「陽子、研司はいずれこうなる時を迎える運命だったんだ…お前のせいじゃない」
「だって…うぅ…私があんなこと…えぐっ…しなければ…ぐすっ」
「陽子ちゃん…」
 陽子の瞳から大粒の涙がぼろぼろとこぼれている。嗚咽を漏らしながら己を攻め続けている状態では、これまでの
 経緯を聞くことはとてもじゃないが出来るものではない。

「竜一さん…申し訳ありませんが…」
「うむ、私は席を外そう。どうやら考えている事は同じようだな」
「研司のモニタリングの準備をお願いします。必要な事項はこのメディアに記録してありますから」
「わかった…何かあったらすぐに呼んでくれ。隣の機械室で準備を進めているから」
 そう言うと竜一はノートPCと記録メディアを抱え、部屋を出て行った。後に残されたのは、私と陽子…そして
 眠り続ける研司のみ。
「お母さん…私…私…ぐすん」
「無理に話さなくてもいいわ。貴女の記憶に、私からアクセスするから」
「え…でも…」
「私の身体は陽子ちゃんも知ってる通り、民生用の素体だけど…」
 私は鞄の中から、黒い筒状の物体を取り出す。
「色々とカスタイマズしてあるのよ。1週間前に舌先へ取り付けた、高速通信用の接続デバイスが使えるわ」
「お母さん、私のデバイス接続箇所は…」
 陽子が顔を赤らめながら、下腹部を片手で押えた。
「知っている…だからこれを使うのよ」
 黒い筒状のデバイスを陽子の前にかざす。
「これって、ひょっとして」
「御剱研で作った、特注品。MGX-2000と、私の素体…MG-3000を接続するための変換アダプタなの」
「あの…やっぱり…」
「…今、通常の言語でやりとりをしている時間はない。早くしなければ、研司は”あれ”に侵食されてしまう」
「判った…でも、お母さん…」
「何、陽子ちゃん?」
「アダプタの装着は私、自分でやります…だって、恥ずかしいから…」
「ふふ…判ったわ」
 顔を紅く染めっ放しの陽子に、変換アダプタを手渡す。陽子の接続デバイスは、人工女性器の一番奥に装備されて
 いるのだ。つまり、アダプタを膣の奥深くまで差し込まなければ、私の接続デバイスである舌先を陽子と繋ぐ
 ことは出来ない。
「ん…っと」
「まだ腕が自由に動かせないのね…手伝って上げる」
「あ、ちょっと!」
 私は陽子の浴衣の裾をめくり上げ、ショーツを奪うように素早くずらす。間髪入れずに膝を押し広げると、彼女の
 奇麗な人工女性器が晒された。

「あ…」
 陽子の陰部に思わず目が奪われてしまった。人間の女性と寸分違わぬ、精巧な作りのヴァギナ。その中で時折
 痙攣している、ピンク色の小さな膣口。
「竜一さん…相変わらず凝り性なのね…」
「お、お母さん…」
「さぁ、さっさと作業を進めましょう」
 陽子が変換アダプタを手に持ったまま、じっとそれを見つめている。

「…やっぱり私が入れようか?」
「い、いいから! 自分でやる!!」
 私の言葉を聞いた陽子は、慌てて変換アダプタを陰唇にあてがった。
「ローションは要らない?」
「見たらわかるでしょ…もうこんなのになってるから…」
 陽子の陰部は、既に人工愛液で必要充分に濡れていた。照明に反射し、てらてらと輝く液体が陰唇の割れ目から
 少しずつ分泌されるのが見える。
「余程研司さんの事が好きなのね…身体は嘘をつかないから」
 研司は全裸でベッドに寝かされていた。下半身にはタオルケットが申し訳ない程度にかけられているだけで、股間は
 その下にある性器の存在を主張せんばかりに、小高い丘を形成している。

「…挿れる」
 陽子はうつむいたまま、ぼそりと呟いた。
「ん…あっ…! んあ……んんっ!!!」
 喘ぎ声と共に、変換アダプタが陽子の膣に少しづつ挿入されていく。彼女が時々大きく喘ぐと、下半身に力が入って
 しまうのか…ずぷっという音をたて、ほんの少しだがアダプタが押し戻されてしまう。
「陽子ちゃん、大丈夫? 一人で出来る?」
「あンっ! だ、大丈夫だから…んんっ!!」
 陽子は苦悶の表情を浮かべながらも、ゆっくりとアダプタを挿入し続けた。

「んっ…も、もう一押し……あああーっ!!!」
 一際大きな声と同時に、陽子の身体がびくんと跳ね上がった。どうやら最深部まで到達したようだ。
「よく頑張ったわね、陽子ちゃん」
「はぁ、はぁ、はぁ…次は、どうするの…」
「…不要な感覚が混じっちゃうけど、我慢してね」
「え?あ?お母さ…んんんーーーっ!?」

 私は躊躇することなく、陽子の股間に顔を埋めた。そしてそのまま下を陽子の人工女性器に挿入させる。
「ひあっ! お、お母さんの舌が、あ、ああんっ!!」
 じゅぶ、じゅぶという淫らな音と共に、私は変換アダプタを目指して舌先を膣口内へと導いた。出来る限り陽子の
 センサーは刺激しないようにしているのだが、丁度私の歯が陰核に接触してしまっている。
「んん〜っ!! い、いやぁ!! んっ! あんっ! ひゃうっ!!」
 舌先が膣の人工筋肉に阻まれ、中々変換アダプタまで到達しない。私は少しだけ顔を上げ、陽子に”もう少し力を
 抜いて”と目配せを送る。
「そ、そんなこと…あっ…いっても…んっく!!」

 こうなったら逆療法だ…私は合図もせず、彼女の陰核を甘噛みした。
「ん゛あ゛ぁ〜〜〜っ!!?」
 一瞬舌先が破壊されると思わせるような力が入ったあと、急激に人工筋肉が弛緩する。その隙を狙いって舌先を
 押し込み、一気に変換アダプタへと接続する。
(接続・認証完了…通信の処理優先順位を最高レベルにUP…MGX-2500の人工筋肉制御、120秒間停止)
「んぁ…あ…あ?」
 びくびくと痙攣していた陽子の身体が、凍りついたように止まった。まるで子供に放り出された人形のように、陽子は
 不自然な格好のまま完全に固定される。

(MG-3000の素体制御も通信を最優先…通信速度、最高に設定)
 私の素体に内臓されている通信ユニットがフル稼働を開始した。陽子のメモリーにアクセスし、三日前…落雷事故の
 直後まで記憶を巻き戻す。そこからは50倍速で記憶を閲覧し、研司と陽子の挙動を漏らすことなく自分のメモリへ
 記録していく。特に今日一日の記録は強烈なものだった…研司を誘惑し、自分を襲わせる羽目になったこと。そして
 研司が自分より遅れて目覚めた後、飢えた野獣のように凶暴化し、陽子と竜一に襲いかかったこと。竜一が研司の
 鳩尾に一撃を食らわせた後、倒れている研司に麻酔を打ち込んだこと…所々でノイズが混じるのは、陽子の電子脳が
 拒否反応を起こしたからであろう…記憶は新しくなる程、その凄惨さを増していく。

(これは…へたに聞き出してたら、陽子ちゃんの精神構造に悪影響が出てたわね…)
 自分が正気を保っているのは、人間でいうところの『年の功』であろうか。ともかく、これで研司がああなった原因は
 ほぼ判明した。となると、あとは…

 記録を終えた私は陽子との接続を解除し、彼女の中から変換アダプタを抜き取った。人工筋肉制御が停止している
 最中だったので、陽子は声を上げる事も出来なかったようだ。

「うっ…お母さん…もうこれで終わりだよね?…ぐすっ」
 陽子が私の胸に抱かれて泣きじゃくっていた。あれだけ人工女性器を掻き回されたのだ…苦痛どころの話で済まな
 かったことは容易に想像できる。
「今度お父さんに言っておくから…」
 いくら試作品とはいえ、接続デバイスが人工女性器内部にしか装備されてないのは問題だ。今度、竜一に掛け
 合って自分のと同じものを装着させよう…。

「そろそろ終わったかね」
 部屋の扉を開き、竜一が戻ってきた。
「事情は全てわかりました。やはり恐れていた事が起こってしまったのですね」
「うむ…最近研司は頻繁に悪夢を見ていたようだ。これも、あの事故の時の影響か」
「研司さんの中の、もう一人の”ケンジ”…彼が目覚めてしまった」
「その通りだ。妻が交通事故で死んだ時に現れた彼が、意識の表層へ戻ってきたのだ」
「お父さん、研司は…このままだとどうなるの…?」
「別室で研司の脳波をモニターしていたのだが…今、そこにいるのは研司ではない」
「そ、そんな…」
「このまま放っておけば、研司の意識はそのまま「ケンジ」に吸収されてしまうだろう」
 研究室が、鉛のように重い雰囲気に包まれた。竜一の言う通り、脳波のパターンは殆ど「ケンジ」のものに変化して
 しまっているのだ。普通の方法では最早、研司の意識を引き戻すのは不可能だ。

「竜一さん…私が行きます。私の電子脳幹を、研司さんの脳幹に直接接続してください」
「馬鹿な! ファイヤウォールも通さずにか!?」
「…私は所詮、AIです。イメージとパターン認識の処理を人間と同等の速度まで上げるにはそれしかありません…
 仮にファイヤウォールを経由した場合、研司さんの意識をトレースことはほぼ100&不可能になります」
「下手をすれば、お前の意識まで侵食される可能性が!」
「竜一さん…」
 私は竜一に近づいて彼の首に手を回し…そのまま唇を重ねた。
「んんっ!?」
 私は目を閉じ、竜一に身体を預ける。竜一も私の腰へ手を回し、そのまま時が静かに過ぎていった。

「小夜子…」
 唇を解き、竜一の目を見つめる。
「愛しています…竜一さん。そして、研司さんも…あなたの息子は、私の息子でもあるのです」

「お母さん…」
 陽子が私をじっと見つめている。
「陽子ちゃん…この件が終わったら、皆で一緒に暮らしましょう。あなたも研司さんも竜一さんも」
「小夜子、お前…」
「おかしな話よね、竜一さん…単なる設備制御用のAIだった私が、あなたのお陰でここにいるんだもの」
「…わかったよ、小夜子。早速準備しよう…お前はそちらのベッドで横になってくれ」
 竜一は私から離れると、素早く準備にとりかかった。その目に迷いはない…目標に向かって突き進む、真っすぐな
 瞳の光。AIだった私を魅了した力強い視線が、私の心を励ましてくれる。
「お母さん…私も…私も一緒に連れて行って」
「陽子ちゃん…貴女は」
「いいだろう、陽子…ベッドが足りないから、お前は車椅子のままだが我慢してくれ」
「竜一さん!」
「この子はお前のファイヤウォールを経由させて接続させれば大丈夫だろう…それに、陽子の目を見たまえ」
「陽子ちゃん?」
 彼女の目には、竜一と同じ光が宿っていた。どんな困難にも決して屈しない、力強い光が。
「同期トレースは出来ない可能性が高いけど、それでもいいのね?」
「私…あの時のような思いは二度としたくない…少しでも研司を引き戻せる力になれるのなら、それでいい」
 彼女の決心を聞き、黙ってうなずいた。陽子はもう、あの忌まわしい記憶にも負けることはないだろう。
「さぁ、こちらへ」
 私は竜一の支持に従い、ベッドへ横たわった。 低速通信用のケーブルが首の後ろに接続された後、頭部の制御の
 一部が研究室のコンピュータに引き継がれる。

「…頭蓋カバー、開放」
 竜一がコンピュータを操作すると、私の頭蓋部分からサーボモータの音が微かに鳴り響いた。自分では見えないが、
 今私の頭部は額から上が開き、内部のメカニズムが丸見えになっている筈だ。ベッドの隣に座っている陽子も、同じような
 格好になっていることだろう。

「研司の額部を切開し、脳幹制御ユニットを引き出す」
 竜一が研司に近づき、額部を手で弄くっている。私と陽子から直接見ることは出来ないが、研司の額には私達と同じような
 制御ユニットが剥き出しになる筈だ。
「…竜一さん、研司さんの意識レベルは?」

 少し心配になった私は、思わず竜一に声を掛けた。いくら頭部の1/3が機械化されているとはいえ、私や陽子と違って
 研司は人間なのだから。

「意識レベルは通常の1/5まで低下している。生身の人間でいえば昏睡状態だ…心配ない」
「そうですか…」
「研司の脳幹と、お前の脳幹をこれから接続する。メインユニットから例の通知シグナルが来るまで、全てのセンサーを
 閉鎖しろ…陽子もだ」
「「…了解」」
 私と陽子は声を揃えて返事をした後、全感覚を閉鎖して来たるべき時に備える。私の意識は真っ暗闇の中に漂う、
 ただのAIに成り下がってしまった。

(…嫌な感触だ…)
 素体に移されるまで当たり前だった世界。あの時、全ての感覚が新鮮だった…センサーから猛然と流れ込む情報を
 整理し、人間と同じように感覚を扱えるようになるには三日を要した。

(お母さん…お母さん…何処?)
 暗闇の狭間から、陽子の声…通知シグナルが聞こえてきた。ファイヤウォールに陽子の身体が接続され、私と感覚を
 共有するようになった証拠だ。
(陽子…陽子ちゃん…私はここ)

 次の瞬間、陽子と私は強固なセッションで接続された。手を繋いでいる訳でもなく、物理的な感触を伴う訳でもない。が、
 それに勝るとも劣らない、AI同士の絆とも言うべきものだ。

(お母さん、怖いよ…)
(大丈夫よ、すぐ慣れるから)
(…ううん、”ここ”が怖いんじゃないの…研司の心を覗くのが…研司の心と繋がるのが怖いの)
(陽子…大丈夫、あなたは私が守ってあげるから)

 陽子の不安が、接続セッションを介して伝わってくる。私も怖くない訳ではない…この素体に入ってから、半ば電脳化
 された人間と接続するのは初めてなのだから。

(…! 来た!!)
 竜一が送信した通知シグナルが、私のインタフェースを擽るように擦り寄ってくる。

(陽子、いくわよ)
(うん、お母さん)

 シグナルを合図にして、私達は研司の意識の深淵へと静かにダイブしていった。





(続く)