「突然だが職務命令で、オーストラリアのシドニーへ1年ばかりとばされることになった」
帰宅した社宅の戸口で汗を拭き拭き一休みするオレに、メイドのロボ子は「私も連れてってください!」と訴えた。

言われなくてもそのつもりだ。忠実なロボ娘を日本に置いていく気はない。会社も家財道具扱いで輸送費を出してくれるだろう。
こいつはソフトを入れれば訛りまくったオージー英語もこなせるはずだし、食べ慣れた和食を南半球でも味わえる。
もちろん夜のお楽しみも……まあそれは置いておこう。
「わたし一度カンガルーと殴り合いしてみたかったんです」
「尻尾の一撃でスクラップにされるのがオチだぞ」
……こいつはとても忠実だが、どこか変だ。

そこでふと気付いた。
「おまえ、充電は何ボルト仕様だ」
「はい、50&60ヘルツ・100Vから120Vまでオッケーです」
「おまえ、日本・北米仕様だからな。けどオーストラリアの家庭用電源、確か240V標準だぞ」
「それ美味しいけど危険すぎる!」
高圧電源は美味しいのか!? しかし、ノートパソコンより適応性に欠けるなあ、こいつ。

「……同じ200Vオーバーでも、220Vの筈がデタラメに上がったり下がったりで
充電中にいつぶっ壊されるかわからない中華帝国より、オーストラリアはまだいいと思うぞ。安定してるから。
改造は無理ぽだが、現地の社宅におまえ用の120Vトランスを置けばいいだろ。高いもんじゃないし」
「ダメですよおご主人。私が節電のためにどれだけ頑張ってるかご存じですか?
お買い物のついで、スーパーで人間のふりして女子トイレに入っては、暖房便座のコンセントから電気もらってるんですヨ!
シドニーじゃそういう節約できないじゃないですか!」
「バカモノ! それは節約じゃなくて盗電だ!」
道理でこいつの電気代がヤケに少なかったわけだ……やっぱりこいつは何かおかしい。

翌月オレと渡豪したロボ子は、なぜか電気ストーブを携えてきた。
シドニーだって寒くはなるが、現地社宅にはエアコンが入ってるんだけどなあ……
こいつ、マイナス30℃でも稼働できる北海道・アラスカ対策仕様だし……

====ここまでマスターの視点====

――マスターは何も知らない。
シドニーに来てからの私が、スーパーマーケットのトイレットで、電気ストーブの配線と直列つなぎになって充電していることを……
怒られるから言えないけど……
「暑いなあ……あんたは発熱だけしてればいいんだろうけど……早くお腹一杯にならないかなあ……」