『秘密』

  人気の無い校舎。
  すでに外は日が落ち、蛍光灯の放つ淡い光がどこか不気味に感じられた。
  そんな校舎の廊下を、少女が一人足早に出口を目指し歩いていた。
 「ったく。何が『後輩の勤め』よ。あんた達が先に帰りたいだけじゃない。
  大体、生徒会の会長だかなんだか知らないけど、自分だけいい顔して
  面倒なことは全部下に押しつけるとか……。
  だいたい生徒会なんて入りたくて入ったわけじゃないし……」
  ムスッとした不満顔で、一人ブツブツと不平を漏らしながら歩く様子から、
  まるで不気味な校舎に対して怖がる余裕もないと言った様子だった。
  その途中、不自然に明かりが灯る女子トイレから、押し殺したような
  『声』のような小さな音が唐突に彼女の耳に入った。
 「んっ……はぁ…あぁっ」
  不意に彼女の耳にその声が入り、ビクッと驚いた様子でそのトイレの前で足を止めた。
  見ると、男子トイレは消されているにも関わらず、女子トイレだけ電気が着いていた。
  彼女は、少し顔青ざめながらもをトイレの前で耳を澄ませる。
 「んんっ……やだ、まだダメッ……」
  続いて聞こえる声もどこか艶めかしい物だった。
 「も、もしかして……」
  彼女は小声でそう呟くと、女子トイレの中で行われている事を想像する。
  すると、ミカの頬がみるみるうちに紅潮していった。
 「こ、これは不味いよね。
  せ、生徒会の一員、というか生徒の一人として注意しなくちゃ」
  相変わらず小声で噛みながらそう言うと、顔を上気させたままトイレに入った。
  トイレに入ると、案の定一室だけ戸が閉まっていた。無論、声がするのはそこからだ。
  気づかれないように、彼女はその前で軽く深呼吸をするとドアの前で口を開く。
 「こ、こら! こんな夜遅くまで学校に残って、な、何してるんですか!
  そういうことはね……家とかで……その……やったら、どうなんです!?
  って……やったらダメです! 家でも学校でも! とにかく帰りなさいっ」
  その若干意味不明な忠告に、恥ずかしさの余り彼女はますます顔を赤くした。
  すると途端に個室からの声が止まると同時に、ガサガサと音がした。
 「あ、あれ?」
  不思議に思った彼女はどうすれば良いか迷ってしまう。
  ――まさか自分の勘違い? 幻聴? それとも実は夢?――
  上気した頭で混乱しつつも、声の正体を探るべくドアノブを持ちゆっくりと引いた。
 「……開いた」
  カギが掛かっていないことに若干驚きつつ、恐る恐るドアを開ける。
  するとそこには、顔を青くし、恐らく履いていたであろうチェック柄のロングスカートを、
  膝の上に載せて秘部を隠している女性が一人居ただけだった。
 「あ……あぁ……」
  女性は僅かに震えながら、スカートを掴む手にギュッと力を入れた。
  それに気づいたかのように彼女は女性の股間を見ると、そこには女性ではあり得ない
  『膨らみ』がはっきりと主張された。
  足下の床にはショーツが落ちていたことから、スカートの下は明らかに
  『何も履いていない』状態だったことが即座に理解できた。
  そして、今一度顔を上げ女性の顔を覗くと、彼女がよく知った顔だった。
 「えっ、あの、もしかして水口センセイ……?」
  そこに居るのは彼女の担任でもある女性教員――水口ナツメだった。
  ナツメは、大学を出て教師になってまだ数年という若い教員で生徒の中、
  特に女子生徒からは人気があった。
  ――肩に掛かる程度のふわりとした髪とパッチリとした瞳が、小顔に相まって
  『可愛らしい』と評判だった。それだけで無く、性格の面においても物腰の柔らかい
  ところが、ナツメの人気を高めている要因の一つだった。
  ――何故、こんな夜遅くに生徒用の女子トイレに籠もっているのか。
    あんな声をだして何をしていたのか。
    それに加えて、スカートを盛り上げている『アレ』は何なのか……?――
  彼女の頭の中は、余りに意外すぎる出来事に混乱して、呆然とした表情でナツメを
  見ることしか出来なかった。
 「つ、月野さん!? あ、あの、これは、これはね……その……」
  当のナツメは、個室に入ってきた人物が自分の受け持つクラスの生徒だと認識すると
  焦った様子で何とか言い訳しようとするが、言葉が続かなかった。
  その間にも彼女――月野ミカは呆然とした様子でナツメを見ているだけだった。
  それが返って、ナツメの感度を高めてしまう。
 「あっ、やだ、なんでこんな時に……やっ、だめっ……」
  ナツメの『それ』がヒクヒクと動いたと思った次の瞬間だった。
 「やぁ……つ、月野さんが見てるのに……もう、だめぇぇ……いやぁぁぁ!」
  ナツメは、スカートを掴む手を、ギュッと強く掴むとビュクビュクッと
  音を立てているかのように、ナツメの『それ』からは大量の体液が放出された。
  その体液は、次第に押さえつけられていた部分にゆっくりと染みこんでいった。
  ナツメは、荒い息をつきながら虚ろな眼で、ただ自分の体液で汚されていく、
  スカートを見ることしか出来なかった。
 「……先生、これって……」
  しばらくしてミカが口を開く。
  どう言って良いのか解らず、ただ声をかけることしか出来なかった。
  虚ろな感覚から覚めたナツメは、ハッとした様子でシミが出来た部分を
  両手で覆い隠すと目の前に居るミカの顔を涙目で見ながら話しかける。
 「ご、ごめんなさい! 変なところ見せちゃったよね……」
 「変って……なんですか、手で隠しているのは。
  さっき、『だめぇ』とか言ってビクビクさせていた所ですよね?
  隠さないで、ちゃんと見せてくれないとダメです!」
  ミカはそう言うと、ナツメの後ろに回ると手を掴み股間から引き離そうとする。
  突然のことにナツメは目を丸くしながら、必死に抵抗する。
 「えっ!? や、やだ、止めて! お願い!」
 「なにが『止めて』ですか!
  私は生徒会の一員として……その、学校の秩序とか守るために……
  と、とにかく知る必要があるんです! ほら、手を離してください!」
  ナツメは必死に抗ったが、咄嗟のことで力があまり入れることが出来なかったのか
  それほど腕力があるわけでも無いミカにあっさりと引き離された。
  そのままナツメの手を掴んだまま、ミカはそこを凝視する。
 「……なんですか? このシミは。
  普通に用を足すだけなら、変な声も上げないし、
  スカートを膝掛け代わりにしてたとしても、そんなところ汚れませんよね?」
 「……」
  ミカは問いかけるが、ナツメは唇を噛みしめたまま、目を伏せているだけだった。

  そんな態度にしびれを切らしたのか、ミカは若干苛つきながら口を開く。
 「……まぁいいです。自分で確認するまでですからね」
  言うが早いか、ミカはナツメのスカートに手をかける。
 「えっ!? いや、だめっ」
  ナツメは咄嗟にスカートを押さえつけようとしたが、それよりも早くミカの手が動いていた。
  元々膝掛けのようにかけてあっただけだったこともあり、スカートはあっけなく床に落ち
  隠されていた『モノ』が二人の目の前に晒される。
 「えっ、これって……」
  可愛らしい顔とは裏腹に、股間から生えているグロテスクな『モノ』。
  ――ミカが見たそれは、紛れもなく勃起している男性器だった。
  男性経験は無いものの、それ自体の存在はもちろん知っていし、
  生殖器としてどう機能するのかなど、男性器についての知識は一様にあった。
  ただ、どう見ても女性にしか見えない『ナツメ』に男性器が生えているなど
  到底信じられず、しばらく呆気にとられていた。
 「み、見ないでください!!」
  股をより一層に強く閉じ、両手で男性器を隠すナツメ。
  ハッと我に戻ると、ミカは声を荒げる。
 「ダメって言っているじゃないですか!!
  いいかげんに私も怒りますよ!」
  ミカが強くそう言うと、ナツメは身体をビクッと震わせ怯えた表情になると、
  手をゆっくりと離した。
 「そうそう。最初から言うこと聞いてれば、私も変に怒鳴る必要ないのに。
  ……さ、股ももう少し私によく見えるように開いてください」
 「う……は、はい……」
  大人しく股を開くと、先頭だけ見えていた男性器がはっきりと見えるようになった。
  ミカは、興味津々といった様子でしゃがみ込むと股間に近づいて男性器を凝視する。
  あまりの恥辱に、ナツメはミカの顔を直視することが出来ず、終始俯いていた。
  しかし、ミカに凝視されている男性器は相変わらず衰えること無く、それどころか
  ヒクヒクと動いているようにさえ見えた。
 「うわぁ……こんなにジッと見たの初めてですけど、結構大きいんですね。
  しかも、なんかテカテカ光ってイヤラシイですね。これ。
  というか何で先生に、おちんちんが生えてるんですか?
  先生って女性なんでしょ?」
 「えっ……それは……」
  ナツメは相変わらず目線を泳がせたまま、それに答えようとはしなかった。
 「まさか、ふ○なりさん?」
 「ち、違う」
 「それじゃあ……本当は男ってこと?」
  ミカがそう問いかけると、ナツメは羞恥に頬を赤く染め、小さく頷いた。
  瞬間、ミカは決定的な弱みを握ったと言わんばかりに、思わず口元を緩ませる。
 「へぇ〜……男だったんだ。それじゃあ、もう一回質問しますね。
  生徒用のトイレで何をしてたんですか?
  そのスカートのシミは何で作ったんですか? 『正直に』答えて下さい」
 「……」
  語尾を強調し答えを迫るミカに対して、ナツメは相変わらず唇を噛みしめ俯いたまま
  押し黙っていた。
  その沈黙を始めに破ったのは、しびれを切らしたミカがナツメの頬を力一杯叩く音だった。
  ナツメは驚いた様子で、叩かれ若干赤くなった頬をさすりながらミカの表情を怯えた目で
  覗う。そんな表情のナツメを見るたびに、ミカの加虐心はますます刺激されていった。
 「ねぇ、先生? いい加減にしてよ。
  私、言ったよね? 『正直に答えて』って」
  すると突然、ミカはナツメの髪を強引に掴み上げる。
 「あうっ!」
 「痛い? でも私は痛くないから関係ないの。
  私、クラスの連中みたいに貴方が特別好きとかないから、全然心も痛まない。
  そういえば、こうして話すってのも初めてだったっけ? ……まぁいいや。
  なんなら、このまま先生ご自慢の可愛らしい髪を全部剥いでもいいけど?」
 「っ! や、やだ、離してっ」
  怯えながらも自分の下で必死に抵抗するナツメ。
  一見すると女性にしか見えない。しかし、『本当の性』は男性という事実。
  ナツメの見た目と『性』とのギャップが、ミカの心を彼女の知らないうちに、
  ゆっくりと、しかし確実に魅了させていった。
  虐めれば虐めるほど、ナツメが愛おしく感じ、脳天からゾクゾクとした感覚が
  途切れることなく伝わっていった。
  それが彼女を、ここまで『狂わせる』原因ともなっていた。
 「離して欲しいならハッキリ言って下さい。
  ちゃんと私にも聞こえる大きな声でね。
  ……嘘付いたら私、先生に何するか解りませんよ?」
  しばらくの沈黙の後、ナツメが意を決してゆっくりと口を開いた。
 「……生徒用のトイレで、性処理をしていました。
  スカートのシミは……その……そのとき出た体液で……汚しました」
  若干不満げな表情を浮かべ聞いていたミカが、更に質問を投げかける。
 「……で、性処理の『ネタ』は何ですか?」
 「ネタなんて……無いで……ひっ!?」
  ナツメの言葉は、再びミカの強いビンタで遮られた。
 「センセイ、こ・た・え・て」
  流石に恥ずかしいのか、ハッキリ言えと言われているにも関わらず、
  今にも消えそうな小さな声で答えた。
 「……用を足しているところを……想像して性処理をしていました。
  ねぇ、もう許してよ。お願い……」
  あまりの恥辱にナツメは涙を流しながらミカに訴えかけた。
  だが、それに対するミカの答えは冷酷な物だった。
 「はぁ? 許すわけないでしょ。
  オカマが教職に就いてるだけでも十分問題なのに。
  挙げ句には、生徒用のトイレに忍び込んで、
  私たちを想像してオナニーしてるなんて……最ッ低。
  教師がどうとか言う以前に、人間としてどうかしてるわ」
  相変わらずナツメに軽蔑の目差しを向けながら、淡々と言った。
  その言葉が一つ一つナツメの心に突き刺さる。
 「ひぐっ……ご、ごめんなさい。本当にごめんなさい……」
  涙を拭いながら必死に謝罪するナツメ。
  しかし、ミカは更に残酷な命令をナツメに投げかける。
 「あのね、謝るだけなら猿でも出来るよ?
  本当に謝る気があるなら、さっき言った言葉をもう一回ちゃんと言って。
  ……もちろん、『性処理』とか『体液』みたいな抽象的な言葉は使わないでね。
  トイレで『性処理』しちゃう様な変態さんには簡単でしょ?」
 「そ、そんな……そんなこと……」
 「あっ、そうだ」
  ナツメの言葉を無視して、何かを思い出したように自分の鞄から携帯電話を取り出す。
  そして、写真を撮るようにそれをナツメに向ける。
 「なにを……」
 「変態さんって、こうやって見られた方が興奮するんでしょ?
  だから、貴方の告白を携帯電話に納めといてあげる」
  ナツメはそれを聞いても、抵抗しようとは思わず、素直に口を開いた。
  あまりの恥辱に頬を赤く染めながらも、なんとか声を絞り出す。
 「……私は……生徒用のトイレで……生徒が……おしっこをしている所を
  想像しながら……ぉ、オナニーをしてました。
  そのとき出た……せいえきで、スカートにシミを作りました……」
  そこまで撮ったことを確認すると、ミカは録画を中断する。
  撮り終えた映像を、ナツメに見せつけながら再び再生する。
 「ほら、先生の『本性』がハッキリ写ってるよ。
  ……これ、先生のファンの子に見せたらどうなるのかな〜?
  あまりのショックに卒倒しちゃうかもね〜」
  ニヤニヤと笑いながら煽るミカに対して、ナツメは相変わらず何も答えられず
  映像から目をそらし、恐怖に身体を震えていた。

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