その晩も…ともねえが夢に現れた。
赤毛のツーテールの少女の面持ちで。
瞳の色は群青…。
にっこり笑いながら、おれに両手を差し伸べる。
おれも両手を伸ばし、その手を取る…。
柔らかく、温かで、優しく心地よい感触。
と、ともねえの顔が突然、巴と重なり、おれははっとなった。
豊かな黒髪…ポニーテール…瞳の色は黒…でも…でも…?
その顔立ちは…驚くほど似ていないか!?
…いや、そんな馬鹿な…。
それとも…昔のおれの記憶が、大好きだった『ともねえ』を、今、最愛の巴と混同させているのか?
『わたしは…いつもあなたのそばにいますよ』
…おまえ……いや…『きみ』は…誰なんだ?
すると『巴』は僅かに目を細め、小さく小首を傾げて微笑んだ。
『誰だと思いますか?』
なんだって?
『「誰」だと良いのですか?』

次の瞬間、目が覚めた。
かばっと布団を剥ぎ、おれは身を起こした。
デスクの上のスタンドライトがひとつ灯っていて、カーテン越しから夜明け前と判った。
あたりは、しんと静まり返っていたが、微かにきーんという耳鳴りに似た音が脳裏に響き
思わずふうと溜息をつく。
時計を見ると四時半過ぎ…起きるにはまだ早いかな。

久しぶりに二日続けて、ともねえの夢を…それも、巴に変わる夢など見るとは…。
…おれが大好きだった『ともねえ』と、巴を重ね合わせているのだろうか?
………もし、そうだとしたら…そう考えると…少し凹む。
どちらも大切な存在だ…なのに、どちらかをどちらかの『代用』としているとしたら…
人としては最低だ…。
むしろ秀一の様に、きちんと…気が多いとは取れるが…人間の彼女一人とドロイドの
パートナーたちに平等な愛情や想いを注いでいる方が…人として正しくは無いか?
『「誰」だと良いのですか?』
『巴』の言葉と微笑みが脳裏に蘇る。
…やはり巴だろう。
それには迷いは無い。
最近では、人とドロイドが結ばれ、正式に婚姻したばかりか、卵子を提供してもらって、
それに遺伝子情報伝承処理を施して出産したケースもあると聞く。
はっきり言って、そこまで至るかは判らないが…。
巴も、『ぼっちゃまが結婚されても…要らないと仰るまでお傍におります』と言って
くれているし…おれも絶対に手放すつもりは無い。  
…でも…。
ともねえは…どうなんだ?
もし、忘れてしまったら…。
ともねえが大好きで…彼女に幼い告白をした…想いが失われてしまったら…。
彼女に…ともねえに…とても済まない気がしてならない!
でも…それでもおれは…巴が好きなんだ…。
おれは両手で顔を覆った。

ふいにカチャリとドアが開き、顔を上げると、心配そうな顔の巴がそこに立っていた。
白のネグリジェ姿で、髪は解かれ、腰まで美しい黒髪が垂れている。
「あ…の…どうか…なさいましたか?」
例によって小首を傾げる仕草で…こちらをじっと見つめている。
遠慮がちだが、それでもおれに何かあったらすぐ飛び出そう…そんな気配を感じる。
その、愛らしくも健気な表情を見つめるうちに、おれの中でひとつの決意が生まれた。
バンもそうした。
秀一も既にそうした。
…上手く行くかは判らない。
理解してもらえるかは判らない…。
でも、ここでケジメはつけておかなくてはならない。
男として…人として。
「こんな時間で悪いんだが…暫く…話を聞いてくれないか?」
いつになく…らしくないな…と思いつつ、おれは至って真面目に口を開いた。
巴は暫しきょとんとした顔をしたが、微かに笑みを浮かべた。
「わたし、ドロイドですから…時間は問題ありませんよ〜」
「充電は?」
「きっちり…終わってますです」
笑顔だが、どこかおれを気遣う雰囲気が感じられ、おれは内心済まなく思った。
「あ、え…と、お茶でも…お淹れしましょうか?」
「いや」
おれはそっと首を振った。
「巴さえ居てくれれば良い」
「え?」
この際、水入りは不要だ。

ベッドの縁に、大柄な身体をちょこんと腰掛け、巴はおれの顔を見下ろしていた。
腰掛けると幾分身長差が無くなるようだが、それでもまだ巴が上だ。
「ぼっちゃま?」
流石にいつもと様子が違うと気付いたのか、巴は少し不安そうだ。
おれ自身…寝覚めでアタマがヘンになっているのかも…と思いつつも、妙な決意と
高揚感で…ともかくこう言った。
「おれは…巴に…懺悔しなくちゃならない」

暫し沈黙があった。
…と言うより、はっきり言って巴が目を丸く見開いたまま、固まってしまったのだ。

「……わたしに…懺悔って…あ…あの…」
やっと言葉を発した巴の瞳が潤んでいる。
ちょっと待て…何を考えたんだ?
巴が次の瞬間、わっと泣き出す。 
「それって…もしかして……わたし…お払い箱って…ことですかぁ…」
「ばか!」
巴はすっかり泣いている。
「それだけは絶対ない!!」
思わず怒鳴りつけ、巴を抱きしめる…ようで、逆に巴に抱きすくめられてしまった。
「…よ…よかったです〜」
「おい…泣くなよ〜」
何だか体格差からすると、泣き虫の姉さんをなだめる弟みたいな図だな…と思い、
それから、ふと、ある出来事を思い出してこんな事を言った。
「こうしていると…巴は泣き虫のねえさんだな」
「…だ…だって…いきなりわたしに懺悔なんて〜」
瞳を赤くした巴がそっと身を離し、おれの顔を見据える。
おれは覚悟を決めて…一気にまくしたてた。
「おれが話したいのはね…その…おれが、巴以外の、ある女性にも昔から好意を持っていて…
気持ちも未だにあると…気付いてしまったからなんだ」
巴はじっと…真剣におれの顔を見据えている。
その気迫に、一瞬たじろぎそうになったが…おれは頭を下げ、なおも続けた。
「今は巴一筋だ…その気持ちに嘘はない…!でも、おれは…」
「ともねえ…も、大好き…?」
ふいに予期せぬ事を言われ…しかも巴の声が変わったような気がして、おれはギョっとなった。
「……巴?」
顔を上げ、巴の顔を見つめると、またもや瞳が潤んでいる。
「嬉しい…」
「あ…え…」
そのまま、おれは巴の唇に言葉をふさがれ、そのまま何の抵抗も出来なくなっていた。

本来ならば…おれが未だに初恋の人の事をどこかで引きずっていて、夢にまで見ている事を
巴に詫びるつもりだったのだが…。
何だか…予想外な展開になってきて、おれ自身が困惑し始めていた。

やがて恥ずかしそうに身を離した巴は、静かに頭を垂れた。
「…ご…ごめんなさい…ぼっちゃま…」
「いや…それは良いんだが…」
おれは最大の疑問を口にしていた。
「おれが…ともねえを好きだってこと…何故…。それに」
そっと顔を上げた巴は、珍しく、おれの問いには答えず、こんな事を言った。
「…わたしのAI名…ご存知ですか?」
「たしか…『tomo』」
そう…それは知っていた。
だが…あくまで偶然だと思っていたのだ。
おれの両親も、おれが、たまねえを好きだった事を知っていたし、だからこそ敢えて巴を
選んできてくれた…いつしか、そう思っていたのだ。
「わたしは…」
巴は涙を拭き、それから穏やかな笑みを浮かべて、静かにこう言った。
「『ともねえ』の…分身だったのです」

暫く時間が止まってしまったように思えた。
おれ自身が、告白するつもりが…。
とんでもない事実を知る事になってしまった。
「…それに気付いたのは昨日の晩…でも、確証を持ったのは先刻でした」
「昨日と…先刻だって?」
そういえば、おれが夢で見たのと同じ頃だ。
思わずおれは口を開いていた。
「はい…」
巴はそっと目を伏せ、それから暫し躊躇しながら続けた。
「…夢を見ました。…そこでわたしはぼっちゃまと出会いました。そこでぼっちゃまは、
わたしをともねえと呼ばれ…わたしも自分の姿が変わった事に気付きました」
「…あの夢…巴も見たのか…」
「では…ぼっちゃまも?」
巴も驚きの表情を浮かべる。
「…そして…わたしの心に…断片的にですが、幼い頃のぼっちゃまとの記憶がすっと
流れ込んできました…もちろん総てではありませんが…」
「ちょっと待て…それって…」
おれの頭に、ずっと引っ掛かっていたある単語が浮かんできた。
「シンクロイド・システムか…」

「はい」
巴はしっかりと頷いた。
「たぶん…わたしが一昨日『記録』と言ったのは、その為だと思います。…もっとはっきり
言いますと、わたし自身が、最初のシンクロイド・システムに試用されたのです」
「…ジェニファーさんとジェーンの様な関係なのかい?」
「それよりは、もっと技術的にも初歩的な物かも知れません」
こうして理路整然と話す辺りは、確かにともねえの面影がある。
「それすらも思い出せたのが、つい先刻なのですが…」
…だが、同時に、いつもの巴がきりっとした時も同じであると気付き、おれはほっとした。
「ただ…ともねえ…『朋』としての記憶は殆ど受け継がれなかったのですが、意識…心は
このわたしに遺されたのだと思います」
「じゃ…巴の心は…」
「たぶん…『朋』がベースになり、改めて巴として完成されたのだと思います」
ということは…巴は、ともねえの実の分身であり、生まれ変わった存在とも言えるのか。
ジェーンに対する巴の反応が改めて、良く判る。
おれは、安堵すると共に…それでも…やはりけじめをつけなくては…と思った。
そして巴の両肩に手を添え、それから改めて頭を下げた。
「巴…そして…巴の中に在る、ともねえの心に謝るよ…おれは…どちらも好きだ。でも、
男としては、二股掛けていたみたいで…」
そう言い掛けたおれの口を、巴は人差し指を立ててそっと制した。
「でも…『わたし』としては…幸せ独り占めみたいで…とっても嬉しいですよ」
「巴?」
「…だって…あくまで巴として見てくださって、それだけでも嬉しいのに…」
「え?」
「わたしが…ぼっちゃまの…昔からの大切なひとでもあったなんて…」
「え…あ……」
「もちろん…一部ですし〜…わたしは『朋さん』みたいなしっかりものじゃないですけどね」
そう言って、小首を傾げてにっこり笑う巴。
おれは呆気に取られ…
「あ…いや…考えてみると、あれで結構、そそっかしかった気がするよ」
ついそんな事を言っていた。
「そ、そうですかぁ…それって、喜んでいいのか、悲しんでいいのでしょうかぁ?」
巴は複雑な表情で笑ったが、やがてそれは満面の笑みに変わっていた。

すっかりいつもの巴に戻っていて、おれは心底嬉しく思った。
巴の中に『ともねえ』が生きている…その事実は衝撃だったが…知ることができて
良かったと思うし…大好きな二人が、ひとつの存在として常に傍にいてくれる事の
幸せを改めて強く感じる。
…そして改めて…いつもは悪態をついているけど…
巴を寄越してくれた両親に深く感謝した。

少し早いけれど…ちょっと気持ちがすっきりしたので、完全に起きる事にした。
睡眠時間は四時間…。
まあ今日は巴が運転してくれるというから、行きの30分はクルマで仮眠するか。

食事までの間、おれと巴はすぐに出かけられるよう着替えて、リビングのソファに
向かいあって腰掛けていた。
…色々な思い出話や疑問が飛び出す。
おれの、ともねえとの思い出話は、大半は巴の『知らない』事ばかりなようだったが、
泣いているともねえを、おれが一生懸命慰めようとしていた事は思い出していた。
「…朋さんは…天才科学者で、オムニの顧問として働いていたのですが…」
巴がそっと目を閉じる。
「あの時は…研究が行き詰って、色々と辛い事があったのです」
「ともねえ…は研究員だったのか…」
てっきり、奨学生だとばかり思っていたので、これにはおれも驚いた。
「ジェニファーさんの前に日本で現れた天才少女って…ともねえだったのか」
頷き、巴は目を開けた。
「…ただし、安全の為、表向きの名前は変え、普段は学校に通っていました。
確か『愛原ともみ』って名乗っていたはずです」
「…ギャルゲーに出そうな名だな…まてよ…普段は…ってことは」
「授業が終わった後と、土日に研究所に…」
「…ハードだなぁ」
「いいえ…クラブ活動みたいな感じで…それにぼっちゃまのご両親のチームに
ご一緒させて頂きましたから、当初は苦労なんて感じませんでした」
「うちじゃ、家事もろくにしないダメ親だったんだぜ…」
「お母さまは…料理の腕前は逸品で、お母さまの夜食は皆の楽しみでした」
「え?…嘘だろう…」
「お父さまは…開発チームでは、誰よりも頼りにされていましたし…」
「それって…記憶が捏造されてないか?」
ついそんな事を言うと、巴は困ったように小さく笑みを浮かべた。
「…そんなことはありませんし…決して家庭をおろそかにはされていませんでしたよ」
「…でも…」
「どんなに遅くに帰っても、朝には衣類が用意されていたのではありませんか?」
思わずハッなる。

巴は控えめだが、はっきりと通る声で続けた。
「朝食も…簡単なものかもしれませんが、用意されてましたよね」
「…まあ…おれが食べる前に、大抵、出かけちまったがね」
「ゴミも『これを捨てて下さい』ってメモがありましたよね」
「…でも…土日だってろくにいなかったぜ」
「確かにそうです…でも…丁度、あの頃は窮地に立たされていたのです」
巴は申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「オムニジャパンは『OJ-MD2』…今の、このわたしのベース機を絶対の自信を持って
発売したのですが…直後に新参入の大和重工から、完全な人型サイズになった
『YJ−SY1』こと『小百合』が発表されたのです」
「…あ…そうだったか…」
おれは、あの頃のことを思い出していた。
親父がいつになく苛立っていて、普段の『のんきな父さん』ぶりからは想像できない
怖さで近づけなかった上、お袋もいつになく暗い顔をしていた。
「…本当は…OJ-MD3を同時発売する計画だったのですが…ともかく早く発売しろという
上からの命令で…仕方なくOJ-MD2が量産され、OJ-MD3の開発は一時中止に…」
OJ-MD3とは第三世代の完全人型サイズドロイドで、当時は、YJ−SY1の宿命の
ライバルとも呼ばれるほど、両者のユーザーは多かったらしいが、当初は大苦戦を
強いられていたらしい。
「ご両親は猛反対されました…YJ−SY1の噂は聞いていましたが、仮に試作品が発表
されたとしても、こちらが先に製品版のOJ-MD2と、OJ-MD3を同時発売すれば、一気に
ひっくり返せるから…と。でも…ともかくエポックメイキングさえ先に出せば勝てると、上は
考えていたのでしょうね…。そうすれば試作品ごときに負けはしないと」
「その結果は…惨憺たるものだったと」
「出て半月で…新製品待ちで八割がキャンセルですよ」
巴が両手の拳を固めて、ぷるぷると震わせる。
「OJ-MD2の修正や生産ラインの整備が優先で…OJ-MD3の発売は結局五ヶ月遅れました。
もし順調に行けば、生産ラインを共用して二ヶ月後には発売できたのに…。OJ-MD3の
発売はYJ−SY1発売の二ヵ月後…既に新規ユーザーの七割がそちらに向いていました。
…そしてその責を、わたしたち開発スタッフが負わされたのです」

「なんだって!?」
「昼夜兼行で五ヶ月も…不満ひとつ言わずに頑張ったのにですよ…!」
いつになく巴の声が上ずっている。
「その間は…『朋さん』も…やむなく休学していました…それなのに…」
あの時…ともねえが泣いていたのは…その為だったのか。
不本意な命令を受けても頑張った挙句の、あんまりな仕打ちでは…辛いだろうし…
悔しくも悲しくもあるだろう。
「それで…親父たちや、ともねえは…」
「はい…アメリカに『研修』の名目で左遷されてしまったのです…」
「責任転嫁…トカゲの尻尾切りか…」
いちいち思い当たることがある。
いきなり『アメリカに行く』と言われ、おれは泣いて抗議した。
ろくにうちに帰ってこない両親に、今までの慣れ親しんできた環境を壊されるようで…。
親らしいこともしないで…ふざけるな!と。
だが…結局、親父達は笑って許してくれた。
あの時の二人の一瞬見せた寂しそうな表情は…。
今でも忘れられない。
「あの頃の事は、今もってご両親にとっても…悲しく辛い思いとなって残っておられます」
「ああ」
おれは大きく頷いた。
「わかったよ…っていうか…巴のおかげで、親父たちをちょっと見直した…」
「ぼっちゃま?」
「確かにさ…研究だ、仕事だに打ち込んで家庭を顧みなかった…って部分はあるけどさ…
今にして思えば、それでも精一杯の事はしてくれてた訳だし…」
そうだ…むしろ、今にして思えば、おれ自身には不自由な生活は強いられなかった。
ただケジメはつけろ、正しい責任感を持ちなさい…とは、散々注意されたもので、それが
今のおれを構成しているかと思うと、改めて感謝するまでだ。
「おれも仕事に就いてから、責任ある仕事を任されたら、どれほど厳しくてもやらなくては
ならない時がある…って、判るトシになったしさ…」
「いつかきっと…きちんと話してあげてくださいましね…」
巴の様子が、まるで乳母のようで思わず笑みを漏れた。
「その時は…一緒に行って、思い出話しでもしような」
「はいです!」
巴はいつものように、小首を傾げ…それから右手で敬礼に似た会釈をして、にこっと笑った。
…新しいスキルを身につけたかな?

朝食の間…テレビをつけてみて、おれと巴は、外で起きている様子を改めて知った。
家庭用のドロイドたちが軒並みダウンし、各種店員やメイド、サーヴァント、運輸などに勤めている
ドロイドたちが眠るように倒れていたり、僅かに痙攣を起こして苦しんでいる様子が映しだされ、
思わず何度か目をそむける。
いくらドロイドと言っても…やはり人に近い姿は生々しい。
巴も唇を噛んで暫く我慢して観ていたが、悲しそうな顔でやはり何度か目を背けていた。
「シンクロイド・システムが絡んでいるのだろうか…?」
湯のみを手にして、ふと言葉に出して呟くと、右横に立った巴は、すっとしゃがみ、テーブルに両腕を
ついて頬杖をつきながら、おれの方を向いた。
「…ぼっちゃまは、どう思われます?」
「例のショップの件や、バンたちの動きからすると…間違いない気がするが…」
そう言いながら、おれは巴が複雑な表情をしている事に気付いた。
何と言うか…ちょっと不安で、甘えたいような…。
そういえば、こんな仕草は滅多にしないな。
おれはちらとテレビを見、改めて自分の鈍さと迂闊さに呆れた。
「そうか…おまえ…自分がシンクロイド・システムの影響で、過去の記憶を取り戻したかもって…」
「わたし自身には自覚がありませんでした…で、でも〜…二日とも時間的にもぴったりですし…
多少は影響が出ている気がしてならないのです〜…」
いつもの元気な様子が無い。
少し自信なさげな、困ったような笑顔。
「でも…どこにも異常は無いんだろ?」
「はい…でも…」
「シローだって磁場は感じたって言ってたじゃないか…そりゃあ、記憶は戻ったかも知れないが、
おれにとっては…それはとても嬉しかった事だし」
ポニーテールの髪に手をあて、そっと撫でる。
「どうせ、シンクロイド・システムのことは、おれたちにはどうしようもないし、巴に悪い影響が出ない事が
おれには今、一番大事なことだ。…世間の事は…今は、事態を見守るしかないじゃないか?」
「は…はい…そうですよね!」
目を細め、頬を赤らめて頷く巴の頭を、おれは想いをこめて優しく撫でた。

あくまで結果的に…ではあるが、シンクロイド・システムは、おれと巴には、今のところは、良い様に
働いてくれたように思えてならないが…。
これはあくまで偶然の産物だろう。
…いや、それとも…まさかとは思うが、何かの始まりなのか?
しかし、おれは一介のサラリーマンに過ぎないのだ。
そんなことあるわけない。

それにしても、果たして、この先、世間のドロイドたちはどうなるのだろうか…?
バンたちは、上手くやってくれるのだろうか…。
おれと巴は、テレビの映像を、なおも暫し見つめていた…。

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