「相談事って何なの?」

サミィはナギの目に見つめられ、目を伏せ顔を紅潮させて黙り込んでしまう。
その表情は、サミィがいままでに見せたことがないものだった

「あの、ね。 ……やっぱり言えない」
「あの子にいじめられているの? ……リクオの奴、とっちめてやらなきゃいけないわね」 
「待って、違うの……その」

カフェ『イヴの時間』そこはアンドロイドと人間が区別無く扱われる場所。
アンドロイドであるサミィは、主人《マスター》であるリクオとの関係に悩んでいたのである。

「サミィ、言いにくいことかもしれないけど」
「リクオは悪くないの! 私がしてあげたの」
「えっ、どういうこと?」

憮然とした表情(あっけにとられ、ぽかんとした様子)でナギはサミィを見つめた。
サミィはもじもじと掌を弄びながら、上目遣いでナギを見た。

「ナギちゃん、リクオが最近私をロボットって言わなくなったの。」
「それって悪いことなの?」
「その、ね。 私を人間として見ているみたいで……」
「あのね、サミィ」
「リクオは最近行動ログも取らないの。 じっと私のことを見ていたり、目があったら笑ったり」
「いいじゃない」
「その……手を握ったまま静かにしていたり、ギュッとされたり」
「セクハラ!?」
「違うの、そういうのじゃなくて、やさしくて。 」
「嫌なの?」

サミィは俯いたまま首を振り、ナギの手をキュッと握る。 その手は少し震えていた。
顔は真っ赤だが嫌そうな素振りは見せない。 その表情は恋する女の子に見える。
アンドロイドとはいえ、見た目と感情は人間そのものであることをナギは再確認した。

「リクオと一緒に映画を見たの、ソファに座ったまま、静かに手を握ったりして」
「別に悪く無いじゃない」
「その、えっちなシーンでリクオの手がピクッてして、興奮してて、苦しそうで」
「サミィ?」
「こう、ズボンの上から触ってみたら熱くて、可愛かったから頭を肩に乗せてみたの」

サミィは恥ずかしそうに体をキュッと縮め、手をそろりと隣の座席辺りに下ろした。
ナギは急激に頭がのぼせていくのを感じていた。

「リクオは頭を私に擦りつけて、凄く熱くて、だから手でこうして、口で包んで舌で」
「さ、サミィ……あのね」
「ナギちゃん?」
「それ、凄くエッチなことなの」
「リクオはそういうの嫌いなの?」
「そうじゃなくて、その。 変な味、しないの?」
「ちょっとしょっぱくて、苦かった。 舌でペロってやると、変な声出して可愛いの。」

上目遣いで見つめられ、ナギは顔を真っ赤にしてしまった。
口でした経験がないため、より生々しく感じられたのだ。

「ナギちゃん、駄目だよ」
「そっ、そんなことしないって! 第一、その、恋人同士でしかやらないの!」
「恋人……」

サミィはハッとしてドアの方を見、慌ててカウンターの中に隠れてしまった。
数秒後、リクオがドアを開けて中へと入ってきた。

「こんにちは、サミィいる?」

笑顔のリクオを見て、ナギは先ほどの話を思い出し顔が真っ赤になるのを感じた。
 ・・・・
「彼女なら、ここにいるわよ」
「ナギちゃんのばかっ」
「何してるんだ、サミィ」

サミィはカウンターの中でしゃがんだまま、覗き込むリクオに言った。

「イヴの時間にようこそ」

おわり

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