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リカのお仕事・2

「ありがとうございます」

 店を後にするお客さまの背中に向かって頭を下げる。 今の女性客で、今日の営業は終わりだ。

 レジカウンターの背後の壁に目をやると、壁掛け時計が午後八時五十分を指している。 閉店まで後十分。 既にデパートの館内放送は閉館のアナウンスを流している。

「ご苦労様、リカちゃん」

 ため息をつきながら肩を叩いていると、背後から声がかけられた。

「あ、オーナー。お疲れ様です」

 声をかけてきたのは、私の働くブティックチェーン「フローレス」のオーナーの狭山さんだった。

 フローレスの三越○○駅前店内のテナント、通称駅前デパート店は、 普段は支店長と私、二人のアルバイトで営業しているのだが、 今日はオーナー直々の視察があり、私達は少々緊張しながらの業務だった。

「本当に手際がよくなったわね。お客様への対応もいい感じだったわよ」

「ありがとうございます」

「この分なら、そろそろ氷川さんを本店に引き抜いても、あなたに任せて大丈夫そうね」

「え……。店長が、異動なんですか?」

 バックヤードにいる支店長の氷川さんの方を見る。 氷川さんは業務日誌から顔を上げると、私にウィンクを飛ばしてきた。

「営業部長が来年で退職の予定でね、幹部を補充しなきゃいけないのよ」

「そうなんですか。でも、私なんかで……」

「勿論、あなたの意向は尊重するし、もしそうなったらきちんと研修を受けてもらうから、心配しなくても大丈夫」

「はい……」

 話をしながらも、閉店の作業は続けられる。 私とアルバイトの娘でハンガーやラックを整理し、シャッターをおろす。 氷川さんは業務日誌を書き込み終わると、書類を整理する。 最後の点検作業が終わったときには、時計は九時半過ぎを指していた。 アルバイトの娘は先に退勤し、バックヤードにいるのはオーナーと支店長、そして私の三人になっていた。

「リカちゃん、来週なんだけど……」

「はい?」

 オーナーの声に切れがない。 普段はテキパキとした喋り方をする人だけに、何か言いづらい事を言おうとしているのだと分かる。

「大事なお客様があるの。あなたに、特別な接待を頼みたいんだけど……」

「……はい」

 やはり、というのが正直な気持ちだった。 既に何度か繰り返されたことだ。 私は了解の言葉を返した。

 支店長が、対照的に非難のこもった視線をオーナーに向ける。 彼女もオーナーが言外に込めた意味を知っているのだ。

「ねえリカちゃん、狭山さんも言ってるでしょう? 嫌なら断ってもいいのよ?」

「大丈夫です、店長。このぐらい平気ですから」

 私は支店長に、わざと明るい声で答える。 『平気平気』と自分に言い聞かせながら、胃のあたりに感じる重い塊をあえて無視した。

 『特別な接待』というのは身体を使った接待の遠まわしな言い方だ。 いわゆる枕営業と言い換えてもいい。

 最初は、私達の側から持ちかけたものではなかった。

 あるとき、私は営業研修の一環で、オーナーと一緒にとある衣料ブランドのデザイナーを接待していた。 そのとき、そのデザイナー氏が私が女性ではないことに気づいた。 彼は、私を一晩自由にさせれば来シーズンの新作の一部を「フローレス」に独占供給すると持ちかけてきた。

 無論そのときは、オーナーは断った。 ところが、へそを曲げたデザイナー氏が、それならば供給契約を打ち切ると言い出した。

 ブティックチェーンにとってブランド衣料品やグッズの供給契約は死活問題だ。 人気の商品が他店にしか無いとなれば顧客離れを引き起こしかねない。 逆に独占商品があれば、顧客のロイヤリティーを強化して固定客化することも出来る。

 板ばさみになって悩むオーナーを見かねた私は、デザイナー氏の要求を独断で受け入れた。 結果、新作の一部を独占できた「フローレス」は、そのシーズンにチェーン全体で10%以上の増収、さらに20%近い増益を果たした。

 勿論この利益は、まっとうな営業努力の結果得た物とは言いがたい。 私はオーナーに謝罪した。 今まで正当な努力だけでチェーンを育ててきたオーナーを侮辱したも同然だと思ったからだ。

『すみませんオーナー、勝手なことをして』

『ううん、いいのよ。それよりリカちゃん、自分をもっと大切にしなさい。 貴女の恋人がこれを知ったら、きっと悲しむわ』

 私はこのとき、オーナーが自分のプライドのことではなく、私の身を心配してくれていた事に感謝した。

 私はオーナーに、狭山さんに借りがある。

 失踪した父が闇金融に残した多額の借金。 それを返すために私は身体を売っていた。

 男娼に始まって、言われるままに体を弄ってニューハーフになった。 客を取るだけではなく、いかがわしい写真集やDVDも作られた。 それらはいわゆる裏物というやつなので、おおっぴらに流通したりはしていないが。

 それでも借金の残額はなかなか減らない。 元の額が大きいために、利息分の返済だけで毎月かなりの額になっていたからだ。 私は正直、絶望しかけていた。 そのころ恋人が出来ていなかったら或いは自殺していたかもしれない。

 そんな時にたまたま知り合ったのが狭山さんだった。 私の通っていた服飾専門学校に特別講師として来た狭山さんと、私は親しくなった。 狭山さんによると、将来有望な社員候補を探していて私に目をつけたのだという。

 最初は私を女性だと思っていたそうで、私がニューハーフだと知ってひどく驚いていた。 しかし私の事情を知ると、狭山さんは借金の残り全額を立て替えてくれた。 条件としては、卒業後は「フローレス」に就職すること、そして立て替えたお金は給料から返済することだけだった。 私から見れば、就職先が確保できた上に無利子のところに借り替えられたようなものだ。

 「フローレス」は、オーナーの知り合いが経営するニューハーフパブの従業員たちのひいきの店だ。 その伝手(つて)もあってお客にニューハーフや女装者も多い。 そういうお客に十分な対応をするために、社員にニューハーフの人間を雇おうかと考えていたところに私と出会ったのだという。

 こうして専門学校卒業後「フローレス」で働き始めた私は、恋人のアキちゃん(この娘もニューハーフだ)と同棲しながら充実した日々を過ごしている。

 私は今の生活を守りたい。

 そして、狭山さんに少しでも恩を返したい。

 そのためなら、いまさら身体をわずかばかり自由にさせるぐらいどうという事は無い。 どうせ、数え切れないほど男たちに弄ばれてきた身体だ。

● ● ●

 明日はいよいよ接待という日、早めに休むようにという事で私は七時ごろに帰宅した。

「あ、リカちゃんおかえりー」

 お鍋をかき回しながらアキちゃんが振り返った。

「ごめんねー、今手が離せなくて玄関にいけなかったよ」

「あら、いいのよ。それより、今夜はシチュー?」

「うん。リカちゃんの好きなシーフードだよ。あと少し煮込めば出来上がり」

「じゃあその間にシャワー浴びてくるわね」

 バスルームでシャワーを浴び、ゆったりした室内着に着替える。 ダイニングキッチンに戻ると、アキちゃんがお皿を並べているところだった。 テーブルの真ん中では、シチューのお鍋が湯気を上げている。

「じゃーん、今晩はシーフードシチューとピラフにしてみました」

「今日も美味しそうね」

「だって、ボクの愛情がこもってるもん!」

「うふふ、ありがとう。じゃあ早速頂きましょうか」

 遅めの夕飯を食べながら、アキちゃんとお話をする。

「明日は、遅くなりそうなの。たぶんご飯食べてくるから、アキちゃんは先に寝てて」

「うん、分かった。お仕事いつも大変だね」

「平気よ。きっと可愛い奥さんのために頑張る旦那さんってこんな感じなのね」

「え〜、じゃあボク達、夫婦みたいなもの?」

「アキちゃんは奥さんね」

「じゃあ今度、裸エプロンでもやってあげようか?」

「風邪ひかないでよ?」

「くすっ、やるなとは言わないんだ……」

 アキちゃんの笑顔を見ながら、私はかすかな罪悪感に襲われた。

 アキちゃんは、私は体を売るような仕事からは完全に足を洗ったと思っている。 それなのに、私は明日、体を売るも同然のまねをする。 嘘をついているという事実が、小さな棘となって私の胸を刺した。

 アキちゃんと一緒の生活を守るためなんだ、と私は自分自身に言い聞かせ、胸の痛みを押し殺した。

● ● ●

 ホテルのレストランについたのは十一時三十分ごろだった。 会食は十二時からの予定だが、早めに来ていて悪いということは無い。 私とオーナーは予約してあったテーブルでコーヒーを飲みながら相手を待つ。

 十二時少し前、ウェイターに案内されて二人の男性がやってきた。

 「フローレス」に服飾品や雑貨を供給しているブランドのひとつのオーナー兼デザイナーと、その秘書だ。 顔写真は見せられていたが、実際に合うのは初めてだ。

「やあ、お待たせしたかな?」

「いえ、私達も来たばかりですわ」

 席から立って一礼し、挨拶を交わす。デザイナー氏が私を一瞥してオーナーに尋ねた。

「そちらの、ええと、お嬢さんが?」

「はい、当社のマヌカン兼チーフアシスタントの平野です」

「始めまして、平野リカです。よろしくお願いします」

「ほう、これはこれは……」

 お辞儀する私を、デザイナー氏が私を値踏みするような視線で眺める。 私はその視線に気圧されるものを感じながら、表面は冷静な態度を取り繕った。

「いや、話には聞いていましたがこれほどとはね。今日は楽しみだ」

 席についてからは、主にデザイナー氏とオーナーの間で、今シーズンのトレンドや来期流行りそうな物の予想、あるいはどこそこの縫製がしっかりしているだのいい加減だのといったビジネスの話になる。 私と秘書氏はときたま相槌を打ったり質問に答えたりするだけだ。

 しかし、ビジネストークの間も、デザイナー氏は幾度も私を見ていた。 鋭い視線が、私を検分しているように感じられる。

 ランチが終わったときには、時計は一時二十分を指していた。

 レストランからフロントに移動し、デザイナー氏が名前を告げる。 フロント係がボーイを呼び、部屋番号を告げて案内するように命じた。

「では私達はここで。八時にお迎えにまいりますので」

 秘書氏がデザイナー氏に告げる。 その傍らでは、オーナーが私に向かって気遣わしげな視線を向けている。 私は小さく肯いて、『大丈夫』というジェスチャーを送った。

「さて、じゃ頼むよ」

 デザイナー氏がボーイに告げ、エレベーターに向かって歩き出す。 その後について歩きながら、私は自分に向かって『大丈夫大丈夫』と言い聞かせていた。

● ● ●

 案内された部屋は、上層階の大きなスイートだった。 室内の装飾や調度も実用本位の物ではなく、凝った柄の壁紙やシャンデリアタイプの室内灯といったものだ。

「さて――じゃあこれに着替えてもらえるかな」

 デザイナー氏がスーツケースを開けながら言う。 取り出されたのは黒いワンピースだった。

「あの、ここでですか?」

「ああ」

 諦めて、スーツのボタンに手をかける。 ジャケットを脱ぎ、皺がつかないようにソファに置く。 スカートとブラウスもその上に置き、下着とパンティーストッキングだけの姿になる。 テーブルの上に出されていたワンピースに手を伸ばそうとしたところで、デザイナー氏が それを押しとどめた。

「下着も用意してあるから、全部替えてくれ」

「……はい」

 ストッキングとブラジャー、ショーツも脱ぎ、全裸になる。 その格好でスーツケースの中を改めると、ワンピースとは別に下着や小物も入っていた。 下着類はシルクの総レースで、ほとんど肌を隠す役には立ちそうに無いデザインだ。

 最初にガーターベルトを身につける。 ストッキングをはき、吊りガーターを留める。 サスペンダーは前だけにあるタイプだった。

 続けてショーツを穿く。 ゴムは入っておらず、両脇を紐で結ぶタイプだった。 全体がほぼレースだけで出来ており、レースでないのはクロッチ部分の当て布だけだ。 サイドを蝶結びにして、当たりを整える。 サイズがぎりぎりなので、ペニスをはみ出させないのに苦労した。

 ブラジャーは、肩紐の無いハーフカップだった。 カップ自体も乳首をぎりぎり隠すだけの深さしかない。 しっかりしたワイヤーが入っているのでずり落ちる心配は無いようだが、乳房の上半分が露出してしまう。 背中のホックを止めるのに苦労していると、デザイナー氏が私の背後に回ってホックを留めてくれた。

 スリップは無かったので、次に黒いパフスリーブのワンピースを身につける。 スタンドアップカラーなのに胸元が菱形に大きく開いており、乳房の上半分が露出する。 裾丈はショーツがぎりぎり隠れる長さで、少しでもかがんだりしたらお尻が丸見えだ。 最初は別にスカートがあるのかと思ったが、裾に襟や袖と同じ白いレースの縁取りがついている所を見るとこういうデザインらしい。 背中のジッパーを上げるとウェストが絞られ、コルセットをしめたようになる。 感触からすると、ウェスト周りだけ二重布になっているようだ。 ジッパーががっちりしたつくりのものなのも、強度を優先したためなのだろうか。

 スーツケースの中にはまだいくつかの小物がある。 私は後ろを振り返り、デザイナー氏に視線で問い掛けた。

「残りも全部だ」

 畳まれていた白い布を広げると、柔らかいドレープのついたエプロンだった。 ただし肩紐がやたらと長く、ウェストから上の前当てが乳房の半ばあたりまでしかない。 ウェストの両わきにリングがついているので、肩紐を背中で交差させて腰の後ろで結ぶタイプのようだ。 身に付けてみると、丈がスカートより短く胸元もまったくカバーしていない。 実用品では無く装飾の役目しか果たしていないのは明白だ。

 あとは黒いシューズと白いヘッドドレスだった。

 ヘッドドレスは本格的なヘアクリップではなく、カチューシャにフリル飾りがついているだけのものだった。 ただし、フリルのレースやフリル自体の造形も手が込んだ凝ったものだった。 これも髪を押さえる実用品ではなく、頭部を飾る装飾品なのだろう。

 最後に靴を履く。 踵が三インチはあるピンヒールで、うかつに外を歩いたらどこで転ぶか分からないような代物だった。 足元に爪先立ちをしているような感覚がある。

 着替え終わった私は、デザイナー氏のほうに振り返った。 デザイナー氏がしばらく無言で私を検分する。

「……すばらしい!」

 突然の大声に私は戸惑った。 それにかまわず、デザイナー氏がまくし立てる。

「君は美しい! それを自覚しているかい?」

「え、あ、あの、ありがとうございます」

「さて、それじゃ来てもらおうか」

 デザイナー氏はそう言うと、ベッドルームに向かった。

● ● ●

 ベッドに寝転がるデザイナー氏の股間にそそり立つペニス。 私はまず、その先端に口づけをする。 そのまま唇を滑らせ、竿の部分を唇で愛撫する。 同時に片手で竿をしごき、もう片方の手で睾丸を転がすように弄ぶ。

 一通り唇で愛撫し終わったら、今度は舌を使う。 ペニスの根元側から先端に向かってゆっくりと舐めあげ、亀頭をソフトクリームのように嘗め回す。 そのまま舌に唾液を乗せ、こんどは竿全体を満遍なく嘗め回す。

 一旦口を離すと、既に先端からは先走りが溢れ、私の唾液と混じって濡れ光っている。 私はそのてらてらと濡れ光るペニスを咥えこんだ。

 最初は亀頭部のみを口に含み、舌の先でつつく。 くびれの部分を唇で固定し、鈴口を舌先でこじるように刺激する。 次いで亀頭全体を嘗め回し、舌に載せて転がす。

 それからゆっくりと竿まで飲み込み、喉奥に先端を導く。 呼吸を落ち着けて嘔吐反射を押さえこみ、喉奥を使って亀頭を刺激してやる。

 ペニスがぴくぴくと震え、射精間近であることを私に教える。 と、デザイナー氏が私の頭を掴んだ。 丁寧な、だが力強い動きで私をペニスから引き剥がす。

「? あの……」

「胸でしてくれないか」

「はい」

 エプロンの留め紐を解こうと腰の後ろに手を回すと、デザイナー氏が再び私を押しとどめた。

「脱がないで、はだけるだけにして」

「? あ、はい」

 一瞬考えて、意味がわかった。

 まずエプロンの肩紐を両わきに下ろし、腕を抜く。 続いてブラウスの背中のジッパーを腰までおろし、こちらからも腕を抜く。 ブラジャーのホックを外すと、私の乳房が外気に晒された。

 位置を少し変えて、かがんだ状態でペニスが胸の位置に来るようにする。 唾液をたらしてペニスをぬめらせ、乳房で挟み込んだ。 両手で乳房を捧げ持つようにして、ペニスを左右から圧迫する。 左右をずらして動かしたり、同時に上下させたりしてペニスを刺激する。 時々上から唾液をたらしたり先端を舌でつついてやったりして、刺激に変化をつける。

「くっ、うおっ!」

 唐突に、ペニスが爆ぜた。 白い粘液が私の顔を打ち、顎から滴ったそれが乳房の谷間に溜まってゆく。 二度、三度と続く噴出は、私の顔を白く染めていった。

「……ふう」

 デザイナー氏は呼吸を整えると、私の顔を凝視してきた。 私はとりあえず顔を拭こうと、サイドテーブルに置いてあるティッシュペーパーの箱に手を伸ばそうとした。

「全部飲むんだ」

「……はい」

 私は頬から垂れる粘液を指で集め、掌に溜めた。 掌に口をつけ、それを啜る。 胸に垂れたものも全てかき集め、同じように啜りこむ。 わずかにこびりついたものだけは、ふき取ることを許された。

「しばらく、一人で楽しんでもらおうか」

 そういって手渡されたものは、バイブレーターとローションのミニボトルだった。

 ショーツを脱ごうとすると、再び完全に脱がないようにと言われる。 私は紐を片方だけほどき、ショーツを膝にまとわりつかせたままにした。

 ローションを掌に出し、指先に掬い取る。 最初はアヌスの周辺をマッサージするように塗り広げる。 ローションを追加して、中指をもぐりこませる。 入り口周辺から、奥のほうへ塗り広げていく。 指がスムースに出入りするようになったら、今度はバイブレーターにローションをまぶす。

「こちらに見えるように」

「はい」

 デザイナー氏に背を向け、ローションにまみれた尻を晒す。 バイブレーターを掴んだ右手を後ろにまわし、背後からゆっくりと押し込む。

 ずぶり

 先端部がもぐりこみ、押し広げられたアヌスが違和感を伝えてくる。

 ずぶっ、ずぶり

 バイブレーターを更に押し込むと、胴の部分にあるパールがアヌスを抉る。 無数の突起に内側から抉られ、肉の輪が痙攣した。 刺激に絶えかねた私はベッドの上に突っ伏す。 しかしそのまま、バイブレーターを押し込む手は休めない。

 ずぶっ、ごつっ

 バイブレーターの先端が行き止まりにぶつかり、三分の二程度が私の体内に消えた。 いま私の尻からはみ出しているのは、ダイヤルとスイッチを備えたコントローラー部分だけだ。 私は尻を上げた姿勢でベッドに突っ伏したまま、顔を伏せて荒い息をつく。

 そのバイブレーターが動き出した。デザイナー氏がスイッチを入れたのだ。

 先端部がくねりながら伸縮し、私の胎内をかき回す。 体の内奥がこねくり回され、内臓が突き上げられるような刺激がある。

 胴部分のパールが回転し、肛門を削り取るような刺激をもたらす。

 根元から枝分かれしたローターが振動し、前立腺を外側から揺さぶる。

 内外三箇所から同時に責められて、私の体は否応なしに昂ぶらされる。 何度も何度もペニスに貫かれた結果完全に性器と化している私のアヌスは、このような機械的な刺激にも快感を覚えるようになっている。 アヌスと直腸から湧き上がった快感は股間から腰全体、背筋を伝わって全身に広がっていった。

 いつのまにか私の左手は乳首を弄っていた。 ピンととがった乳首をつまみ、こねくり、押しつぶす。 右手はペニスを掴み、ゆっくりと扱く。 先端から蜜がこぼれるのが感じられる。

 デザイナー氏がバイブレーターを抽送し、私のアヌスに更なる刺激を与える。 機械の一定のリズムを保った動きに人間の不規則な動きが加わり、送り込まれる快感が倍増した。 胸とペニス、アヌスから送り込まれる快感に、私は獣のような声を上げた。

 そうやって何分が経過した後だろうか、唐突にアヌスからの刺激が消えた。 バイブレーターが引き抜かれたのだ。 戸惑った次の瞬間、熱い肉が私を貫いた。

「あっ、ああっ!」

「いいぞっ、もっと鳴け、僕にインスピレーションをくれ!」

 デザイナー氏の腰が私の尻にたたきつけられる。 肉が肉を打つ音に、潤滑液にぬめった肉穴が掻き回される湿った音。 荒い息づかいと喘ぎ声。室内を淫らな物音が満たしていた。

 デザイナー氏が私を抱き起こした。 座ったデザイナー氏の腰に私がまたがる姿勢になる。 ベッドに膝をつき、デザイナー氏の腿についた両手で状態を支える。

「こっちへ向いて、自分で腰を振ってくれ」

 力の入らない下半身に鞭打って、どうにか膝で立つ。 四つん這いになってデザイナー氏の上半身に覆い被さる位置に移動すると、今度は自分から彼のペニスを飲み込んだ。

 デザイナー氏の胸に手をつき、しゃがみこんだ下半身を上下させる。 M字型に開かれた両脚の間でゆれる私のペニスを、デザイナー氏が掴む。

「くっ、ふうっ」

 ペニスをしごかれて、私はうめき声をあげた。 自分で触るのとも、アキちゃんやユキちゃんに触られるのとも違う、力強い刺激だった。 あえて言えば、ユカに踏みつけられたときが近いかも知れない。

 自ら動いて痴態を晒す状況、そして乱暴な刺激に、私はいささかマゾヒスティックな快感を呼び起こされた。 腰を上下させてアヌスの快感をむさぼりながら、ペニスから送り込まれる刺激も楽しむ。

 やがて、私は限界を迎えた。

「あっ、駄目、駄目っ、もう駄目っ、いくっ、いっちゃうっ!」

 絶頂の直前、私が腰を上げると同時にデザイナー氏が手を離した。 直後に腰が落ち、デザイナー氏のペニスが私のアヌスを深々とえぐる。

 絶頂。

 私のペニスが精液を噴きこぼす。 アキちゃんに貫かれているときのようにとろとろとこぼれ続けるのではなく、撒き散らすような射精だ。 私の精液がデザイナー氏の腹を汚す。 直後、デザイナー氏のペニスも精液を噴き出した。 腰の奥に熱い衝撃を感じる。 絶頂直後の敏感な胎内への刺激に、私のアヌスが痙攣した。

 しゃがみこんだ姿勢のまま、私達は荒い息を吐いた。 腰にも手足にも力が入らず、僅かでも動いたらそちらに倒れてしまいそうだ。

 先に回復したのはデザイナー氏だった。 両手が私の腋の下に回され、私を持ち上げるようにしてベッドに寝かせる。

 力なく横たわる私の顔の前に、デザイナー氏のペニスが突きつけられた。 私は精液にまみれたそれを咥え、舌を使って清めた。

● ● ●

 デザイナー氏がシャワーを浴びている間に、私は彼の指示で着た服を脱いだ。

 改めて観察すると、裁断も縫製もきわめて丁寧に行われている。 布地もかなりいいものが使われているし、ヘッドドレスなどは手編みの高級レースをティアラ型に仕立ててある。 形のほうは、どう見てもメイド服をモチーフにしたデザインだ。

 まじまじと観察している私にデザイナー氏が声をかけた。

「そんなに気に入ったのかい?」

「あ、すみません」

 バスローブを羽織ってくつろいでいる彼に、私は先ほどから疑問に思っていたことを尋ねた。

「あの、ひとつお聞きしたいことがあるのですが……」

「ああ、何かな?」

「先ほど、『インスピレーションをくれ』って仰っていましたよね。 あれはどういう……」

「ふむ――君は、自分が美しいって事を自覚しているかい?」

「…………」

「君の美しさは女性の美しさと似ているが、根本的な違いがある。 なんだかわかるかな?」

「いえ……」

「雄が雌に魅力を感じるのはつまるところ繁殖のためだ。 言い換えれば、そういう本能が組み込まれているからだ」

「…………」

「だが、君の美しさにはその影響が無い。 妊娠できないんだから当然だな。 つまり、君の魅力は純粋な美しさっていうことだ。 この業界で男性女性を問わず同性愛者の割合が多いことは知っているだろう?」

「はい」

「純粋に美しさを求めるなら、動物的な本能に根ざした欲望は邪魔になる。 それはデザインに濁りをもたらす。 しかし君は違う。 そこらの女よりよほど女らしいのに、その濁りが無い。 いわば、『純粋な女性美だけ』の美しさだ」

「…………」

「ま、今のは僕の持論だがね。 だが僕は、僕の創る物にその美しさを取り入れたい。 君は以前『○○』というオートクチュールのデザイナーに抱かれたことがあるだろう?」

「ええ」

「で、君のところでその製品の一部を独占提供したよな?」

「はい」

「あれは君にインスピレーションを得て創ったんだそうだ」

「え、そうだったんですか?」

「ああ、本人から聞いたんだから間違いない。 それで僕も君に興味を持ったというわけさ。 手っ取り早く全てをさらけ出してもらうために、狭山女史には無理を言ったがね。 ま、それはともかく、君もシャワーを浴びてきたまえ」

 私はバスルームに向かいながら、デザイナー氏の言葉を反芻してみた。

 正直に言って、実感はない。 デザインに濁りとか純粋な女性美と言われても、ぴんとこないのだ。 それでも、彼が単純な肉欲だけで私を求めたのではないことは分かった。 以前に私を抱いた人物が、契約を盾にしてまで私を求めた理由も。

 つらつらと考えながらシャワーを浴び、汗とこびりついた精液を洗い流す。 バスルームを出ると、デザイナー氏は既にスーツに着替えていた。

「すまないが、もう一度それを着てくれ」

 デジタルカメラを取り出しながらデザイナー氏が言う。 指差す先には、先ほどまで着ていたメイド服風ミニドレスがあった。

「……?」

「そいつは来期の新作用に考えたデザインの試作品なんだ。 まあさすがにそのまま出すわけじゃないがね。 少々写真を撮らせてくれ」

「はい」

 一旦化粧を直し、ドレスに着替える。 八時までの残り時間は、写真撮影に費やされた。

● ● ●

「それじゃあ。今日は有意義な日だったよ」

 ハイヤーに乗り込むデザイナー氏に、私とオーナーは一礼した。 車が走り去り、ホテルのエントランスホールの前に私達だけが残される。

「……今日はごめんなさいね、リカちゃん」

 オーナーがこちらを見ずに言う。

「いえ、大丈夫ですオーナー。 それに、別にひどいことをされたわけじゃありませんから」

「だけど……」

 オーナーの口ぶりから、本当に申し訳なく思っていること、そして私の身体を案じているのが判る。

「ねえオーナー、ラウンジで一服していきませんか? 少しお話したいこともありますし」

「ええ、そうね」

 ロビー脇の喫茶室に向かって歩きながら、私は今日デザイナー氏に聞いたことを、どうオーナーに説明しようかと考えた。

● ● ●

「ただいま」

 家に帰り着いたときには十一時を過ぎていた。 アキちゃんはもう寝ているだろうと思っていたのだが、リビングの明かりが点いている。

「ただいま――あら」

 リビングに入ると、アキちゃんがソファの肘掛にもたれて眠っていた。

「アキちゃん、そんなところで寝ちゃ駄目よ」

 肩を軽くゆすってあげると、アキちゃんはすぐに目を覚ました。

「ん――あ、おかえり」

「寝てなかったの?」

「うん。だってボク可愛い奥さんだから、旦那さんの帰りを待ってなくちゃ」

「うふふ、そうだったわね。ただいま」

「おかえりなさい。ちゅっ」

 改めて帰宅の挨拶を交わし、私達はそっとキスをした。

 その夜、ベッドの中でアキちゃんを抱きしめながら、今日言われたことについて考えた。

 私はアキちゃんを愛してる。 雄が雌に感じる魅力の一部は本能による。 私達の間に子供はできない。 ならばそれは純粋に『アキちゃんという個人』に対する愛情?

 子供が作れない夫婦間にだって愛情はあるじゃないかとか、本能がアキちゃんを女性と錯覚しているだけなんじゃないかとか、いろいろと反論はあった。 それでも、私達の愛情が純粋に『愛情だけ』で出来ていると考えるのは楽しいことだった。

 パジャマの胸にアキちゃんの頭を抱きながら、私は幸せな気分で眠りについた。

―了―

*** A month later ***

||イ ・ω・) 「ねえリカちゃん、見てこの番組」
ノノゝ・ヮ・ノ 「あら、ファッションショーね」
||イ ・ω・) 「見てこのドレス。メイドさんみたい」
ノノゝ;・ヮ・ノ 「……そ、そうね」
||イ`・ω・) 「これ欲しいなあ。リカちゃんのところで入れない? ボクバイト代つぎ込んじゃうよ!」
ノノゝ;・ヮ・ノ 「オーナーと相談してみるわ」

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