今、私の目の前には全裸の妹がいる。しかし、その妹の身体は真っ赤に染まっているうえ、妹はぴくりとも
動かない。何故、こんなことになってしまったんだろう・・・祐子はそんなことを考えながら、必死でオンライン
マニュアルを操作している。

湯船に沈みかかっていた春菜を引きずり上げ、なんとかメンテナンスベッドの上に寝かせる事ができたのは、
つい数分前のことである。それから全身の水分を拭きとり、メンテナンス用のケーブルを接続し、自己診断
モードを起動しながらオンラインマニュアルを読み込む・・時間にして5分弱程度の作業ではあるが、祐子には
無限とも感じられていた。

「春菜、死んじゃやだよ・・・・」 いつのまにか祐子の目からは涙が溢れていた。ロボットである春菜が「死なない」
ことは祐子にも当然わかっている。だが、今や春菜は、血の繋がった人間の妹と同じくらい・・いや、それ以上に
春菜へ想いを寄せている。その想いが、「妹の死」を祐子に実感させているのだ。

オンラインマニュアルのトラブルシューティング項目を見つけ、必死で該当項目を読み漁る。

 ”●入浴については下記の注意事項を必ず守ること”
 ”・長時間、湯船に漬らせない”
 ”・浴室内温度が45度以上の場合、速やかに入浴を中止する”


祐子は自分の浅はかな行動を呪った。浴室内の温度は確かにかなり上がっていたし、自分の身体を弄ってもらって
いた時間は、おそらく10分を越えていたと思う。人間でも余程湯温を下げない限り、のぼせてしまうだろう。

 ぴーーーーっ

 自己診断モードが終了したことを告げるビープ音が響き渡る。
「なんてこと・・・」その結果は、妹の身体に異変が生じている事を確定するものだった。全身の内部主要箇所の
 平均温度、85度。体表面温度、44度。典型的なオーバーヒート状態を示している。
「各プロセッサとコントローラの状態は?」 確認すると、なんとか許容範囲をキープしている。どうやら緊急冷却
 モードが作動しているようだ・・・しかし記憶メモリの一部やストレージは、耐熱温度ぎりぎりの数値を示している。
”このままだと、春菜が・・・” 祐子の脳裏に最悪の状況が一瞬浮かびそうになったが・・
”そんなの・・・嫌だ!わたしが・・わたしが春菜を守る!” 数年前の決意が、祐子を奮い立たせた。

 それから更に数分が経過した時、絶え間なく動いていた祐子の指が止まった。
「あった!!人工筋肉を強制冷却モードへシフト、外装メンテナンスハッチをフルオープン・・・」
 マニュアルの指示通り、トラブル対応用シーケンスを起動。確認画面で【OK】ボタンをクリック。
 そして、次の瞬間・・妹の身体のあらゆる部分に、一斉に接合線が浮き出でた。

 ばっしゅぅ

 春菜の全身のメンテナンスハッチが一斉に開き、その中から信じられない量の蒸気が吹き出す。
”こ、これは・・” 思わず顔を覆った祐子は、妹の身体を見てからその状況を理解した。蒸気の正体は、人工筋肉から
 吹き出している気化した冷却水だ。説明書によれば、人工筋肉内の冷媒に無理矢理気泡を入れ、その後に人工筋肉の
 内圧を下げることによって冷却水の沸点を強制降下させる・・・ということらしいが、今は原理などどうでもいい。
 各部の温度を再チェックすると、殆どの箇所の数値が許容範囲内に下がっている。”Restart [OK]”と書かれたボタンが
 画面中央に点滅していたので、[OK]ボタンをそのままクリック。起動シーケンスがモニタウィンドウに表示されていく。

 ”冷却デバイスに異常有り safeモードで起動します・・・code:0x51”

 数分前までとは打って変わって冷静に、祐子は画面に表示されているエラーコードをキーワード検索。
「code:0x51・・・冷却用蒸留水の残量が不足しています。指示に従って蒸留水を補給してください・・・か。えと、どうやって
 補給すればいいのかな」 春菜の身体に対応した手順項目を探す。えっと・・・春菜のタイプは・・けいこう・・・経口摂取?

(第3話-2に続く)

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル