「目が…覚めた…」

彼女は11日間の眠りから解放された。
先日ある要人を暗殺した任務の折に、銃弾を受け修復とメンテナンスを受けていた。
巨大な風呂桶のようなメンテナンス台は全て自動でボタン1つで作業をこなすスグレモノだ。
起き上がった彼女は部屋を見回したが人の気配はなく、明らかに以前と様子が違う事がわかった。
彼女は銀色の長い髪をリボンで止め、
小柄な体に灰色の地味で飾り気の無い暗殺者用の服を身につけ部屋の外に出た。
となりの部屋で人を見つけた。しかしすでに息はなかった。
この後いくつかの部屋を覗いて歩いてみたが、生きている人間には会う事はなく、
彼女に任務を与えていた者も、メンテナンスしていた者も、兵士達も全て殺されていた。

「……困った」

彼女は一人になってしまった。
言われるままに役目を与えられてきた彼女は、依存すべき対象を失った。
もう自分に命令する人も、目的を与えてくれる人もいない。
これから私はどうすればいいんだろう……
とりあえず当面どうするか考えてみよう。

この先どうやって生きればわからない……なら組織に殉じて機能停止する?
機能停止しても意味が無い。敵が喜ぶだけ……なら仇討ちでもする?
仇討ちしようにも犯人が分からない……なら犯人探しでもする?

色々と自問自答をしてみたが、
生まれて初めて自分で考える彼女には容易に答えを出せなかった。

「町に出よう……ここにいても仕方ない……」

結局こんな結論まで1晩かかってしまった。

アジトのある山を道なりに下った所に小さな村落があった。
村の入り口を入ると酒場が見えた。この時代にそぐわないウエスタン風の小さな酒場だ。
カウンターに座わるとよそ者が珍しいのか、なめまわすように見られた後マスターが話しかけてきた。

「嬢ちゃんこの町は初めてかい?注文はなんだ?」
「……?」
「注文だよ注文。酒飲まないなら帰ってくれ。踊り子とか働き手は間に合っているからな」
「そうか……ここは酒を出す店なのか……なら用は無い……帰らせてもらう」
「なっ…」

彼女は店を出ていってしまった。
店を出た彼女は呼び止められた。さっきのマスターだ。

「おい嬢ちゃん待ちな、何か事情がありそうだな。ちょっと話してみろや?」
「……貴方が私に生きる意味を与えてくれるのか?」
「何だかよくわからんが話してみろ。気が晴れるかもしれんからな」

彼女は依存する人が死んだ事、生きる意味を失った事、これからどうすればわからない事を話した。
一通り話を聞いたマスターは境遇に同情する事は無かったが、このまま放り出すのもしのびなく

「やりたい事がみつかるまでならここで働いていけ。ただうちの賃金は安いがな!」
「そうか……ならそうさせてもらおう」

彼女はこの酒場で働く事になった。
元々戦闘以外は何もしらない彼女は初めは苦労しマスターも眉をしかめていたが、
一度教えられれば完璧に近い形でこなし次々と仕事も覚えた。
安い賃金と長い労働時間に文句言わず働く彼女はいつしか酒場には欠かせない存在になっていた。
ただ……限りなく無愛想だったが……
そんなある日、酒場に1人の男が現れた事で彼女に転機が訪れる。

「いよぉ!ナオ!景気はどうだ?」
「この前も山の上の連中のアジト潰したって言うじゃねーか。儲かってるんだろ?一杯おごれや!」
「つまらん仕事の事はすぐ忘れる主義でな。それにもうあんなはした金使っちまったさ」

山の上のアジト?潰した?この男が組織を?

「当分こっちにいいるのか?」
「ああ…仕事も無くて暇だからな。それに生きてるうちしかはウマイ酒を飲めないからな」
「ははっちがいねぇ」

組織を潰された恨みとか仇をとりたいという気持ちはもう彼女には無かったが、この男には興味があった。

「どんな男なんだろう……」

この日から彼女は酒場で働きながら男について調べ始めた。
2日とおかず酒場に彼が通い続けてくれたおかげで情報はいろいろと得る事が出来た。
彼の名は「ナオユキ」
年齢は30代なかば。依頼があれば何でも壊す通称「壊し屋」という稼業についている事。
町外れの森に住んでおり身内はおらず独身である事。
以前町が盗賊団に襲われた時は依頼により、村人中心の自衛団を組織し盗賊団を壊滅させた事がある事。
そのため町では英雄視され有名人である事などだ。

「どのくらい強いんだろう……私じゃ勝てないのかな……」
「戦ってみようか……」

常に戦いの中にあった彼女の価値観は、相手が強いか弱いかに依る所が多かった。
自分より強いかもしれない相手……純粋に戦士として彼と戦ってみたいと思った。
この日から彼女は暇を見つけては彼の後を追いかける生活が始まる。
勝率を少しでもあげる為に彼の事をもっと知りたかった。戦う以上全力で勝ちに行きたかった。
人間特有の気配や殺気の無い彼女は気づかれる事なく彼の後ろを毎日追い続けた。

毎日追っていてわかった事だが、この男は酒ばかり飲み仕事もせずテキトーに生きている。
だが全て自分で考えて行動し、自分の中に確固たる価値観を持ち生活している事がわかった。
生きる意味を失っていた彼女にはそれがうらやましかった。

「私もあんな風に生きれれば……いいな……」

しかし戦うと決めた以上、彼女に迷いは無かった。
何度目かの尾行を繰り返したある日の夕暮れ、
彼が家路につく途中にある廃墟で、彼女は猛然と襲い掛かっていった。

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