ろから抉る。その刺激がとどめとなり、僕は再びの絶頂を迎えた。

 先ほどとは異なる、ずっと重いが緩やかな感じの快感が、お尻から延々と湧き上がり続ける。

 快感に溺れて腰をびくびくと震わせ、ペニスからは再び精液を垂れ流しながら、僕は自分がもう引き返せないところまで来てしまったんじゃないかとぼんやり考えていた。

● ● ●

「少しづつ育ってきたわね……。どうかしら、京子さん」

「アンダー差が79mmですから、まだAAですね。とはいえ順調です」

 涼子さんの問いかけに、看護婦の京子さんが僕の胸からメジャーを外しながら答えた。

 毎日飲まされている薬のために、僕の体は少しずつだけど女の子に変わっていっている。その変化の具合を確認するために毎日身体測定をされているのだけれど、やはり変化が最も顕著なのは胸回りだった。

 わずかずつだけど確実に膨らんでいる乳房は、もうすぐブラジャーが必要なサイズになるだろう。

 今までにも、女装コスプレのために何枚も重ねたパッドを固定するために、スポーツ用ブラジャーを使ったことはあった。まさか自前のバストのために使うことになるとは、その時には考えもしなかったのだけれど……。

「じゃあヒカルちゃん、こっちへ」

 涼子さんが診察台を指さす。太腿と脹脛を乗せる開脚台が付いたそれは、本来ならば女性が婦人科の診察を受ける時に使われるものだ。だけど今は、僕を拘束して恥ずかしい部分を曝け出させるために使われている。

 僕は、一瞬躊躇しながらも、自分の足でそれに座った。

「はい、脚を台に乗せて」

 ごくりと生唾を飲み込んでから、涼子さんの指示に従う。これで涼子さんの目には、僕のペニスとアヌスが遮るものなく晒されているはずだ。

「うふふ、素直になったわね。最初はあんなに嫌がっていたのに」

「どうせ嫌だって言っても、無理やり乗せるんじゃないですか……」

 最初の頃は、むろん僕もこんなに素直に言う通りにはしなかった。しかし、たとえ拒否をしても、その場合は屈強な看護士に二人がかりで取り押さえられて無理やり足を開かされて手足を拘束テープでぐるぐる巻きにされるだけの事だ。何度かそれを経験した挙句、余計な恥ずかしさを味わうよりは、と僕は考えるようになっていた。

「そうね。でもヒカルちゃんが素直になってくれて嬉しいわ」

 そう言いながら、涼子さんは傍らの術具台からローションのボトルを取り上げた。

 ポンと音をさせて蓋を開け、中身を掌に出していくのを見ていると、なんだか鼓動が激しくなってくる。同時に呼吸も少しづつ激しくなっていく。

 最初はこんなじゃなかった。だけど、数日前に涼子さんと和也さんのセックスを見せつけられて以来、どういうわけか僕はこんな反応をするようになってしまった。

 涼子さんがローションを人差し指に掬い取り、僕の肛門に塗り付けた。それから、円を描くようにして、ローションを塗り込みながらそこを解していく。

「んっ……」

 自然に声が出、慌ててそれを押し殺す。しかしそうすると、お尻からのくすぐったい快感が体の中にこもるような気がする。声を出してそれを涼子さんたちに聞かれるか、我慢して余計に快感に悶える羽目になるか――恥ずかしい二者択一に、頭の中が沸騰しそうな気分だった。僕は両目をぎゅっとつぶり、顔を涼子さんからそむけた。

「んんっ!」

 涼子さんの指が、僕の中に潜り込んでくる。お尻の穴が広げられっぱなしになり、反射的に涼子さんの指を締め付けた。

「うふふ、私の指が千切れちゃいそう」

 涼子さんは笑いながら指を出し入れする。肛門の粘膜をこすり上げながら出入りされる感覚に、背筋がぞくぞくと震える。このぞくぞくが、気持ち悪さのせいなのか、それとも快感なのか――僕にはもうそれが判断できなくなっていた。

 以前なら、『虫にたかられたのと同じで気持ちが悪いせいだ』と断言出来ただろう。しかし今は、その感覚が嫌悪感だとは言い切れなくなっていた。

 突然、涼子さんが指を引き抜く。普段ならもっとずっと時間をかけて焦らされるはずなのに。

「じゃあ、今日からこれを使いましょうね」

「え……?」

 目を開けて、涼子さんの方を見る。涼子さんが手にしているのは――小さい、しかし確かにペニスの形をした、バイブレーターだった。

「い、嫌……」

 それを見た瞬間、背筋がぞわっとした。

 確かに、今までだってさんざん涼子さんの指で僕のアヌスは弄り回されてきた。ペニスに触れられずに、お尻の中だけを責められて逝ってしまった事も既に一度や二度ではない。

 だけど、今突きつけられているそれは指とは根本的に違う。

 おもちゃとはいえ、ペニスを受け入れてしまったら――引き返せない段階を、さらに一歩踏み込んでしまうことになるだろう。

「やめ、やめて、下さい……」

 歯の根が合わず、言葉がどもりがちになる。しかし、僕のそんな弱々しい拒否を、涼子さんはやんわりと、だがきっぱりと拒絶した。

「大丈夫よ、ちっともこわくないの」

 診察台の横に回り、涼子さんは僕の頭に手を乗せる。むずがる子供にするように頭をそっと撫で、僕を落ち着かせようとしているようだ。

「それに、とっても気持ちのいいことなのよ」

 たしかに、涼子さんの指でアヌスを責められて絶頂して射精するのは、自分でペニスをしごくのよりずっと気持ちのいいことだった。

 だけど、それとこれとは話が違う。

 怖いものは――どうしたって怖いのだ。

 そんな僕の心情が分かるのか、涼子さんはそれ以上の無理強いはせず、僕の頭を撫で続けている。不思議なことに、優しく頭を撫でられているとだんだん恐怖感が無くなってくる。いつの間にか、呼吸と心拍が落ち着いているのが自分でもわかった。

「……いい?」

 涼子さんが穏やかな声で尋ねてくる。

「……はい」

 自分でも意外なことに、僕はそれに肯定の返事を返した。恐怖にガタガタ震えていたところを優しく撫でられて、涼子さんの言うことを聞く気になったのか――後で考えてみればマッチポンプもいいところな話だった。

「じゃあ、力を抜いて、リラックスしてね」

 そういいながら、涼子さんはバイブレーターにローションをふりかけ、全体に塗り広げていった。ローションにまみれて濡れたように光るペニス型のおもちゃは、とても卑猥な印象を僕に与えた。

 涼子さんが僕の両足の間に移動し、股間を覗き込む。剥き出しのペニスとその下のアヌスを凝視されているのが感じられて、せっかく落ち着いた心拍がまた早くなってきた。

 そして恥ずかしさに目を閉じ、顔を逸らせたちょうどその時、肛門に押し付けられる物の感触があった。丸っこくて、少し柔らかくて、指先よりずっと太い――バイブレーターの亀頭の先端だ。

「……っ!」

 ぐりぐりと押しつけられ、肛門が押し広げられていくと、指とは比べ物にならない圧迫感がある。反射的に力が入ってしまい、それが余計に圧迫感を増すことになる。痛みはあまりなかったが、無理やりこじ開けられ、押し拡げられる事に、僕の体は僕の意思とは関係なく全力で抵抗をしていた。

「ヒカルちゃん、もっと力を抜いて、落ち着いて!」

「やっ、むりっ、むりでっ、すっ……。もう駄目えっ!」

 感触からするとまだ亀頭の一番太い部分が肛門を通過していないはずだった。これ以上拡げられたら体が裂けてしまう――そんな恐怖感に襲われて、僕は悲鳴を上げた。

 その直後――お尻にかかっていた力が急に消え、僕はぐったりしながらぜぇぜぇと荒い息をついた。

「……京子さん、代わって下さい」

「はい」

 涼子さんはバイブレーターを京子さんに手渡すと、再び僕の横に移動した。僕の右に立ち、診察台の手すりを握りしめていた僕の右手を取る。

「……?」

「大丈夫よ、ね?」

 涼子さんはそう言って左手を僕の顔に乗せ、両目を覆った。視界を奪われると、右手で握っている涼子さんの手がやけにはっきり感じられる。暖かくて、柔らかくて、とても安心できる感触だった。

 ゆっくりと、呼吸と心拍が落ち着いていく。

 暫くそうしていた所に、再び肛門にバイブレーターが押し当てられる感触があった。

「っ!」

「大丈夫、大丈夫よ。力を抜いて……」

 反射的に僕の体が緊張するのを、りょうこさんの声が宥める。僕は左手も手すりから離して涼子さんの手に重ね、命綱にしがみ付くように全力でそれにすがった。

 再び肛門がぐりぐりと押し拡げられ、バイブレーターが僕の中に押し入ってこようとする。

 僕は勝手に収縮しようとする肛門括約筋を必死で緩め、余った力を発散するかのように涼子さんの手をぎゅっと握りしめた。

 と、その時、ずるりという感じでバイブレーターがいきなり入り込み――一番太い部分が肛門を越え、亀頭部が僕のアヌスに侵入を果たした。

「うあっ!」

 その瞬間に感じたのは、痛みとか苦痛とかではなくて、まず何よりも圧倒的な『太さ』だった。

 体の一部、それも敏感な神経が集中している粘膜を無理やり押し拡げられて、悲鳴を上げている筋肉と内臓の中にひたすら太い物体を押し込まれる――そんな感じだった。

「あっ、あっ、んんっ……」

「大丈夫、大丈夫よ……」

 涼子さんが、手を握り、頭を撫でながら励ましてくれる。

 もちろん僕だって、自分を貫いている物がそんなに巨大なわけではない事は理解している。先ほど目にしたバイブレーターのサイズは、僕の勃起時よりもずっと小さく、胴体部分の太さも親指よりも一回り太い程度でしかないものだった。たぶん、サイズで言えばSサイズとかそんなものだろう。

 とはいえ、初めて体内にそんなものを挿入されて、僕の体は未知の感覚に悲鳴を上げ続けていた。

「あっ、はぁっ、ぬ、抜いて、抜いてっ、下さい……」

「苦しい?」

「壊れちゃう、お尻がっ、壊れちゃいますっ……!」

「大丈夫よ――ねえ、お尻の力を抜いて、下腹に力を入れていきんで」

 そのとき半ば頭が麻痺していた僕は、ほとんど反射的に涼子さんの声に従った。ちょうど排便する時の要領で、お尻を緩めて下腹に力を入れる。

 しかし、これでバイブレーターが排出されるかと思った瞬間――逆に、それはさらに体内に押し入ってきた。

「っ!」

 声も出出せず、涼子さんの手を握りしめる。

 体の筋肉が勝手に緊張し、僕のコントロールを離れてガタガタと震えだす。

 体の内奥を押し上げられる感覚と、肛門を無理やり引き裂かれている感覚、それに涼子さんの手の感触だけが鮮明に感じられ、それ以外の全てがまるで幻か何かのように遠くに感じられた。

 そのままどれくらいの時間が経過したのか――僕には何時間にも感じられた――、いつの間にか僕の呼吸は少し落ち着き、体の震えも収まっていた。そのあいだずっと、涼子さんは僕の手を握り、頭を撫で続けてくれていた。

 突然、バイブレーターが体内から引き抜かれる方向に動き出す。やっと終わってくれるのか、と思ったが――肛門に発生した衝撃がそれを裏切った。

 バイブレーターの亀頭部、胴体部分より一回り太くなっている部分が、内側から肛門の筋肉を叩いたのだ。

 未知の刺激に混乱した僕は、反射的にそこに力を入れてしまい、自分から再びそれを噛み締めることとなった。

「ひっ……!」

「もう一度、いきんで」

 反射的に押し出そうと力を入れると、バイブレーターが再び押し入ってきて一番奥をつつく。少し間をおいて緊張がゆるむと、再び肛門を内側から叩かれる。

 やがてバイブレーターの往復運動は連続的になり、僕のお尻には絶え間ない刺激が与え続けられるようになった。

 肛門をこすり上げられながら体の中身を引きずり出されていく感触、内側から叩かれる感触、押し拡げられながら体の中に押し入ってこられる感触、そして体の奥をたたかれる感触――これらが連続し、僕をびくびくと震えさせる。

 いつの間にか苦痛は無くなり、僕は体内をこすられ、叩かれる感触をありのままに受け入れられるようになっていた。

 と、突然バイブレーターのピストン運動が停止する。抜け落ちる直前、亀頭部だけを肛門に食い込ませた状態で、京子さんが手を止めたようだ。

「ねえヒカルちゃん、目を開けて」

 涼子さんの声に、僕は瞼を上げた。ずっと目を閉じていたせいか、天井の照明がやけにまぶしく感じられ、僕は目を瞬いた。

「見て」

 何度か瞬きをした後、涼子さんが指さす方に目を向ける。

 それは僕のペニス――限界まで勃起してひくひくと震えながら、先端からまるでおもらしのように透明な粘液を滴らせているそれだった。

「嘘……」

 なんで、どうして? あんなに苦しかったのに、なんでこんな――。

 と、京子さんが再びバイブレーターを僕の中につきこんだ。

「ひぐっ!」

 それと同時に、僕のペニスが先走りをひとしずく、その先端から吐き出した。

 それを見て、僕は理解した。

 自分が、エッチなおもちゃでお尻の穴を犯されて、感じているのだと。

● ● ●

 その日は、何かが普段とは違っていた。

 いつもだったら朝食の後は治療室(という名前の調教部屋)に連れ込まれ、色々と検査や測定をされてから薬をうたれ、その後はエッチなおもちゃや涼子さんの手や指で体とお尻を弄られる――それが僕のここでの日常だった。

 だけどその日は、朝食が片づけられた後も病室から連れ出されず、僕はベッドしかない真っ白な部屋に一人で取り残されていた。

 目立たない白で塗装された、だけどがっちりとした鉄格子の間から外を見る。

 視線を下げると、明るい陽射しがL字型をした入院病棟の庭に降り注ぎ、入院着姿の人が何人か、散歩や日向ぼっこをしているのが見えた。松葉杖をつきながらゆっくり歩く人や、家族らしい人に車椅子を押されている姿も見える。

 あそこにいる人たちは、怪我や病気に苦しんではいても、いずれ健康を取り戻せばここから出て自分の家に帰っていける。だけど僕は、いったいいつになればここから出られるのか――それとも出る事が出来ないのか。焦りと苛立ちに、思わず大きな声が出そうになる。

 一つ溜め息をついてベッドに座り、鉄格子の隙間からぼんやりと空を見る。小さな雲がふわふわと流れていくのを見送ってから、僕はベッドに横になった。

 色々と考えるのがつらい。

 僕はぎゅっと目を閉じると、体を丸めながら暗闇の中に逃げ込んだ。

「ヒカルちゃん、起きて」

「あ、涼子さん……」

 軽く揺さぶられ、うたた寝から目を覚ます。

「お昼よ。一緒に食べましょう」

 体を起こすと、配膳用のワゴンに二人分の食事が載っているのが見える。

 涼子さんはベッドの介助用テーブルを引き出すと、それに僕の分の食事のトレイを置いた。自分は折り畳みの椅子に座り、ワゴンをテーブル代わりにしている。

「……あの、今日は、その、やらないんですか?」

「ええ。今日は特別な日なの。お昼が終わったら、お風呂に入りましょうね」

「……?」

 普段なら、入浴(とはいってもシャワーだけなのだが)は夕食の前、その日の調教が終わってからだ。それが午後早くからというのは、いったいどういうわけなのだろうか。

 疑問に思いつつ、味気のない食事を片付ける。いつだったか寺島院長が説明したところでは、体の変化に必要な栄養素をまんべんなく含んだ特別メニューなのだそうだが、僕にとっては家畜用の配合飼料を連想させらるものでしかなかった。

 食事が終わり、保温ポットから緑茶を注いで一服する。それを干し終わると、涼子さんがナースコールボタンに手を伸ばした。

「はい、どうしました?」

「京子さん? お食事終わりました」

「はい、すぐ行きます」

 すぐに病室の分厚い扉が開き、京子さんともう一人の看護婦が入ってきた。

「じゃあ明日香ちゃん、そちらの片づけお願いね」

「はい先輩」

 京子さんと一緒に来た看護婦が手早くトレイを片付け、ベッドのテーブルを掃除して片づける。そのまま配膳用ワゴンを押して、その看護婦は出て行ってしまった。

「じゃあ行きましょうか。まずお風呂ね」

 涼子さんが僕を促す。僕は涼子さんと京子さんに前後を挟まれる形で、病棟の隅にある浴室に連れていかれた。

 僕たち以外に誰もいない(この隔離病棟には現在僕しかいないためだ)浴室で、涼子さんと京子さんに体を洗われる。京子さんは看護服を着たままだが、涼子さんは全裸になって、一緒にシャワーを浴びるような形でスポンジを使っていた。

 大きめのスポンジには普段と違う液体石鹸が振り掛けられ、柔らかい花の香りが浴室を満たしている。

 体中を隅々まで――それこそアヌスの周りまで――丁寧に磨かれながら、僕はその感触にほのかな快感を感じていた。

 時々、涼子さんの豊満な乳房が僕の体に触れる。僕の胸にもすでにはっきりとしたふくらみが出来ているけれど、涼子さんのそれは僕の物とは比べ物にならない迫力だ。それでいて形も綺麗に整っていて張りもあり、まるでモデルかグラビアアイドルのようだった。

 その下のウェストはすっきりと引き締まっていて、贅肉は全く見えない。ウェストから下に続くラインはまろやかで、ウェストとは逆にとても柔らかそうな、しかしたるんだところは全くないヒップにつながっている。

 そしてその股間には、僕と同じペニスがある。

 毎日の入浴時に見ている姿だけど、何回見ても視線がひきつけられるのを抑える事が出来ない。

 男でも女でもあり、また逆にそのどちらでもない不思議な体。

 その体を見るたび、自分が今まさにそれと同じものに改造されつつあるという事実に、恐怖とともにわずかな期待感を感じる。最初は何なのかわからなかったそれが期待感だという事に気が付いた時には、僕はひどい衝撃を感じたものだった。僕はそんなことを考えながら涼子さんを見つめていた。

 涼子さんがスポンジに液体石鹸を足そうと、僕に背を向けてソープボトルに手を伸ばした。丸くて柔らかそうなお尻の真ん中に、異物が突き刺さっているのが見える。

 アナルプラグ――本来ならば常にぴったりと閉じているはずの肛門を拡張して、男のペニスを受け入れられるように改造するための道具だ。真っ黒なそれはしかし、涼子さんの場合は普通とは違う意味を持っている。

 これは一度実際に見せられた事なのだけど、涼子さんは調教の過程で精神にトラウマだか何かを負ってしまい、アヌスに常に何かを挿入していないと幼児退行を起こしてしまうのだという。つまりアヌスを常に拡張されているというのが、涼子さんが正気を保つ条件になっているのだ。

 それが目に入った瞬間、僕は唐突に、これから何がされようとしているのかを理解した。足が震えだし、歯の根が合わなくなる。嫌悪感と、それをはるかに上回る恐怖感に、僕はパニック状態に陥った。

「…? ヒカルちゃん!?」

 振り返った涼子さんが僕の異常に気付いたのか、慌てて僕を抱きすくめる。

「や……、いや……、許して……」

 僕は両手で自分を抱くようにして体を丸め、涼子さんの胸の谷間に顔をうずめるようにしてすすり泣いた。

「ふふっ、ヒカルちゃん、何か勘違いしていないかしら?」

「え?」

 シャワーの下にへたり込んでしまった僕を僕を軽く抱きしめながら、涼子さんが言う。僕は顔を上げると、涼子さんと目を合わせた。

「大丈夫、私たちに任せて」

「で、でも……」

 任せて、と言われても、そもそも僕を誘拐して無理やり調教したり体を改造したりしているのは涼子さんたちなわけで――普通だったらとても信頼など出来るわけがない。

 だけど、今の僕にはその言葉にすがるしか、出来ることが無かった。

 もしここで暴れたとしても、この隔離病棟、正確にはこの階から外に出ることも不可能だ。それにもしそんな事をすれば、看護士たちに取り押さえられて、おとなしくしていた場合よりひどい目にあうかもしれない。

 そう考えてしまうと、逆らおうという気持ちがどんどんしぼんでいく。結局僕は、素直にシャワーを浴びせられ、促されるままに別の部屋に連れていかれた。

「この部屋は面会者の方の宿泊用なんだけど、今日はドレスルーム代わりに使わせてもらってるのよ」

 そう言われて室内を見回すと、リビングソファとテーブルが部屋の端に寄せられて、大きなドレッサーミラーとキャスター付きのハンガーラックが持ち込まれているのが分かる。丸テーブルとスツールも持ち込まれ、テーブルの上にはミラースタンドとメイクアップ道具のキャリングケース、ヘアブラシやドライヤーも置いてある。

 涼子さんは僕をそのスツールに座らせると、まずクリップとヘアバンドで僕の髪をとめた。それから、おでこまで丸出しの僕の顔に、パフで丁寧にパウダーファンデーションをはたいてくる。

 僕はされるがままに化粧を施されながら、ミラーに映る自分の変貌にいささか戸惑っていた。女装コスプレの時に使うものより淡い色調のチークやアイシャドウに、これは少し地味なんじゃないかと思ったのだが――だんだん仕上がっていくのを見ると、コスプレ用の化粧よりずっと自然だった。最後のルージュまで終わってミラーを見てみると、そこに映っているのはどこからどう見ても本物の女の子だった。

 大人の女性(?)の本物のメイクアップテクニックに、僕は自分の技術が所詮はコスプレ用の仮装メイクにすぎなかったことを思い知らされた気分だった。

 化粧の後は髪をおろされ、最初はブラシから、それから歯の細かい櫛で丁寧に梳られる。最後に使われた木製の櫛からは、椿油の香りがしていた。

 メイクとヘアセットが終わるとバスローブを脱がされ、下着も何もつけていない格好でドレッサーミラーの前に立たされた。

 全身が映るサイズの鏡に映し出された僕の裸身は、ここに連れてこられる前、コスプレの衣装合わせなどの時に見たものとは明らかに変わっていた。

 全身が丸っこく、男のように角ばった印象が無い。特に一番の違いは胸だ。見ただけではっきりと分かるふくらみがあり、明らかに乳房が形成されている。視線を下にずらせばペニスが見え、自分が確かに男だとは分かるのだが、おへそから上だけしか見ないようにすると、化粧の効果もあって最早女の子にしか見えない体がそこにあった。

「はい、じゃあまずこれからね」

 鏡を見ながら考え事をしていた僕に涼子さんが手渡したのは、白いナイロンのストッキングと、それをとめるガーターベルトだった。

「あの……」

「はい、スツールに座って。履かせてあげるから」

 言われるままにスツールに腰を下ろし、右脚、左脚と上げていく。床に膝をついた涼子さんにストッキングをはかせられながら、なんだかどこかのお嬢様っぽいなと僕は考えた。ストッキングに足を通し終わったらもう一度スツールから立ち上がり、ウェストにガーターベルトをとめてもらう。

「はい、次はこれね」

 涼子さんが次に手に取って見せたのは、同じく白のレース編みショーツだった。見たところゴム止めではなく、サイドを紐で結んでとめるタイプだった。バックがかなり細く、ほとんどTバックと言っていいデザインだった。ショーツに続けて同じく白の、レースで派手に飾られたビスチェもつける。

 それから涼子さんはハンガーラックの前に立つと、かなりの時間をかけてドレスを吟味した。最終的に選び出してきたのは、袖や襟に派手なフリルが付いた、白いシルクのワンピースドレスだった。

「どうかしら、可愛いと思うんだけど」

「え、あの、ええっと……」

 同意を求められ、僕は言葉に詰まる。そんな僕の反応を楽しむように、涼子さんはにこにこしながら僕を見つめていた。

「はい、いいと思います……」

「そう、よかった」

 そうして僕は涼子さんに言われるままに、そのドレスの袖に手を通す。背中のジッパーを上げられて、改めてドレッサーに目をやる。そこに映っているのは、スーツに身を包んだ少し年上の姉と、新しいドレスをプレゼントされた妹、といった雰囲気の光景だった。

 最後に新品の白いローファーが箱から出され、僕はそれも涼子さんにはかせてもらう。

「じゃあ行きましょう」

 涼子さんが部屋のドアを開け、僕の方に手を差し伸べた。僕は少しだけ躊躇してから、その手に自分の手を重ねた。

 涼子さんに手を引かれながら、隔離病棟の廊下を歩く。一歩足を進めるごとに、再び不安感が大きくなっていく。胃のあたりに重いものが感じられ、それが軽い吐き気を催させる。膝は笑いそうになり、気をつけていないと何もないところで転んでしまいそうだ。

 やがて涼子さんが足をとめたのは、以前にも来たことがある部屋――涼子さんと和也さんのセックスを、目の前で見せつけられた部屋の前だった。そのドアを涼子さんがノックすると、中から男性の声が答える。

「どうぞ」

 涼子さんがドアノブをつかみ、それをひねるのを、僕は刑場にひかれる死刑囚になった気分で見ていた。

「おまたせしました」

 涼子さんが室内の人物に向かって会釈をする。それを背後から見ながら、僕は膝が震えそうになるのを必死で抑え込んだ。

「さ、ヒカルちゃん」

 涼子さんがドアを片手で押さえながら僕を手招きし、それに従って僕はその部屋に足を踏み入れる。

 白いエンボスの壁紙が貼られた部屋には大きな窓から陽光が差し込み、明るい光に満ちている。壁寄りに置かれたベッドと化粧箪笥、衣装鏡に、部屋の中央に置かれたテーブルと椅子もすべて白塗りで、明るくて清潔な雰囲気を演出している。

 部屋の真ん中あたりに置かれた丸いテーブルのそばには椅子が四つ置かれ、そこには二人の人物がいた。

 白衣を羽織り、左胸に顔写真入りのIDカードを兼ねた名札をつけているのは白木和也さん。この病院の勤務医で、涼子さんの弟だ。

 そしてもう一人、和也さんの向かいで椅子から立ち上がり、こちらに振り向いていたのは――僕の兄だった。

「――」

「……光二?」

 兄の声が耳に入り、僕は自分がショックのあまり思考停止していたことに気付く。

 そこからあとは、正直混乱していてよく覚えていない。気が付くと、僕は兄の胸に抱きついて恥も外聞もなく大声で泣いていた。小学生ぐらいならともかく、もうすぐ十七だというのに他人のいる前でこの行動は、あとから思い出すと顔から火が出そうなものだった。

 涼子さんに促された兄がベッドに腰を下ろし、僕も兄にしがみ付いたままその隣に座る。そのままどれぐらいの時間が経ったのか、僕が落ち着いたのを見計らったように兄が話を切り出した。

「なあ光二、落ち着いて話を聞いてくれ」

「……うん、なに?」

「白木先輩たちにお前の事を頼んだのはな――俺なんだ」

「――え?」

 再び頭をハングアップさせた僕に、兄がこれまでの経緯を説明した。

 和也さんが大学で兄の先輩だったこと。

 たまたま兄の務める製薬会社がこの病院に医薬品を卸していて、担当だった兄と和也さんがたまに一緒に飲みに行っていたりしたこと。

 父さんが僕を北海道の伯母さんの所に預けようとしたこと。

 その理由が僕のコスプレをやめさせるためと、兄から引き離すためだったこと。

 それをやめさせようとしても、父さんが聞く耳持たなかったこと。

「――親父たちは、お前が家出したと思ってる。一応警察に届けたりはしているけど、まじめに探すつもりはなさそうだ」

「それって……」

 分かってはいた。父さんも母さんも、僕の事を兄に比べて不出来な子だと思っていると言う事は。それでも――。

「親父と掴み合い寸前までいったんだけど、説得できなくてな。俺はお前の親権者ってわけじゃないから、法律に物を言わせるってわけにも行かないし。で、まあ、白木先輩に相談っていうか愚痴ったんだけどな――」

 兄からその話を聞かされた和也さんが持ちかけたのが、僕を例の薬を使って女の子に変えてしまい、この病院の院長の伝手を使って別人の戸籍だとかを入手する――代わりにあの薬の臨床データを提供する――という取引だった。

「で、でも、なんで……?」

「ああ、あのな、光二、俺はお前を――俺の物にしたい」

「……え?」

「お前が俺のマンションで女装してかわいらしいポーズを取ったり、下着をチラ見せしたりするたびに、我慢してたんだぞ。本当は、抱き寄せて、キスして、押し倒したくてたまらなかったんだ。だけど――」

 兄は、そこから先の話を続ける事は出来なかった。僕の方が抱き着いて、ベッドに押し倒したからだ。僕の初めてのキスは、ちょっとタバコ臭くて、ほんのりインスタントコーヒーの味がするものだった。

                              ●

 兄の手が、恐る恐るといった感じで僕の着ているワンピースドレスのジッパーをおろす。ベッドの上に座って兄に背を向けながら、僕は自分の心臓がすごい勢いで鼓動しているのを感じていた。ドレスの袖から腕を抜きながら、僕は自分の体がおかしく見えやしないだろうかと心配になってきた。

「ね、ねえ、僕の体、変じゃない?」

 振り向きながら兄に尋ねる。インナーカップ入りのビスチェを脱ぎ捨てて、膨らんだ胸を見せながら。

「いや。可愛いよ」

 明るい陽射しの中、僕は兄にすべてをさらけ出す。意識すると急に恥ずかしさが感じられ、僕は自分を抱くようにして両腕で胸を隠した。

 兄がそっと僕の両腕をつかみ、ベッドに押し倒した。僕はそれに逆らわず、柔らかなベッドにあおむけになる。

 両腕を胸から引きはがされ、再び僕の体が兄の目にさらされた。兄の顔が近づき、再び僕たちの唇が重なり合う。兄の舌は僕の唇を割り、口の中へと入ってくる。僕はそれが僕の中を探るのに任せ、自分の舌をそれに重ねた。

 そうしてしばらくして、今度は兄の手が僕の手から離れ、僕の胸のささやかなふくらみの上に重ねられた。

 小さく円運動をするように撫で摩られると、そのあたりからふわふわとした不思議な感覚が広がる。暖かいような、痺れるような――それは紛れもなく、愛撫で感じる快感だった。

 胸をやわやわと揉まれながら、こんなぺったんこな胸で兄を満足させられるんだろうかと考えて、そういえば涼子さんの胸は大きかったなあと思いだす。これは体質の差なのか、それともずっとあの薬を使っていれば僕もあんな胸になれるのか――あとで涼子さんと和也さんに聞いてみようと心の隅にとどめておく。

「あ……」

 兄が体を起こし、僕から離れる。胸と唇からの快感が途絶え、僕は思わず声を上げてしまった。

「……ふっ」

 兄が小さく噴き出し、僕は自分の顔に血が上るのを感じた。ほんの一時間前までは、男に抱かれるなんて考えただけでも悪寒がしていたのに、相手が兄だとこの態度――あまりの変わりように、自分の現金さに少しあきれる。

 そんな僕の胸中などもちろん知らず、兄の手がショーツのサイドに伸びてくる。蝶結びの紐はあっさりと解かれ、ショーツのフロントが僕の腰の上に載っているだけの状態になった。兄の手がそれを取り払い、僕のすっかり固くなっているペニスが空気に触れた。

「おや……」

 それを見た兄が、小さく声を漏らす。自分が興奮していることを知られ、僕の顔がますます火照る。エッチな漫画で女の子が股間を弄られて『濡れてるじゃないか』って言われて真っ赤になるシーンを思い出し、今の自分はまさにあの状態なのだろうと考えた。

 自分ばかり恥ずかしい目に合わされるのが少し悔しい気がして、僕は兄の股間に目をやる。そこにあったのは、僕の物と同じく固くなり、天を指している兄のペニスだ。それを見た途端、僕の心臓がさらに激しく打ち始める。先ほどから僕の心臓はオーバーワークもいいところで、正直言ってこれ以上働かせたら心臓麻痺でも起こすんじゃないかってほどだったのだが、どうやらまだまだ限界には程遠かったようだ。

 それはさておき、逆襲するつもりで自爆した僕の右足の足首を兄は左手で掴み、大きく持ち上げる。当然僕の股間は剥き出しになり、ペニスはおろかアヌスまでもが兄の視線に晒されることになった。

 その姿勢に、僕は涼子さんたちに調教される時に無理やり足を開かされたことを思い出し、びくりと足を強ばらせた。しかしそれは一瞬で、お尻に指やバイブを挿入された時の感覚を思い出し、肛門をひくひくと震わせてしまう。

 兄の視線をそのあたりに感じ、僕は恥ずかしさに目をつぶった。だけどそのことでかえって強く視線を感じてしまい、まるで体の内側まですべてを見られているような気分になった。

「み、見ないで。恥ずかしいよ……」

「ん、ごめんごめん。あんまり可愛かったからな」

「え……」

 右足が解放され、ベッドに下ろされる。そのまま、兄はベッドのそばに寄せられていた椅子の方に手を伸ばした。その椅子の座面には、二つの物が置かれている。

 ひとつはアナルセックス用のローション。

 もうひとつはスキンのパッケージ。

 ふと、それらを置いていくときの涼子さんの『頑張ってね』という台詞と満面の笑顔を思い出す。頑張って、の意味を考えて少し赤面しながら視線を戻すと、スキンをつけ終わった兄がローションのボトルを手に何やら悩んでいた。

「なあ、これってどのくらい使えばいいんだ?」

「あ、うん。こっちにかして」

 ボトルのキャップを開け、左の掌にローションを振り出す。それを右手の中指で掬い取り、僕はその指を自分の肛門に押し付けた。指がずぶずぶと潜り込むのを、僕の肛門は全く拒否しようとはせず、それどころか粘膜で感じる摩擦に確かな快感を感じていた。

 ローションを掬い、お尻の中に塗り込む。指を引き抜き、ローションを掬い、お尻の中に塗り込む。また指を引き抜き、またローションを掬い、またお尻の中に塗り込む。

 何度も繰り返していくうちに、肛門がどんどん解れていくのが感じられる。それどころか、指の太さに不満を感じ、もっと太い刺激を求めているのがはっきりとわかる。自分のお尻がいやらしく改造されてしまったことに、しかし今の僕は何の不満も感じてはいなかった。

 お尻の入り口と中をすっかり潤し、余ったローションを入り口周辺に塗り付けるようにして、僕はすっかり準備を整えた。

「――来て」

 仰向けになり、自分で両膝を抱えて股間をさらけ出す。兄の眼に、固くなったペニスとローションに濡れてひくつくアヌスの両方を晒しながら、僕は間もなくおこることを想像して鼓動を限界まで高鳴らせていた。

「行くよ」

 兄のペニスが肛門にあてがわれ、その先端がすぼまりをこじ開ける。兄がのしかかってくるのに合わせるようにその力が増大し、僕の肛門をどんどん押し拡げてきた。

「あっ、んっ、くっ……」

 増大する一方の圧力に、僕は声を押し殺す。本当は悲鳴を上げたいのだけれど、そうしたらきっと兄はやめてしまう。お尻はきついけど、やめられるのは嫌だ。だから僕は必死に悲鳴を噛み殺した。

 と、いきなり肛門にかかる圧力が弱くなり、兄のペニスが一気に僕のお尻を奥まで貫く。

「ひぐっ!」

 奥を突かれた弾みに変な悲鳴が出た。どうやら亀頭が肛門括約筋の環を潜り抜け、弾みで一気に全部貫通してしまったようだ。

「ふあっ、あっ、はあっ、はっ……」

 深く息を吸い込もうとするとアヌスに力が入り、そこから裂けてしまいそうな痛みが走る。やむを得ず、浅く短い呼吸を繰り返す。

 目を開けると、兄が心配そうな顔で僕を見ている。確かに自分でも、まるで窒息しかけているような呼吸だとは思い、兄が心配するのも当たり前だと思った。

 『大丈夫だから』と言おうとしたのだけど、お腹に力が入れられずにうまく声が出せない。僕は言葉の代わりに、兄に向って笑いかけた。

 そのまましばらく、僕たちはじっと動かずにいた。

「……大丈夫か?」

「はぁっ、うんっ……」

 兄の心配そうな声に、浅い呼吸の下で何とか答える。短いやり取りの後は、またお互いに身じろぎもしない沈黙だった。

 そうやってしばらくすると、だんだんお尻の痛みが小さくなってくるのが感じられる。ずっと押し拡げられっぱなしなのにどうにか慣れてきたというか馴染んできた僕のアヌスが、無駄に緊張をして括約筋に負担をかけずに兄のペニスを受け入れるコツを掴んできたという感じだろうか。

 痛みが無くなっていくにつれて、僕のアヌスを貫く兄のペニスの感触が実感できてくる。

 肛門は押し拡げられ、反射的に収縮しようとする括約筋がペニスの胴体部分、いわゆる竿を締め付けている。気を抜くと勝手に収縮しようとするので、僕は意識的にそこを緩め続けていないといけない。

 その内側ではぎっしりとした充満感が僕を内側から押し拡げ、内臓を下から押し上げられているような圧迫感を与えている。先端が体内のつきあたりっぽいところを押し上げているような感触に、もしこれ以上押し込まれたらお腹が破れちゃうんじゃないかという気がする。

 アヌスで兄のペニスを受け入れるのに慣れていくにつれて、だんだん僕のアヌスが兄のペニスの形を覚えていくような気がする。涼子さんたちに何度も突っ込まれたバイブレーターやディルドーとは違う形、兄の生身のペニスの形――今まさに僕を貫いているそれの形に、僕のアヌスはどんどん馴染んでいっているように感じられるのだった。

「んっ、はぁ……」

 兄が身じろぎし、そのはずみに僕のお尻に力が加わる。ペニスがわずかに後退して、肛門の粘膜がこすり上げられた。

 その刺激が痺れるような快感となって背筋を駆け上がり、僕に声を上げさせる。その声は先程までの苦痛を堪えるものではなく、気持ちのよさが体の中からあふれ出たものだ。いつの間にか深くゆっくりになっていた呼吸に合わせるように、お風呂のお湯に身を沈めた時のような声だった。

「動いても、大丈夫か?」

 兄がおっかなびっくりといった様子で僕に問いかける。

「ゆっくり、お願い……」

 僕の答えも同じようなものだった。あまり乱暴にされたらお尻が壊れちゃうんじゃないか、もしかしたらお腹を突き破られて死んじゃうんじゃないか――僕もそんな風に考えてしまっていたのだ。

「ああ……」

 ずるり、という感じで兄のペニスが僕の中から引き摺り出される。

「ふあっ!」

 肛門の粘膜がゴリゴリと擦り上げられ、強烈な刺激になる。すさまじい快感が僕の脳天まで突き抜け、僕は抑えきれない歓喜の声を上げた。

 兄のペニスがゆっくりと往復し、僕のアヌスをこすり上げる。そのたびに肛門がゴリゴリと刺激され、僕に悲鳴をあげさせる。

 一往復ごとに肛門が削り落とされ、まるで兄のペニスの形に合わせて整形されているように感じられた。一回往復するたびに刺激が変化していき、苦痛から快感に変わっていく。

 兄が一突きするたびに、僕のアヌスは排泄のための穴ではなく、ペニスを受け入れるための雌の穴に変化していく――そんなふうに実感して、その認識自体が僕に幸福感をもたらした。

「あっ、んっ、あんっ、ああっ、ふあっ……」

 僕の喉から出るのはもはや悲鳴ではなく、体の中から溢れ出す快感が音の形を取った嬌声だった。

 ペニスが僕の中で後退して直腸と肛門をこすり上げると、尾底骨のあたりからぞくぞくとした快感が湧き上がり、それが背骨を伝わって上ってくる。

 抜ける寸前まで言ったペニスが今度は前進し、僕の中を再び埋めていく。それに連れてお腹の底に圧迫感が感じられ、ずっしりと重い快感が湧き起こる。

 亀頭が僕のペニスの裏側を通過するあたりで何かの塊――おそらく前立腺だ――が押し上げられ、そこで鋭い快感が爆発する。そのたびに僕のペニスがびくんと震え、先端から液体が漏れ出るのが感じられる。

 そのまま前進を続けたペニスは僕のお尻の一番奥を叩き、内臓全部が突き上げられるようなショックを与えてくる。

 雄の器官に雌穴と化した尻穴を突き上げられて快感にむせび泣きながら、僕はもう、自分が男なのかどうかわからなくなっていた。

 あの薬で体形が変わってしまったとはいえ、僕にはペニスもあれば射精も出来る。だけど、自分以外の男性のペニスを受け入れて喜びの声を上げるというのは、明らかに女性の振る舞いだ。

 そう考えて――僕はもうそれでいいんじゃないかと思った。男同士だと思うから兄を好きなことに罪悪感があるのであって、自分が女ならば兄の恋人でも少しもおかしくない。

 『僕』ではなく、『私』ならば――。

「んっ、光二、大丈夫か……?」

 『お兄ちゃん』は、まともに言葉も出せずに喘ぐだけの『私』のことを気遣ったのか、腰の動きを止めて聞いてくる。

「だ、大丈夫、お兄ちゃん……。もっと、もっと、『ヒカル』のお尻おまんこ、お兄ちゃんの、おちんちんで、気持ちよくして……」

「え――ああ、わかった」

 少しだけ訝しげな声を上げたお兄ちゃんは、再びそのおちんちんで私のお尻を突き上げ始めた。その一突き毎に、私の肛門、直腸、そして前立腺から快感の爆発が湧き起こる。

 私は両手両足を使ってお兄ちゃんにしがみつき、体内で荒れ狂う快感の暴風に耐えた。

 少しでも気を抜いたら意識を持っていかれそうで、だけどそれはもったいなくて――私はお兄ちゃんとの初体験を最後の最後まで記憶に刻み付けたかった。

 そうしてどれくらいの時間がたったのか――数秒だったようにも数十分だったようにも思えた――、突然お兄ちゃんの腰の動きが止まり、私の最も奥まで打ち込んだ状態でおちんちんが静止したかと思うと、その場でびくびくと痙攣する。

 私はお兄ちゃんが射精したことを悟り、スキンがなければ体内にそれが注ぎ込まれていたんだろうなと考え――それを考えた瞬間自分自身も絶頂に達した。

 腰の奥で今までで最大の快感の爆発が起こり、すさまじい熱量になって全身に広がった。体中の毛穴が開き、汗腺から汗が吹き出したように感じられる。同時に頭の底に殴りつけられたようなショックが感じられ、目の前が真っ白な光に埋め尽くされる。

 自分のおちんちんが精液を吹き出しているのを感じながら、私の意識は吹き飛んだ。

 意識が戻って最初に見えたのは、心配そうに私を覗き込むお兄ちゃんの顔だった。

「ん、お兄ちゃん……」

「大丈夫か、こ――ヒカル。気絶してたけど」

「うん、大丈夫だよ……いたた」

 体を起こそうとすると、お尻に痛みが走った。初めておちんちんを受け入れ、激しいピストンにさらされた私のお尻おまんこは、やはりそれなりのダメージを受けているようだ。

「ああ、無理するな」

 お兄ちゃんはそういって私を横にならせた。

 再びベッドに横たわった私の頭を、お兄ちゃんの手が撫でてくれる。その感触がとても気持ちよくて、私は目を細めてそれを堪能した。

 そうやってしばらくしてお尻の痛みも薄らいだころ、私はベッドの上に体を起こし、お兄ちゃんに抱きついた。

「ヒカル?」

「お願い、しばらくこうさせて」

「ああ……」

 お兄ちゃんはクッションに寄りかかると、両腕を私の背に回してくれた。お兄ちゃんの腕の中に収まると、暖かさが私を包み込む。こんな暖かさは、何年も忘れていたような気がした。

 だんだんと、自分がお兄ちゃんに抱かれて処女――と言って良いかは疑問だったが――を散らし、愛してもらったことが実感できてくる。

 お尻おまんこから感じるひりひりとした痛みも、これが破瓜の痛みなのだと思うとむしろうれしくすら感じられた。お兄ちゃんの息づかいと心臓の鼓動が堪らなくいとおしく、ずっとずっとこうして抱きしめていて欲しくなる。

 ぼんやりそんなことを考えていて、自分がすっかり女の子になっていることに私は気づいた。

 きっとこれはお兄ちゃんのおちんちんを受け入れ、始めてを奪ってもらったせいに違いない――と、そこまで考えて、私はもうひとつ気がついた。

 ここに来てからの調教で、私のお尻は色々なおもちゃで開発されてすっかりおまんこにされてしまったけれど、決して本物のおちんちんは使われなかった。もし涼子さんや和也さんのおちんちんで犯されていたら、私はもっと早い段階で屈服していたと思う。そんな事は涼子さんたちも分かっていると思うのだけれど、敢えてそれをしなかったとしたら――。

 涼子さんたちがお兄ちゃんに捧げさせる為に私の本当の処女を取っておいてくれたことに気がついて、われながら現金な話なのだけれど、私はほんの数時間前までは敵意さえ抱いていた人たちに感謝の念を感じていた。

● ● ●

 お兄ちゃんと過ごす日曜日が過ぎ、私は再び一人隔離病棟に残された。

「おはよう、ヒカルちゃん」

「おはようございます」

 朝食を運んできた涼子さんと朝のあいさつを交わす。一昨日の朝までは無視していた涼子さんのあいさつに、私はごく自然に返事を返していた。

 その日も、朝食後少しして私は隔離病棟の『診察室』に連れていかれた。しかし先日までとは違い男性看護師による付き添いはなく、廊下を歩いているのは私と涼子さんだけだった。

「……あの、今日は涼子さんだけなんですね」

「ええ。ヒカルちゃんは、まだ逃げたい?」

「……いいえ」

 『診察室』には看護婦の京子さんと、寺島院長が待っていた。

「じゃあ服を脱いでくれる?」

「はい……」

 涼子さんに促され、私は入院用パジャマのボタンを外していった。素直に涼子さんの指示に従う私を、寺島院長が満足げに見ている。

 ブラジャーも外し、ショーツとスリッパだけの恰好になると、寺島院長の目が気になって仕方がなくなる。私は自分の胸を抱くようにして、両手で乳房を隠した。

「――アンダー差103ミリ、やっとAカップですね」

「ふむ、やはり経口投与だけでは効き目が弱いのか、それとも体質差なのか……」

 私の胸にまかれたメジャーのメモリを読んで、京子さんが寺島院長に報告する。クリップボードに止められた用紙をめくりかえしながら、寺島院長が独り言ちた。

 身体測定と採血が終わると、私はパジャマを着るように指示された。普段ならば、この後下着も一つ残らず剥かれたうえで婦人科用の診察台――調教用拘束台として使われている――の上に追い立てられるのだが。

「では白木君、あとは任せたよ」

「はい、院長。じゃあ戻りましょう、ヒカルちゃん」

 涼子さんに促され、私は『診察室』を後にした。

 もしかしたら、もう調教は終わりなんだろうか、だとしたらこの後私をどうするつもりなんだろう――漠然とした不安を感じながら、私は涼子さんの後についていった。

 病室に戻ると、涼子さんも一緒に入ってくる。普段なら外から施錠されて私は一人でこの部屋に閉じ込められるのだが、今日は朝から普段と違うことだらけだった。

「あの、涼子さん……?」

「ん?」

「あの、ええっと……。今日は……」

 うまく質問がまとまらず、私は言葉を羅列することしかできなかった。

「ああ、心配しないでね。今日から今までとはちょっと違うやり方をするの」

 涼子さんが私に向ってにっこりと笑いながら言う。よく考えればその言葉は、これからも私が調教され続けるといっているわけだけれど、それでも私は内心少しほっとした。

「ねえ、ヒカルちゃん。お兄さんに抱かれて、どうだった?」

「え? ええっと、その、気持ちよかった、です……」

「そう、よかったわね。じゃあお兄さんの方はどうだったと思う?」

「え……?」

 そういえば、お兄ちゃんはどうだったんだろう。私はお兄ちゃんにすごく気持ちよくしてもらったけれど、私はお兄ちゃんを気持ちよくしてあげられたんだろうか? されるがままにお兄ちゃんにお尻おまんこを貫かれて、おちんちんからは精液をぶちまけながら何度もいっちゃったけど、お兄ちゃんの方はどうだったんだろうか?

「セックスするときって、男の人はどんな感じだと思う?」

 重ねて問われた涼子さんの質問に、私は答えることができなかった。男だったころ、私は性体験どころか、女の子と付き合ったこともなかった。もちろんエッチな漫画や Web 上の動画などを見たりしたことはあるし、人づてに体験談などを聞いたことはあるが、自分自身で経験したことは無かった。

「あ、あの、経験したことが、無いんで……」

「うふふ、そうよね。だいたい見ていればわかったけど」

 それは自分の行動が童貞丸出しだったという事なのだろうか。しかしその通りなのだから反論する事も出来ず、私は黙って涼子さんを睨むことしかできなかった。

「あら、そんな顔したら駄目よ。眉間に皺が出来ちゃうわよ」

 涼子さんが私の頬をつつきながら言う。私は顔を涼子さんからそむけ、頬を膨らませた。

「……だからね、ヒカルちゃん。今日はあなたに、ちょっとだけ男の子に戻ってもらうわね」

「え?」

 どういう意味なのか質問しようとして振り返り――私ははだけられたブラウスの間から除く真っ赤なブラジャーと、それに包まれた豊満な乳房に目を奪われた。

 ちゅっ、ちゅっ、と音をさせながら、病室の床にひざまずいた涼子さんが私のおちんちんの先にキスをする。ベッドに座ってパジャマの裾をまくりあげながら、私はその気持ちのよさにはあはあと息を荒げていた。

「んっ、はあっ……。んくっ!」

 刺激が途絶え、一息ついた途端、新たな快感が私のおちんちんを襲う。涼子さんは指先だけで私のおちんちんを摘まむように抑えて固定し、今度は舌でその先端を責め始めたのだ。

 先端からあふれる先走りを舌先で亀頭全体に塗り拡げるようにしながら、同時に涼子さんの唾液がまぶされていく。

「やっ、涼子さん、出ちゃいますっ……!」

「あら、ちょっと早すぎないかしら? まだ咥えてもいないのに」

「だ、だってっ、こんなの初めて……」

「うふふ、そうだったわね」

 涼子さんが私の股間から頭を上げ、上目づかいでこちらを見る。その色っぽい仕草に体が熱くなるのと同時に、こんな綺麗な人が自分のおちんちんに嬉しそうに口をつけているという事実に背筋がぞくぞくするのを感じた。

「じゃあちょっと早いけど、次に行きましょうか」

 床から立ち上がりながら、涼子さんはブラジャーのフロントホックをはずした。大きな、しかも形のいい乳房が転がり出てくるのをみて、私の体はさらに熱くなった。同時におちんちんがひくひくと震えるのが感じられる。

 涼子さんは私をベッドに横にすると、私の顔の上に覆いかぶさるように四つん這いになった。私の目の前に乳房の先端、すっかりとがってピンクに色づいている乳首がさらされる。私は促されるまでもなくそれを口に含み、軽く吸ってみた。

「んっ……!」

 涼子さんが喘ぎ声を漏らす。たったこれだけのことが気持ちいのだろうかと考えて、さっきの自分もおちんちんの先をそっと舐められただけで射精してしまいそうになっていたことを思い出す。だとすると、涼子さんもおっぱいの先を吸われて同じように感じているのだろうか。

 乳首を口に含んだまま、舌を使って口の中でその先端を転がしてみる。涼子さんがビクッと震え、その動きでもう片方の乳房がゆさりと揺れた。

 このおっぱいに顔を挟まれたら窒息して死んじゃうんじゃないかなあ、これって何カップぐらいあるんだろう、と考えて、そういえばさっき測られた自分のおっぱいはAだったなあと思いだす。同じ薬を使われているはずなのに、なんでこんなに差がついているんだろうと考えると、ちょっと悔しくなる。その悔しさをぶつけるように、私は涼子さんの乳首を思い切り吸引し、同時にもう片方の乳房をちょっと強めに揉んでみた。

「あっ、ふあっ、ヒ、ヒカルちゃん、だめっ!」

「ぷはっ、ちょっと早すぎないですか? まだ吸ってるだけなのに」

「も、もう、意地悪ね……」

 さっきの涼子さんの言葉をまねた私に、今度は涼子さんが頬を膨らませる。それを可愛いなあ、と思いながら、さっきの自分もこんな風だったのだろうかと考えてみる。

「ふう、じゃあ、ここからが本番よ」

 体を起こした涼子さんが言う。すでに全裸になっていたその全身が私のお腹をまたぐ形になっており、先端をとがらせた大きな乳房も、ピンと立ち上がって透明な液体をあふれさせるおちんちんも全てが丸見えになっている。荒い息も、汗に濡れた肌も、すべてが涼子さんが興奮しきっていることを示している。

 そして涼子さんは、右手をお尻に回して唯一身に着けたままにしていたものを抜き取った。真黒なゴム製の、お尻をおまんこに改造してそれを維持するための道具――アナルプラグだ。

 常時挿入されっぱなしのそれのために、常におちんちんを受け入れる準備ができている状態になっていたお尻の穴で――涼子さんは私のおちんちんを一気に飲み込んだ。

「あっ、んっ……」

 涼子さんのアヌスが痙攣し、私のおちんちんを締め上げる。連動するように涼子さんのおちんちんも震え、先端からあふれていた蜜が私のお腹にはね飛ぶ。

「りょ、涼子さん、そんなに締め付けないで……」

「んっ、ごめんね、おちんちん気持ちよくて、勝手にこうなっちゃうの……」

 それから涼子さんは、私の上で跳ねるように腰を使い始める。おちんちんをこすりあげられる快感が私を襲い、私の腰も自然に動き始めた。

 涼子さんの体が弾むたびに乳房が踊り、それと同時におちんちんも跳ね回り、先端から蜜をまき散らす。

 頬は上気して赤く染まり、体全体もピンクに色づいているようだ。

 声はと言えばもはや言葉にならない喘ぎ声で、まるで絞殺されている真っ最中か、でなければ交尾する発情期の動物だ。

 涼子さんの『快楽を貪る』という言い回しそのままの姿に、私は背筋がぞくぞくするのを感じた。

 私のおちんちんに体内を侵略されて、涼子さんはほとんど理性を失っていると言っていい状態になっている。まるで私が、ううん、私のおちんちんが涼子さんを支配しているみたいで、今、この時だけは、私が涼子さんの支配者か、所有者であるかのようだ。支配欲、所有欲が満たされる感覚が、私の心を埋め尽くすようだった。

「あんっ、涼子さん、凄く、エッチです、よっ!」

「ごめんね、エッチなケツマンコで、ごめんなさい、おちんちん大好きで、ごめんなさい」

 そう言って謝りながらも涼子さんのお尻は私のおちんちんを離さず、腰の動きはひと時も休まらない。一心不乱に快楽を貪るその姿につられるように、私の方もどんどん昂っていった。

 やがて腰の奥、おちんちんの裏側あたりがむずむずし、尿意を我慢するのにも似た感覚が感じられてくる。

「りょ、涼子さん、私、もう……!」

「んっ、出したい、の?」

「はい、もう、出ちゃい、ますっ!」

「いいわよ、出して、私の中、ヒカルちゃんの精液、全部っ!」

 涼子さんがそういった次の瞬間、私の中の圧力が我慢の限界を超えた。お腹の底で脈動が感じられ、その圧力が熱い粘液を押し出すのがわかる。体内からおちんちんの先端までを、精液が走るのが感じられた。

「あっ、ああっ!」

 涼子さんがひときわ大きい声を上げ、全身をがくがくと震わせる。のけぞりながら自身のおちんちんからも精液を噴出させ、快楽の絶頂を極めている。

「あっ、はあっ、はぁ……」

「わぷっ!」

 いきなり涼子さんの腕から力が抜け、その体が私の上に倒れこんできた。ちょうど私の顔の上に胸が覆いかぶさる形になり、私は二つの肉球に顔を挟まれることになった。

 窒息する! と焦った私は両手で涼子さんの乳房を押しのけようとした。

「あっ、んっ!」

 私の掌が乳首に触れた瞬間、涼子さんがなまめかしい悲鳴を上げる。どうやら、固くしこった乳首に強烈な刺激を与えてしまったらしい。

「りょ、涼子さん、苦しいです!」

「やっ、ヒカルちゃん、駄目えっ!」

 じたばたともがくと、それに合わせるかのように涼子さんがびくびくと震える。このままでは本当に窒息する、と焦った私は、涼子さんの体と上下を入れ替えるように横に転がった。

「あっ、ふあっ!」

 つながったまま強引に態勢を入れ替えたため、私のおちんちんが涼子さんのお尻の中を乱暴に小突き回すことになった。それの刺激が引き金になったのか、涼子さんが全身をびくびくと震わせる。

「やぁ、だめぇ、さっきいったばっかりなのぉ……」

 どうやら涼子さんは絶頂の直後にまた絶頂してしまったらしい。半開きになった唇の端からはよだれを垂らし、瞳は焦点を失っている。おちんちんはびくんびくんと震えて、先端からはだらしなく白濁した粘液を漏らしている。

 柔らかい雰囲気で、優しくて、でも芯はしっかりした感じで――そんな涼子さんが、私のおちんちんと精液でこんな姿になってしまった。

 その事実に、私の背筋に再びぞくぞくした感じが走った。それがおちんちんに流れ込み、射精して少し柔らかくなっていたそれを再び固く、熱くする。

「あっ、ヒカルちゃんのおちんちん、また固く、なってる……」

「ご、ごめんなさい、今抜きます!」

「ん、いいのよ……」

 涼子さんが両手両足で私に抱き付き、おちんちんを引き抜こうとするのを押しとどめる。涼子さんの体の熱さが私に伝わり、その興奮を教えてくれた。

 そうやって抱き合ったままじっとしていると、何とも言えない充実感が私の中を満たしていく。自分がこんな綺麗な人を支配し、犯し、精液を注ぎ込んで絶頂させたという事実が、筆舌に尽くしがたい達成感となっているようだった。

『男の人が女の人を抱くのってこんな気持ちなんだ』

『私を抱いた時、お兄ちゃんもこんな感じだったのかな』

『だったら嬉しいな』

 「男」として「女」を抱く意味を理解して、同時に私の中の「女の部分」も深い満足を覚える。自分が抱かれるときに相手がこんな風に感じているのかと思うと、抱かれることが嬉しくなってくる。世の中には男性に抱かれることでしか充実感を感じられない女性がいるというけれど、その気持ちも今ならよくわかる気がした。

「ヒカルちゃんのおちんちんは、お兄さんのとよく似た感じね。やっぱり家族なのね」

 私に冷や水を浴びせたのは、涼子さんのそんな言葉だった。

「……え?」

「? この間、ヒカルちゃんのお兄さんと――」

「えっ、ど、どういう、こと、なんですか……?」

「え? ええ、ヒカルちゃんとの初めてで失敗したらかわいそうだから、その前に私の体でやり方を教えてあげたんだけど……?」

 そう言われてみると、確かにお兄ちゃんがこの前私を抱いた時、やけに手馴れていたような気がする。

 初めてのアナルセックスでもし何か失敗していたら、私かお兄ちゃんが余計なトラウマを抱えてしまって以後尻込みするようになっていたかもしれない。

 それはわかる。涼子さん(と恐らく和也さん)が好意や親切心でそれをしたのだろうという事も。

 だけど――。

「な、なんでなんですか……」

「え?」

 心臓がどきどきする。胃のあたりがむかむかして、頭の芯には鈍い頭痛みたいなものが感じられる。

「お、お兄ちゃんは私の物なのに……」

 私は涼子さんを無理やり引きはがすと、そのお尻から自分のおちんちんを引き抜く。突き飛ばすようにして身を離し、感情に任せて涼子さんを非難する。

「涼子さんは、おちんちんなら誰の物でもいいんですか……」

「ご、ごめんなさい……」

 涼子さんが気圧されたように謝罪の言葉を吐く。しかしそれがかえって、私の感情の火に油を注いだ。

「あ、謝るなら最初からしないでください! 人のお兄ちゃんに横から手を出して!」

「ご、ごめん、なさい、ごめんなさい、うっ、ひっく、ごめんなさあい……」

 涼子さんがしゃくりあげ、舌足らずな声で謝りながらべそをかき始める。それを見て、私は涼子さんのトラウマだか何だかの件を思い出し、幼児退行してしまった涼子さんが、親に怒られる子供のようにわけもわからず謝っていることに気が付いた。

 それを理解しても、一度火のついた私の怒りは治まらなかった。

「謝っても、駄目です。こっちにお尻を向けてください!」

「はぁい」

 涼子さんはベッドに四つん這いになると、私に向けてお尻を突き出した。涼子さんのお尻の穴はひくひくと震え、さっき私が注ぎ込んだ精液が少し溢れ出している。その、まるでおちんちんを咥えたがって仕方がないような涼子さんのお尻に、私は平手を叩き付けた。

「きゃあっ!」

「反省してください!」

 肉を打つ派手な打擲音とともに、涼子さんが悲鳴をあげた。

「いいですか! 涼子さんは悪いことをしたんですよ! わかってますか!」

「ごっ、ごめんなさいっ、ごめんなさい、ごめんなさい……」

 幾度も繰り返し、涼子さんのお尻を叩く。そのたびに涼子さんは謝罪の声を上げるが、その声はだんだん小さくなり、とうとうすすり泣きを上げ始めた。

「うっ、ひっく、ぐすっ……」

 小さく身を丸め、シーツをつかんで顔を押し付け、ぐすぐすとすすり泣く涼子さん。その姿を見ながら、私は急速に自分の中の炎が小さくなっていくのを感じていた。

 頭が冷えると、自分が八つ当たりも同然の仕打ちをしたことを後悔してしまう。涼子さんがお兄ちゃんとセックスをしたのはあくまで手ほどきのためであり、別に私からお兄ちゃんを奪おうとか、そういう事ではなかった。それはわかっていたのに私は――。

「ごめんなさい、涼子さん……」

 私は涼子さんに謝りながら、そのお尻に自分のおちんちんを挿入した。

「あっ、くうんっ、おちんちん……」

 お尻だけを持ち上げて挿入をしたため、涼子さんの顔はシーツに押し付けられたままだった。だけどその声にはまぎれもない喜びの色があり、幼児同然に退行した涼子さんがお尻を突き上げるおちんちんに喜んでいることがわかる。

「おちんちん、きもちいい……」

 私より背が高く、大きなおっぱいと張り出した腰、そして私よりも立派なおちんちんを持っている涼子さんが、子供のように私にお仕置きされて、今また私のちんちんにおかされて喜びの声を上げている。そのギャップに、私は最前までの怒りも忘れて、妖しい興奮を煽り立てられていた。

 私は体の内から湧き上がる衝動に任せて涼子さんのお尻を抉った。私のおちんちんの動きに合わせるかのように、涼子さんが喘ぎ声を上げる。

「あっ、あんっ、ごめんね、あっ、はあっ、ごめんね、んくっ、ヒカルちゃん、本当に、んっ、ごめんね……」

 涼子さんが喘ぎ声のあいまに私に謝る。その謝罪に、私の方がかえって罪悪感を感じてしまう。

 私はおちんちんの抽送を止め、自分も涼子さんに謝った。

「あの、私の方こそすみません。涼子さんは私のためにしてくれたのに……」

「ううん、私の方も考え無しだったわ。私だってもし和也が誰かほかの人を抱いたりしたらいい気はしないと思うのに、ヒカルちゃんの方の気持ちも考えずに……」

 涼子さんは私から離れ、ベッドの上に転がっていたアナルプラグを自分で挿入した。

「んっ――」

「でも……、涼子さん……、ごめんなさい」

 罪悪感が私の口を重くする。何とか謝りたいのだが、どう言って謝罪すればいいのかわからない。私は『ごめんなさい』の言葉を小さな声で繰り返す事しかできなかった。

 そんな私を困ったように見つめていた涼子さんが、突然私を抱き寄せた。豊かな胸の谷間に私の頭を抱え込むようにして、私の背中をポンポンと叩く。私はその幼児に対するような扱いに少し戸惑いながらも、不思議な安心感に身を任せて涼子さんに抱き付いた。

 どのくらいそうしていたのか、やがて気分が落ち着いてきた私は涼子さんから身を離した。顔を上げると、涼子さんのなんだか嬉しそうなにこにこ顔と目が合う。

「落ち着いた? 気分はどう?」

「はい、ありがとうございます」

 何がありがとうなのかは自分でもよくわからなかったが、謝るのも何か違う気がして、私は謝罪ではなく感謝の言葉を口にした。

 私たちは汗を流すため、病棟の角にある浴室に向かった。

 私はもちろん入院用パジャマ姿なのだが、涼子さんも裸の上にバスローブを羽織っただけの恰好である。足元は二人ともスリッパだ。

 更衣室で全裸になり、そっけない実用本位のシャワーとステンレス浴槽の浴室に入る。

 まずシャワーをさっと浴びてから、二人でお湯につかる。お湯の温度は少しぬるめだけれど(高血圧や心臓病の患者に備えてこうなっているらしい)、それでも疲れた体に心地よかった。

「ふう……」

 浴槽に背中を預けながら、なんとなく涼子さんの方を見てみる。

 桜色に染まった頬が何とも言えない色気を醸し出し、お湯には乳房が浮かんでいる。伏せられた瞼とわずかに開いた唇は、うっとりと陶酔しているような印象だ。髪をまとめたタオルから何本かのおくれ毛が飛び出し、うなじに張り付いたそれがさらなる色気を演出している。

 単にお風呂に入っているだけだというのに色気をあふれさせるその姿に、私は自分のおちんちんに血液が集まっていくのを感じていた。

「……ふう。そろそろ上がりましょうか」

「ふえっ!? はは、はいっ!」

「? どうしたの??」

「なっ、なんでもないです!」

 涼子さんが首を傾げながら立ち上がる。私のちょうど目の前に涼子さんのおちんちんが晒されるが、涼子さんは気にした様子もなく浴槽から出ていった。私はそれを追いかけようとして――。

「……ヒカルちゃん、元気ね」

 勃起しきったおちんちんを涼子さんの目にさらすことになった。頬がかっと熱くなり、頭に血が上ったのがわかる。私は両手で腰を隠し、何とかおちんちんを隠そうとした。

「……くすっ。ヒカルちゃん、椅子に座って」

 涼子さんに言われるままに、私はプラスチック製の浴室用椅子に腰を下ろした。その椅子はいわゆる介護用で、腰を下ろした状態で介護対象者の股間やお尻を洗えるように、コの字を90度回転したような形状になっている。

 何をするつもりなんだろうと思っていると、涼子さんはボディソープのボトルを手に取り、中身を自分の胸に振りかけた。それを両手で伸ばすようにして泡立てると、私の後ろに回って膝をつく。

 次の瞬間、背中に柔らかい感触が押し付けられ、同時に私のおちんちんがそっと握りしめられた。

 涼子さんは泡を乗せた乳房で私の背中をこすりながら、同じく泡だらけの手で私のおちんちんをこすりあげ、もう片方の手でおちんちんとお尻の間の部分をぐりぐりと圧迫する。

 涼子さんが与えてくれる快感におぼれそうになりながら、私はふと、自分のお尻に当たる固い感触に気が付いた。

 涼子さんもおちんちんを固くしていることに気がついて、私は反射的にそれを握っていた。

「ひゃん!」

 涼子さんがびっくりしたのか大きな声を出す。私はそれにかまわず、涼子さんのおちんちんを後ろ手にしごいた。

「はっ、んっ、くんっ……」

「あっ、ふあっ、あっ、くうっ……」

 二人分の喘ぎ声と石鹸まみれの肌がこすれる音、粘液質の水音が浴室にこもる。

 やがて私は限界に達し、涼子さんの手の中に再び精を放った。そのはずみに涼子さんのおちんちんを握る手に力が入ってしまったのがとどめになったのか、涼子さんも絶頂し、私の背中に熱いものをぶちまけてきた。

 二人のはぁはぁという呼吸音と、精液のにおいが浴室を満たした。

「それじゃあヒカルちゃん、また明日ね」

「はい、涼子さん」

 スーツに着替えた涼子さんが病室を後にする。私はそれを見送った後、ベッドにごろりと転がって今日のことを思い返した。

 私のおちんちんにお尻を貫かれて、自分のおちんちんからも精液をあふれさせながら、私の一突きごとに悶える涼子さん。

 私の腰にまたがって、自分で腰を振って私のおちんちんをむさぼる涼子さん。

 お風呂場で、まるで風俗嬢のように私を責める涼子さん。

 涼子さんのいろんな痴態を思い出しながら、そのどれもが私をとてもぞくぞくさせてくれたことを確認する。

 自分をお兄ちゃんに、涼子さんを自分に置き換えて、お兄ちゃんに同じようにしてあげたら喜んでくれるかなあ、と考えつつ、私は枕を抱えてベッドの上を転がった。

● ● ●

「それじゃ白木先輩、“妹”がお世話になりました」

 寺島医院のロビーで、お兄ちゃんが白衣姿の和也さんに頭を下げる。

「いや、こっちもいろいろと臨床データを取らせてもらったしな」

 お兄ちゃんと和也さんが話し込む傍らで、私と涼子さんもお別れのあいさつを交わす。

「じゃあヒカルちゃん、元気で――お兄さんと仲良くね」

「はい――はい」

 涼子さんの台詞の後半はひそひそ声で、私もそれにつられるように声をひそめる。普通に聞けば何もおかしなことを言っているわけではないのだから、別にあたりをはばかる必要もないのだけれど、『仲良く』という言葉の本当の意味を考えると、ついつい小声になってしまうのも仕方がない。

 最後にもう一度会釈をしてガラスの自動ドアをくぐると、明るい陽射しが私の目を細めさせる。前にこうやって直接太陽の光を浴びたのはいつだったか――ほんの数週間前のはずなのに、まるで遥か大昔のように思えた。

 だけどそれも当然かもしれない。

 あの時の“僕”はもういなくて、ここにいる“私”は男の物を受け入れる喜びを知った“女”で。

 そんなことを考えて、つい足を止めて空を見上げていた私に、数歩先で振り返ったお兄ちゃんが声をかけてくる。

「ヒカル? どうした?」

「あ、ううん、何でもないよ、お兄ちゃん」

 私は足早に歩を進め、お兄ちゃんの横に並んだ。少しだけためらった後、お兄ちゃんの腕に自分の腕をからませる。

 寺島医院の敷地を出たすぐそこにある、『寺島医院前』というわかりやすい名前のバス停。時刻表によれば後二、三分で来るはずのバスを待ちながら、私はお兄ちゃんの腕をぎゅっと抱いた。

 マンションのお兄ちゃんの部屋に入る。背後で扉が閉まり、お兄ちゃんが鍵をかける。これでもう、誰も私たちの邪魔をすることは無い。

 靴――涼子さんに買ってきてもらった女物のパンプスだ――を脱ぎ、スリッパに履き替えるのももどかしく、私はお兄ちゃんに抱き付いた。お兄ちゃんも私の体に腕を回し、私たちはそのまま唇を重ねた。

 お兄ちゃんの舌が私の口の中に入ってくる。私はそれを受け入れ、自分の舌をお兄ちゃんのそれに絡みつかせた。二人の舌が絡み合い、お互いの舌を、歯列を、口腔内を嘗め回し、唾液を混ぜ合わせる。

 どのくらいの時間そうしていただろうか、とうとう息苦しくなった私たちが唇を離すと、唾液の糸が二人を繋いでいた。

「ヒカル……」

「あ、待って。先にシャワー……」

「あ、ああ、そうだな」

 お兄ちゃんが私の肩を抱き寝室に向かおうとするが、私はそれを押しとどめる。

 私も本音を言えば、今すぐにでもベッドに横たわり、お兄ちゃんに全てを晒したかった。しかし、初夏の日差しの中を歩き、わずかにだが汗ばんでいる体で抱かれるのは恥ずかしかったのだ。

 先にシャワーを浴びた私は、全裸のままベッドの上でお兄ちゃんを待つ。カーテンを閉め、照明も消したベッドルームは薄暗く、そのどこか隠微な雰囲気に私は鼓動が高鳴るのを覚えた。

 シャワーの音、それが止まりバスルームの扉が開け閉めされる音、バスタオルで体をぬぐう音、脱衣所の扉が開け閉めされる音、廊下を歩く足音……。その一つごとにどんどん心臓が早くなり、寝室の扉が開けられたときには爆発するのではないかと思うほどだった。

「ヒカル……」

「お兄ちゃん……」

 ベッドに腰を下ろしたお兄ちゃんが再び私を抱き寄せる。それに従ってお兄ちゃんに身を寄せ、私は今度は自分からキスをした。

 再びたっぷりとキスをした後、お兄ちゃんは私をベッドに押し倒した。バスタオルがゆっくりとはぎとられ、私の裸身があらわにされる。

「あ……」

 その時私は初めて、自分のペニスが固くとがり、先端から滴るほどの蜜を溢れさせていたことに気が付いた。瞬間的に頭に血が上り、頬が火照ったのが感じられる。多分お兄ちゃんから見たら、私の顔がいきなり真っ赤になったように見えるだろう。

 お兄ちゃんはくすりと小さく笑うと、腰に巻いたバスタオルを外した。その下にあったのは、私の物に負けず劣らず怒張したペニスだった。

 ゆっくりと私にのしかかり、お兄ちゃんは今度は私の胸に吸い付いた。

「あっ、はあ……」

 涼子さんたちに調教されてすでに立派な性感帯になっている乳首から弱い電気のような快感が沸き起こり、背筋を伝わってくる。私は反射的にお兄ちゃんの頭に両腕を回し、胸に押し付けるように抱きしめた。

 お兄ちゃんは私の左胸の乳首を口と舌で攻めながら、もう片方を人差し指と親指でつまんで転がした。

「あっ、あっ、くうん……」

 両胸から間断なく快感の電撃が流れ続け、背筋を伝わって私の全身に広がる。特にそれが集中しているのが腰の奥で、私のペニスはびくびくと震えながら間断なく蜜を溢れさせ、アヌスはパクパクと収縮してそのたびに骨盤の底のあたりからじれったい快感を呼び起こしている。

 私はいつの間にか全身が性感帯になったように敏感になり、お兄ちゃんが乳首を一舐めするたびに、あるいは指先で一つまみするたびに全身をびくんと震わせて反応していた。

 突然、私の片足が持ち上げられ、股間を大きくさらす姿勢がとらされた。お兄ちゃんの腕が私の足を持ち上げ、肩に担ぐようにしたのだ。

 ペニスとアヌスの中間、会陰部に掌があてがわれ、ゆっくりとマッサージされる。

「んっ、んんっ!」

 お兄ちゃんの掌が動くたびに、骨盤の底からの快感が爆発する。射精をしたときのような快感がそこから連続で湧きあがり、胸からの快感と一緒になって私の全身に広がっていった。

 同時にお兄ちゃんの指先は私のアヌスをぐりぐりとこじり、こじ開けられるような、その寸前のような快感を後ろの穴に与え続ける。

 体中の感じるところを責められて、しかし一番気持ちよくなれる部分はその寸前までしか責められない――気持ちよさとじれったさに、私は理性が真夏のアイスクリームのようにとろけていくのを感じていた。

「お、おにいちゃあん……」

「ん? どうした?」

「お、お尻……、もっと……」

 私のはしたないおねだりに対するお兄ちゃんの返答は言葉ではなく、指の動きだった。

 ずぶり――中指の先が私の肛門を突破してもぐりこんでくる。反射的に括約筋がそれを締め上げるが、それ自体がまた快感となり、腰の奥にわだかまる熱を増幅させた。

 すっかり性器へと変貌している私のアヌスは、もはやどんな刺激を受けても性的快感を感じる状態になっているようだ。事実、お兄ちゃんの指がわずかに動くたびにそこは反応し、間断なく快感を感じている。収縮を繰り返している肛門はまるで、自らお兄ちゃんの指を飲み込もうとしているようだった。

 と、突然――腰の奥の熱が膨張し、爆発となって私のペニスの先端から噴き出した。

 ペニス自体には指一本触れられず、胸とアヌスを責められて絶頂し、私はお兄ちゃんの頭を抱いたまま全身をぶるぶると震わせた。

「あっ、ふあっ、あっ、はあっ、んっ……」

 悲鳴を噛み殺して、絶頂が体を貫くのを耐える。全身がびくんびくんと震え、アヌスはお兄ちゃんの指をぎちぎちと締め付けた。

 やがて絶頂のピークが過ぎ、それと同時に全身から脱力した私はベッドに横たわった。しかし自由に動かない私の体は、私の意思を無視するかのようにびくびくと震え、腰は勝手にうねってお兄ちゃんの指の感触を味わっている。

 やがて少し落ち着いてくると、お兄ちゃんが私の中からその指を引き抜いた。

「あ……」

 思わず声を上げてしまってから、エッチな部分から指を引き抜かれて物欲しそうな声を上げるという、とても恥ずかしい行動を自分がしてしまったことに気付く。

 そんな私の胸中など知らぬげに、お兄ちゃんは私の両足の間に位置を移すと、片手で私の足を持ち上げ、もう片方の手で掴んだ自らのペニスを私のアヌスに押し当てた。

「……いくよ、ヒカル」

「うん、来て、お兄ちゃん……」

 最初にゆっくりと私のアヌスが押し広げられてゆく感触が伝わってきて、私は大きく息を吸いながら意識して肛門括約筋を緩める。私のアヌスはどんどん押し広げられ、私は自分が侵入され、征服されていく感触を実感した。

 やがて一番太い部分が肛門を通り抜けると、お兄ちゃんは少しづつ私の中に入ってくる。その動きに合わせて私は下腹部に力を入れていきみ、半ば自分から呑み込むようにしてお兄ちゃんを迎え入れた。

 このお尻の使い方は、寺島医院に居る間に涼子さんに教えてもらったものだった。

 アヌスの構造は女性の膣とは違うので、性器として男性を受け入れ、喜ばせるためには色々とテクニックが必要になる。お兄ちゃんの物とほぼ同じ大きさのディルドーを練習台に、そして涼子さんのアヌスを教材にして、私はそれを涼子さんから学んだ。

 そうして根元までスムーズに入ったお兄ちゃんのペニスの感触が、自分が再びお兄ちゃんの物になったことを実感させてくれる。体の中心に熱く、太く、硬い柱が打ち込まれたようで、自分がそれの付属物になってしまったようにすら感じられた。

「あっ、くっ、ふぅ……」

「ん、大丈夫か?」

 私の漏らす声が苦痛をこらえているように聞こえたのか、お兄ちゃんが心配げに問いかけてくる。

「ん、平気、気持ち良くって……」

「そうか……」

 そう言ってお兄ちゃんは顔を寄せると、私の唇に自分のそれを重ねてきた。私は再びお兄ちゃんにしがみ付き、自分から舌を入れてキスを貪った。そうやって重なったままお兄ちゃんは腰を使い始め、私は両手両足でお兄ちゃんにしがみ付きながら、一突きごとに全身を貫いていく快楽を味わった。

 アヌスの中をひとこすりされるたびに湧き上がる快感は、一回一回が自分でペニスをいじって射精するのに匹敵するものだった。

 浅く、入り口近くを短いストロークで攻められると、じれったさに奥の方がきゅんとした。

 角度を変えてペニスの裏側あたり――ちょうど前立腺に当たるところ――を突き上げられると、目の奥がちかちかするような鋭い快感が突き抜けた。

 いきなり奥底の部分を突き上げられると、重くて熱い快感がずしりという感じで私の全身を貫いた。

「あっ、ああん、あっ、あーっ、んああっ、ひんっ!」

 もはや声を噛み殺すことなど出来ず、私はお腹の底から絞り出すように嬌声を放った。私は最早、お兄ちゃんのペニスに弄ばれるオモチャのようなものだった。

「はあっ、くっ、ヒカル、いくぞっ!」

「来てっ、来てっ、私の中に、来てえっ!」

 ついに限界がきて――私たちは同時に絶頂に上り詰めた。

 お兄ちゃんの動きが止まった次の瞬間、私の中でペニスがぐっと膨れ上がり、その先端から熱い液体を放ったのが感じられた。それを感じた次の瞬間、私の腰の奥で何かが爆発し、私は全身がかっと燃え上がり、頭の中が真っ白になる感覚に襲われた。全身を満たし、意識を圧倒するエクスタシーに、私は痙攣しながら背筋をのけぞらせた。

 最初の射精の後も、お兄ちゃんはぐいぐいとペニスを突き込んできた。そのたびに私も二度目、三度目の絶頂に襲われ、声にならない声で鳴き続けた。

● ● ●

 寺島医院を『退院』した私は、お兄ちゃんのマンションで同居生活を始めた。幸い独身者用などの入居条件があるマンションではなかったので、入居契約を事後変更してご近所と管理人さんに――もちろん実家には秘密だった――挨拶をするだけで済んだ。

 一週間に二回寺島医院に通って予後検査を受けているけれど、今のところ体にも異常は見られない。ご近所には軽い持病があると説明してあるので、いろいろと心配されたり気を使われるのが少し心苦しかったけれど。

 毎日、朝ご飯とお弁当を作り、毎日出勤していくお兄ちゃんに手渡す。

 昼間は家事をして、家を快適に保つ。今までは男の一人暮らしにもれず、掃除や片付けが行き届いていなかった家の中をきれいに片付け、ちょっとした飾りつけなどもしてみる。

 夕方になったら晩御飯を用意しながらお兄ちゃんを待ち、お風呂の用意もしておく。

 そして夜――私とお兄ちゃんは毎日愛し合う。普通に愛し合うだけではなく、色々な楽しみ方をすることもあった。

 裸の上にエプロンだけつけた格好で、寝室ではなくダイニングキッチンのテーブルに手をついて後ろから貫かれた時には、私の出した精液でエプロンとフローリングが汚れてしまい大変だった。でも、お兄ちゃんがすごく興奮して楽しんでくれたので、またやってあげたいなと思った。

 メイド服を着て、ソファに座ってもらったお兄ちゃんの前に跪いてフェラチオをした時は、口に出された精液をこぼさないように一生懸命飲み込んだ。何しろここでこぼしたらカーペットの掃除が大変だから。

「んっ、ぷはぁっ。ご主人様、全部飲みました……」

 そう言いながら上目づかいでお兄ちゃんを見上げ、口を開けて全て飲み込んだことを確認してもらう。その後は私がお兄ちゃんにまたがる格好でソファの上でつながり、お尻にもたっぷり注ぎ込んでもらいながら自分も射精をした。

 魔法少女のコスチュームに身を包んでロープで縛りあげられてお尻を突き出し、自分では身動きできない状態で何度も逝かされたこともある。何度も『いやあ、やめて!』という私のアヌスをお兄ちゃんのペニスが抉り、絶頂しても絶頂しても犯され続けて最後は手足にも腰にも力が入らず、ベッドの上に転がったまま全身をびくんびくんと痙攣させることになった。

 ちなみにこの時のコスチュームは元々安物だったせいか、あちこちの縫製がほつれたり飾りボタンが取れてしまったりした。ショーツもウェストが伸びてしまった上に私の精液でドロドロに汚れてしまったので、コスチュームとまとめて廃棄した。お兄ちゃんは私に謝って新しいのを買ってくれるといったのだけれど、お兄ちゃんが楽しんでくれたのだから、私はそれだけで満足だった。

「はい、おに――光一さん」

 お兄ちゃんに弁当箱を手渡しながら、私は目を閉じて唇を突き出した。

「ああ、じゃ、行ってくる」

 お兄ちゃんがお弁当を受け取り私の唇に自分のそれを重ねたちょうどその時、廊下を挟んだ向かいのドアが開く音がした。

「じゃあ行ってくるよ、茉莉香」

「行ってらっしゃい、敬一さん」

 あちらからはキスしている私たちが丸見えのはずだけど、私はそんなことは気にせずにお兄ちゃんとのキスを楽しんだ。

 お兄ちゃんが私から離れ、手を一振りしてからエレベーターホールに向かう。その背中を見送ってから視線を戻すと、お向かいの奥さんと目が合った。あらためて意識すると、さすがにちょっと恥ずかしい。会釈を交わしてドアを閉じると、私はドアに背を預けてしゃがみこんだ。思わず両手で顔を覆い、じたばたと暴れたいのをこらえる。

 少しして気を取り直すと、私はキッチンの片づけを始めた。スポンジに液体洗剤を垂らしながら、今夜はどんな格好でお兄ちゃんに愛してもらおうかな、と私は考えた。

―了―

* コスプレしてみよう *

リリ ゚〜゚)  「うーん……」 ゴソゴソ
从 ・∀・ノ 「あら、どうしたの、ヒカルちゃん。そんな恰好で」
リリ ・ー・) 「あ、涼子さん。実はですね、撮影会用にとってもかわいいコスプレ用の見せ下着を買ったんですが……」
从 ・∀・ノ 「ちょっと派手だけどかわいいわね。それで?」
リリ ////) 「それが、おちんちんがどうしてもはみ出ちゃうんです……」

    `      !   / /              |
    `、    l  | /              |
     ヽ    l /             l
       `、   V             j
         、  `、            ,'
       〉、  ヽ     '     /
      /ノ    l    ,'      / __
      ' {      {    {      r'´::ハ
     { ゝ   ,r-ソ   `、   r/`=ァ'
     |/乙.ィノ` ‐- 、_  \ ノ ,,/
     レ'´       ̄`ヽ `''ーヽ、 ,イ
      i           \( ヽノノ|

从 ・∀・ノ 「ああ、なるほどね。そういう時はこういうやり方があるわよ。タックって言ってね――」

  ゴソゴソ、ムギュムギュ、ペタペタ

リリ ゚∀゚)  「うわあ、すごい! おちんちんが完全に隠れちゃった! これで超ミニのコスチュームでも平気です!」
从 ・∀・ノ 「うふふ、撮影会がんばってね」

          :
          :

リリ T〜T) 「涼子さーん……」
从;・∀・ノ 「ど、どうしたの?」
リリ T〜T) 「お尻のあたりを撮影されてる時に、おちんちんが大きくなってテーピングがはがれちゃいました……」
从;・∀・ノ 「あらあら」


* とある病院の診察日 *

リリ ・ー・) 「涼子さん」
从 ・∀・ノ「なあに、ヒカルちゃん」
リリ ・ー・) 「私が使われたお薬って、涼子さんも使われたのと同じなんですよね」
从 ・∀・ノ「ええ、特に違いはないはずよ」
リリ TーT) 「なのにどうしてこんな違いがあるんですか!」

  ドーン   ペターン
( ・ 人 ・ ) ( ・  ・ )

从;・∀・ノ「え、ええっと、体質の違い……?」
リリ TーT) 「ずるーい!!」

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル