――――――あれから、12年経った。 1年浪人はしたものの何とか大学に合格し、無事に卒業した僕は、ある有名な巨大会社の 介護ロボット部門に内定していた。 もともと理数系だったし、新入社員の待遇が他の会社よりいい・・・と言うのもあるが、 12年前のあの出来事が1つの原因になっている事は事実だ。 それに、この会社はあの相沢裕介博士と圭子博士―――千裕ちゃんの開発者が所属してい る会社でもある。 正直、面接ではすっかりあがってしまって、何を言ったかは覚えていない。 だから、すっかり諦めていたのだが・・・。内定通知が届いても、最初は信じられなかった。 ・・・それで、今日は初めて出社する日だ。と言っても、配属式の後、それぞれの部門の 責任者に説明をしてもらうだけなのだが。 だが、僕はまだ知らなかった。 思ったより早く用意されていた、あの子との再会を―――。 その日の朝、僕は予定より早く目が覚めたので、余裕を持って用意を終わらせる事が出来た。 家を出る前に、もう一度配属式についての書類に目を通す。 下のほうにある「持参物」―――今まで何度も何度も見直したが、やはりそこに書いてあ るのが信じられなかった。 「12年前のネジを持って来る事」 手書きで、こう書いてある。 勿論そのネジと言うのは、12年前に千裕ちゃんに貰ったあのネジしかない。 だが、何故必要なのだろうか? 僕は頭の中で何度も繰り返した疑問に答えを出せないまま、鞄からあのネジを取り出す。 布を取り、錆びついたネジを見つめる。 一体、このネジに何があるのだろうか? おそらく―――会社へ行けば分かるのだろう。 僕はまたネジを丁寧に布で包み、鞄に入れると、受験時代からすんでいるアパートの玄関 を開けた。