目次

『佐藤栞』


八月のある日、佐藤栞(さとう・しおり)は姉の留守を狙って、数枚の衣服と下着を拝借した。うだるような、残暑厳しい夏の午後の事である。
「ごめんね、姉さん」
栞は手にした姉の衣服と下着を自室へ持ち帰ると、陽が翳ってきた訳でも無いのに、カーテンを引いて室内を遮光した。そうした後、待ちきれないようなもどかしさを見せながら、着ている物をそそくさと脱ぎ始める。
「急がなきゃ」
シャツとハーフパンツを脱ぐと、栞は全裸になった。薄い胸板と繊細なタッチの腰のラインが中性的で、遠目に見ればまるで発育途中の少女の肢体のよう。しかし、股間に注目すれば、そこにはしっかりと男性を意識させるような、逞しいモノがぶら下がっている。古風で優しげな名がついてはいるが、栞はれっきとした男なのだ。
「いつもながら、この一瞬がドキドキする」
栞の手が、姉のショーツの両はじを摘んでいた。姿勢は心もち前かがみになり、膝をゆっくりと上げている。どうやら彼は、姉の下着を穿こうとしているらしい。
「ふん、ふ〜ん」
ショーツは汗抜けがいいように、綿百パーセントの素材が用いられている。見るからに安手の物だが、それを意に介さないように、栞の心は奮っていた。
「よっ・・・と」
ゴムが入ったショーツのウエストラインをキュッと引っ張って、ヒップへの密着感を確かめる。細身だが、栞の桃尻はまるで女のようになめらかで、丸みを帯びていた。それ故、女性物の下着が素晴らしくフィットする。今だって、ヒップラインを包むショーツがパンッと張って、艶かしい双丘を彩っているのだ。
これが・・・まずいよなあ・・・」
女性物のショーツが似合う尻を持ってはいるが、女であればあろうはずが無い男性器が、ショーツの前面で禍々しくかたどってしまう。栞は、それが不満だった。実際、栞の男は女泣かせの逸物で、身に着けた小さな女性用下着に悲鳴を上げさせるほど大きい。
「女の子には無いモノが・・・ハア、興ざめだなあ・・・」
仕方が無い──栞は気を取り直して、今度はブラジャーを手に取った。細身の家系なのか、姉のブラジャーはお世辞にも大きいとは言えない。それは、カップのサイズも同様。
もっとも、栞にとってはその事が幸いとなる。
「パットが無いと、ブラは厳しいな」
ブラジャーは前後ろ逆に装着され、ホックを止められた。その後、栞は器用にカップを前へ移動させ、正しいポジションを取る。もちろん、ストラップを肩から掛けて。
「う〜ん・・・なで肩なんで、ストラップがスグ落ちちゃうな」
カップを満たす乳肉こそ無いが、今の栞の心は女の子そのものだ。いや、彼は物心がついた時から、少女だったのである。
『ボクは、どうして男に生まれたんだろう』
思春期を迎えた辺りから、栞は強烈に自分が男である事に疑問を持ち始めた。それは、同性愛というよりは、女性への憧れという感が強く、同級生の女子や街ゆく女性たちと同じように、美しく着飾って外出したい、化粧をして当たり前のように女でありたいと、思い悩み始めたのである。
「今度は服だ。ワンピースのミニだけど、丈の長さがほど良いな」
ブラジャーとショーツを着けた体に、衣擦れの音と共にピンクのワンピースが頭から滑り落ちていく。栞は背のジッパーへ手を伸ばすと、着崩れが無いか確かめるために、姿見の前へ移動した。
「エヘ♪」
と、鏡に映った自分に向かって、軽くお愛想。栞は少年ながら、美貌に恵まれており、こうして女性の装いをして笑顔を作れば、そこいらにいる同年代の少女よりも、よほど可愛らしい。また、すらりと伸びた足には脛毛などという無粋なものも見られなかった。
「うん、似合う、似合う〜♪」
ワンピースの裾をちょいと摘み、鏡の前で体を舞わせる栞。前後左右に身なりをチェックしてみても、違和感はまるで無し。どうやって見ても、ただの美少女である。
「あー、やっぱり女の子の服はいいな・・・本当の自分に帰れた・・・って気がする」
栞はそう言って、肩まで伸ばしてある髪を手で梳く。当節、男性が長髪でも珍しくは無いので、この髪型と決めているのだが、美しく梳かれた髪が、少しでも女性に近づきたいという努力を窺わせている。そして、身なりが整うと決めのセリフをついた。
「あたしは、栞よ」
少年少女──栞の事を表するならば、その言葉が似つかわしいだろう。何かの間違いで男に生まれてしまった──美しく着飾った栞の姿を見れば、誰だってそう思うに違いない。
「さて、出かけるか。陽も落ちてきたし」
チェストからバッグを取り出し、外出の整いをする栞。外は暮れなずんでいて、すぐにでも夕闇が迫って来そうだった。そして、ピンクのワンピースの裾をひらめかせながら、少年少女は自室を後にする。
「人目があっても、キニシナイ」
栞は、自宅がある高級住宅街を歩いていく。金持ちが住まう場所柄故か、幸いにも徒歩で出歩いている人間には出会わない。稀に誰かとすれ違っても知った顔は無く、向こうもこちらには関心を見せなかった。だから、栞は安心して素顔を晒している。そして、住宅街を抜けて大通りまで出ると、おもむろに親指を立て、
「タクシー!」
と、空車のタクシーをつかまえて、颯爽と乗り込んだのであった。
(あたしが、本当の女の子だったらなあ・・・)
運転手に行き先を告げた後、流れる街の風景を見ていると途端に鬱になる。栞は、街ゆく人々を見ると、いつも切なくなるのだ。特に、楽しげに談笑をしている男女を観察している時に、その傾向が強く出る。
(普通に、恋愛をしてみたいよ)
栞の恋はいつも一方通行に終わっていた。心が女性なので、当然好きになる対象は男になる。そして、栞も美しくはあるが男。誰もが知っているように、同性が同性を愛する事に対して、この国は寛容では無い。むしろ異端と見られ、腫れ物に触れるような扱いを受けるはずだ。それを、栞は理解している。
「お客さん、着きましたよ」
ぼんやりとしている栞へ、タクシーの運転手が話しかけた。着いた場所は飲み屋などが乱立する繁華街である。するとどうだろう、夢想中だった栞に生気が宿り、頬が上気し始めたではないか。胸がときめく──そんな表情だった。
「お釣りはいらない」
バッグから千円札を数枚取り出し、運賃の支払いに当てた後、栞は弾むようにタクシーから降りた。その後、夢見るような目つきを見せながら、美しい少年少女は繁華街の薄闇の中へ、消えていったのである。

『マグナハウス』

数時間後、栞はこんな殴り書きがしてあるバーの中で踊っていた。それも、見るからに急造されたようなステージの上で、スポットライトを浴びながら──
「フフフ」
ブロック分けされた客席の間を縫って、栞はにこやかに踊っている。見ると、体には透き通ったベビードールと、薄手のパンティが一枚着いているだけ。後は、白い素肌を淫らに飾る、ガーターベルトとストッキング、それに足元を苛むピンヒールが添えられていた。
高台になったステージの下には、無数の酔客が居る。しかし、誰もが酒に酔うというよりは、中性の美しさを持つ栞の肢体に見惚れていた。
(みんなが、あたしを見てる・・・うふッ・・)
ストリッパーのように腰をグラインドさせ、いやらしく踊れば客がどよめく。栞は、その瞬間が好きだった。好奇な部分はあっても、彼らが性的な目で自分を見ているという事が、嬉しいのである。

栞は家人の目を盗んで、週に一回ここで踊っている。女装癖──否、心が本来の性別である、女性に戻ってからはずっと。ここは、栞のような少年少女を愛する嗜好を持つ者が集うバーであった。もちろん、心が女性化した者を咎めるような客は居ない。
誰もが、花を愛でる如き心を携えてやって来るのだ。

「フィナーレ!」
壇上の栞が高々と手を上げると、舞台袖から筋骨逞しい黒人男性が現れた。もとより小柄で、あどけなさが抜けていない栞と黒人男性が並ぶと、大人と子供ほどの体格差がある。その後、栞は楚々としたパンティに手を掛け、まろみを帯びたヒップを曝け出した。
「おお・・・」
客席から感嘆の声が上がると、栞はいたずらっぽく笑いつつ、ウインクで返す。だが、股間には美しい少年少女のそこには不釣合いな男根が勃ち聳えていた。
「ほれぼれするな」
「可愛い顔してアレだからな。そのギャップがたまらんよ」
反り返った栞の肉筒を見て、客席からは賞賛が送られている。想像して欲しい。美しい少女の股間に、忌まわしい男根が生えている姿を。折れそうな細い体にぶら下がった陽根の存在感を。それは普通の女では決して得られない、究極の美とは言えないだろうか。
「シオリ」
「うん」
黒人男性が、栞を促すように囁いた。彼もまた股間を熱く滾らせており、手早く裸になる。そして、刹那はやって来た──
「あ・・・ああ」
黒人男性に左右から肩をがっちりと掴まれ、栞は目を細めている。下半身に注目すると、丸みを帯びた桃尻の割れ目には、黒ずんだ肉筒が嵌っていく所が見えた。黒人男性は男根に手を添える事もせず、膂力に任せて立ったまま、栞の尻穴を穿とうというのだ。
「ううんッ・・・うあ・・あ・・・」
ひくッひくッと栞の体が震えた。つま先が立ち、自然と腰が逃げる格好となる。黒人男性の男根が尻穴を広げているのだ。
「お・・・あ・・あ・・・」
言葉が途切れ、目を見開く栞。立位──とは言っても、体格差を考えると栞は、黒人男性男根で体を中心から串刺しにされているような感じである。そのために犯され感が強く栞は立っているのがやっとの状態。それほど、黒人男性の男根は太く、硬い。
「あーッ!」
ぴくりと栞の男根が嘶いた。どうも、尻穴は黒人男性の男根で塞がれたらしい。その証拠に、膝から下には力が入っておらず、腰砕け気味になっている。
「栞ちゃんが、やられた」
「ちくしょう、あんなでかいチンポに!」
客席からああ・・・とため息が漏れた。美しい同胞の少年少女が、黒人男性に犯される姿に当てられ、気が気ではないらしい。だが、栞は更に辱めを受ける事を望んでいる。その上で、客が気を揉んでくれる事が、楽しいのだ。
「イクゾ、シオリ」
「うううッ!」
そんな心を見透かした訳ではなかろうが、黒人男性は深々と繋がった結合部を客席へ見せ付けんとばかりに、栞の両膝の内側に手を回し、赤子に小便をさせるような姿勢を取った。こうすれば、野太い黒筒が可憐なすぼまりをぶち抜いている所が、はっきりと客たちの目に映る。
「おお・・・すげえな、あのチンポが入るなんて・・・」
黒人男性の男根は、ぬめった栞の尻穴を猛々しく出入りしていた。その淫靡な光景に客の全てが魂を奪われてしまう。しかも皆、獣欲を丸出しにして、出来る事ならば黒人男性にとって代わり、栞を己が物にしたいと思っていた。
「ああ・・・た、たまらないッ!」
同性との罪深い淫行──この瞬間だけは、栞の体も女になれる。相手は別段、恋焦がれている意中の人では無いが、それでも女になれる気持ちは格別だった。まして、それを衆人環視の中で行い、見ている人たちが生唾を飲んでくれるのであれば──
(お、お尻が気持ちよくって・・・ああ・・・)
尻姦の甘い疼きを、栞はすでに心得ている。だから、すでに肛内は快楽に支配され理性が蕩け始めていた。ぎしぎしと、肉と肉が絡み合う素晴らしさにその身が焦がされている。
「イクッ!」
そう言って、栞が果てた。男根を嘶かせ、白濁液を壇上へ撒き散らしながら──まだ、後ろでつがっている黒人男性は果ててはいないが、そんな事はどうでも良くなっていた。
(ああ・・・栞、イッちゃった・・・)
断続的な射精で、きゅんと尻穴がすぼまる事が恥ずかしい──しかし、栞は後悔している訳では無かった。それどころか、去りゆく時間を惜しんでさえいた。女としての快感を得られるこの瞬間が、永遠に続かないものかと願いながら・・・・・

おわり

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