良子は救いを求めるような表情で玄関にへたり込む。相変わらず、彼女の身体は快感の波に揉みくちゃに
 されている状態だ。
「ひ、弘光…」
 四つん這いで弘光の部屋へ這いずって行く良子。弘光の家は家電製品の修理屋なので、1階が店舗に
 なっているのだ。玄関は店への扉と、住居になっている2階へ続く階段しかない。
「うっ…あっ…あん…あうっ…」
 押し寄せる快楽に翻弄されつつも何とか階段を上り、2階にある弘光の部屋へ何とか辿り着く。
「弘…光?」
 部屋の中には誰もいなかった。ふらつきながら弘光の机の上を確認すると、そこには一通の書き置きが
 置いてある。
『先に風呂入ってるから、冷蔵庫の中を適当に探して先に食べといてくれ』
 書き置きを見た瞬間に下半身の力がふっと抜けてしまい、良子はへなへなと床に崩れ落ちた。自分が
 這ってきた跡を振り返ってみると、ピンク色の液体が点々と床にへばりついているのが見えた。
「え…なに、あれ」
 人間があんな液体をこぼしながら歩く訳がない。となれば、原因は十中八九自分の身体である。良子は
 スカートをめくり上げ、下半身の状態を確認する。
「!」
 彼女のショーツはいつの間にか、目の前の床に零れている液体と同じ色に染まり切っていた。そっと指で
 触ると、熱くてべたべたする感触が伝わってくる。思わず指についた液体の匂いを嗅ぐ良子。
「…やだぁ…廃液が…漏れてきてる…」
 彼女のメモリーに一致する匂いがあった。このピンク色の正体は、彼女の身体を循環している数多くの
 流体の一つだ。独特の臭気を放つこの液体は、体内に内臓した濃縮化学物質を、体外から摂取した水分で
 還元した順滑液の成れの果てである。この潤滑液は有機物を含むため、約1週間で劣化してしまう。それを
 体内のプラントで濾過し、人間と同じように体外へ排出する仕組みになっているのだ。
「メ、メンテナンスコードが…」
 彼女の視界の隅で、黄色い色の小さなスパナ型マークが点滅している。それは、出来るだけ早めに対応を
 要するトラブルが彼女の身体に発生している証であった。
「あたしの身体…いったいどうなって…」
 良子は思わず、ショーツの中に手を差し入れてメンテナンスハッチを開けようとした。
「あ…ああっ?! んんぁ!! はうぅ…んあっ!!」
 彼女がハッチに手を触れた瞬間、電脳にまるで過電流が流れたのような快感が迸る。首を振り、長い黒髪を
 振り乱し、まるで灼熱のアスファルト上に放り出されたミミズのように床の上で身をよじらせる良子。
「だめ…あっ…助けて…んっ…ひろ…み…つ…ああんっ!」

「ふぅ、良い湯だったぜ」
 浴室の更衣室から、バスタオル+パンツ一丁の姿で弘光が姿をあらわした。彼はこの姿を良子の前に晒し、
 いつも何かを投げられて慌てて服を着る…ということがお決まりのパターンである。
「全く、なんであいつは俺の裸を見たら癇癪おこすんだ…?」
 良子の女心を深読みする気もなく、ぶつぶつと文句を垂れながら弘光は自室の前にたどりついた。
「なんだこりゃ?」
 階段から点々と続く、ピンク色の液体。しゃがみこんで指ですくい取ってみると、それは粘り気をもっているのか
 糸を引いて彼の指先にまとわりついてきた。
「新手の嫌がらせか? 匂いからして食い物じゃなさそうだしな…」
 人間の尿にも似た臭気の液体をバスタオルで拭きとり、彼は自室のドアを開ける。
「…良子?」
 床上でひたすら身を捩らせ続ける良子の姿が彼の目に飛び込んできた。
「お、おい!良子!?」
 慌てて倒れている良子に駆け寄り、彼女の身体を起こす弘光。
「ひ、ひろ…みつ…」
「しっかりしろ、良子!何があったんだ!?」
 よく見ればピンク色の液体が、部屋の入り口から彼女の倒れている場所まで続いている。
「この液体…おまえなのか?」
「嫌…見な…い…いでっ!あっ!んん!!」
 喘ぎ声と共に身体が大きく反ると、ほぼ同時に太股伝いにピンク色の液体が滴ってきた。弘光の鼻を突く独特の臭気。
「お前、やっぱりあの時に…! き、救急車を呼んでくるから待ってろ!」
 弘光は良子をベッドに横たわらせると、そのまま部屋の外へ走り出そうとする。が、彼の手は何か大きな力で
 がっしりと掴まれてしまった。
「う!?」
 自分の手を掴んでいたのは良子の手だ。華奢な身体つきからは考えられない…まるで大型の工作機械に挟まれたかの
 ように、彼の手はがっしりと固定されている。
「だめ…救急車は…だめ…」
「じゃ、じゃあどうすりゃいいんだよ!!」
「う…あっ! あん!! あっ、んんんっ!!!ああ〜〜〜っ!!」
 良子は弘光の手を離し、更に激しい動きで身体を捩らせ始めた。

「良子!! くそっ!!」
 混乱しつつあった頭を左右に振り、弘光は彼女を苦しめている原因を考えてみた。頭に浮かんできたのは、ピンク色の
 液体…それはどうやら、彼女の股間から漏れでているようだ。弘光はなりふりかまわず、彼女のスカートをめくりあげた。
「こ、こいつは…」
 彼の目に飛び込んできたのは、かつては純白だった筈のショーツだった。最早液体と同じ色に染まったそれの股間部分から、
 良子が強く喘ぐ度に液体が染み出してきているのが判る。
「どうすりゃいいんだよ…」
 彼は途方に暮れた。いくら緊急時とはいえ、ショーツの向こう側は彼にとって未知なる世界が広がっている。その領域に足を
 踏み入れることは、弘光にとって彼女の貞操を犯すのと同じことであった。
「あぅ…弘光ぅ…たすけ…て…」
 涙で頬を濡らした良子が、半ば焦点の合わない瞳で弘光の顔を見つめている。
「…ええい、ままよ!! すまん、良子…」
 良子の下半身を足でおさえつけ、弘光は彼女のショーツを一気にずりおろした。
「あ…嫌…見ちゃ…だめぇ…」「
「りよ…良子…これは一体どういうことだ…?」
 彼の視界に飛び込んできたのは、割れ目が刻まれた肌色のメンテナンスハッチと、開きかけたそれの隙間から見えている
 武骨な機械部品であった。
「ぅう…見られちゃった…弘光に…見られちゃったよう…ぐすっ…あうっ…んっ」
 良子の喘ぎ声と泣き声が入り交じり、弘光の耳を攻め立てる。彼女の割れ目からピンク色の液体がじわじわと漏れ出して
 いるのがはっきりと見えた。
「お前、まさか…人間じゃないの…か?」
「…ごめん…ごめんなさい…」
「それよりも身体、大丈夫なのか…随分と苦しんでたみたいだけど」
「ん…弘光に脱がしてもらってから…だいぶマシになった」
 よくみれば、ピンク色の液体の漏れが殆ど止まっている。メンテナンスハッチの角度が変わったのが功を奏したようだ。
「訳を話してくれよ…何がどうなってるのか、さっぱりわかりゃしねぇ」
「…話せば長くなるんだけど…」
 彼女はゆっくりと、己の生い立ちを話し始めた。自分が民生用アンドロイドの試験体であること、幼児から大人までの
 全ての種類の素体をテストするため、弘光の幼馴染としてあてがわれたこと。
「そうだったのか…お前がアンドロイドだったなんて、全然きづかなかった」
「ごめんね…騙すつもりはなかったの…でも、パパが…博士が弘光にはだまってろって」
「…まぁ、今更お前を攻めるつもりはねぇよ。それよりも、お前の身体をどうするかだが」
「あたしの身体…? あっ!! きゃぁーーっ!!」
「ぶはっ!!お、落ち着け!!話せばわかる!!」
 枕を弘光に力の限りぶつけ、布団で身体を隠す良子。
「う…あそこ…全部…全部見られちゃった…えぐっ…ぐすっ…うわぁあああああああん!!!」


(続く)

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