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Slave night

 ぱあん!

「うあっ!」

 破裂音とともに私の臀部に痛みが走る。

 ぱあん!

「くうっ!」

 衝撃に背筋がのけぞる。 しかし全裸で両手首を手錠で縛められ、天井から吊るされている私にはそれ以上の身動きは出来ない。

 ぱあん!

「ひっ!」

 再びスパンキング・パドルが振り下ろされ、破裂音が響いた。

「ふふっ、パドルの味はどう?」

 背後から声がかけられる。 声色自体は穏やかながら、有無を言わせぬ威圧感を含んだ声だ。

「いたっ、痛いわ、もう、やめて……」

 私は途切れ途切れに言葉を返す。 何度も叩かれた尻肉は熱を持ち、じんじんとした痛みを訴えている。 その痛みに、私は一声発するたびに喘いでしまう。

「あんたが強情を張るのをやめれば、こっちも直ぐにでもやめてあげるわよ」

 私の背後に立ってスパンキング・パドルを弄んでいる女性――ユカが言った。

「ほら、言いなさいよ――アキと別れますって。 そうすれば今すぐ解放してあげるわよ」

「……絶対に嫌!」

 私は迷わずに答えを返す。 ユカがどんな顔をしているのかはこの位置では見えない。 おそらく、例のチェシャ猫のような笑いを浮かべているのだろうと思うが。

「ふふん、本当に強情ね。そうこなくっちゃ面白く無いわ」

 ユカが楽しそうに言う。 その声音に私は、猫と言うより虎かライオンが舌なめずりをしている様子を連想した。

● ● ●

 テレビのモニターの中で、私が二人の男に弄ばれている。 口とアヌスを犯されながら自分のペニスからは精液を垂れ流すさまは、淫靡そのものだ。 やがて二人の男は私の中に精を放った。

 両手両足を雁字搦めに縛られた私は、ベッドの上で身動きできずにそれを最後まで 鑑賞させられた。

「あんたがこんなものに出演してたなんてねえ」

 ユカが私の背後から囁きかける。 しかし、ボールギャグを銜えさせられた私は言葉を返すことが出来ない。

「アキがこれを見たらどう思うかしらね」

 ユカが私を言葉で嬲り続ける。 私は涙を流しながら、首を横に振ることしか出来ない。

「あら、自分のあんなのを見て興奮したの?」

 ユカが私を後ろに引き倒す。私は両脚をM字に開いたまま、仰向けに倒れた。

「……こんなに硬くして、先走りを溢れさせて」

 ユカが右足で私のペニスを踏みつける。 足の裏全体でペニスを刺激しながら、指先で亀頭部をこねるように弄り回す。 不安定なベッドの上で、よくそんな器用な動きが出来るものだと感心させられる。

「このチンポでアキを可愛がってるのよね――踏み潰しちゃおうかしら?」

 ユカが右足にわずかに体重をかける。 強烈な圧迫がペニス全体に加わった。

「! ん、んん〜〜〜っ!!」

 ユカが右足をぐりぐりとこじる。 強烈な刺激に、私は限界を迎えてしまう。

 どぷっ

 熱い精液が迸り、私の腹と、ユカの足を汚した。

「あらあら、汚れちゃったわ――綺麗にしなさい」

 ユカの足が私の顔を踏みつける。 マットで靴の汚れをふき取るように、ユカは私の頬で足裏の精液をぬぐいとった。

● ● ●

 両腕を後ろ手に縛られ、ベッドの上にうつ伏せに転がされる。 背後からユカがのしかかり、ストラップに装着したディルドーの先端を私のアヌスに押し当てた。

「いっ、いやっ、やめなさい、やめてっ!」

 私は芋虫のように這いずってそれから逃れようとするが、フィットネスクラブで鍛えた筋力で押さえ込まれてしまう。

「ふふん。ほらほら、もっと頑張って抵抗しなさいよ」

 ユカは私が無駄な抵抗をするのを楽しんでいる。 所詮、この体勢で逃げろというのが無理な話だ。 儚い抵抗だが、私は諦めずに身をよじらせた。

● ● ●

 私のアヌスを貫くディルドーが淫猥な水音を立てながら抽送される。 その一往復ごとに私の体内を快感が貫く。 ユカが激しい腰使いで私を容赦なく責めたてる。

「あっ、あっ、んんっ、んあっ、あんっ」

「あはは、ずいぶん気持ちよさそうね!  こんなオモチャでケツ穴抉られてよがるなんて、あんた本物の淫乱よね!」

 私を言葉で嬲りながら、ユカはいっそう激しい腰使いで私を責める。

「はっ、はあっ、も、もうだめっ、だめえっ!」

 どくん

 再び限界を迎えた私は、ペニスから今日二度目の精を解き放った。 快感が体の芯を貫き、私は全身を痙攣させた。

● ● ●

 シャワーでお互いの体を流す。二人とも無言だ。 椅子に座るユカの背中を流してあげている時、ユカが小声でぽつりと言った。

「ごめんなさい……」

「……いいのよ」

 私はシャワーヘッドを置くと、ユカの肩を背後から抱きしめた。

 ユカの中にある、本人には抑えきれない嗜虐性。 私の体で発散させてあげられるのなら安いものだ。 私は自分の体温でユカを暖めるように、ぎゅっとその体を抱き締め続けた。

● ● ●

「あ、おはよー、リカちゃん、ユカ先輩」

「おはようございます、お姉さま、リカさん」

 アキちゃんとユキちゃんと、エレベーターの前で落ち合った。 二人とも満ち足りた感じの笑顔で笑っている。

「おはよう、二人とも。ユキちゃんなんだかすごく幸せそうね?」

「えへ、わかります? じつはお姉ちゃんと一晩中ですねえ――」

「ちょっ、ユキちゃん、そういう事おっきな声で言わないで!」

「なによ、言えないような事してたわけ?」

 ユキちゃんの台詞をさえぎったアキちゃんにすかさずユカが突っ込み、アキちゃんが赤くなりながら言い訳をする。

 平和でのどかな光景。 私は心の片隅で、このささやかな幸せがいつまでも続きますように、と祈りを捧げた。

―了―


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