メンテナンス終了。全て異常なし。ウイルスの類も検出されず。 メンテナンス用カプセルの画面はいつも変わらず、何のエラーも出力されてい ない。なのに、二三日前から続くこの違和感は、消えることなく彼女にまとわ りついたままでいた。 一度マスターに相談して、細かい検査を受けた方がいいだろうか?いやしかし、 些細な違和感のせいでマスターに手間をかけさせるわけにも行かない。それに 何より、違和感のある場所が場所だけに、男性のマスターに相談するのは気後 れした。 彼女は自分のすべすべしたお腹をなでた。軽く押してみても返ってくるのは柔 らかい触感だけで、表面から見て分かる異常も何もない。しかし、違和感はそ の奥、人間ならば子宮があるべきあたりから発しているのだった。 機械では原因が分からず、人間にも頼めない。かといって、放って置くわけに も行かない。マスターの大事な部分を受け入れる器官なのだから、異物でも入 っていたら一大事だ。 だとすれば、自分で調べるしか方法はないのかも知れない。彼女はそう結論し て、ゆっくり椅子に腰を下ろした。 自分の下腹部をまじまじと眺めるのは、何も初めてのことではない。外見に似 合わず、なだらかな丘からピンク色の秘所にかけて、一切の毛が生えていない のは、趣味ではなく植毛のコストとメンテナンス性のせいだとマスターは弁明 していたが。 女性器デバイスを丸ごと取り外せば調べやすいのだが、何十もの接続コードや デバイスドライバの一時停止のことまで考えると、おおよそ手軽とは言えない。 結局、デバイスは接続したまま調べることにした。 両手で秘所を押し広げ、デバッグ用のコードを送信して分泌線をゆるめると、 膣口からとろりとしたローションがあふれ出た。それを指ですくって注意深く 絡めたあと、おそるおそる中指を挿入していく。 「ん……っ」 意識して人工筋肉を弛緩させているにもかかわらず、そこは驚くほど狭かった。 いつもマスターの欲望を受け入れているとは、にわかには信じがたい。しかし、 ゆっくり指でほぐしていくと、ローションのおかげもあって少しずつ受け入れ られる太さと深さを広げていった。 「んっ、ふ……っ、はぁ」 指でそこをかき回すたびに、口から切ない吐息が漏れる。異常を調べるためだ と自分の中では納得していても、体の火照りはおさまってくれそうになかった。 それにしても、最近性的な感覚に対する閾値が下がってきていないだろうか? これもあとで調べてみる必要があるかも知れない。 「はぁ……っ、ぅんっ、ん……!」 膣壁を満遍なく指先でなぞり、感触を確認するが、ここまでは特に異常は見あ たらなかった──その一つ一つに背筋がぞくぞくするような快感を感じてしま うのを除いては。 既に中指は第二関節のあたりまで膣口に沈み込んでいたが、違和感のある場所 までは届きそうになかった。指では無理だ。もっと他の物を探さないと。 一端中指を引き抜き、ぼんやりした瞳で部屋の中を見回すと、机の上に無造作 に放り投げられたボールペンが目にとまった。 ふらふらした足取りで椅子から立ち上がり、机に向かうと、机に寄りかかった ままで、ボールペンを膣口に挿入した。 細い棒を慎重に進めていき、違和感の位置に見当をつけると、ボールペンの背 で軽く擦った。 「……っふあぁぁ!」 腰が跳ねてしまいそうなほど強い刺激に、たまらず上擦った声を上げて、その 場にしゃがみ込んでしまう。 既に違和感や検査のことは頭になく、彼女はただ夢中で快楽に酔いしれていた。 机をつかんでいた手も放し、床に横たわって自分の乳房を強く揉みしだく。 「ふあっ、はぁんっ!まっ、ますたぁ……っ!」 もはや自分の口走っている言葉すら分からず、ただボールペンのピストン運動 を早めるたびに、自分が絶頂に向かっている事だけは分かっていた。 頭脳回路の電位がどんどん上がっていき、目の前がちかちかフラッシュするよ うな感覚に流される。口の端から疑似唾液が零れ、秘所からとめどなく流れ落 ちるローションは、足を伝って床に水たまりを作っていた。 「ふぁっ、あっ!……ひゃうぅぅぅっ!!」 真っ白になった意識のうちに、人工筋肉がびくびくと痙攣して、絶頂に達した ことを伝えてくる。 「はぁっ、はぁっ……」 激しい絶頂の余韻と、軽い虚脱感の中で、自由にならない思考をたぐり寄せて、 考える。 自慰という行為は知っているし、マスターが時々しているのも分かっている。 でも、そんな機能が自分にプログラムされていないこと、ましてや、自分にそ んな機能が必要とされていないことはどう考えても明らかだ。 では、何故? その疑問に答えを見つけられないまま、彼女はのろのろと起き上がり、椅子に 戻った。 その時唐突に部屋の扉が開き、白衣を着た研究者風の男が部屋に入ってきた。 彼女はあわてて居住まいを直し、男のほうに向き直った。床に散らばったボー ルペンやローションに、気付かれてしまうだろうか? 「メンテナンスは終わったか。で、結果は?」 「も、問題なしです」 男の質問に少しうろたえながら答える。男に全身を見つめられると、彼女は おさまっていた違和感がまたぶり返してくるのを感じた。体温が緩やかに上昇し、 何があるわけでもないのに、体の奥がじわじわ疼いてくる。 彼女の様子に気付いた男が顔をのぞき込んでくると、彼女は顔を赤くして視線を そらした。 「どっか具合でも悪いんじゃないのか?」 「べっ、別に……大丈夫です」 「そうか」 男はそれ以上の追求をせず、部屋から出て行った。彼女は再び現れた違和感を 持て余しつつ、無意識のうちに軽くお腹のあたりをなでていた。