その国は戦時下にあった。
国民の威信を賭けた戦いではない、軍部が独断で取り決めた暴虐。
男は7歳で徴兵を受け、死んでいく。それが長く続いた。
父や息子を失った女たちは嘆き哀しみ、下水道に隠れ住みはじめる。
その数は数百に及び、もはや小さな町を成していた。
「よ、っと…」
大きな布袋をふたつ抱え、一人の娘が掛け声を上げる。
中年の女性達がそれに惚れ惚れとした視線を送った。
「はは、アイリーンは本当に力持ちだねぇ。助かるよ」
アイリーンと呼ばれた娘は澄んだ瞳を細める。
長く編んだ明るい茶髪が赤らむ頬を撫でた。
「あんまり自慢できる事じゃないけどね」
鼻筋の綺麗に通った上品そうな顔立ち。
自らの若い頃とは比にならない美しさに、女性達は溜め息をつく。
アイリーンは今日も子供に遊び相手をせがまれていた。
足早にその邪魔をかいくぐる美脚は引き締まり、しかし程よく肉づいて、
実に子供の教育に悪いと茶化されるほどだ。
「妙な気分だよ、全く…」
中年女の一人が娘の後姿を眺めて一人ごちた。
アイリーンが純粋な女ではないと知るがゆえの嘆息。
“彼女”が生まれたのは戦争が激化しはじめた頃だ。
母親により「息子を徴兵から逃したい」一心で女として育てられ、
その母が他界した後もそれは美しく成長した。
形見のヘアドレスをつけた姿は、同世代の少女よりずっと色気がある。
アイリーンが人一倍『女』を磨いてきたから。
ただ女性である他の者より、常に淑やかさや優しさを意識してきたから。
よもやそれが仇となる日が来ようなどとは、想像さえしなかったが。
下水道にはいつも強い塩素の匂いが立ち込めている。
それはプールのようであり、海のようでもある。
しかし、その日は何か違っていた。
せめてもの衛生にと撒かれたその匂いが穢れる時は、
大抵ろくでもない事が起こるのだとアイリーンは教わった。
それは大仰な足音を鳴らして踏み入ってくる。
カツカツと規則正しく響く音は軍靴に違いない。
一人、二人…十数人、小隊だろうか。
「…アイリ、早く子供を連れて隠れるんだよ!!」
聞きなれた声が叫んだ直後、娘は見た。
獣のように獰猛な目、悪魔のように下卑た笑みの男達。
携えた銃の縁が鈍く光り、下には見知った女性が伏している。
世間知らずなアイリーンは、しかし、そこに全てを悟った。
「御国の為に働こうともせんクズ共が、こんな所に隠れていたか」
彼らは無闇に銃声を打ち鳴らし、テントを蹴り壊す。
だがその暴挙を誰も止めない。
女の腕っ節では敵わないし、戦争から逃げた引け目もある。
皆が後ずさるのを小馬鹿にしつつ、兵は手近な少女の肩を抱いた。
アイリーンより2つ下、この間大人の日を祝ったばかりのシシーだ。
「へっ、美味そうなガキもいるじゃねぇか」
「い、嫌ぁっ!やめて下さい!」
胸をまさぐられ、シシーは悲鳴をあげた。
「黙れ。母親と一緒に慰安婦になりたいか」
兵が囁くと、たちまちあどけない顔が悲壮に歪む。
幼い彼女も分かっているのだ。
この場所が軍に知れた以上、誰かが犠牲にならなければならない。
男たちの本能を満たすため、この暮らしを守るために。
誰も助けてはくれない―――。
そう目を閉じかける彼女の視界に、突如、鮮やかな栗色の髪が舞った。
(アイリ……?)
シシーを庇ってきっと睨みすえる娘に、男達は口笛を吹く。
涼やかな目元、薄く柔らかそうな唇、すらりと伸びた手足。
粗食のうえ洗顔も石鹸でしか許されぬ状況のため、
ややくすみはあるものの薄桃色に透き通る肌。
着古したブラウスにスカートという貧相な身なりさえ、
腰つきや太腿から匂い立つ何かを抑えるかのようだ。
戦時下では久しく見られない瑞々しさがそこにあった。
「貴様、名前は」
兵はシシーを離し、アイリーンに詰め寄った。
すると、娘の瞳がやや動揺を映す。
「聞こえんのか。名前は」
銃口を向けてもアイリーンは答えない。
口が利けないのか。そう思った者もいたが、
ある一人が少女の喉元をいぶかしげに眺めていた。
自分たちと同様に隆起した喉仏を。
彼は笑い、アイリーンのスカートに手を差し入れてぐっと力を込める。
「…ぎぃあ゛っ!」
予想通り、“娘”の悲鳴には違和感があった。
他の兵が顔色を変える。
「貴様、男だな?」
敏い一人は娘のもつ玉袋をぐりりと捻り、涙目になる美貌へ笑みを寄せた。
「ち、違います!私は……っ!!」
アイリーンは首を振る。
単に徴兵が怖いわけではない。
男手が無くなった時、ここの暮らしにはきっと支障が出るだろうから。
自分ですら音を上げそうな重責を、女たちに負わせる事になるから。
「ほう、認めんのか。ならば慎重に確かめんとな。
これは徴兵の規を侵しかねん事態だ」
兵たちはくくっと笑い、持参した荷を解き始めた。
アイリーンの顔が青ざめる。
そこには、彼女が目にした事もない淫具が無数に収められていた。
初めからここで女を辱める気でいたのだろう。
だが、それは「女性」に限らないらしい。
彼らはアイリーンの強張る身体に息を荒げる。
「お前が男か、女か……。俺達がはっきりさせてやろう」
かちんとガラス製の浣腸器を鳴らし、嘲笑が華奢な娘を取り囲んだ。
「う、んぅむっっ!!」
白人男の長大な物を喉に触れさせながら、娘は大きく息を求めた。
忘れていた生臭さが鼻腔を抜ける。
自分はこんなに汚らしい物を、自分にあるものよりずっとおぞましい物を
舐めしゃぶっているのだと泣きたくなるが、それもすぐに消し飛んでしまう。
内腿が、膝がふるえて前屈を保てない。
眼前の男の腰を強く抱え、已む無くずるりと喉奥へ熱さを呑みこむ。
あお゛っ、と白目を剥きそうになる瞬間が男を悦ばせてしまうらしい。
「ずいぶんと聞き分けが良くなったな。これが効いたか」
全裸のアイリーンを見下ろす兵士が床のガラス瓶を蹴った。
数人の少女が顔を背ける。憐れな情景を思い出したらしい。
真水が、とろみのついた液が執拗に娘へ注がれる瞬間を。
着衣のまま脂汗を流して吼える娘は、しっかりと男の証を反り立てていた。
そのアイリーンの後孔はついにふやけきり、否、蕩けきっている。
「…ぁ、う、ううぅ、くはっ…」
口戯に浸っていた娘の口から涎が垂れ、鼻水が顎を伝う。
原因は尻穴深くへねじ込まれた3本の指だ。
度重なる排泄で粘膜の弱まった腸をくじり回され、一気に開かれる。
それはどんな気分だろう。
傍らでは別の男が少女の逸物をゆったりと扱いていた。
そこは大きさこそ半勃ちに戻ったが、大変な快感が巡っているらしい。
にちにちと先端で鳴る水音がそれをよく物語っていた。
「どう感じる」
尻穴を嬲っていた男が3本指を引き抜いて問うた。
初めにつけた潤滑油が淡い琥珀色に濁っている。
なるほど、何度も堪らないような唸りを上げるわけだ。
「……あ、あの。あそこも、お尻も、おしっこが漏れそうで。
本当にただ、うう、って感じでした」
アイリーンはどう答えるか逡巡した後、素直にそう告げる。
男たちは意地悪い嘲笑いを深めた。
「ふん、尻穴で催すとはどうにも浅ましい女だな。
おっと、貴様が女かはまだ判らんか」
今一度念を押し、硬さを増してきた健気な裏筋をこりこりと弄る。
失禁のように軽く訪れる射精感を、娘は必死に堪えねばならなかった。
(アイリ…ごめんなさい)
シシーは涙を浮かべ、妙な動悸を感じながら見守っていた。
低い声、猛る怒張ははっきりと彼が男である事を示している。
しかしその女より肉感的な体つき、時おりシシーらを仰ぐ優しい瞳は、
彼女が敬愛し女としての目標とするアイリーンそのものだ。
変な気持ちがする。
彼女が男であるのか、女であるのか判らない。
兵士達が言った言葉は、茶化すばかりでは無かったのかもしれない。
娘の美脚がついに力をなくし、床に水音を立ててへたり込んだ。
その上に兵士達が群がり、慎ましい蕾に何かを捻じ込んでいく。
見るもおぞましい瘤に覆われた、大きな男根を模したもの。
到底、娘の小さな排泄孔に収まるとは思えない。
しかしそれは男の力で、皺を伸ばし、筋肉を張って飲み込まれていく。
「あ、おおぅうおおお………っ!!」
アイリーンの美しい唇からたまらずうめきが漏れる。
ぞくっとした。
男でもなく女でもない、どこか神秘的ですらある中性的な叫び。
それは床についた腰へ垂直に張型が挿された時、最も大きくなった。
「いい声を出すな。ケツの感じ方はまるきり女か」
臍側の腸壁を擦り上げるように動かされると、娘の太腿が飛び跳ねる。
潰れたカエルのように無様に這いつくばり、アイリーンは身悶えた。
身動きできない肢体と同様、その腸内も快感に刺し貫かれて極まっているに違いない。
「うあっ!」
しばらくの後、娘は目を見開いて短く叫んだ。脚の震えが止まり、肩で息をする。
その意味は誰の目にも明らかだった。
「どうかしたのか」
兵士が愉しげに娘の菊輪から張型を抜き出し、大きく突き込んだ。
「い、いえ何でも……ぃああっ!!」
より一層の反応を示しながら、アイリーンは歯を喰いしばる。
その額には大粒の汗がいくつも浮いていた。
張型が抜き差しされる度、彼女の細い腰の下からにちゃにちゃと音がする。
それは回を増すごとに生々しいものになっていった。
「ほう、さては貴様…」
抜き差しを繰り返す兵士が、今思いついたとでも言いたげに娘の身体を仰向けにする。
「だ、駄目ぇ!!」
アイリーンは必死に抵抗したが軍人の力には敵わない。
晒された前身に多くの者が息を呑んだ。
娘のなだらかな下腹、小さな胸、鎖骨に至るまでを白濁が染め上げている。
それらが汗と混じり、美しい肌を露で穢す。
彼女は地面に平伏し、腸内を異物に掻き回されながら幾度も幾度も達していたのだ。
濃厚な雄の体臭が、この場で最も女らしい躯から発せられる。
少女の鼻腔から塩素の匂いが薄れていく。
「これは何だ」
兵士は白濁を掬いあげ、アイリーンの鼻先へ塗りつけた。
初めて嗅ぐ生臭い匂いに、可憐な娘はくふっと噎せ返る。
「わ…私、こんな…でも!」
かぶりを振るアイリーン。
そんな彼女に、兵士の一人が皮製のバンドを取り出した。
それを娘のすっかり隆起した怒張の根元に結わえ付ける。
「え、やだっ……」
娘は焦りを見せた。
簡素だが残酷なまでにしっかりと精の滾りを妨げられる。
空気がふれるだけで蜜の零れそうな今、それでは生殺しだ。
「お前は女だという積もりなんだろう?なら、そこは必要あるまい」
兵士達はみな一様に息を荒げていた。
実のところ、もう目の前の娘が男か女かなどどうでも良い。
ただ飢えた獣のように娘に群がっていく。
美しい顔に、落ち着いた声に、暖かな身体に狂わされて。
見守るだけの住人達さえ言葉を失くす。
そしてその熱気は、遂にアイリーン自身をも火照らせた。
塩素臭の立ち込める下水道、ランプの灯りが集う場所。
そこに苦悶の息が吐かれてから何時間が経っただろう。
住人達は頭を抱え、耳を塞ぎながら刻が過ぎるのを待っていた。
その中央には幾重もの影を壁へ映し出す娘がいる。
白くやわらかな身体は水を浴びた様で、憑かれたかのように痙攣する腰を上下させた。
下に寝そべる兵士は自らの剛直とそこに纏いつく紅肉を見交わしている。
アイリーンは息を切らせていた。
脚が限界なのか、排泄の穴を抉られるのがつらいのか。
「よく締まるな、もう少しだ!」
兵の言葉に、娘はまた体中から汗を飛沫かせる。
「う、うっうっう、う―――ぐく……あぁっ!」
腰を剛直に叩きつけて何かを求めていた娘は、気落ちした様子で首を垂れた。
男は逆に満ち足りた顔で汗を拭う。
可憐な蕾から赤黒い逸物が引き抜かれると、大量の白濁が美脚を伝った。
それが全て出切る間もなく、また別の男が後ろから覆い被さる。
先ほどの男より2周りは大きい。
「い、っき、ッ、きついい……っ!!」
腹を埋め尽くされる感触は絶頂を思わせた。
しかし開放感に浸る事だけは叶わず、また男の気の向くまま後孔を犯される。
服を着ずとも女を匂わせる華奢な身体が大きく脚を広げていく。
その身体は汗や男達の白濁で発狂しそうな匂いになっていたし、
親兄弟にも等しい人々の視線は皮一枚隔てた心を苛んだ。
だが一生分の排泄を味わうような直腸の熱さが、それら全てを霞ませてしまう。
灼熱の杭を打ち込まれる感覚は、そのまま尿道を駆けて前立腺を張り詰めさせる。
しかしそこから熱さが抜けない。
「おう、おう、貴様の尻穴は…絶品だな。熱くて逸物が熔けそうだ」
喘ぎながら腰を叩きつける兵士に、息も絶え絶えなアイリーンは為す術もない。
人形のように頭を揺らし、歯だけを苦しそうに喰いしばる。
「どうだ、貴様も感じているか」
男の突き上げに応え、娘の怒張もぴんと天を向いた。
根元を絞られているにも拘らず、その先からは尿と精の入り混じった
黄色い斑らが床に染みを作っている。
シシーはもどかしそうな表情でそれを眺めていた。
涙を流し、涎を垂らし、延々と内臓を突き上げられて苦悶する憧れの相手を。
助けたいという気持ちはあったが、つい見入ってしまう。
少女は“娘”の末期に思いを馳せた。
捲れ上がる菊輪から薄黄色い粘液を垂らしはじめたアイリーンは、
今まで見た事もない表情を作っている。
脚を裂けそうなほど大きくひらげ、抱え上げられた体内に真っ赤な怒張を突き刺されて。
男に?まれた腹が低く鳴り、アイリーンは遂に限界を迎える。
「い、いかせてえぇえーーー!!いかせてよおーーーーーっっ!!!」
彼女はぞくぞくと背を仰け反らせて叫んだ。
何十回と突かれ、注がれた快感がついに膀胱を溢れさせたのである。
背後の男が達する瞬間、娘の革バンドも取り外される。
「ひぅっ―――!・」
急激な開放感と刺激の奔流に、アイリーンの澄んだ瞳は上向いたまま光を失った。
その漲りは勢い良く眼前の少女へと浴びせかかる。
(これが……アイリの、精……。)
唇に垂れたとろみを舌で掬い、シシーは恍惚とした表情を浮かべた。
兵士達は、その後もしばらく下水道に立ち寄ってはアイリーンを抱いた。
その愛し方は次第に恋人に対するそれに近しくなっていった。
キスをし、胸を舐め、指を絡めて。
シシーには、彼らが娘に惚れたことが一目でわかった。
肌で触れ合うことで心を許したのだろうか。
横暴に見えて一抹の寂寥があったのかもしれない。
だが、彼らはアイリーンに酌をさせた次の日、急に姿を消す。
理由は古ぼけたラジオから知れた。
敗戦。
軍部は壊滅し、多くの兵が捕虜となったのだという。
「自業自得よね」
アイリーンの腕にすがりつきシシーがそう言った時、
彼女はアイリーンの横顔に影を見た。
「そんな事、言うもんじゃないわ。きっと何処かでは立派に戦ってたのよ」
シシーは思わず娘を見上げる。
あれほどの目に遭ったというのに、この人はどこまで…。
それから数日後、兵士達は再び下水道を訪れた。
ただしもう軍服ではなく、ただの難民として。
彼らは唯一知るアイリーン達の所へ意気消沈して現れた。
アイリーンを見て震え上がる彼らに、娘はひと言こう告げる。
おかえりなさい、と。
兵たちは、皆が敬礼の姿勢を取ったという。
下水道に作られた集落は、歴史の裏で多くの人々を育ててゆく。
そこにはかつて、或る慈悲深い“娘”が暮らしていた。
FIN