「はふぅ……」
家に帰ると、瑞希は自分の部屋のベッドに倒れ込んでため息をついていた。
辺りを見回す。
形だけは女の子の部屋のように飾られた部屋。

「……」
不調の原因は解っていた。
前回の定期メンテナンスで瑞希の体は大改修を受けた。
具体的には、胸部センサーの増設。胸部パーツの一部換装。スペースだけは用意されていた
女性器ユニットの取り付け。それらのパーツを対応できるようにAIの機能拡張。etc,
一言で言って、セクサロイド機能の付加。
瑞希のメンタル面を受け持つ女性技師が優しく言った。
「テストとしてはどうしても必要なものだが、無理して使う必要はない。むしろ、これらが
ついている事で貴方の感情が不安定になる可能性の方が心配。それにどうしてもイヤなら
拒否も可能」だと。

実際、瑞希も悩んだ。が、結局受けいれることにした。
理由は……自分でもよくわからなかったが。

瑞希のプライバシーはとりあえず守られている。
具体的な行動については女性技師一人のみの閲覧が可能、筐体やAIへの影響は彼女を通じて
レポートとして報告される。
それを元に瑞希は調整と改修が繰り返されていた。
彼女の設計主任は弘樹の父だが、彼さえも娘の詳細な行動をのぞき見ることは許されていない。

一度、父親としてという言い訳をした上で、行動ログを覗こうとして瑞希にこっぴどく怒られた事があるのだが。


そして。
追加機能は見事に瑞希のメンタルに影響を及ぼしていた。

「ヒロくぅん……」
枕に顔を埋めて呟く。

瑞希は弘樹に恋をしている。

弟として。マスターとして、ベースはそう設定されていたが、瑞希のAIは、
人間女性をベースにエミュレートしたもの。
設定事項など「好きな男の子」への想いの前には、障害にもなにもならなかった。
好きなものは好き!それだけである。

もちろん、実験機の仕様であり、そんなロボットが製品としてそのまま発売されることはないだろうが、
瑞希自身は体が全て機械であること以外は、十代の少女そのものと言って良い。
そこに、いままで設定されていなかった性欲が付加されたのだ。
初潮も思春期もすっとばして、おまけにセックス可能な豊満な体で。

それはたまったものではない。

弘樹の事を考えるだけで、CPUの動作負荷は鰻登りになり、一日と持たずに動作が
不安定になる日が続いた。

今日も我慢できず、弘樹を呼び出して再起動させてしまった。
その時の様子を、視界にウィンドウを開いて再生する。
『あ……あぅん……』
『お、お姉ちゃん!声、声!』
『あ、ごめん……あふっ!』

「や、やだ……。こんなに声出てたんだぁ……」
セクサロイド機能がついてから、触覚センサーの微妙なノイズが快楽信号になってしまう。
これは意図的な設計なのだろうか?
報告した方が良いのだろうか。
「もう……恥ずかしいなあ……。あ、ヒロくんも真っ赤だ」
『ヒロくん……』
小さく呟く。
「ん……こんなの見てるとまた負荷あがっちゃうかなあ……止めないと……え!?」

胸の辺りから違和感を感じる。
「あれ?」
内部骨格を通じて、ウィィン、というかすかな音が聞こえる。
「え?あれれ……何だろ……んぁぁっ!」
どうも、胸の内部に付加された機構が作動しているようだ。

瑞希はロボットだからといって、全ての機構を思うように操作できるわけではない。
人間の自律神経同様、自らの意志だけでは操作が出来ない部分、メンテナンス等の
外部操作でしかできないことも多々ある。
今は前者で、瑞希が意図していないのに胸の奥から動作音が鳴っていた。

「ど、どうしたのかな……ふぇぇっ!」
胸元を見ると、服の下からくっきりと乳首の形が浮き出ている。
「な、なに、これっ!」
慌ててブラウスをはだけ、ブラジャーを外す。
押さえつけられていた乳房がぷるん、と揺れて露わになる。
乳首は固く尖って上を向き、乳房も張りつめていつも以上に大きく思えた。
恐る恐る、乳首の先を触ってみる。
「あ……あぁっ!!」
信じられないくらい、乳首の先は敏感になっていた。
暴力的にすら思える快楽信号が回路を駆け抜ける。
思わず体をのけぞらせて身もだえする瑞希。
それと同時に、瑞希本人にしか聞こえない小さなモーター音と共に、さらに乳首が固くなる。
「や、やぁあ……ど、どうしよう。壊れちゃったのかな……? 
こ、このままじゃ恥ずかしいよぉ……直らないかなぁ……」
もう一度、ぷにぷにと乳首のまわりをつつく。
「ふぁああっ!あああんっ!」
立っていられなくなり、そのままベッドに倒れ込んで体をびくびくと震わせる瑞希。
「こ、これって……」
間違いない。これが性的快感。ノイズで感じていたのとは比べ者にならない。
瑞希の体に新しく加わった機能。
男性と愛し合うための機能。

「あ。そうだ」
女性技師が言っていたことを思い出す。
改造を受けた後、軽く基本的な性知識を教えられた。
それによれば……。
「た、たぶん……もっと性感帯を刺激して満足できれば……いいってこと、だよね」
まずは、乳房を揉んでみることにする。
軽く両手を乳房に当てる。
掌にシリコンラバーに包まれた、固い半球状の機構が感触として伝わる。
少し力を入れて内部機構に力が伝わるように刺激を与えてみる。
「ああああっ!うぁっ!」
AIに信じられないくらい大きな快楽信号が流れ込み、叫びをあげてしまう。
。
「こ、これでもだめ、かな……。えっ!なっ!いやぁん!」
今度は気がつかないうちに、股間が大変なことになっている。
潤滑液が盛大に漏れだし、ベッドにしたたり落ちていた。
「やだぁ……。わ、私本当に壊れてないのかな……」
恐る恐る、下着を脱ぎ女性器に手を当てていじってみる。
「こ、これ……大丈夫なのかな……。んああああああああっ!!」

知らなかったとはいえ、いきなりクリトリスを摘んでしまったのは致命的だった。
「ああああっ!あふっ!あん、あぁんっ!」
激しい喘ぎ声と共に、股間をまさぐる手、乳房と乳首を揉み続ける手が止まらなくなる。
「だ、だめ、だめ!とまら、ないよぉ!」
不意に、先ほど再生していた赤くなった弘樹の映像が視界に映る。
「あ、あ、ああああっ!ヒロくん、ヒロくんっ!好き、大好きぃ!お姉ちゃんは、ロボットだけどっ!
ヒロくんのこと、だいすきなのぉ!」
さらに悶えと手が激しくなる。
「ひゃん!だめ、だめ!お姉ちゃん、壊れちゃう!壊れちゃうよぉ!ヒロくんっ!たすけてえ!
あ、あはぁああ!だめ、だめぇえええ!あああああっ!」
CPU負荷ゲージが赤く染まっていく。しかし、それと同時にもう一つのパラメータも限界に近づいていた。
「だめ、らめぇ!ふりーず、しちゃうううう!あ、あ、ああああっ!もう、らめええええ!
ああああああ〜っ!!」

フリーズした、と思った瞬間、瑞希の意識が弾ける。
一瞬、全てのセンサーの入力が消えたような感覚にとらわれ、視界のインジケーターが点滅する。
気がついたときにはベッドで天を仰いでいた。
「あ……。い、今のが……」
絶頂、というものだろうか。
きもちよかった。
凄い。
そうとしかいいようがない快感だった。
しかも、まるで再起動したときのようにCPU負荷が下がっている。
満たされた、ということだろうか。

しかし……。
ベッドの上に垂れ流された潤滑液。乱れた自分の姿。
それらが目にはいると、なぜだか解らないが瑞希の目に涙が溢れてきた。
どうしてだろう。性欲は満たされたはずなのに。
「う…うう……ひっく……ヒロくぅん……。さみしいよお……さむいよお……」
小さな子供のように、瑞希は膝を抱えて泣いていた。

青島瑞希。当年4歳。
機械の乙女、暴走中。