「……が無い」
休日の穏やかな時間を過ごしている時に相棒が呟いた。

 「何が無いんだ?」
顔を見ると珍しく落ち込んでいるような、悩んでいるような。 思わず保護本能をくすぐられる可愛いくも、悲しい表情。
この娘にも こんな表情が出せるんだなぁ、と感嘆してしまう。
いつもなら わざと部屋の室温を高めに設定して『熱い』といっては服を脱ぎだしたり
俺の知らない間に胸を大きめに交換しては『服が縮んで胸が苦しいのです』と胸元をはだけたり
肩の関節のリミッターの設定を勝手に変えては『背中のファスナーが降ろせないんです』と俺に服を脱がせようとしたり
悩みなんかとは無縁な感じがしていたのだが。

 「私には【匂い】が無いのです」
 「匂い?」
 「はい、ヒトなら誰でも当然身についている体臭が私にはありません。
  人工的に精製されたパヒュームや石鹸とかシャンプー・リンスの香りくらいしか身に着かないのです」
 「人種や生活習慣によって匂いが少ないヒトもいるけどなぁ。 そんなに気にすることなのか?」
ヒトである俺には理解できない悩みなのだが、相棒にとっては深刻なことなのだろう。
目には涙まで浮かんできている。

 「匂いというのは意識の範囲内で知覚できなくても無意識に本能が嗅ぎつけていることもあるのです。
  人工物の私には、それができない……」
まあ、言わんとしていることは解らなくも無い。 確かに、ヒトにとって匂いの影響は大きい。
しかし……

 「その、匂いを身に付けてお前は何をしたいんだ?」
 「ほのかに香るフェロモンがあれば24時間マスターを欲情させることが出来るじゃないですかっ!!
  いつでも私を求めていただけるなんてことを想像しただけで……。
  それが出来ない私はマスターの視覚で本能にうったえるしかなかったんですから!」
 「結局はソッチかよっ!!」

世界は今日も平和だな……

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