どうやったかは知らないが、父さんは電子キーを真っ正面からぶちやぶって部屋に入ってきたのだった。
「と、父さん」
「研司、なぜお前がここに…あれほど台所に居ろと言っただろう!」
 父さんは僕を睨み付けた。その顔は今までに見たことがない、まるで般若のような形相だ。それでも僕は臆せず、姉ちゃんの
 体を揺すった。
「姉ちゃん、父さんが来たよ…ほら、いつまでも死んだふりしてたら、父さんマジで怒ってるよ」
「研司…」
「姉ちゃん…起きろよ…姉ちゃん…」
 姉ちゃんの肩を揺さぶり続けたが、予想通り返事はなかった。姉ちゃんの白いブラウスに、ぽたりぽたりと水滴がどんどん
 落ちて丸い染みを作って行く。

 僕は泣いていた。
「まただ…また…僕の知らない間に…大切な人がいなくなってしまった」
「研司、お前」
「僕のせいだ。僕がもっと速く帰ってきてたらこんなことには」
「研司!!」
 父さんが僕の頭を小突き、僕は我に返った。気がつくと僕は、姉ちゃんの背中にすがりついて大泣きしていたのだ。
「父さん…僕は」
「研司、落ち着いて父さんの話を聞くんだ」
 父さんの顔は真剣だ。さっきの怒り顔もそうだったが、僕は父さんの視線に釘付けにされてしまう。
「陽子は死んでいない…いや、”死んでいない” という表現は少しおかしいか」
「何を言ってるんだよ、父さん」
「…陽子を研究室に運ぶ。話しはそれからだ」
 そういうと父さんは、姉さんを椅子から強引に抱え上げようとした。
「くっ、こいつぁまずいな」
 姉さんの身体は、机に突っ伏したままの姿勢で父さんに抱え上げられてしまったのだ。中途半端に”く”の字に折れ曲がった
 格好で身体が固まってしまっているため、父さん一人だと抱え上げるのも難しそうだ。
「…手伝うよ」
「…頼む」
 父さんが姉さんの腕を上から釣り上げ、僕は足を両脇に挟んで持ち上げる。とんでもない持ち方だが、これしか方法が思い
 つかなかったのだ。
「冷たい…」
 僕は思わず呟いてしまった。姉ちゃんの身体は、真冬に外で放置された人形のように冷たくなっている。僕の頭の中に、
 嫌な言葉が浮かんでしまう。

”死後硬直”

 僕は頭を左右に振って頑なに否定した。父さんがさっき言ってくれたところじゃないか…姉ちゃんは死んでないって。しかしながら、
 姉ちゃんの身体の冷たさと固さが、嫌が応にも現実をはっきりと伝えてくるのだ。

 父さんと僕はなんとか研究室に姉ちゃんの身体を運び入れることができた。今、姉ちゃんは研究室の真ん中にあるベッドの上に
 寝かされて…いや、”転がされている”という表現が正しいかもしれない。
「父さん、これからどうするの」
「黙って見てろ」
 父さんは研究室のコンピュータに次々と電源を入れていく。
「なんてこった」
 珍しく悪態をつく父さん。それもその筈、研究室にある殆どのコンピュータの電源がONになってくれなかったからだ。
「コンピュータが動かないなんて…」
「陽子をやった雷だな…アースが全く役に立ってない」
 父さんは僕に向き直ると、そのまま押し黙ってしまった。
「…」
「…どうしたの…何か言ってよ、父さん…」
 父さんと僕の間に重苦しい空気が流れる。30秒、1分…時だけが静かに過ぎて行く。僕の冷や汗が額から頬を伝わり、顎から
 床に落ちた時、父さんがやっと口を開いてくれた。

「研司、お前には二つの選ぶべき道がある」
「なんだよいきなり…」
 父さんは姉さんを指さし、そのまま言葉を続ける。
「一つは、あれを見なかった事にするという道だ。お前は雷に打たれ、気がついたら明日の朝だった。そうして、何事もなかったかの
 ように明日からまたいつもの生活を続けて行くことだ」
 僕は息を飲んだ。”気がついたら”という言葉が、子供の時の記憶を呼び覚ます。そう、母さんが死んだ時もそうだったんだ…気が
 ついた時には全てが終わり、僕は何もすることができなかった。
「そしてもう一つ。お前は今から起こる事を全て受け入れ、陽子を今まで通り”人”として見ることだ」
「なんだよそれ…意味がわからないよ…」
「お前には申し訳ないが、今はこれ以上言うことはできんのだ…さぁ、選んでくれ」
 父さんはベッドの脇に立ち尽くしたまま、僕の返答を待っている。
「もし、僕が全てを受け入れたら」
「受け入れたら?」
「本当のことを教えてくれる…? 姉ちゃんのことの、全てを」
「いいだろう、約束しよう」
「わかった…僕はもう、自分の気付かないところで大切な人との思い出を失いたくない」
「研司…」
「姉ちゃんの全てを知りたい。教えてよ、父さん」
「ありがとう、研司…」
 父さんはそういうと、手招きをして僕をベッド脇に呼び寄せた。
「まず結論から話そう。陽子…お前の姉は死んではいない。そもそも宇都宮陽子という人間は、元々この世にいなかったのだからな」
「!!!」
 僕の頭は混乱した。姉ちゃんが世の中にいなかった…? じゃあ一体、僕が今まで一緒に暮らしてきた姉ちゃんは…?
「驚くのも無理はないだろう。お前が高校生になったら全てを話すつもりだったしな」
「父さん、姉さんが世の中にいないっていったよね…それじゃ、そこに寝転がっているのは一体誰なんだ?」
「彼女は宇都宮陽子、お前の姉に間違いない…だが」
「だが?」
「彼女は人間ではない」
 父さんはそういうと、姉ちゃんの右腕を掴んで袖を強引に捲った。何かがやぶれる音が響き、ピンク色の液体を飛び散る。
「な、なにしてんだよ!」
「これを見ろ」
 父さんが捲った腕を見て、僕は気絶しそうになった。何故なら、そこにあったのは人間の肌ではなく、銀色に鈍くひかる金属棒だった
 からだ…よく見てみると、金属棒の周りには細い針金や、カラフルなビニールの配線が大量にまとわりついている。そして、その
 一部分が黒く焦げて溶けていた。

「ロボ…ット?」
「アンドロイドだ。型式はMGX-2000typeF、人間と殆ど同じ思考が出来、食事や排泄もできるように研究中のものだ」
「なんで、僕に今まで黙ってたの」
「こいつは、外見が人間と全く変わりがない。体重さえ、同年代の女性より少し重いぐらいだ」
「…」
「研司、お前は全く気付いていなかっただろう? 身内がアンドロイドだということに」
「だって、そんな事は全然」
「お前を傷つけることが怖かったんだ…お前が生まれた時、陽子の外見は既にこのレベルに達していた。動きはまだぎこちなかったが、それも
 年月を経て、より成長したように見える身体へ陽子のAIを入れ替える毎に解決していった」
 そう言われれば、姉ちゃんはロボットのような素振りなんて全く見せなかった。僕が子供で気付いてなかっただけかもしれないが。
「だから、母さんと相談して決めた。お前が大きくなって、きちんと分別がつくような年ごろになったら本当の事を話そうと」
「父さん…」
「お前が高校を卒業したら全てを打ち明けようと決めていた…だが、お前は父さんの思う以上に成長していたんだな…黙っていて悪かった」
 父さんが僕に頭を下げた。父さんに謝られるなんて初めてのことで、僕はどうしたらいいか戸惑ってしまう。
「…父さん、頭を上げてよ。僕が母さんの死を知った時に父さんが言ってくれたじゃないか…”思い出はこれから作り直せばいい”って」
「研司…」
「終わってしまったことは、もう元には戻せないんだろ? 今出来ることは何か、それを考えろ…って」
「そうか、そうだな…」
「姉ちゃんを早く治してあげようよ。苦しそうな顔…このまま放っておけないよ」
 父さんの顔つきが変わった。何かを常に見据えて前に突き進む、いつもの父さんの顔だ。
「今の状況を整理しよう。陽子はざっと見る限りでも、大掛かりなメンテナンスが必要だ…しかし、研究室のコンピュータは使い物にならん」
「じゃあどうすれば」
「旅行先でも使える携帯用のメンテナンスツールがある。倉庫から持ってくるから、お前は陽子の服を脱がせて、奇麗に洗浄しておいてくれ!」
 父さんはそのまま研究室の扉を勢いよく開け放ち、廊下へ走り出て行った。
「ちょ、父さん!」

 ”姉さんの全てを知る。”そうはいったものの、僕は途方にくれた。目の前の姉さんは相変わらず動かないし、第一服を脱がせて…更に洗浄
 するだなんて。身体を奇麗にするには、確かに服を脱がせる必要があるのは判る。だけど、いくらアンドロイドだからといって、ほいほいと
 服を脱がせる気にはなれなかった…なんせ相手は女性である。
「でも、このままじゃまずいよな…」
 覚悟を決めた。姉さんの全てを知る第一歩だ、ここで躊躇してどうする…僕はまず、姉さんのスカートを脱がしにかかった。女物の服なんて
 着たこともなかったから苦戦したものの、なんとかスカートのウェストを緩めることに成功。椅子に座ったままの形になった足に添わせ、ゆっくり
 確実にスカートを下ろしていく。

「うわ…」
 露になった姉さんの下着を見て、僕は言葉を失った。白いパンツは緑色の液体で汚され、まるで絵の具をこぼしたかのような惨状になっている。
 しげしげと姉さんのパンツを観察する…姉さんの下着を見るなんて、一体何年ぶりだろう。洗濯を手伝ってる時はよく見てるけど、実際に
 履いているのをみるのは本当に久しぶりだ。それにしても…姉ちゃんのお尻、こんなに大きかったっけ…?
「…!僕は何を見てるんだ…」
 気がつくと、僕は姉さんの股間に視線を集中させていた。なんせ、姉さんは椅子に座ったままの格好でベッドに寝転がされているのだ…布越し
 とはいえ、いわゆる”あそこ”が全く無防備で眼前に晒されている。

「いかんいかん!次は上着を脱がさなくっちゃ」
 僕は慌てて目を逸らし、今度はブラウスに取りかかった。袖口が溶けて、両腕とも皮膚とくっついてしまっている…このままだと、さっきみたいに
 皮膚がやぶれてしまうと思った僕は、傍らにおいてあった工具棚からハサミを取り出し、皮膚とくっついてしまっている部分を残してブラウスの
 袖を切り取った。確かコレ、姉ちゃんのお気に入りの服だったんだよな…ごめん、姉ちゃん。
 心の中で謝りながら、僕はなんとか姉ちゃんの服を脱がせる事に成功した。とはいうものの、下着とブラウスの袖は残ったままだ。袖はともかく
 下着は流石に脱がせる決心がつかない。仕方がないので、緑色の液まみれになった太股のあたりを拭きとることにする。
「姉ちゃん、足まで…」
 太股をぎこちない手つきで拭き始めてから気がついたのだが、膝関節の皮膚が茶色にこげており、今にも剥がれそうな状態になっている。
 汚れを奇麗に拭きとってからそれをじーっと見つめていた僕は、無意識にかさぶたのようになっている部分を引っ張ってしまった。
「あ!」
 ぺりぺりっと音をたて、皮膚はあっけなく剥がれてしまった。相当な熱が加わったのか、まるで味付け海苔のように薄く乾いていたのだ。そして
 その皮膚の下から、またもや銀色の機械部品が現れた。
「……!」
 僕は唾を飲み込み、息を止めてしまった…ふくよかなラインを描くお尻。そこからなだらかな曲線ですらりと伸びる太股と太股の間には、
 女性用の下着。どうみても人間の女性としか思えない下半身の一部から、機械部品が覗いている。それを見ている内に、僕はいつのまにか
 呼吸が荒くなっていた。脈が速くなり、胸がどきどきしているのが自分でも判る。さっきパンツをじっと見ている時とは明らかに違う、今まで
 全く感じたことのない感情が僕の頭を占領しはじめていた。
「姉ちゃん、本当にロボットだったんだ…」
 僕の視線は自然に姉ちゃんの胸へと移っていた。純白のブラジャーからこぼれ落ちそうなおっぱいが、柔らかそうに目の前で実っている。
 そういえば、姉ちゃんって僕が中学生になってから、一緒に風呂へ入ってくれなくなったんだよな…最後に見た時はこんなに大きなおっぱいじゃ
 なかったと思うんだけど…。
「…姉ちゃん、僕は…」
 僕は急に姉ちゃんのおっぱいが見たくなった。膨らみ続ける欲望と衝動を抑えることが出来ず、僕は姉ちゃんのブラジャーに手をかける。
 胸の谷間にあったホックを見つけ、僕はそれを外そうとした…が、焦っているせいか中々外すことができない。
「くそっ…」
 無意識で悪態をつきながら、僕はついにブラジャーのホックを外すことに成功した。
「研司、待たせてすまん!!」
 いきなり背後で父の声がひびき、僕はまるで蛙のように姉から飛び退いた。

「入ってくる時はノックしてよ、父さん!」
「扉開ける時に声は掛けたんだがな…何をそんなに夢中になってたんだ?」
 父さんの顔がなんだかにやけてるように見えるが、僕は敢えて無視した。
「…予想通りだな…流石にまだパンツには手を掛けられんかったか」
「し、し、知らないよ、そんなの」
 必死で反論するが、父さんはにやけたままで大きなスーツケースを開け、中に入っているノートパソコンを取り出して電源を入れた。
「心配しなくても、お前の目指す最終目標はわかってるよ」
 父さんはそういうと、姉のパンツをいきなりずりおろした。少し緑色に汚れてはいたが、姉ちゃんの尻が丸見えになる…当然、あそこも。
「ととと、父さん!そんないきなり!!」
「なんだ、見たかったんじゃなかったのか?」
 判ってる…僕の顔はきっとまっかっかだ。図星どころか、最初から僕の行動は予測されていたのだ。
「気にするな、身内の尻ぐらい見ても捕まりはせん」
「そういうことじゃないだろ!!」
 反論している僕の視線は、姉ちゃんのあそこ…お尻から股間に続く割れ目へ釘付けになってしまった。友達から借りた本やDVDで見たことは
 あったが、本物をこんな間近でみるのは始めてだ。足が中途半端に開いてるもんだから、割れ目の中の花びらも少しだけど見えている。
「どうだ、本物そっくりだろ?」
「ま、まだ本物なんて見たことないよ!!」
「本物といえば、研司…お前、もう学校で性教育は受けたのか?」
 まじめな顔でなんという事を聞いてくるのか、この親父は…。

「う、受けたよ一応。姉ちゃんのそこがなんでそうなってるのか、中がどうなってるのかも一応知ってる…写真でしか見たことないけど」
「よし、じゃあ手伝ってくれ」
 父さんはそういうと、スーツケースの中から妙な形をした金属棒を取り出し、ケーブルをノートパソコンに繋ぐ。
「なに、それ…」
「MGX-2000typeF専用の、制御ユニット接続デバイスだ」
「接続って父さん、まさか」
「ふふふ…勘がいいな。そのまさか、だ」
 父さんは息を継ぎ、そして暫くしてからニヤリと笑った。昔から”してやったり”という時に見せる、あの表情だ。
「まずこいつを陽子の性器に挿入し、膣の奥にある有機型接続端子と接触させる。そうすれば、陽子のメイン制御ユニットへ自由にアクセス可能だ」
「…ちょっと待て! 大体なんでそんな所に接続端子がついてるんだよ!?」
「MGX-2000typeFは最新式の素体でな…外装には継ぎ目どころか、ケーブルを接続する端子さえない」
「なんとなく理解したぞ…つまり、そこの中に隠しておけば、一般人にばれない…ってことか」
「ご名答!流石は父さんの息子だ!」
 父さんは得意げな顔で、接続デバイスに何かを塗り始めた。
「何塗ってるの…」
「ローションだよ、ローション。潤滑させないと、陽子の大事なアレに傷がついてしまうだろ?」
 僕は聞いてて少し怖くなってきた。姉ちゃんのあそこ、一体どこまで再現してあるんだろう。
「父さん、どうやってそこまで…」
「詳しい話し後だ…このままじゃ入らんから、割れ目をもう少し広げてくれ」
 僕はだまって、姉さんの股間に両手を添え…割れ目を押し広げた。教科書で見たのと同じ、ピンク色のびらびらしたものが露出する。そういえば
 これって別に非常時だけじゃなくて、日常のメンテナンスにも使うんだよな…。
「ん…なんだこれは」
 父さんが割れ目の中を指さして呟いた。
「なにって、それはクリト…」
「違う、もっと下の膣口の中だ! 何かわからんが、先客がいるみたいだ」
「せ、先客?」
「陽子…ひょっとしてお前」
 父さんは苦虫を噛みつぶしたような表情をしながら指を膣口に突っ込み、姉ちゃんの中を探り始めた。それを見ていると、やっと収まった胸の
 動機が再び激しくなってくる…。
「こいつは…陽子、あれだけ今日は充電するなって言ったのに」
 父さんが指でつまみだしたのは、ケーブルが焼き切れて黒焦げになった金属棒だった。
「接続デバイス?」
「いや、これは…充電用のデバイスだ。」
「充電? 姉ちゃん、普段僕等と一緒にご飯食べてるじゃないか…」
「あれは、人間と同じ環境で生活するための機能の一部だ。いずれは食物からもエネルギーを得ることが目標にはなっているんだが」
 段々と僕の中にあった蟠りのようなものが溶け始めていた。一ヶ月に一度、学校を休んでいたのは充電のためだったのか。
「お前の思っている通り、今の陽子は一ヶ月に一度充電が必要だ。メンテナンスも兼ねてるから、一日仕事になってしまうのが欠点なんだよ」
「まさか、今日の雷で…」
「おそらくそれが正解だろう。陽子が充電中、運悪くうちの家に雷が直撃した。いつもの雷なら、対策用の設備が作動してくれる筈なんだが…」
「今日に限って動かなかったんだね…僕が玄関で吹っ飛ばされるぐらいの威力だったんだ、仕方ないよ」
 僕と話してる間に、父さんはデバイスを姉ちゃんの割れ目に挿入していた。それでも姉ちゃんはぴくりとも動かない。
「だめだ。高圧電流が流れたせいで、陽子側の接続デバイスが完全に破壊されている」
「そんな…じゃあどうすればいいんだ」
「接続デバイスに直接アクセスするしかない」
「父さん、そんな…」
「少し残酷な事をしなければならんが、背に腹は変えられん…研司、その棚の奥にあるケースをとってくれ」
 僕は震える手でケースを取り、父さんに手渡した。

「…見たくなかったら見なくていいんだぞ」
 そう言いながら父さんはケースの蓋を開けた。中身は、テレビドラマで見たことのある手術用のメスや鉗子、ピンセットが詰まっている。
「まずは、足を股関節から外す…研司、陽子の体を支えておいてくれ」
 僕が姉ちゃんの身体を支えると、父さんはすぐに作業を始めた。まず、股関節の周りの皮膚に切目を入れ、そこへ手を差し込んで皮膚を
 剥がす。びりびりという嫌な音とともに金属骨格と、筋肉のような形をしたチューブがあらわれた。
「しっかり持っててくれよ」
 父さんは見たこともない工具を使い、物凄い勢いで股関節周りの部品を外して行く。僕があっけにとられてると、あっという間に股関節だけが
 残っている状態になってしまった。
「あとはこのクリップを外すだけだ」
 父さんが工具でクリップを外すと、姉ちゃんの右足はごとりと鈍い音をたて、ベッドの上に転がった。
「…次は左足」
 同じような手順で次々と部品が外されていく。それはまるで、刺し身を作る寿司職人のような鮮やかな手つきだ。
「脚部切り離し終了…次は腹部のメンテナンスハッチを解放する」
 外した左足を傍らに置き、父さんは姉ちゃんの腹部にメスを入れる。ヘソの周りに四角の切れ目をいれ、皮膚を剥がし、腹筋であろう人工
 筋肉を取り外す。
「普段はこんなところ、触りもしないんだがな…」
 父さんは独り言を呟きながら、複雑に絡み合ったケーブルやチューブをどんどん外して行く。
「よし、これで接続デバイスに直接接続ができる。研司、少し離れてろ」
 僕はベッドから離れた椅子に腰を下ろし、じっと姉ちゃんの身体を見つめていた。
「姉ちゃん…」
 僕は、姉ちゃんの股間を改めて見直してみた…罪悪感と背徳感、そして明らかな興奮…とても複雑な気持ちだ。アンドロイドとはいえ、今
 見ているのは姉の身体…それも、生々しい女性器だ。その女性器のすぐ隣には、金属関節やチューブがはみ出している。性と機械…理解した。

(僕は、姉ちゃんのあそこと機械部品を見て…興奮している)

 信じられないことに、僕は壊れかかった姉ちゃんを見て性的に興奮をしているのだ。下半身の昂ぶりがそれを実証している…さっき、父さんが
 姉ちゃんの腕の皮膚をはがした時もそうだった。こんなこと、エロ本やDVDを見た時にも感じなかった事なのに。

「研司、今からフェイスパネルを開ける。陽子の頭蓋内を洗浄してくれ」
 父さんがノートパソコンのキーを叩くと、姉ちゃんの顔に継ぎ目があらわれた。顎と首の部分を境目にして、姉ちゃんの顔がせり上がっていく。
「フェイスパネルを外したら、頭蓋を止めてるナットをその工具で外して…そうだ、うまいぞ」
 僕は父さんの指示通りに姉ちゃんの頭蓋を外した。その中身は大きな眼球、鼻に繋がっていたであろう太いチューブ、そして生々しい歯茎と
 舌がある。
「ピンク色のゼリーは、人工筋肉を動かすための有機液剤だ。そいつをそこの洗浄液で溶かして、エアで飛ばす…そう、そうやって奇麗にするんだ」
 エアスプレーを吹きかけ、どろどに溶けた有機液剤を慎重に吹き飛ばしていく。隙間に残ったゼリーは、丁寧にブラシでかきだして拭きとる。
 頭蓋の脇に置いている姉ちゃんの顔面が、こころなしか微笑んでいるように見えた。作業している手が止まり、姉ちゃんの顔を見つめる。

(姉ちゃん…絶対、元に戻してあげるから)

「研司、手がとまってるぞ!」
「ご、ごめん」
 父さんに時々怒られながら、僕達は姉ちゃんの修理に没頭していった。


(続く)