ご〜〜〜ん!…という、お寺の鐘の様な、低く長く伸びる金属音が響き、 「ひゃん!痛ったぁい…!!」という若い女の悲鳴がして、おれは思わず 額に手をやり苦笑した。 …お〜い…またかよ〜。 ガレージの鋼鉄の天井の梁に、また巴(ともえ)の奴が頭をぶつけたらしい。 あ、巴っていうのは、うちのメイドロイドの名前だ。 顔立ちは、まあまあ可愛い…というより、清楚な可愛らしさで合格! 黒い瞳、黒い髪で二十前位の日系顔。 長い髪を後ろ頭のやや上で結ってポニーテールにしている。 料理、洗濯、掃除から、各種下の世話の面倒までOKな万能メイドであり、 プロポーションも抜群で、一見、問題どころか非の打ち所など無いように 思える。 …ただひとつ…身長が198センチあることを除けば…。 巴という古風な名前は、使っているAIがコードネーム「tomo」だった事が 由来としているが、それに加えて、何でも、鎌倉時代にいた巴御前という、 美人の女武者から取った名だとか。 まあ、確かに、顔立ちは美人だし、髪の結い方なんてポニーテールというか、 ちょっと若武者風な感じで、忙しい仕事の時は「気合を入れるから」などと 鉢巻にたすきなんて巻いているからなおさら納得できたりする。 …もっとも、巴御前って、敵の武者を押さえつけて、その首を引きちぎった… なんて伝承まであるから… もしかしたら、そっちから来てるのか?と、勘ぐりたくもなる。 ともかく…大きな上…実は馬鹿力なのだ…。 「あいたた〜」 頭に手をやったまま、窮屈そうに身を屈めた巴が、三間(約180センチ)のドアを 開けて、そ〜っとリビングに入ってきた。 「またやったのか…」 「ごめんなさい…」 頭をさすりながら、巴は申し訳なさそうにぺこりと頭を下げる。 こんな仕草は、嫌いじゃないし…可愛くない…わけでもない。 それどころか、癒されるものがある(笑) しかし…。 「まあ、最近は天井をぶち破らなくなったからいいけどさ…でもな」 おれは恐縮し切っている巴に畳み掛ける。 「そんなに何度も頭ぶつけてると、本当に終いにゃパーになっちまうぞ」 「…あ…大丈夫です」 顔を上げ、巴はにこっと笑った。 「頭蓋骨はチタン合金製ですし、皮膚は特殊フォームラバーですから…」 「あのなあ…お前…これでも一応は精密電子工学の結晶なんだろ?」 「そうですけど…」 巴は軽く前髪を撫でつけながら、小さく小首を傾げる。 「でも〜中東に行った娘は、至近距離で一トン爆弾が炸裂して、20m飛ばされても かすり傷で帰って来てますよ…ちなみに高さ20mですが…」 「…どういう例えだ」 そういえば、こいつは元々、アメリカの軍事関連メーカーで造られたドロイドを 民間用に手直した物を、日本の工場でライセンス生産したタイプだっけ…。 「わ〜った…もういい」 おれは苦笑しつつ、右手をひらひらと振りながら話を打ち切った。 そのまま巴はキッチンに入り、ポットに水を入れるとレンジにかけて点火し、 手慣れた仕草で、上の食器棚にあった湯のみと急須を難なく下ろして支度を始めた。 「すぐにお茶をお入れしますね」 …紺色のメイド服の後姿を見ていると、腰の大きな白いリボンが、時々チョウの様に ひらひらと揺れながら、前後左右に踊っている。 少々屈んだ姿勢なので、当然の如く尻を付き出した格好なのだが…。 これがまた…まろやかな形の大きくて柔らかそうな臀部ときていて…。 そのメイド服の中身を想像して、思わず勃起しそうになった。 こんな「大女」なのに…そそられるじゃないか。 あー畜生!今日もむらむらしてきやがった。 おれは軽く頭をかきむしり、ソファに転がって天井を見上げた。 今日は久々の休暇で朝から今までごろごろしていた。 …ちょっと落ち着こうと大きく息をつき、ちらと巴の後ろ姿を見、再び溜息をついた。 少しばかり自己嫌悪な気持ちに陥りながら目を閉じる。 恥ずかしながら…おれは、ここ半月ほど、毎日のように巴を抱いてしまっている。 抱くと言っても抱き枕としてじゃない…れっきとした「女」としてだ! それも一晩に何度も…。 …大抵が、おれの上に巴が跨って、がっちりおれを押さえつけ、恍惚とした表情で 髪を振り乱しながら腰を使い、おれのモノを優しく…かつ激しく擦り上げ、温かな 膣で包み込むようにして締め上げ、搾り出す…そんな感じなのだ。 ちなみに反対におれが上になる場合、巴に「乗る」という感じになるのだが…(汗) どうも、この所の仕事疲れで、巴上位というのが殆どなのだ。 しかも…巴の奴…。 何を考えたのか、最近は母乳タンクに特濃ミルクとスタミナドリンクを入れてある。 行為の最中、おれのものを締め上げながら「どうかお飲みください」と言って、 大きな胸を差し出し、乳首をおれの口にそっとあてがってくるのだ。 「お忙しくて、食事も抜かれがちでしょうから」 いや、まあ確かにそうだけど。 おれの方が連日違うモノを抜かれてるんですけど…。 乳首を口に含んだ途端、僅かに眉根を寄せ、「あ…」と小さく声をあげる。 ちょっと待て…これって、良く考えたら…赤ちゃんプレイの変形か? しかも巴がデカいものだから、ナニを挿入れながら、巴の乳首を吸いつつ、その柔らかな 胸の谷間に顔をうずめる…なんて心地の良い真似ができるのだ。 サイズの比率から考えても、巴の母親役なのは最良だ。 しかも…この柔らかく暖かな感触は、気持ちを穏やかにする。 巴がおれを抱き締め、とても人工のものとは思えない、うっとりした美しい表情で、 時々乱れながら声をあげる仕草は、あっと言う間におれの理性を奪っていった。 それから頭の中が真っ白になるまで、何度も巴の中に精を放ち… 気が付くと、総ての後始末が終わっていて、巴が優しく包むようにおれの上に 横たわっている…というのが最近のパターンであった。 一応、硬派を気取っていたおれが、今では、悪く言えばダッチワイフの延長のような、 それも顔立ちこそ可愛らしいが、おれのひとまわり以上もでかい巴に、すっかり ハマってしまっているという事実が…少々気持ちを落ち込ませる。 …いや…。 本音を言えば、それは…あくまで建前だ。 家族としてなら好意を持っても良いのだろうが、性欲処理の対象として巴を見ている 自分に、どこか恥ずかしさを感じているのだ。 それも…気持ち良いだけに、やめられないでいるという事実…。 …いや、それと同時に、最近では巴を「女」として意識し始めている事に、おれ自身が 気付き…葛藤しているのだ。 おれが巴と初めて出合ったのは一年前。 仕事に就いて数年後、転勤を機会に、実家を出て一人暮らしする…と宣言した時、 オムニジャパンの技術者をしている両親が、餞別代りとしてメイドロイドを進呈すると 言われたのがそもそものきっかけだった。 最初…メイドロイドなど面倒だから要らない…と言い切ったが、放っておけば、どうせ 掃除も洗濯もろくにしない事は明らかだ…とお袋に切り返され、さらに親父にも、 メイドロイドが居れば、風俗になどいかずに「処理」できるから…と。 おいおい…親父…セクサロイドを息子にあてがうのかよ? お袋も、これなら悪い病気にならないし、若さを暴発させるより、遥かに健全よ…と にこにこしながらたたみかける。 言っていること自体は間違っちゃいないし… 結果的にそうなっているけどさ…。 うちの親は…絶対どこかヘンだ…! まあ、とは言うものの、タダだと言うし、メンテナンスは会社でやるから…というので、 しぶしぶ承諾はしたものの、正直、初めて巴と出合った時は、本当にびっくりした。 ともかく…デカい。 可愛い外観だが…無茶苦茶デカいのだ。 初見の感想は、遊園地のアトラクションで良く見かける、「アニメのヒロインの姿を した着ぐるみ」だった。 まあ、等身は高めで、グラマラスで…かつ、整ったプロポーション自体は良かったが。 てっきり小柄で「小間使い」と呼びたくなるような娘を想像していたおれは、正直 両親の選択を…というより、二人の頭を疑った。 即座に「こんなのいるか!」と言いそうになったが…。 恥ずかしそうに長身を屈めて、丁寧にお辞儀し、頬を赤く染めながら、おずおずと こちらを見つめる巴の、その澄んだ瞳に…何も言えなくなってしまっていた。 …あ〜…何か、可愛いじゃないか〜。 顔立ちも良いけど…何よ、この萌える仕草は。仕様か?(笑) おれより30cm近くでかいし、確かこのタイプは、どちらかと言うとボーイッシュか お姉さま系のデザインの娘が多かったはずなのに。 何だっけ…昔、大きな女の子と小柄な主人公というカップルのマンガがあったけど、 おれとの対比は調度そんなところか? …第一印象は、そんな感じだった。 ちなみに巴はオムニジャパンが二番目に発売した本格メイドロイドシリーズの一人で、 発売は14年前。当時のキャッチコピーは「遂に2mを切りました!」だった。 たった2cmの違いだけどな…。 だけど、この直後、他社でほぼ完全な人型サイズで、完璧なAIを搭載したモデルが 登場してしまい、オムニジャパンも、急遽、新型を投入する羽目になった。 親父とお袋も、この為、この頃、連日、徹夜で新型機の開発の為に研究所に詰めて いたっけ…。 ただし、巴の同型体自体は結構ヒットし、主に企業向け、法人向けにかなりな数が 造られており、最終型の一人である巴の製造は7年前。 実は結構なロングセラーである。 前にも言ったが、ベースが軍事用だったので、その強靭さと運動性能はピカイチで、 イザとなればセキュリティ用ガードロイドの代わりも努められるばかりか、大きいので 設計に余裕があるので、メンテナンスも容易な点が買われたらしい。 まあ、約2mというのは微妙だが、業務用なら問題ないし、当時はまだ人工知性体 保護法の成立前で色々言われていたので、一目見て人間で無いと判る大きさという 点でも良かったと聞く。 最近では「心」の載せ換えで、その数が減ってはいるものの、まだあちこちで巴の 姉妹たちを見かけることができる。 しかしなぁ…。 大きな疑問が幾つか残っている。 このサイズで…擬似性行為が出来るなんて聞いていないぞ! …というか、もしやこれは後付けのオプションなのか? いや、第一、どうして両親はこんなデカいメイドロイドを寄越してきたのか…。 全く理解に苦しむ…。 とはいえ…時々、適当にポカをするものの、メイドとしての役割は万全で、友人や 会社の連中には「大きなともちゃん」として知られている。 でもまさか…この巴と毎晩のように…なんて、ふつう誰も思わないだろうな。 あるいは…それが狙いだったのか? 「お待たせ致しました」 ふいに巴の声がして、目を開けると巴の顔がそこにあった。 「今日は掛川茶です」 「あ…ああ」 黒い瞳が一瞬丸く見開かれ、それから巴はくすっと笑い…そーっと顔を寄せた。 「坊ちゃま…あの…もしかして」 「なんだ?」 「……その…少し……溜まって……おられます?」 うわ!!…しまった…やべ! 巴の嗅覚センサーは犬並みだ。 …カウパー腺液の匂いなど一発だ。 さっき欲情した時…ちょっとばかり…。 「ば、ばか!そういう身もフタも無い事を口にするな!」 慌ててがばっと飛び起き…立ち上がった。 「あ…ごめんなさい」 思わず手を口に当て、巴はぺこりと頭を下げる。 …いや、謝るのはいいけどさ…。 おれが何に対して欲情したか…判っているのか? 時々、巴の感性が良く判らない時がある。 基本的には真面目なのだが、変なところで茶目っ気があり、子供っぽい時もあれば、 妙に大人の女のような艶を感じさせる時もあるのだが…。 これが「判って」やっているのか、「天然」なのか怪しい時が稀にあるのだ。 とはいえ、このままでは、パンツの様子がちょっと気になる。 匂いってのは自分じゃ意外と気付かないものらしいし、巴が気付いて指摘して いるとなるとなおのことで。 「…やっぱ、先にひと風呂浴びて着替えてくるわ」 「あ…でもお茶…入れたのですけど」 巴がちょっと悲しそうな顔をする。 「温度も今が最適で…あの…冷めてしまいますから…」 「でもパンツ…いや、やっぱり先に風呂をだな」 「………」 無言で、しょげた顔をする巴。 だから…頼むからそういう顔をするなって! 「…しょうがねえ……わ〜った!…先に茶にしよう」 「はい!」 途端に、ひまわりの花を満開に咲かせたような、明るい笑顔を浮かべる巴…。 おれはふっと苦笑し、首筋をかきながらソファに腰掛けた。 やっぱり巴の淹れてくれた茶は美味い! 少しずつすすると、お茶の軽い渋みの奥にある甘みが口中に拡がり、鼻腔をくすぐる つんとした香りが、じんわりと沁み入ってくる。 「なあ、巴」 湯呑みを手にして、おれは正面のシングルソファに腰掛けた巴に尋ねた。 「ここに来て、そろそろ一年だけどさ…お前、ここに来る前は何をしてたの?」 両親の話だと、巴は七年前に製造された後、メーカーのモデル見本として ショールームを廻ったものの、モデルチェンジの為に引退、その後、モデルとして 既に稼動後だった為、買い手が付かなかったので、巴に意思確認の上で、 一時機能停止、モスボールに近い状態で保管されていたらしい。 それが一年前、在庫整理の為に確認したところを見つけ出され、うちの両親が 格安で引き取り、各種のパーツを現在の仕様に直した上で再起動したと聞く。 然るに、今まで本人から直接、その話を聞いた事は無かった。 「再起動して頂く前は…オムニジャパンのショールーム・モデルを務めていました」 巴は淀みなく答えた。 「それこそ、日本全国、津々浦々廻りましたです」 「キャンギャルみたいな格好で?」 巴の巨大なレオタード姿を一瞬想像しながら尋ねた。 「いいえ」苦笑混じりに、即座に巴は首を振る。「OLさんの格好です」 なるほど…その長身ならスーツは似合うか。 もっとも、その頃はポニテだったのかな? 「時に…うちの馬鹿親とは、その頃からの知り合いだったの?」 「…馬鹿なんて言っては失礼ですよ」 ちょっと抗議するように言ってから、いつになく遠い目をして巴は続けた。 「…そうですね。その頃から、存じ上げていました」 「モデルチェンジで、仕事が無くなったから休眠してたって聞いたけどさ…。 その頃の先代モデルって事なら、業務用って事で残れたんじゃないの?」 「え?」 不意のおれの質問に、巴の動きが一瞬止まった。 「いや…だって、聞けば、実働半年ぐらいで、まだまだ新品同様な訳だろ?」 「ええ…確かに…そうなのですけど…」 巴の反応がいつになく重い。 少々うつむきながら、僅かにおれの視線を逃れようとしているようにも見える。 …人間で言えば、口が重い…というところだが、巴は本来、機敏な対応が 可能な筈で…どうも妙な違和感を感じる。 「企業の都合…って奴なのかな?」 「た、たぶん…そうかと思います…」 「そうか…」 おれもそれ以上、詮索するのはやめておいた。 とりあえず、今、この場では、だが…。 「…お茶」 おれは湯のみを差し出した。 「…はい?」 「お替り…もらえるか?」 「はい!」 巴はにこっと笑って湯のみを手にした。 ああ…なんのかんのと言っても…巴と一緒にいると、やっぱり和むわ…。