僕の祖国、都市国家キシュが隣国アッカドに滅ぼされて半月が経った。そして、キシュの王族のただ一人の生き残りとして、僕はアッカドに連行されてきた。
僕の名はイナンナ。キシュの第二王子だ。
父上は僕の目の前で敵の矢を受けて討ち死にし、母上はキシュの王宮が陥落したときに毒をあおって自害した。第一王子である兄上は数年前に人質としてアッカドに行ったまま、ずっと姿を見ていない。兄上も既にこの世の人ではないのだろう。
おそらく僕も敵国の王族の生き残りとして、見せしめに公開処刑にでもされるのだろう。だけどもう僕には、反抗する気力は残っていなかった。国は滅び親族も全て死んだ。僕一人だけが生き残っていても意味は無い。
そう考えながら言われるままに足を進めていた僕だけれど、やがておかしなことに気がついた。向かっている先が、王宮でもなければ広場でもない。道の先をたどってみると、どうやら向かう先にあるのは丘の上にある神殿らしい。とすると僕を神への生贄にでも捧げるつもりなのだろうか?
やがて僕たちは丘を登り、神殿へとたどり着いた。そこは愛と戦争を司る女神の神殿だった。アッカドではこの女神を全ての神の女王として崇拝していると聞いたことがある。つまりここはこの都市の守護神殿なのだろう。
神殿に到着した僕たちを出迎えたのは、巫女や女神官とおぼしい女性の一団だった。アッカドの将軍が深々と礼をし、僕といっしょに連れてこられていた少年少女の一団を引き渡す。子供たちはそのまま神殿の裏手にある粗末な建物のほうにつれてゆかれる。そちらはどうやら下働きの奴隷のための住居のようだ。
後に一人だけ残された僕の前に巫女の一人が歩み寄ってきた。
「久しぶりね、イナンナ。元気にしていた?」
「え……? あの……」
鈴を転がすような軽やかな声。香油と花の香り。大きな乳房は一歩ごとに重たげにゆれ、衣のあいだから覗く肌は白く、
とても印象的な美人なのだけれど、僕の記憶には無い人だった。しかし、相手は僕に対して旧知の人物のように話しかけてきた。
「あら、私が誰だかわからない?」
「す、すみません」
「ふふっ、いいのよ。無理も無いことだから」
「……?」
そこで、その巫女の後ろにいた一回り年嵩の巫女が口を開いた。
「イスタラ、その子はあなたの付き人とします。姉としてよく指導してあげるように」
「え――よろしいのですか!?」
「ええ。これは大神官様の思し召しです。貴女ももう自分の付き人を持っても良い頃でしょう」
「ありがとうございます!」
どうやら僕の身柄はこの巫女に預けられることになるらしい。生贄にされないで済んだのにはちょっとほっとしたけれど、先行きが不安になってくる。
巫女――イスタラと言う、僕の兄と同じ名前らしい――は僕が付き人にされたことを大層喜んでいるようだ。悪い人ではないようだけど、所詮は僕の仇敵であるアッカドの人間だ。上手くやっていけるとは思えない。それに、『姉として』と言うのはどういう意味だろう?
「いらっしゃい、イナンナ。今日から私の部屋で一緒に暮らすのよ」
「あ、はい……」
手をとられ、ぎゅっと握られた。柔らかく、しっとりとした手のひらが僕の手を包み込む。そんな場合ではないと言うのに、美しい女性に手を取られて思わず動悸が早くなる。そのまま手を引かれて歩きながら、僕はなぜか昔兄上に手を引かれて遊んだときのことを思い出していた。
● ● ●
こうして僕の、巫女イスタラの付き人としての生活が始まった。基本的に彼女の日常生活における身の回りの世話をするのが僕の仕事だ。
祭祀に参加したり、あるいは神聖娼婦としての務めを果たしたり、巫女の日常はいろいろと多忙だ。いきおい身の回りのことはおろそかになりがちなので、そこを助けるために世話役の奴隷がいる。この奴隷は誰かの専属というわけではなく、神殿に住まう巫女全員に仕える、いわば神殿の共有財産だ。
しかし、ある程度位の高い巫女たちは自分の付き人を持ち、身の回りの世話を全てその付き人に任せている。僕は巫女イスタラの個人的な付き人と言うわけだ。
巫女イスタラとの生活が始まって驚かされたことは、彼女が実は女性ではないと言うことだった。
●
「ここが私の部屋よ、イナンナ。ちょっと狭いかもしれないけど、今日からここで一緒に住むのよ」
巫女イスタラに手を引かれて連れて行かれたのは、巫女たちのための住居と思しい一角だった。巫女イスタラの部屋はそれほど広いわけでもなかった(キシュの王宮にあった僕一人の部屋より狭いぐらいだった)が、二人で暮らすのには十分な広さに見えた。
「あの、よろしいのですか? 僕の立場は奴隷だと思うのですが……」
キシュでは、奴隷は自由人とは別の部屋に寝泊りするのが普通だった。主人に付き従っての旅の途中で部屋数が確保できない場合などは、奴隷は屋外で眠らねばならなかったりもする。
「いいのよ。一応付き人の身分は奴隷だけれど、巫女の個人的な所有物でもあるのよ」
「はあ……」
「それに――」
「それに?」
「ううん、なんでもないわ。さ、晩餐の前に沐浴をしないといけないから、手伝ってくれる?」
「あ、はい。……ええと、何をすれば」
「そちらの衣装入れから着替えと、体を拭くための布を出して。後のものは沐浴場に備えられているわ」
「はい」
指示された行李から白い麻布の服と、体を拭うための長布を取り出す。
「あら、あなたの分もよ」
「え、あ、はい」
僕が服と布をもう一揃い用意したのを確認すると、巫女イスタラは再び僕の手を引いて歩き出した。
「あ、あの、巫女様、手を引いていただかなくても……」
「そう……。ねえ、巫女様は堅苦しいから止めてもらえない?」
「いえ、でも、では何とお呼びすれば……」
「そうねえ……。お姉さまって呼んでくれる? 何ならお姉ちゃん、でもいいわよ?」
巫女イスタラがにこにこしながら言う。何がそんなに嬉しいのかわからないが、とりあえず姉扱いして欲しいらしいのは分かる。
「ええと、それでは、姉上、でよろしいですか?」
「ええ、それでいいわ。うふふ」
沐浴場では、僕たちのほかにもう一人の巫女が沐浴をしていた。付き人らしい男の子が水泉のそばで着替えを持って立っている。僕たちに気付いた巫女が、巫女イスタラに声をかけた。
「あら、イスタラ。そちらの子は?」
「今日から私の付き人になった子よ」
「そう。貴女にもそろそろ必要だったわね……。それじゃ私はもういくから、ごゆっくり」
そういうとその巫女は泉から上がって体を拭き、男の子に手伝わせて着替えをした。巫女が出て行くと、後に残ったのは巫女イスタラと僕だけだった。
「さ、それじゃイナンナ、あなたも脱いで」
「え? いえ、僕は……」
「駄目よ、あなた、自分では気がついてないかもしれないけれど、相当汚れているわよ」
言われてみれば、キシュからここに来るまでのあいだ水浴びの一度もしていない。たしかに汗と砂埃でひどいことになっている。
「ほら、お姉ちゃんが洗ってあげるから」
「あ、はい」
どちらが付き人だか分からないようなことを言いながら、巫女イスタラは服を脱ぎ捨てた。その裸身を見て、僕は自分の目を疑った。
巫女イスタラの股間に、男根がある。
「え……? あれ? おと、こ……?」
「あら、どうしたの?」
「いえ、その、男のものが、あれ、でも胸も……?」
「ん? 私のおちんちんがどうかした?」
「どうか、って、いや――」
「――ぷっ。びっくりした?」
巫女イスタラが吹きだす。それを見て、僕は彼女(?)が僕を驚かせるためにわざとここまでそれを隠していたことに気がついた。
「あの、いったいそれは……」
「あのね、イナンナ、この神殿の巫女の半分以上はね、私と同じなの」
「半陰陽、なんですか?」
「ううん。元は男。だからおちんちんはあるけど女の人のあれはないのよ」
「はあ、そうなんですか……」
何も言えなくなっている僕を促して、巫女イスタラが僕の服を脱がせる。手桶で水を汲み、頭からかけられて全身の汚れを落とされた。巫女に僕の体を洗わせてしまっていることに気付いて、僕は慌てた。
「あっ、巫女さ――姉上、自分でやれますから」
「うふふ、いいのいいの。お姉ちゃんに任せて」
「でも」
「でもじゃないの。じゃあ命令なの。おとなしく洗われなさい」
「はい……」
言われるままに巫女イスタラに体を磨かれる。こびりついていた汚れが落ちると、とてもすっきりした気分になった。
僕の体がきれいになると、こんどは二人で水泉の水に身をひたした。今度は僕が柔らかい布で巫女イスタラの体を拭う。巫女イスタラの肌は傷跡や染み一つ無く、滑らかな白い肌の下にはうっすらと血の流れる管が透けて見えていた。
長い黒髪はつややかで、手ですくうと水のようにさらさらと流れる。水を含ませた布で拭うと、いっそうのつややかさで光を跳ね返した。
背中と髪の次は、胸も拭うように言われる。巫女イスタラの乳房はとても大きく、子供の頭ぐらいはありそうだった。捧げ持つようにしながら丁寧に拭っていく。
最後は男根だった。ここばかりは布を使わず、素手で洗うようにと言われる。
最初はさすがに抵抗が有ったのだが、思い切ってやってみるとそれほどのことは無かった。多分、そこ以外はどこから見ても女性にしか見えない巫女イスタラの体のせいもあるのだろう。重たげな乳房とほっそりした腹、丸みを帯びた腰を見ていくと、唐突に出現する男根が何かの間違いなのではないかと言う気がしてくる。
こうして全身を清め終わった僕たちは、新しい服に着替えると食堂に向かった。ふたたび巫女イスタラに手を引かれながら、僕は数ヶ月ぶりの穏やかな気分を味わっていた。
● ● ●
僕が巫女イスタラの付き人になってから、月が三度満ち欠けするほどの時間がたったある日のことだった。
「喜んで頂戴、イナンナ!」
巫女イスタラが、大神官の部屋から出てくるなり僕にそういった。
「え、あ、はい姉上――何事ですか?」
唐突な言葉に僕はどう受け答えしてよいのか分からず、いささか間の抜けた聞き返し方をしてしまう。
「あなたをね、正式に巫女見習として認めていただけたの。もう奴隷の身分じゃないのよ!」
巫女イスタラが前々から僕のことを正式な巫女として取り立てるように請願していたことは知っていた。理由を尋ねると、『奴隷の身分のままだと、もし誰かがあなたをほしいって言ったら取られちゃうかも知れないから』と言うことだった。同じ付き人でも、巫女見習としてであれば、巫女イスタラが僕を放り出さない限りはその心配はないというわけだ。
「そう、ですか……」
「……不安?」
巫女イスタラが軽く首をかしげながら僕の顔を覗き込む。
不安は勿論あった。
この神殿の巫女になると言うことは、体を作り変える薬で女性になって、神聖娼婦として神殿売春に従事しなければならないということだ。知識としては、男同士でどのようにするのかと言うことは知っている。だけどそれが自分に出来るかどうかは皆目見当がつかない。
「大丈夫、任せて。私が全部面倒見てあげるわ!」
「はい……」
正直不安感は拭えなかったけれど、巫女イスタラのあまりにも嬉しそうな笑顔に押し切られ、僕はそう答えていた。
●
それからさらに月が一巡りした。
あの後毎日飲まされた薬の効果で、僕の体はゆっくりと女性のものに変わっていった。特に分かりやすいのは胸の成長だったけど、そのほかにも顔つきが少し変わったり全身が丸みを帯びたりと、確実に僕の体は変わっている。
だけど、一番変わったのは多分僕のお尻だ。
「ふふっ、ここはどう?」
「あっ、ひゃんっ! 姉上っ、そこ駄目えっ!」
巫女イスタラの指が僕のお尻の中で暴れる。敏感な部分を突付かれて、僕は気持ちのよさに声をあげて悶える。
最初はこんなじゃなかった。
一番初めは異物感しか感じなかった。やがて入り口部分をこすられるのが気持ちよくなってきた。それからだんだん中をかき回されることに快感を覚えるようになっていった。一月がたった今では、男根を弄られるよりもお尻の中をかき回されるほうが気持ちがいい。
まだ、僕のお尻は巫女イスタラの指しか受け入れたことは無い。だけどこの具合なら、精神的にはともかく肉体的には、男のものを受け入れる準備はすっかり出来ていると見てよさそうだ。
「も、もう駄目、です、姉上……。もう許して……」
「あら、じゃあこれでお終いにしてあげるわね」
巫女イスタラの手が僕の男根をしごく。柔らかい手のひらに包まれてそっとこすり上げられると、腰がとろけそうな快感が感じられる。同時にお尻への責めが激しくなり、そちらからも強烈な快感が昇ってくる。
僕は前後両方を責められながら、さらに両胸を床布にこすりつけてそちらでも快感をむさぼっていた。胸とお尻と男根と、敏感なところ全てで得る快感に僕はすっかり圧倒されていた。
「あっ、あっ、あんっ!」
腰の奥がびくびくと震え、ついに限界を迎えた僕は男根の先端から精を吐き出した。頭が熱くなり、くらくらとめまいさえ感じる。僕は目をぎゅっと閉じて、絶頂の快感に耐えた。
少しして、ずるずると何かをすする音に僕は目を開いた。見ると、巫女イスタラが手のひらにたまった僕の精液をすすっている。
「あ……、姉上……」
「うふふ。ごちそうさま、イナンナ」
巫女イスタラが僕に微笑みかける。その笑顔は普段見せてくれるような愛らしいものではなく、男をくわえ込んで満足した、淫蕩な娼婦の笑みだった。だけど僕はそれに嫌悪や軽蔑を感じなかった。それどころか、僕を弄んで満足してくれたことに満足感を感じていた。
兄上と二人で日が暮れるまで遊んだときのことをぼんやりと思い出しながら、僕は巫女イスタラの笑顔を見つめ続けた。
● ● ●
篝火に明々と照らし出された広場の中央で、巫女イスタラが姫巫女と交わっている。僕はそれを見ながら不思議な胸の痛みに苛まれていた。
姫巫女の男根を後ろの穴に受け入れて、巫女イスタラは喘いでいる。だけどそれは苦痛の喘ぎではなく、明らかな喜悦の声だ。
一年に一度、女神に捧げる祭事の中で行われる儀式。姫巫女の男根を介して巫女が女神と交わる聖なる交合。この儀式では、本来ならば巫女のうち最も年若い者か、あるいは男を知らない者が純潔を捧げる生贄とならなければならない。本来ならば僕が今年の生贄になるはずだったのだが、巫女イスタラが身代わりとなっている。僕の身分が正式にはいまだに巫女見習であることを楯に、巫女イスタラが自分を贄とすることを大神官と姫巫女に掛け合って承知させたのだ。
贄と言っても別に命を失ったり体に傷をつけるものではないし、見る限り巫女イスタラはむしろ犯されることに喜びを感じているようだ。だからそのことについて僕が心配したり胸を痛める必要は無いはずだ。
だと言うのに、姫巫女に後ろを犯されて喘ぎ自らの男根からも喜びの蜜を溢れさせる巫女イスタラを見ていると、胸を締め付けられるような、あるいは針で刺されるような、そんな痛みが僕を苛む。
その痛みに耐え切れず、ついに絶頂して精を撒き散らす巫女イスタラの姿から僕は目をそらした。
●
沐浴場の泉の水で、巫女イスタラの体を隅々まで洗う。特にお尻と男根は素手で丁寧にだ。
「んっ……」
「すみません、痛かったですか?」
「ううん、大丈夫……」
お尻の中から姫巫女の精液を指で掻きだしていると、巫女イスタラが艶かしい喘ぎを上げた。
体の中まで綺麗になったら、泉から上がって丁寧に水気を拭う。
部屋に戻ると、巫女イスタラは大きな溜息をついた。
「姉上、お疲れなのでは? 今日は早く寝たほうがよいのではありませんか」
「ええ、ありがとう。ねえイナンナ、今日、一緒に寝てくれる?」
「はい、姉上」
付き人用の寝台もきちんと別にあるのだけれど、巫女イスタラは時々僕を自分の寝台で一緒に眠らせる。僕を抱いて眠ると、巫女イスタラはとても安らいだ寝顔をしている。その程度のことで安眠してくれるのなら、一緒に眠るぐらいお安い御用だった。
服を脱ぎ、寝台に入る。羊毛の掛け布に二人で包まると、巫女イスタラが僕の体に抱きついてくる。それを抱き返しながら、僕も不思議と安らかな気分だった。
●
今年の大祭から数日後、とうとう僕の後ろの純潔が失われる時が来た。
巫女になることが決まって以来、いつかこの時が来ることは覚悟していた。それでもやはり、怖いものは怖い。
寝台の上で小娘のように震える僕の体を、巫女イスタラがあやすように抱いてくれる。
「大丈夫よ、イナンナ。全部私に任せて、あなたは楽にしてちょうだい」
「はい、姉上……」
全裸の巫女イスタラの胸に頭を抱えられ、柔らかな乳房に包まれる。香油と巫女イスタラの体臭が混じった香りに包まれると、気分が少し落ち着いてくる。
僕が落ち着くのを見計らって、巫女イスタラの手が僕のお尻に伸びてきた。
最初は指先でのマッサージだった。僕のお尻の入り口に指先を押し付けると、円を描く動きでそこを揉み解してくる。
「あんっ……」
既に幾度も繰り返された刺激に、僕は早くも快感の吐息を漏らしてしまう。入り口で感じる刺激が穏やかな快感になり、中へ中へと広がってゆく。緩やかな刺激にもどかしさを感じ、思わず腰をくねらせてしまう。
僕が高まってきたのを感じた巫女イスタラは、続いて指をそっと忍び込ませてくる。油のすべりに助けられて、巫女イスタラの指は難なく侵入を果たす。
恥ずかしい穴を押し広げられて、僕はしかし苦痛ではなく、先ほどよりも強い快楽を感じる。巫女イスタラの指が再び円を描く動きで、そして今度は抜き差しの動きも追加して、僕のお尻を解きほぐしてゆく。
いつのまにか僕は巫女イスタラにすがり付いて、はあはあと熱い呼吸を繰り返している。目を閉じて口をだらしなく半開きにして、多分外から見たら恥ずかしくなってしまうような顔をして。
と、巫女イスタラの指が僕の中から引き抜かれた。
「あ……」
思わず声をあげてから、自分の声の淫らがましさに赤面する。
「うふふ……」
巫女イスタラが含み笑いをする。僕は目をぎゅっと閉じて巫女イスタラにしがみついた。恥ずかしくて顔をあわせられなかったからだ。だけどそんな僕をしがみつかせたまま、巫女イスタラは寝台に体を横たえた。僕の体は巫女イスタラの下になり、愛し合うときの女性が男性にしがみついているような姿勢になってしまう。
僕の男根と巫女イスタラのそれが擦れ合い、敏感な先端の裏側同士がまるで口付けをするように触れ合う。お互いの愛液でぬめったそれが触れ合うたびに、腰の奥がとろけそうな鋭い刺激が走った。
思わず横に動いて男根を逃がすと、巫女イスタラの男根が僕のそれを追ってくる。かえって激しい刺激を受け、腰の奥の熱はますます燃え盛ってゆく。やがていつのまにか、僕の腰の動きも男根を逃がすためではなく、巫女イスタラの物とこすり合わせる為のものになっていった。
特に敏感な先端部の裏側同士が擦れ合うと、その部分から湧き上がる刺激が筆舌に尽くしがたい快感を僕に与える。美しい巫女イスタラの体の中のそこだけは男の部分が、同じく僕の男の部分とこすれあって、今までに味わったことの無い快楽を与えてくれる。わずかに感じていた男根への恐怖感は、いつのまにかすっかり無くなっていた。
「ねえイナンナ、そろそろいいかしら……」
「はい、姉上……」
巫女イスタラのささやきに、僕は両腕から力を抜いた。巫女イスタラは僕に一つ口付けをすると、寝台の上に体を起こした。
いつのまにか開かれていた僕の両足のあいだに巫女イスタラが座る形になり、壁の燭台からもたらされる光が汗にぬれたその体を照らし出す。
長くつややかな髪と美しい曲線を描く眉。長い睫毛と切れ長な目尻。ふっくらした頬と赤くつややかな唇。細い首と豊満な胸。くびれた胴と豊かな腰。そしていきり立つ逞しい男根。
その美しい姿に、僕は思わず息を飲む。この人に初めてを捧げるのだと思うと、それだけで鼓動が早くなる。
「楽にしてね、イナンナ」
「はい……」
巫女イスタラの手が僕の両膝の下に入り、足を持ち上げさせる。赤ん坊のように局部をさらけ出した姿にわずかに恥ずかしさを感じるが、次の瞬間への期待はそれを大きく上回っていた。
お尻の入り口に、熱いものが触れる。
次の瞬間それが僕を押し広げ、引き裂いてゆく。
熱い槍で串刺しにされながら、しかし僕は快感だけを感じていた。
やがてゆっくりと押し入ってきたそれの先端が奥にあたり、ごつんという音を立てたような気がした。
最初のうちは、押し広げられっぱなしの入り口と中をぎっしりと埋め尽くされたお尻が違和感を訴えていたけれど、やがてそれも消え後には純粋な満足感しか残らなくなる。巫女イスタラの男根に貫かれて、僕の体は苦痛でも異物感でもなく、満たされる満足感だけを感じていた。
そうやって充足感を味わっていると、巫女イスタラがゆっくりと動き始めた。
「大丈夫? 苦しくないかしら」
「はい、大丈夫です、姉上……。もっと、激しくしても……」
「そう……」
巫女イスタラの動きが徐々に速くなり、それに応じて僕と巫女イスタラの喘ぎ声も速くなっていく。
ずぶずぶと後ろをえぐられながら、僕の男根は透明な液を吐き出し続けている。
そうしてどれほどの時間がたったのか――まるで幾日も貫かれ続けていたような気もする――突然巫女イスタラの動きが止まり、お尻の中の男根が一回りも膨れたような気がすると、僕の中に熱い子種が注ぎ込まれた。
お尻の奥にいきなり熱いものを注がれるという初めての体験に、しかし僕はすさまじい快感を得た。そこから湧き上がった快感は僕の体内を駆け上がり、頭の中で跳ね返ったように感じられる。体が勝手に動き、お尻が巫女イスタラを絞り上げると同時に僕の男根も精を吐く。
全身を焼き尽くされるような快感に溺れるようにして、僕は気が遠くなっていくのを感じていた。巫女イスタラに抱きしめられ、ただ幸せな気分だけを感じながら、僕は気を失った。
● ● ●
巫女イスタラにはじめてを捧げた日の翌日、僕は一人で沐浴場にいた。
「……いたた」
泉の水で体を流しながら、ついついお尻に手をやってしまう。
「どうしたの、イナンナ――ああ、なるほど」
ちょうどその時、僕の少し先輩にあたる巫女見習――この人は女性だ――が沐浴場にやってきた。お尻の穴の周りをさすっていたところを見られ、昨晩のことを見抜かれてしまう。
「おめでとう。イスタラ様に初めてを捧げる事が出来たなんて、羨ましい事よ」
「ありがとうございます。でも恥ずかしいですから、あんまり大きな声で言わないでいただけませんか……」
「くすっ、恥ずかしがること無いのに」
沐浴しながら僕たちはおしゃべりをした。巫女イスタラや他の巫女様たちとはできない、同じような身分のもの同士の気楽なおしゃべりだ。
そこに、さらにもう一人の巫女見習がやってきた。やはり僕の少し先輩にあたる人だ。その人も交えて三人で気楽におしゃべりをしていたとき、僕は重大な話を聞いてしまった。
「そう、イスタラ様に初めてを捧げたの。大神官様は残念がっていらっしゃったけど、お兄様になら仕方ないわよね」
「ええ、そうですね――お兄様?」
「ええ? イスタラ様はキシュの王家の出なので――」
「おまちなさい! 貴女、どこでそれを!」
後から来たほうの人の言葉を先に来ていた見習の女性がさえぎる。
「え? ええと、厨房でそんな話を誰かが……」
「そのことは内密のはずですよ!」
「ええ! で、でも、そんなこと誰も……」
二人の声は自然と大きくなり、沐浴場の中にうるさいぐらいに響いた。しかし僕の耳は、二人の会話をほとんど素通りさせていた。
お兄様、お兄様、お兄様……。
その言葉だけが僕の考えを埋め尽くしていた。
そう思ってみれば、思い当たる節はいくつもある。
自分を『姉』と呼ばせたがっていること。
初めて会った時の思わせぶりな言葉。
そして何かと僕の世話を焼きたがる癖も、キシュの王宮にいた頃の兄上と同じだった。
最初に会った時――いや、再会した時と言うべきか――僕が気がつかなかったのは、兄上は既に死んだものと決めてかかっていたのと、まさかあのような姿になっているとは夢にも思わなかったためだろう。
しばらく自失してた僕は、気を取り直すと急いで水泉からあがった。体を拭くのももどかしく服を着ると、僕は巫女イスタラの部屋に向かって駆け出した。
部屋に戻ると巫女イスタラの姿が無かった。探しに出ようと思って振り向いたちょうどその時、開け放したままだった入り口をくぐって巫女イスタラが部屋に入ってきた。
「……どうしたの、イナンナ。髪も濡れたままで」
「――兄上」
「っ!」
少しの逡巡の後、僕はそう呼びかけた。それに対する巫女イスタラの――兄上の反応は、僕に否応無しに真実を告げるものだった。
息を飲んだまま沈黙する兄上を見ていると、あの戦争以来心の底に溜まっていた物がふつふつと湧き上がってくる。僕はそれを兄上にぶつけた。
「兄上……。どうして、どうしてなんですか」
「イナンナ……」
「キシュはこのアッカドに滅ぼされたのに、父上も母上もそのせいで死んだのに、兄上は巫女になんかなって、アッカドの女神のためにあんな姿まで晒して――」
そこまで言ってから、兄上が巫女として果たしていた役目は儀式での贄役だけではないと気がついた。
「お、男に体を開いて、アッカドの兵士のために、それに僕までこんな――」
「イナンナ、お願い、話を聞いて――」
支離滅裂で、自分でも何を話しているのか良く分からない僕を、兄上がなだめようとする。部屋から飛び出そうとする僕の腕を兄上が掴み、必死になって押しとどめようとした。根負けした僕は、その場に膝をついて泣き崩れてしまった。
キシュが滅んで以来ずっと我慢してきた涙が、大きな泣き声と共にあふれ出てくる。鼻の奥がつんと痛くなり、ぎゅっと閉じたまぶたの裏が熱くなる。
国を滅ぼされた悔しさ、父上と母上が死んだことの悲しさ、そして兄上が変わり果ててしまったことへの絶望。それらがない交ぜになって、涙と泣き声になってあふれ出ていた。
●
「イナンナ、沐浴の用意をお願い」
「はい、巫女様」
あれから数日後。僕は相変わらず兄上の――巫女イスタラの付き人をしていた。傍目には何も変わっていない様に見えるかもしれない。実際変わった事といえば一つだけだった。
僕はもう巫女イスタラを『姉上』とは呼んでいない。
何か話し掛けられるたびに、僕は巫女イスタラのことを『巫女様』と呼ぶ。最初に、よそよそしいからいやだと言われた呼びかただ。
僕がこの呼び方をするたびに巫女イスタラは少し哀しげな顔をして、何か言いたそうにする。だけど僕はそれを無視して、言いつけられた用事をさっさと済ませる。その間、出来るだけ顔はあわせない。
巫女イスタラは、それでも巫女としての務めを毎日果たしている。
女神への祈りと礼拝、神官の説教や祝福の儀式の手伝い――そして神聖娼婦としての神殿売春。
本来は男でありながら、尻穴で男根をくわえ込んでそれを満足させ、自分も快楽に浸る。
以前はその行為を悪いことだとは思わなかった。だけど今は違う。
美しいと思っていた体も、香油の良い香りも丁寧な化粧も、男に媚を売るために有ると思うと、なんだか汚らわしいものに思えてくる。
男に抱かれた直後の巫女イスタラの体を清めるのは今は僕の役目だけれど、出来ればその汚れた体に触れたくは無かった。
僕がよそよそしい態度で触れるたびに、巫女イスタラは悲しげな顔をする。だけど僕はそのことに罪悪感などは感じなかった。
国が滅んだというのに、父母が死んだ――実質的に殺されたようなものだ――というのに、その仇の国で男をくわえ込んでよがっている、そんな人間に辛い思いをさせることに、僕は
● ● ●
「はあ……」
自分の溜息がやけに大きく聞こえる。
洗濯係の奴隷から洗いあがった服を受け取り、巫女イスタラの部屋に向かって歩きながら、僕は大きな溜息をついた。その音がやけに大きかったような気がした。
俯き加減で廊下を歩く僕を、神官の男性が呼び止めた。
「ああ、イナンナ、部屋に戻るところかね?」
「はい」
「それではイスタラに言付けを頼めるかな。大神官様がお呼びなので、夕刻にお部屋のほうに出向くようにと」
「はい。今すぐではないのですね?」
「今、来客中でね。午後には帰るはずだから」
「かしこまりました」
一礼して、再び部屋に向けて足を進める。
部屋に戻ると、巫女イスタラの姿が無かった。今日はこの時間、何も予定は無かったはずなのだけど……。
人の気配の無い、空っぽの部屋を見ていると、なんだか胸が苦しくなってくる。鼓動が早くなり、首をしめられているかのように息苦しい。
子供の頃、似たような胸苦しさを感じたことがある。鳥を追いかけて走っていて、転んだ僕に気がつかないまま駆けて行く兄上に置いてきぼりにされた時の――。
「イナンナ? どうしたの、開けっ放しで……」
背後からかけられた声に僕は回想を破られた。振り返ると、閉じ忘れた扉の向こうから、隣の部屋の巫女様の付き人の女性が覗き込んでいる。
「ごめんなさい、開けっ放しだったから……」
「あ、いえ、すみません、ちょっとぼんやりしてしまいました。あの、イスタラ様がどちらにいかれたか、ご存じないですか?」
「ああ、さっき姫巫女様のお使いが来て呼ばれていったわよ。中庭の方だって」
「そうですか、ありがとうございます」
礼を言って扉を閉じると、とりあえず衣服を綺麗にたたみなおして箪笥にしまう。そうすると、もうするべきことは無くなってしまった。
巫女イスタラは部屋を取り散らかしたりはしないし、やたらと用事を言いつけてきたりもしない。以前は入浴や沐浴のときに僕に体を洗わせたがったのだけれど、ここ最近それもなくなった。今では僕は、着替えと体を拭くための布をもって傍に立っているだけだ。
空っぽの部屋の中で巫女イスタラが戻ってくるのを待ちながら、僕は再び先ほどの息苦しさに襲われていた。もしかしたらもう戻ってこないのではないか、などと考えると、息苦しさが増す。そうなれば清々する、と自分に言い聞かせてみるけど、息苦しさはちっとも衰えなかった。
ついに我慢できなくなった僕は、部屋を出ると中庭に向かった。
中庭には幅広の葉をつける樹が涼しい木陰を造り、その合間にはみずみずしい果実をつける樹も植えられている。その木陰に置かれた長椅子に、巫女イスタラと姫巫女の後ろ姿があった。
姫巫女はこの神殿でもっとも高貴な、巫女たちの頂点にあたる人物だ。僕のような身分の低い人間が軽々しく会話の邪魔をしていい相手ではなかった。僕は二人の話が終わるのを、その場で待つことにした。
付き人の一人もつけない姫巫女のすぐ隣に巫女イスタラが座り、俯き加減で姫巫女と話をしている。いや、話というよりも、巫女イスタラが一方的に話している内容に、姫巫女が相槌をうっているようだ。
僕のいる廊下の角からでも、何とか二人の声は聞き取れた。僕は何かに導かれるように、二人の声に耳を澄ませた。
「……でもねイスタラ、イナンナは決して心の底から貴女のことを嫌ってはいないはずよ」
「そうでしょうか? あの日以来――」
「ねえイスタラ、貴女はどうして、その体にされた後も、ここに居たのかしら?」
「は? いえ、だって私が不興を買ったら、キシュが攻められる口実になってしまいますし……」
「それじゃあどうして、キシュが滅んでしまった後もこうやって巫女として生きているの?」
「……弟が……」
「イナンナが?」
「私が居なくなったら、イナンナが独りぼっちになっちゃいます。それに、この神殿の巫女見習で無くなったら、アッカドがあの子を生かしておくはずが……」
「そうよね。だからあなたは自堕落に男に身を任せるのを止めて、あの子の為に生きようとしたのだものね」
「……私、あの子に再会するまでは、もう男に抱かれるのを楽しめばいいやぐらいにしか思ってなかったんです。この姿じゃもう国には帰れないって思ってましたし、そうしたら国も滅んじゃったし、父上も母上も死んじゃったし、多分あの子も死んじゃっただろうって」
「辛かったわね」
「でもあの子と久しぶりに一緒に暮らしていたら、嬉しくて、それにあの子を守らなきゃって、だから正式に巫女になれば命の危険もなくなるだろうから、だからあの薬を、それなのに、こんなことになるなんて――」
そこまで言って、巫女イスタラはぐすぐすと泣き出してしまった。しゃくりあげる巫女イスタラを、姫巫女がその胸にそっと抱くのが見えた。
「あの子もきっとわかってくれるわ。今は落ち着く時間が必要なのよ」
巫女イスタラを抱いた姫巫女が言う。
その後姿を見ながら、僕の胸の中にはいろいろな感情が渦巻いていた。姫巫女の胸に抱かれて泣き続ける巫女イスタラを見ていると、僕も泣きたくなってきた。
なぜ泣きたいのかはよく分からない。
巫女イスタラの――兄上の、女に縋って泣く情けない姿に怒りを覚えているのか。
あるいは、兄上に頼られ、縋られている姫巫女に嫉妬しているのか。
それとも――。
僕はその場できびすを返すと、部屋に向かって駆け出した。
部屋に戻ると、僕は絨毯の上にぺたりと座り込んだ。先ほどの光景が、そして盗み聞きした会話が脳裏から離れない。
兄上があの体を受け入れたのは、キシュのため、父上や母上や僕のため? 僕を手元に置いておきたがったのも、僕の身を守るため? それを僕は――。
そしてその思考と一緒に、姫巫女の胸に抱かれている姿が繰り返し浮かんでくる。それを思い浮かべると、胸の奥に痛みが走る。
巫女の勤めとして男に抱かれているときとは違い、心から相手に縋っているあの姿。あんなふうに優しくされたら、もしかしたら兄上は僕を見捨てて姫巫女に心を寄せてしまうんじゃないか。そんな風に考えたら、胸がどんどんと苦しくなってくる。
さまざまな思考に押しつぶされそうになっていた僕を、扉が開く音が現実に引き戻した。
「あ……」
振り返ると、そこには巫女イスタラの姿があった。
「た、ただいま……」
恐る恐る、といった様子で僕に声をかけてくる巫女イスタラ。しかし僕はそれに返事をせず、その顔をじっと見つめた。
「……どうしたの?」
少し気おされた様子で、再び巫女イスタラが僕に声をかけてくる。今度はそれに答える形で、僕は口を開いた。
「……あ、兄上は」
『兄上』という呼びかけに巫女イスタラが戸惑った表情を浮かべる。
「僕のことをどう思っているんですか?」
僕の口から出たのは、自分でも思いもよらなかった言葉だった。いつか問い詰めようと思っていた、キシュのこと、父上や母上のこと、王族としての民への責任――そういったことではなく、まったく個人的な事柄だった。
「愛しているわ。だって、もうこの世にたった一人の家族だもの」
間髪入れず返ってくる答え。それを聞いただけで――涙が溢れ出してきた。
「ど、どうしたの!?」
巫女イスタラが慌てた様子で駆け寄ってくる。僕の肩を掴むと、顔を覗き込んできた。その顔には驚きと焦りの表情が浮かんでいる。
「ごめんなさい、兄上、ごめんなさい……」
僕は泣きながら、ひたすら巫女イスタラに謝り続けた。その僕を、巫女イスタラは先ほどの姫巫女のように胸に抱く。僕は母親にすがる子供のようにその胸にすがりついて、泣きながら謝り続けた。
● ● ●
「それじゃいきましょう、イナンナ」
「はい、姉上」
夕餐の後、着替えを用意して姉上と一緒に浴場に向かう。夜の入浴は、一日の勤めを終えた巫女たちが疲れを癒す大切な時間だ。
この神殿の神官・巫女用の浴場には大きな浴槽がある。その浴槽にたっぷりと張られたお湯に身を浸すのが、姉上のお気に入りだった。
浴場につくと、僕たちのほかに二人の巫女と二人の付き人が居た。付き人たちは着替えと布を持って、浴室の壁際に立っている。
同じように控えていようとする僕を、姉上がいささか強引に一緒に入浴させる。付き人だから、と言って遠慮するのだが、『あなたは私の付き人だけど、巫女見習でもあるのよ』と言われて結局言うとおりにさせられてしまう。このあたりは、キシュに居た頃の兄上と同じだった。
浴槽に身を沈めると、姉上のたわわな乳房がお湯にぷかりと浮かんだ。一緒に入っているほかの二人(二人とも本物の女性だ)と比べても、姉上の乳房は豊かだった。
「……どうしたの、私の胸をじっと見て」
「え、あっ、いえ、何でもありません!」
「うふふ、もしかして触ってみたい?」
思わずその胸を凝視してしまった僕を、姉上がからかう。慌てて視線をそらすのだが、その視線を追いかけるように姉上が移動してくる。視線が再び胸に吸い寄せられそうになり、急いで反対を向く。
僕のすぐ後ろに来た姉上が、今度は僕に寄りかかるようにして体重をかけてきた。背中に感じる乳房の質感に、頭に血が上るのを感じる。
「あ、姉上、あたってます……」
「あら、何がかしら?」
そう言いながら姉上はさらに胸を押し付けてくる。同時に水面下では、姉上の手が僕の男根に伸びてきていた。
姉上の柔らかい手が、僕の男根をやわらかくしごく。しごくと言うより撫でているだけに近いかもしれない、そんな微妙な触り方だった。
もどかしい、しかし確固とした快感に、僕の男根はたちまち固くなってしまった。
「あ、姉上……」
「んー、どうしたのかしら?」
僕の困り声と、姉上のくすくす笑いが重なる。このままされたらお湯の中に出ちゃう――と慌てていた僕を助けてくれたのは、同じお湯に浸かっている巫女様たちだった。
「こらこらイスタラ、イナンナが困っているわよ」
「そうそう、あんまりそんなことばっかりしてると嫌われるわよ」
「はあい」
先輩たちに窘められ、姉上は僕から離れた。僕はほっとすると同時に、ちょっとだけ残念に感じていた。
その後は特にこれと言ったことはなく、巫女様たちとおしゃべりをしながらゆっくり入浴した。
十分に体が温まったら部屋に戻り、寝る支度をする。
僕と姉上の寝台は一応別にあるのだけど、最近はほとんど姉上の寝台で一緒に寝ていた。それ自体に不満は無いのだけれど、朝起きるとしっかりと抱きつかれていて身動きが取れなくなっていることが多いのだけは、どうにかして欲しいところだった。
燭台の火を消すと、部屋の中が真っ暗になる。だけど同じ毛布に包まる姉上の気配が、僕に安心感を与えてくれる。それはきっと姉上も同じだろう。
僕と姉上は、この世で二人きりの親族だ。父上も母上も、そして他の血のつながった者達ももうこの世には居ない。この神殿の神官や巫女たちは僕たちに親切にしてくれるけれど、彼らが僕たちの故国を滅ぼしたアッカドの人間なのには変わりが無い。僕たちが本当に心の底から安らげるのは、二人きりで居るときだけだった。
……と、そんなことを考えている僕の股間を撫でてくる手がある。言うまでもなく、姉上だ。
「……姉上?」
「……な、何かしら」
「……したいんですね?」
「……うん」
昼間の姉上は僕を困らせるぐらい元気で積極的なのに、夜の寝床の中ではなぜかしおらしいと言うか、かわいらしい態度だった。以前はこうではなかったような気がするのだが、一度喧嘩をして仲直りをして以来、どういう訳かこうなってしまったのだ。
昼間の勤めで客人の相手をしなかった晩は、たいていこうして姉上の方から求めてくる。最初は姉上がすっかり男好きの色情狂にでもなってしまったのかとおもっていたのだが、少し話をしてみたところそういうわけではないようだった。
本当は毎晩でも僕と体を重ねたいのだけれど、他の男に抱かれた後だとなんだか僕に悪いような気がするので、そういう日は遠慮をしているのだと言う。そんなことを気にしなくても、とは思ったのだけれど、それをいうのも悪い気がして僕は姉上のするに任せていた。
「どうぞ、姉上のお好きに……」
「ありがとう……」
姉上の足が僕の足に絡みつき、その腰が僕の腰に押し付けられる。僕の男根と姉上の男根が擦れ合い、その部分から湧き起こった甘やかな刺激が背筋を駆け上る。二人の男根がたちまち固くなり、槍を打ち合わせるようにぶつかり合う。
同時に擦れ合う胸からも同じような刺激が起こり、僕と姉上の胸の頂がつんと尖る。だけどこちらでは僕の方が優勢だ。姉上の胸は大きいくせに僕の胸よりずっと敏感で、同じようにこすり合わせていれば姉上のほうがずっと早く登りつめる。なんだか一方的に負けているような気がしないでもないのだけれど……。
姉上の息が荒くなり、僕を抱く腕の力が強くなる。僕も姉上を抱き返すと、胸と腰を強くこすりつけた。
「ああ、イナンナ、私、もう……」
姉上が切羽詰った声を出す。言葉は切れ切れで、息は砂漠の風のように熱かった。
「姉上、今日は、どちらに、します?」
僕も荒い息の下で問い返す。
「私が、あなたに……」
「はい」
僕は寝返りをうって姉上に背を向けると、軽くお尻を突き出した。部屋は真っ暗だったけど、姉上にも今僕がどんな格好か良く分かっているはずだ。
もぞもぞと動く気配がしたかと思うと、僕の後ろの入り口にぴたりと熱いものが押し当てられた。それはじりじりと押し進むと、肉の扉をこじ開けて僕の中に押し入ってきた。
一気に貫き通されるのではなく、こうやって少しずつ入ってこられるのが最近の僕のお気に入りだった。姉上の高ぶりがじっくり感じられ、その熱さと固さをじっくり味わえるからだ。
「はあっ……」
根元までが収まると、姉上が熱い吐息を吐いた。そのまましばらくじっとして、姉上は僕の中の具合を、僕は姉上の固さと押し広げられる感覚を愉しむ。
そうしてしばらくお互いの感触を愉しんだ後、姉上の腰が動き始め、石の様に固くなった男根が僕の中を往復し始めた。
同時に姉上の手が僕の男根をつかんでしごき始め、僕を前後両方から攻めたてた。先ほどの浴場の時とは違い、男根をしっかりと掴んでの責めに、僕はあっさりと防戦一方に追いやられる。
姉上の男根が引き下がると、はらわたを引きずり出されるような感覚が襲い掛かる。逆に奥を突かれる時には、今度ははらわた全体を突き上げられているような錯覚を覚える。からだの中を上下に揺さぶられるような感覚に、僕は強烈な快感を得た。
同時に責められる男根はただ扱かれるだけではなく、親指での腹で先端をこじられたり、人差し指で敏感な筋をこすられたりする。
「んっ、あうっ、姉上っ、あんっ……」
「どう、イナンナ、気持ちいい、かしらっ……?」
「はいっ、姉上のおちんちん、おちんちん、きもちいいですっ!」
「んっ、よかったっ、もっと、もっと感じてちょうだい!」
こうして言葉を交わしていると、肉体だけではなく魂までも交わっているような気がする。魂の中まで姉上に犯されている錯覚にひたって、僕は快楽に悶えた。
やがて僕たちは高ぶりの限界に至り、共に絶頂を迎えた。姉上の子種が僕の中に注ぎ込まれ、その熱さに僕も姉上の手の中に果てる。
「姉上、今晩はこのまま……」
「うん、おやすみ、イナンナ……」
「おやすみなさい、あね、うえ……」
絶頂の陶酔感にひたったまま、体内に姉上の存在感を感じたまま、僕の意識は暖かい暗闇に吸い込まれていった。
● ● ●
年に一度の大祭が迫り、女神の神殿は慌しさに覆われていた。さまざまな準備のために、神官も巫女も奴隷たちも忙しく立ち働く。それは姉上も一緒だった。そんな中、僕だけはその労働を免除されていた。
もちろん理由はある。
今年の大祭の儀式では、僕が贄役をすることになったためだ。
今僕はその用意として、お尻に奇妙な道具を入れられて、拘束されて一日のほとんどを放置されている。他にも、食事のたびに塗りこまれる軟膏によって僕の胸はとんでもなく敏感にされている。
僕は胸とお尻からの快感に喘ぎながら、寝台の上で身をよじることしか出来なかった。
一日に二回、姉上と手伝いの巫女様が僕の面倒を見にきてくれる。手足の拘束は解かれぬまま、赤ん坊のように世話をされ、それが終わると、匂いの強い軟膏を胸とお尻に塗りこまれ、姉上が『指』と呼ぶ器具を入れなおされる。
それが数日続き、いいかげん時間の感覚も曖昧になってきた頃、やっと拘束を解かれて地下室から出してもらえた。
そのまま浴場に連れて行かれ、まずは全身を洗い清められる。数日のうちに大きく育っていた胸が、姉上に触れられるだけでしびれるような快感をもたらした。
肉体がきれいになると、今度は沐浴場の水泉で沐浴をする。それも終わると、僕は儀式用の薄衣と大量の装身具を身につけさせられた。身動きをするたびに
やがて日も落ち、大祭の最終段、姫巫女と贄役の聖なる交合の儀式の時間が来た。
姉上に付き添われながら祭殿に赴くと、広場を群集が埋め尽くしていた。思わず足が止まり、震える僕の手を、姉上がそっと握ってくれる。その暖かさに励まされ、僕は再び足を進めた。
姉上に手伝われて服を脱ぎ、装身具だけを身につけた裸身を群集に晒す。すぐ傍の姫巫女の裸身を見ると、紅潮した頬と固くとがった乳首、大きく立ち上がって蜜をたらす男根が目に付いた。
これからあの男根でお尻を貫かれるのかと思うと、少しの戸惑いと、快楽への欲求が僕の中に渦巻いた。数日間焦らされ続け、しかし絶頂を与えられなかった体は、逞しい男のものに貫かれたがっている。そんな自分の体に僕の心は戸惑うのだけれど、姉上との幾度もの交合で知った貫かれる悦びが思い出され、そんな戸惑いを打ち消していく。
やがて、生贄の子羊のように台上に押さえられた僕のお尻を、姫巫女の男根が容赦なく貫いた。姉上との時のようにゆっくりとではなく、槍で突き刺すように一気に貫かれる。
こじ開けられる感覚、中をこすりあげられる感覚、そして奥を叩かれる感覚が一気に襲ってきて、僕はたった一撃で絶頂してしまった。大理石の上に僕の精が叩きつけられる音がはっきりと聞こえる。絶頂して痙攣するお尻を容赦なく姫巫女の抽送が襲い、その一往復毎に僕は絶頂を繰り返した。
やがて姫巫女も僕の中で果て、熱い液体を僕の中に注ぎ込んだ。
姫巫女が僕の体から離れると、姉上を含む介添の巫女たちが僕を抱き上げ、股間からお尻の部分を群集に晒した。僕の男根と、ぽっかりと開いた尻穴の両方からたれる精を見て、群集が歓声をあげる。これでまた一年、女神の庇護が保証された事になるからだ。
僕の方はと言えば、群集に恥ずかしい姿を晒しながら、自分の中で何かが変わっていくのを感じていた。それが何なのかは、僕自身にも良く分からなかった。
● ● ●
「ううっ、巫女様っ!」
「来てっ、私の中に、あなたのっ……!」
男性の放ったものが僕の中に注がれる。お尻の奥で感じた熱い衝撃に僕も登りつめ、自らの男根から放ったもので自分の腹を汚した。
「はあっ、はあ……。あなたに女神のご加護がありますように――」
「ありがとうございます、巫女様。女神に栄光あれ――」
聖なる娼婦である僕らと交わることで女神の加護を得る。そのための、神と人をつなぐための
正直に言って、僕と交わったからといってその人に女神の加護が与えられるとはとても思えない。僕は女神の敬虔な信者でもなんでもなく、成り行きでこの神殿の巫女をやっているだけだからだ。
けれどもこの勤めを果たすことが僕に望まれている事――そして姉上と一緒にここに居るために、僕がやらなければならないことだ。それは姉上も同じこと。ここでこの勤めを果たし続けることだけが、僕と姉上がこの先も一緒に居られる唯一の方法だ。
それに、僕はこの勤めに苦痛も嫌悪も感じていない。むしろ男のものでお尻を貫かれて絶頂に誘われるのは、甘美な陶酔感さえ感じさせられることだった。
姉上と幾度も交わり、大祭の儀式のために器具や薬で調教を施され、姫巫女に大衆の面前で犯され――それらの行為の結果僕のお尻はすっかり男根の味を覚え、もはや性器として男を迎え入れるための穴になっていた。姉上のように大きくなった胸も敏感で、固くなった頂を吸われるととそれだけで絶頂しそうになる。
そして、汚れて男の匂いのついた体を姉上に洗ってもらうと、気恥ずかしく申し訳ないと同時に心の底から安心させられる。姉上が僕に体を洗わせたがった気持ちも、今なら良く分かった。
夜になると、僕は姉上と同じ寝台で一緒の毛布に包まって眠る。今僕たちの部屋には、ひとつだけの、その代わり二人で眠るのに十分な大きさの寝台が置かれている。以前僕が付き人だったときには、姉上用の寝台と、僕用の小さくて低い寝台の二つが置かれていたのだけれど、姉上の要望で入れ替えられたものだ。姉上から求めてくる時も有れば僕が求める時もあり――毎晩僕たちはその寝台の上で愛を交わす。
僕の男根に貫かれて悶える姉上は、とても年上と思えないほど可愛らしい喘ぎをあげる。だけどその男根で僕を貫くときの姉上は、僕を突き殺そうとしているんじゃないかと思えるぐらい激しい。多分姉上から見れば、僕もそういう風に見えているんだと思う。
お尻に姉上の精を注がれると、自分が征服されてしまったような、ぞくぞくした陶酔感を感じる。逆に姉上に注ぎ込んだときは、姉上を自分が征服したような、そんな絶頂感を感じる。僕が姉上のものになったのか、姉上が僕のものになったのか――多分その両方なのだろう。
愛を交わした心地よい疲れを感じながら姉上と抱き合って眠りにつくのが、僕の一日の終わりだった。
● ● ●
都市国家アッカドの町外れには、市街を見下ろす小高い丘がありました。その丘には、神々の女王と崇拝される愛と戦争の女神の神殿が建っています。女神はまたアッカドの守護神でもあり、神殿の巫女の長である姫巫女は、アッカドでもっとも神聖にして高貴な女性でした。
ある年、女神の神殿の姫巫女が代替わりをしました。異例なことに、新しい姫巫女は一人では有りませんでした。高貴で優雅な雰囲気に満ちた姉と、凛とした気高い雰囲気の妹の二人。すなわち、新たな姫巫女は姉妹なのでした。
アッカドの人々は驚き戸惑いましたが、しばらくするとそれも納得に変わりました。二人の美しさ、気品と優雅さに満ちた立居振舞等々、いずれをとってもこれ以上姫巫女に相応しい人物はいないと思われるものだったからです。
人々は噂しました。あの二人はどこから来たのだろうかと。不思議なことに二人の出自は神殿と王室の秘密とされ、町にはそれを知る人間は一人も居ませんでした。
いずこかの貴族の家の出なのではないか。
赤子の頃から神殿で育てられた秘蔵子かもしれない。
いやいやきっと何代か前の姫巫女のお子なのだろう。
さまざまな噂が流れ、中には『あの気品はどこぞの王族の出に違いない』などという途方も無いものまでありました。
そんな下々の喧騒をよそに神殿では日々祈りが捧げられ、祭事が催され、人々に祝福が与えられ、そして巫女が愛を分け与えます。
姫巫女が代替わりした次の年、遠征に出る将軍が姫巫女姉妹から祝福と加護を賜りました。その将軍の率いた遠征軍はまれに見る戦果をあげ、一度の遠征で三つの都市を占領するという手柄を立てます。人々はあの二人は女神が遣わした御使いに違いないと噂し、王侯貴族や高位顕官が競ってその祝福を求めるようになりました。
それら全てに分け隔てなく愛と祝福を与えながら、忙しいなかにも仲睦まじくすごす姫巫女姉妹の姿に、人々はアッカドに女神の加護があることを確信するのでした。
―了―