カチリ、頭の奥で何かが切り替わる音を感じ、私は目覚めた。
メンテナンス用のベッドから躰を起こし、身支度をする、髪を櫛き、自慢の白肌を紺を基調としたメイド服に包む。
キィ…パキン、と凝り固まった関節が異音を立てた、まぁ人で言う肩こりみたいなものだろう…
自分の控え室を出る、と扉を開くのに併せて流れた風に乗り、フワリ、と細かな塵が舞う。
毎日変わらぬ歩幅の私の足跡だけをくっきりと浮かび上がらせる床、屋敷の掃除は私の管理設定外だが、担当のメイドは何をしているのだろう?
屋敷の玄関を開けると、外は雪が降っていた、傘を2本取りに戻る、ご主人様と、私の分。
こういった一手間を苦に感じる事は無いが、情報サービスとの外部接続リンクは、早々に回復していただきたいと思う。
そうだ…、今日ご主人様に提言しよう、掃除担当メイドの怠慢と、私のメンテナンスベッドへの通電再会のお願いと併せて…

雪の中、駅前で一人立ち尽くす。
これまで見た事が無い程の豪雪、寒さは感じないが、寒冷地用に設定されていない関節部の潤滑システムへのダメージが懸念される。
メンテナンスベッドが機能を停止しているから、自己診断だけではハードウェアの不調は認識しかねる。
細い指先を動かすと、案の定キシキシと動作不順を感じた、気紛れに、ハァ、と呼気による熱量排気で指先を温める、うん、多少はこれで良くなるようだ。
ご主人様は、今日も研究施設にお泊りだろうか?終電まであと一本、これにご主人様が乗っている事をデウスマキナに祈る。
今日こそはご主人様に、私の機能の全てをかけた笑顔で「おかえりなさいませ」と挨拶が出来ますように…

…機械の神への祈りは届かなかったようだ。
私は踵を返し、帰路に着こうとする…脚部アクチュエーターの駆動が極めて重い、これは深刻かも…明日こそはご主人様にメンテナンスをお願いしないと…
数歩歩いた所で、駅員さんが声をかけてきた、この人は時折必死に、そして悲しそうに、私の自我領域に多大なダメージを与える発言をする。
「君は棄てられた」とか「君の主人は既に他の地へ引っ越した」とか「君の代わりに9号が…」とか…
いつものログと変わらぬ内容である事を確認し…記憶領域から削除…さ削除…サ…うん、記憶領域へのアクセス時に行動に支障の無いエラーを確認。
「いえ、これが私のお仕事ですので」と、ご主人様に向けられなかった笑顔で挨拶し、歩を進める。

明日こそはご主人様に会えるだろう、色々お話しなければならない事がたくさんある。
明日こそはご主人様にお会いしたい、色々お話ししたい事がたくさんある。
視界の端に「予備電圧低下」の赤い文字が浮かび上がる、困った、これは深刻なエラーだ…
視界が崩れる、記憶領域の制御区が、揮発してゆくログを出鱈目に「感覚」として認識させる…
思考領域もそのシステムを維持でき…ない…これ…は…困り…ました…明日こそ…明日…メン…テ…ごしゅじん…さ…ま…

「ただいま、8号」
「おかえりなさいませ、ご主人様…」
お慕い申し上げております…

〜system close〜

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